自信をなくしたマタギ



<オープニング>


 熊などの危険な動物を狩猟して、その毛皮や肉を売ることで生活を営む者がいる。
 その村では、そのような人をマタギと呼ぶのだという。
「そのおじいさん、村一番のマタギ、と言われていたそうなんです」
 その村一番のマタギが、今では飲んだくれ爺さんになってしまっているのだという。
「一頭のクマが、おじいさんの自信を失わせてしまったんだそうです」
 恐らくは突然変異で巨大化・強大化した熊なのだろう。マタギの仕掛けた罠をことごとく打ち破り、ついには直接対決の末、マタギは命からがら逃げ戻った。
「その後も、おじいさんは何度もそのクマに挑戦しては、敗れ去ったそうです」
 ……そしてついには、諦めてしまった。
 とまぁ、これで話が終わっていれば、冒険者に依頼が回ってくるような話でもない。
 ここに新たに登場するのが、最近この村付近に進出してきた、悪徳業者だ。金と暴力で周辺のマタギを傘下に納め、売り上げの何割かを上納金として納めさせる。言うことを聞かない者は、「不幸な事故」に見舞われたりするというのだから悪徳だ。
「その悪徳業者が法外な上納金を要求している為に、最近はマタギの人たちが頻繁に山に入って、動物や希少な資源を乱獲せざるをえなくなっているそうなんです」
 山に入る機会が多くなれば、その分危険も大きくなる。あの熊に出会う可能性が。
 そして、事件は起こった。
「先日、山へ入ったまま帰ってこない一人のマタギの死体が発見されました」
 原形を留めていないその死体──というか肉片には、巨大な爪と牙の後が確認された。
 少々早く冬眠から覚めた例の熊に襲われたことは確実と思われる。
「乱獲のせいで山に餌となる動植物が減ってしまったこともあり、人の血肉の味を覚えてしまったクマは非常に危険です」
 しかも、悪徳業者はマタギたちの抗議を受け入れることはなく、むしろ「そんなでかい熊なら、良い毛皮が取れるだろう」とマタギたちに熊の捕獲を命じる始末。
「いくら狩猟の達人とはいえ、一般の人に相手のできる存在ではありません」
「そこで、アルたち冒険者の出番なんだね〜?」
 ドリアッドの翔剣士・アルウェンの言葉に、にっこりと笑い、メリルが答える。
「そうなんですけど、ただ皆さんが出て行って熊を倒しても、悪徳業者はそのままです」
 そこで、村一番のマタギの出番というわけだ。
 近辺のマタギは、ほとんどの者が悪徳業者の傘下に入ってしまっている。とは言え、ほぼ全員が悪徳業者に不満を抱いているのも確かだ。
 村一番のマタギのおじいさんは、すっかり酒びたりになっていたこともあり、悪徳業者の手は伸びていない。
「そこで、皆さんにはおじいさんの手助けをしてもらって、クマを倒してもらいたいんです。そうすれば、おじいさんも自信を取り戻して、他のマタギの人を纏め上げて、悪徳業者に立ち向かってくれると思うんです」
 つまり、老人をその気にさせるまでが依頼、というわけだ。
「ちょっと難しいかもしれませんが、よろしくお願いします」

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参加者
吟遊詩人・カズハ(a01019)
凪知らぬ風・ドレット(a01579)
蒼然たる使徒・リスト(a01692)
夢想紋章術士・アルテア(a02573)
天弓空翠・ディーン(a03199)
熊猫の宿主・ハロルド(a03705)
ドリアッドの重騎士・ミカ(a05562)
迷往蓮華・ファルミア(a05826)
NPC:ドリアッドの翔剣士・アルウェン(a90063)



