アリ怪獣と黒ノソ巡視隊



<オープニング>


●進め、黒ソノ巡視隊!
 ワイルドファイアの荒野に、こんな歌が流れていた。

黒ノソ巡視隊のお通りなぁ〜ん♪
(黒ノソ巡視隊のお通りなぁ〜ん♪)

あちこち回るのがお仕事なぁ〜ん♪
(あちこち回るのがお仕事なぁ〜ん♪)

見る・なぁ〜ん♪ 聞く・なぁ〜ん♪
伝える・なぁ〜ん♪ 歌う・なぁ〜ん♪

母ちゃんに内緒の事まで伝えちゃうなぁ〜ん♪
(母ちゃんに……)

 と、ここで後から歌詞を追って歌っていた一人が歌うのをやめ、
「隊長、さすがにそれはまずいなぁ〜ん」
 そう言った。
「うん、わしもそう思うなぁ〜ん」
 隊長と呼ばれた男が振り返り、がははは、と笑う。

 ──彼らは、普段ヒトノソリンの聖域にいる冒険者達だった。つまり、ヒトノソリン聖域の護衛士達、である。
 大大怪獣の目覚め以降、ワイルドサイクルにいた怪獣達が大峡谷を通ってヒトノソリンの国へと流入してくる事が多くなったため、ヒトノソリンの国では巡視隊を結成し、これの対応、対策に当てる事とした。彼らはそのうちの一隊なのだ。
 巡視隊の任務は、定期的なパトロールや、各集落への連絡、及び情報の伝達、収拾その他である。
 各隊は分かりやすく個人の耳とシッポの色で分けられており、それぞれが白ノソ巡視隊、黒ノソ巡視隊、緑ノソ巡視隊、という具合に呼ばれていた。黒ノソ巡視隊であれば、全員が黒い耳とシッポを持つ者達で構成されている、という事だ。
 もちろん危険な任務でもあるので、各巡視隊はヒトノソリン聖域の中でも、特に精鋭を選んで構成されているという話である。

「隊長! 前方にアリ怪獣発見なぁ〜ん! 群れがこっちに向かって来るなぁ〜ん!」
 ふと、遠眼鏡を覗きながら周囲を見ていた隊員が急を告げる。隊長もまた、遠眼鏡でそれを確認すると、
「むぅ、数が多いなぁ〜ん」
 眉をしかめ、呟いた。
「このあたりにアリ怪獣がいたなんて話は聞いた事がないなぁ〜ん。とすると、やっぱりあいつらも大峡谷を越えてきた奴等なぁ〜ん?」
「なんにせよ聖域に戻って報告なぁ〜ん! 全員、あの岩山まで走るなぁ〜ん! 適当に相手をしたら、怯んだ隙に撤退なぁ〜ん!」
「了解なぁ〜ん!」
 相手の数がかなり多かったため、隊長は戦うよりも撤退を判断したようだ。
 が……。

「隊長! アイーナがいないなぁ〜ん!」
「なぁ〜ん!?」
 岩山での戦闘後、素早く撤退した黒ノソ巡視隊だったが、隊員の1人の姿がなかった。
「あいつ、あんまり戦闘得意じゃないなぁ〜ん……」
「凄い方向オンチだし、なぁ〜ん……」
「聖域でも、よくトイレの場所がわからなくなって泣きそうになってるなぁ〜ん……」
 などと言いながら隊員達が振り返ったのは、激しい戦闘の末に駆け抜けてきた岩山の方向だ。もうかなり離れてしまっている。
「むむむ……なぁ〜ん……」
 しばし腕組みをして隊長は悩んだが、やがて、
「……救出より、聖域への報告を優先するなぁ〜ん」
 絞り出すような声で、言う。
「アイーナの運は一級品なぁ〜ん。だから大丈夫なぁ〜ん。救出は、他の者に任せるなぁ〜ん……」
 戦闘後の疲弊した今の自分と隊員達より、確実に救出が行えるであろう者達へと、隊長は救出を依頼する事にしたのであった。