<リプレイ>

●老マタギの復活
「おぅ、もう一杯じゃ」
「ゴメスさん、もうやめとけって。身体に毒だぜ」
「やかましい。儂の身体のこたぁ儂が一番わかっとる。お主に心配してもらわんでえぇわい。とにかくもう一杯じゃ!」
 社交場を兼ねた、村でただ一軒の酒場のカウンターに、昼から赤い顔をした老人が一人座り、マスターに酒を要求していた。
 そこへ、後ろから近づく複数の影が。
「隣、いいかな?」
 そう言って返事も聞かずに、爺さんの隣の椅子に腰掛けたのは、美味を追求する者・アルテア(a02573)である。
 胡散臭げな視線を向ける老人に、
「じいさん、この辺で一番のマタギだったんだって?」
 とさらに声をかける。
「……そいつは死んだよ。熊にやられてな。お前さんの前に座ってるなぁ、ただの酔っ払いさ」
 老人はアルテアから視線を外し、「酒はまだか!?」とマスターを怒鳴りつけた。
 露骨な拒否反応に、アルテアは後ろの面々を振り返り方をすくめる。
「そう。じゃぁ仕方ないな。俺たちこれから、噂の巨大熊を退治しに行くんだけど、有名なマタギに話が聞ければと思ったんだけど」
 噂の巨大熊、のくだりで老人の肩がピクリと動くが、それだけだ。
 説明的な台詞を残し、「さ、行こう」と後ろで控えていた面々に話しかけながらアルテアが席を立つ。
 後ろで立って待っていた面子の一人、紅と碧の演奏者・カズハ(a01019)が老人の姿を見てボソリと呟いた。
「それにしても……自信を失った人間ほど、小さく見えるものはありませんね。まるで枯れた老木のようだ」
「……あぁそうさ。ここに居るのは情けない枯れ木さ」
 カズハの呟きを聞き取った老人の独白に、店を立ち去ろうとしていた面々の一人がドテドテと老人に近寄った。ドリアッドの重騎士・ミカ(a05562)だ。
「おいおいおいおい。いつまでそんな呑んだくれやってるつもりだい? あんただって聞いてるだろう? あんたの昔のお仲間が例の熊に殺られたって話。このままで良いのかい? あの熊を倒すのはアンタじゃないのかい!?」
 老人の襟首をぐいっと掴み、ミカが熱弁を振るう。
 しかし、老人はただ俯きミカと目を合わせず、黙ったままだ。
 そんな老人の態度に激昂したか、ミカはドリアッドの翔剣士・アルウェン(a90063)を指差し、
「あーもう! 情けないったらありゃしない! この子を見てごらん! こんな小さな子が熊退治に行こうってンだよ!? アタシだってそうさ、あんたの半分くらいしか生きてないようなあたしにこんな説教されて、男だったらくやしく思わないのかい!?」
「やめとけやめとけ、怒るだけ無駄ってもんだ。おい爺。そんなに自棄酒が旨いってンなら、そのままそこで酒びたりになって腐ってな! あんたにゃそれがお似合いさ」
 迷往蓮華・ファルミア(a05826)が横からミカを止め、自分も老人に向かって捨て台詞を吐き、「時間を無駄に使っちまったね、さぁ行こう」と仲間を戸口へと急きたてた。
「……ちょっと待てよ嬢ちゃん」
 やっと反応があった、と心の中では安堵しつつ、あくまで表面上は面倒そうな顔をしながら、「あぁ?」とファルミアは振り返った。

 村に変な奴らがやって来た。
 そう報告を受けた業者から「ちょっと行って見て来い」と指示された若いのが数人、様子を伺いに派遣された。
「よっぱらいの爺さんとなんか話してるぞ」
 冒険者一行が酒場に入るのを目撃した彼らは、店の前と窓の外にこっそり陣取り、中の様子を伺おうとしていた。
「なぁそこの不審人物、ちょっと面拝借オーケィ?」
 突然背後からかけられた声に、店の前に陣取っていた若いのの一人が慌てて振り向く。確かにさっきまでは後ろに気配なんてなかったのに、そこには赤毛の青年がたっていた。
 何だお前、と大声をあげられる前に、凪知らぬ風・ドレット(a01579)は片手で男の口を塞ぎ、空いているもう一方の手で手刀を首筋に見舞った。
 一方、窓の外に陣取ったもう一人は、老人と冒険者の話を聞くうちに「こりゃちとまずいな」と考え始めていた。今ではただの酔っ払いとは言え、村一番のマタギと呼ばれた男が復活すれば、他のマタギたちにそれなり以上の影響力を持つことは想像に難くない。音頭をとって反抗でもされた日には堪ったもんじゃない。
「なんとか邪魔しねぇとな」
「邪魔はダメっす〜」
 そう言って現れたのは、熊猫と戯れし閑の位・ハロルド(a03705)。
 が、ハロルドの外見はどう見ても小さなお子様なので、男はちっとも慌てない。
「あん? なんだ? ガキ」
 欠片も警戒心を持っていない男の足元に向けて、ハロルドは杖の先から衝撃波を飛ばす。鈍い音がしたかと思うと、男の足音に穴が開いた。
「な、ななななナナナナナ!?」
 パニックに陥る男に、
「あんまり邪魔すると怒るっすよ〜」
 ハロルドが警告する。前後関係の説明が皆無なので、男にはさっぱり理解不能なのだけれど。と、
「針千本飲ますぞ! と考える」
 突然ハロルドの頭の上に乗っかってる白黒ブチのぬいぐるみが喋った。正常な頭で考えれば腹話術か? と考えただろうが、パニクってる男にはそんな思考は働かなかった。
「バ、バケモノ〜〜!」
 泡を食って逃げていく男を見送りながら、
「失礼な、くまにゃーさんは秘密ぱわーで喋るすよ〜バケモノなんかじゃないっすよ〜」
 反論を述べるハロルド。誰も聞いていないし、たとえ聞いていても理解・納得できたとは思えないけれど。

「……なるほどな。そこまで酷いことになっとるとは思わんかった」
 すっかり酔いの醒めた顔つきで冒険者たちの話を聞く老人の目は、澄んだ輝きを取り戻しつつあった。
 それには、天弓空翠・ディーン(a03199)の真摯な説得が最も響いたのかもしれない。
「このままではそう遠くないうちに、自然と共に生きる人たちが生きていけなくなっちゃいます! 自然は無限じゃないことは、お爺さんが一番良く知ってるはずです!」
 ──そうならないために、お爺さんの力が必要なんです。
 熱く語るディーンの眼に、老人も何かを感じ取ったのだろう。
「貴方は、折れるにはまだ早すぎます。その証拠に、心ならずも業者に無理矢理従わせられている多くのマタギたちは、貴方を待っています。今応えずに、いつ応えるのですか?」
 と、蒼然たる使徒・リスト(a01692)がダメを押したときには、すっかりマタギの表情を取り戻し、そこには酔いどれの老人の姿はなかった。
「わかった。儂ごときにどこまで出来るかはわからんが、こんな老いぼれの力でよければ、存分に振るわせてもらうぞい」
「やったー♪ お爺ちゃん、一緒にクマさん退治に行くの♪」
 無邪気にはしゃぐアルウェンの喜び様に、冒険者たちもホッと和んだ。

●再起への道
「さて……そろそろですかね。では、そちらは頼みましたよ」
 ドレットにそう告げると、カズハを始め数人は一行から離れ、獣道へと入り込んでいった。
「どうしたんぢゃ?」
 不審に思い訪ねる老人へ、
「なぁに、俺たちがクマに集中できるよう、露払いに行ってくれたのさ」
 気にするな、とドレットが老人の背中をはたいた。
「お爺ちゃん、クマさんの手がかりは?」
 アルウェンの問いに、
「うむ……もう少し上のようぢゃな」
 先刻発見した足跡からどのような推論が行われたのか、老人は自信ありげに歩みを進めた。

 先頭の男が、がさり、と背丈ほどもある草を掻き分けたところで、目の前に少女が立っていた。
「貴方たちに……邪魔はさせない……わ……」
 老人を叱咤していたときとは別人としか思えない静かな口調で、ファルミアは男達に向かって警告を告げた。
「あぁ? 小娘はオトナのやってることに口出すんじゃねぇよ」
 さっさとどけ! と先頭の男がファルミアを押しのけようとしたとき、
「どうやら、こちらは全員悪者の手先のようだね。だったら遠慮は要らないか」
 ファルミアの後ろから現れたアルテアの掌から、次々と淡く光る蝶が飛び立つ。無数の蝶は辺り一帯を包み込み、男たちを混乱させた。
「な、なんだっ!?」
 蝶によって視界を奪われた男たちは、騒ぎ立てるだけで前進も後退もままならない。そうこうしているうちに、竪琴の音と歌声が響き、それを耳にした男たちは片っ端から眠りに落ちた。
「……騒がしいのは耳障りですからね、早々にご退場願いましょう」
 弦から指を離したカズハが、口調に似合わず冷たい眼で男たちを見下ろし呟いた。