●その頃のアイーナ
「……まいっちゃったなぁ〜ん……」
真っ暗な中、ホーリライトの明かりに、ごつごつとした岩肌が浮かび上がる。
 岩山での戦闘中、いきなり穴に落っこちて目を回し、気が付いてみると1人だった。
 上を見上げると、陽の光が差し込んでくる穴までは、高さが5〜6メートルはあるだろうか。穴の直径は40〜50センチくらい。底にいくに従って広くなり、自分がいる最下部は直径が1.5m程だ。
 幸い怪我もなく、アリ怪獣も穴の入口が小さいので入ってはこれないようだが……今でも周囲を動き回っているようで、多数の足音が聞こえ、時々黒い影が穴の上を通っていく。
「……うーん……」
 よじ登れない事はないが、今上がったらアリのごはんになる事は間違いなく、大声を上げて助けを呼んでも、周囲に仲間がいなかったらアリに自分の居場所を教えるだけになってしまう。
「……なぁ〜ん」
 仕方ないので、背中を岩壁に預け、ちょこんと座ってただ救助を待つ事にしたアイーナであった。

●冒険者の酒場
「……と、いうわけで、ヒトノソリンの冒険者さんの救助依頼だよ。聖域まで戻って、そこからまた冒険者を出動させるより、酒場に依頼として出した方が早いし確実だからって事でそうしたみたい」
 冒険者達を集めたキャロットが、新たな依頼の説明を始めていた。
「で、そのアイーナさんの事なんだけど、こんなプロフィールが添付されてたよ。行く人は目を通しておいてね」
 言いながら、その場に以下のような事が書かれたメモを貼り付けるキャロット。

・救出対象:アイーナ(黒ノソ巡視隊所属、医術士)
・目の色は青、髪は金、耳とシッポは黒
・身長156cm、体重45kg(本人申請)、年齢17歳
・胸:標高1cm(推定)
・その他特長:のんびり屋、かなりの方向オンチ、ちょっぴりドジ、戦闘は得意じゃないが回復アビリティ使いは一級品
・現時点ではヒーリングウェーブ、静謐の祈り、ホーリーライト、命の抱擁をそれぞれ活性化している
・召喚獣はナシ

「次に、現場の状況と、そこにいるアリ怪獣の説明をするね。ええっと……」
 と、キャロットは説明を続ける。
 箇条書きにすると、おおむね以下のような事を話したようだ。

・現場の岩山は、高さ約50m、直径500m程。ごつごつした岩が山肌となっており、草木はほぼ一本もない代わりに、大きな岩(十分遮蔽物になるような)があちこちの山肌から突き出ている。中には押せば転がるような岩もある。山の傾斜は緩やかであり、普通の人でも十分歩いて登り下りできる。
・アリ怪獣は、体長約3m、身体の色は黒。山の傾斜や岩などがあっても、平気でどんどん進んでくる。
・アリ怪獣の攻撃方法は、噛み付き(直接攻撃)と、口から吐き出す強酸(射程10m)の2種類。
・アリ怪獣の数は、全部で約20体。個体はそれ程強くはない。数で押すタイプ。
・その怪獣約20体が山全体に散らばっている。どこかで騒ぎがあると、集まる性質があるようだ。
・アイーナが落ちた穴は、山の中腹にある。(キャロットが簡単な地図を描いて渡したので、ほぼ迷わずに見つける事ができるものとします)
・成功条件は、アイーナの救出。アリ怪獣は別に殲滅の必要なし。

「……とまあ、こんな所かな。じゃあ、がんばってね!」
 最後に明るく言って、冒険者達を送り出すキャロットであった。

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参加者
華散里・コノハ(a17298)
マッスルジャスティス一番星・パペット(a22662)
幻葬舞踏・エミリオ(a48690)
倖せ空色・ハーシェル(a52972)
ストライダーの武人・シュネー(a53094)



<リプレイ>

「なるほど……かなりいますね」
 遠眼鏡を覗きながら、月眺める探求者・エミリオ(a48690)が呟いた。
 拡大された視界の中に見えるのは、ごつごつとした岩肌と、その表面をせわしなく動き続けるアリ達の姿だ。
 ただし、そのアリは個々の体長が3m級という怪獣アリである。昆虫とはいえ、並どころの騒ぎではない。
「うむ、問題の穴も見える、ぞ」
 隣で、鋼の人形使い・パペット(a22662)も頷く。彼もまた、遠眼鏡で前方の岩山の様子を確かめていた。
「そろ〜りそろ〜り、蟻さんたちにできるだけ気付かれないように行くなぁ〜ん」
 声を潜めて、華散里・コノハ(a17298)が言う。まだアリ達には気付かれる距離ではないが、なんとなくだ。
「わたしも見るなぁ〜ん……って、わっ!?」
 パペットから遠眼鏡を借りて覗き込んだとたんに、倖せ空色・ハーシェル(a52972)は声を上げた。いきなり視界いっぱいにアリ怪獣の顔がアップになったからだ。
 目を丸くしてのけぞるハーシェルの背中を軽く押えて支えると、
「……手筈の方はどうだ?」
 ストライダーの武人・シュネー(a53094)が尋ねる。
「配置は済んだなぁ〜ん」
 こたえたのは、黒衣の天使・ナナだった。真面目な表情で彼方を見詰める様は、一見して何かに集中していると知れる。実際、彼女は自らの生み出したクリスタルインセクトを操り、偵察状態のまま、山を回りこませていた。彼らが現在いる場所から大きく離れさせ、かつ、アリ怪獣に見つからないように移動させるのは、細心の注意が要る作業だ。
「でも……」
 ふと、ナナの姿を見て、コノハが首を傾げる。
「なんか、どこかのお山にお婆さんを捨てに行く悲しいお話を思い出すなぁ〜ん」
 ナナは、パペットが背負う背負子に乗っていた。一応、集中したまま移動するための手段なのだが、まあ、見た目はちょっとアレだ。
 コノハの言葉を聞いてナナは苦笑しかけたが、集中は途切れない。
「大丈夫、ナナ殿を捨てるなど、絶対にしない、ぞ!!」
 力強く言って胸を叩くパペット。当たり前の事だが、変に自身満々の台詞だ。
「……では、こちらも準備にかかろう」
「おう! そうだ、な!」
 シュネーが生真面目に言って、話を戻す。
 すぐに、パペットが皆に鎧聖降臨を施し始めた。音がしないようにと、脚や装備に布を巻く者もいる。
「形状は布状の衣服をイメージするんだ。そうすれば形状が服になるはずだ、ぞ!」
「ふむ、どうせなら、こう、紙の箱とかどうでしょう。中に入って移動すると、ぴったり人の後ろについても気付かれないで移動できるとか……そういうのをどこかで聞いた気がするのですが」
「それ本当なぁ〜ん?」
「本当だったら、ちょっと試してみたいなぁ〜ん」
「……やめておいた方がいいと思うぞ」
 エミリオの言葉に興味を示すコノハとハーシェルだったが、シュネーが止めたようだ。止めなければ、もしかしたら人数分の箱が並んで目的の穴まで進む所だったかもしれない。それはそれで面白いが、さぞかし危機一髪な大冒険になっていたろう、たぶん。

 ……そんなこんなで用意は整い、ナナがインセクトへの集中を解いて雑音モードに移行させる。とたんに耳障りな音を上げて存在の主張を始める召喚生物。それに気付いたアリ怪獣達の注意は当然インセクトに向けられ、一斉に移動を開始した。
 ──今だ!
 好機を作り出した冒険者達もまた、前進を始める。

「おぉーい、アイーナさん無事ですかっなぁ〜ん??」
 穴を覗き込んで声をかけるハーシェル。
 太陽の光はかろうじて穴の底まで届いており、薄い陽光の輪の中には人影も見えた。
 その人物は声に反応して上を見上げると、
「……なぁ〜ん?」
 目をぱちくりさせる。
 ちょこんと座って口にはクッキー、手にはお茶の入ったカップを持っているのは、間違いなく今回の依頼の救助目標、黒ノソ巡視隊の隊員であるアイーナその人に違いなかった。