「ここから先は危険ですよ。熊が出ますから」
 別の道では、ミカが男たちの前に立ちふさがっていた。
「……どうしても通ると言うのなら、まず私を倒してからにしてください」
「いや……俺たちは……」
「小娘が何言ってやがる。お前等、こんなのはさっさと片付けて、爺の所へ急ぐぞ」
 困って足を止めた男達のさらに後ろから声をかける男に、リストがすばやく回りこみ杖の一撃を喰らわせる。
 くぐもった声を上げて昏倒した男には目もくれず、リストは男達──マタギ達──へ言葉を投げかけた。
「もうこんな者に加担するのはおやめなさい。貴方方も、自分たちの行為が自らの首を絞めることになっているのは、判っているでしょう?」
「俺たちは……」
 先ほどと同じ台詞を口にしようとするマタギを制して、リストは淡々と語った。
「この上では、今一人の男が、かつて越えられなかった壁に再び挑もうとしています。貴方方も、仕方がないと長いものに巻かれるのではなく、戦うべきではありませんか?」

「くっ!」
 ガキィッ、という音をたて、物欲しげな白犬・シリア(a02382)の持つ大鎌と熊の爪がぶつかり合った。
 上手く力の方向をずらしてはいるが、それでもシリアの足がズズズッと十数センチほど後退する。
 ひゅひゅん、と風を切る音が響き、ドッ、と鈍い音を立てて二本の矢が熊に突き立つ。ディーンとアルウェンの放った矢だ。
「グァオウッ!」
 痛みに身を捩る熊。既にその身体には数本の矢が突き立ち、ドレットの放つ鋼糸による傷も多数あるが、その力はいささかも衰えない。
「ちぃっ! じーさん、何か弱点とかねーのか、アイツにゃ!」
 ドレットが鋼糸を繰り出しながら、老マタギに声をかける。それに対する応えは単純明快、
「三秒でいい、奴の動きを止めてくれ!」
 というものだった。
「三秒でいいんですねっ」
 ディーンとシリアが頷きを交わし、まずはディーンの弓矢が唸りを上げる。
 大きく振りかぶった熊の右前足を射抜き、背後の大木へと縫いとめる。
 一瞬動きの止まったところへシリアが突っ込み、迎撃しようと振り上げた左前足をシリアの大鎌が貫通し、これも大樹へ磔にする。
 大樹をはさんで熊の真後ろへと回り込んだドレットが、大樹を一周する形でめぐらした鋼糸を締め付け、熊の首を締め上げる。
 大樹にまさに磔にされた熊の正面には、老マタギが弓に矢を番えて、ギリギリと引き絞っていた。
「長かったのぅ……これで、仕舞いじゃ」
 限界まで引き絞られた弓から放たれた矢は、一直線に熊の眉間へと向けて飛び立った。

●新たなる旅立ち
「もうちょっとお手伝いしてかないで良かったのかな〜?」
 霊査士の待つ街への帰り道、アルウェンが後ろ髪引かれるように背後を振り返る。
「そうですね……手伝い程度なら出来たかもしれませんが……」
 カズハも、心配そうにもう見えない村の方を見やった。
 無事、老マタギに熊を退治させた後、悪徳業者の始末はせずに冒険者たちは引き返してきたのだった。
「彼ら自身の手で悪徳業者を駆逐しなければ、この先同じ事が起きるだけですからね」
 静かに語るリストの言葉に、アルウェンもカズハも納得するしかなかった。
「大丈夫ですよ、お爺さんとマタギの皆さんの表情を見たでしょう? 悪徳業者なんかがあの人たちに敵うわけがありません」
「ん……そうだよね♪」
 ディーンの言葉には、老人をはじめとする、自然と共に生きるマタギたちへの信頼が込められていた。その言葉にアルウェンも笑顔を取り戻し、冒険者たちは明るい気持ちで帰途に着いたのだった。


マスター:結城龍人 紹介ページ
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