「ええっと、あそこに閉じ篭るのが長期戦になるかもと思って、とりあえず手持ちの非常食の確認をしていたなぁ〜ん。でも、じっと見てたらいつのまにか食べちゃって、おやつの時間になってたなぁ〜ん。てへ」
 冒険者達が投げ入れたロープを伝って登ってきたアイーナ嬢は、皆に頭を下げて礼を告げると、照れながらそう説明する。
「うんうん、わかるなぁ〜ん。お腹が減ると心細くなるから、おやつはとっても重要なぁ〜ん」
「でもって、そのクッキー、美味しそうなぁ〜ん」
「あ、よかったらあげるなぁ〜ん」
「わぁい、なぁ〜ん♪」
「……これは非常食にしては上質ですね。美味しいです」
「蜂蜜と薬草を混ぜ込んであるから、栄養もバッチリなぁ〜ん」
「できればレシピ、教えて欲しいなぁ〜ん」
「わたしも、なぁ〜ん」
「うん、こんなので良ければ、いくらでも教えるなぁ〜ん」
「わぁい、なぁ〜ん♪」
 コノハ、ハーシェル、そしてエミリオがアイーナを囲んでそんな話を始めた。
「…………」
 シュネーは、アイーナの落ち着きようと状況判断は確かに精鋭らしいと思ったが……なにか違うような気もしていたりする。ついでに、仲間も含めて、こんなにほのぼの度を上げてていいんだろーか、という疑問も感じ始めていた。まあ、当然かもしれない。
 そして、ハーシェルが持参した笛を吹いた。救出成功を告げる合図だ。
 ──まさに、その直後、
「アリ怪獣に見つかった、ぞ! 撤退だ!」
 声と共にパペットとナナが走ってきた。インセクトでアリ怪獣を引き付けていたわけだが、それが次々に撃破され、ついに怪獣が冒険者達の存在を察知したのである。ナナの召喚したインセクトは20レベル分の冒険者に匹敵する強さを持っており、決して弱いというわけではなかったが、いかんせん数が違い過ぎるので勝負にはならない。もとよりそれも見越した上での陽動と時間稼ぎでもあり、今、その稼いだ時間も尽きた──そういう事だ。
「では早速とんずらと洒落込みましょう。アイーナさん、走れますか?」
「大丈夫なぁ〜ん。ずっと座ってたからシッポがちょっと痺れただけなぁ〜ん」
 エミリオが尋ねると、アイーナが笑った。走れなさそうなら背負って……と考えていたエミリオだったが、どうやらその必用はなさそうだ。
「じゃあ、ええっと……確かあっちに行けば山を抜けるなぁ〜ん?」
「そっちじゃなくてこっちなぁ〜ん」
「……本当に方向オンチなぁ〜ん。どうして向かって来るアリさん達の方に行こうとするなぁ〜ん」
 アイーナの手を引いて、コノハとハーシェルが走り出す。そうしないといまひとつ危なっかしい。また穴にでも落ちたら大変である。
「さて、では殿を勤めさせてもらうとするか。何の因縁かはわからんが、世の為人の為、人助けの為、パペット、男33歳押して参る、ぞ!」
「やるしかないか……仕方が無い、付き合おう」
 パペットとシュネーが武器を抜き放ち、押し寄せてくるアリ怪獣に振り返る。パペットは鎧聖降臨により覆面レスラーのような姿、シュネーは動きやすい機能性重視の鎧姿になっている。どこか対照的な2人だ。
「今回はこれぐらいで勘弁しておいてあげます! ですが、これで勝ったと思ったら大間違いですからね! 次に会った時はこうはいきません! 覚えておきなさい!!」
 大きな岩の上に仁王立ちとなり、怪獣に指を突きつけて言うと、エミリオもコノハ達の後を追った。
「……いけません。我ながらなんという……まるでいつもやられて逃げ帰る悪役の小物みたいな捨て台詞じゃないですか……もっとこう、ええと……」
 真面目な顔で反省しつつ、彼はそんな事を呟いている。どこまで本気かよく分からない。
 そして──アリ怪獣が来た。
「……!」
「おおおおっ!!」
 無言の気迫と裂帛の気合が迸り、弾ける。
 パペットのアクスが正面から来た怪獣の胸を切り裂き、シュネーの電刃衝が足を一本根元から斬り飛ばした。
 重い音を上げてその場に崩れるアリ怪獣。
 さらにとどめの一撃をくれた後、2人の冒険者が顔を上げ、次なる獲物を探して怪獣達に目を向ける──と、突進してきた一群の動きがふと止まった。
 怪獣達の野生が、目の前の相手が難敵であると判断したのだ。
 一定の距離を保ったまま、彼等は一斉に身を起こすと、尻の部分を前に突き出し、2人へと向けた。
 ──来る!
 それは計算した動きと言うより、ほとんど勘による反射だったろう。
 パペットとシュネーは、あらかじめ示し合わせたように、綺麗に左右に分かれ、跳んだ。
 刹那の時を置いて、それまでに2人がいた地面に黄色い液が雨のように降り注ぎ、白煙を上げる。
 鼻につく刺激臭と、溶け崩れる岩──強酸による攻撃だ。
「っ……! 直撃を受ければ持たないか……?」
 目を細め、シュネーは構えた盾を見た。煙を上げ、表面が爛れている。腕や足に刺すようような痛みが走るのは、完全には避けきれなかった証拠だ。が、大した事はない。
「無事、か!?」
 パペットの声に片手を上げて答えるシュネー。一方のパペットも、頭から煙が上がっている。よっぽど無事じゃなさそうだが、声は元気そのものだから心配はいらないだろう。
 と──。
「大丈夫なぁ〜ん!?」
 後方から、大きな声と共に、柔らかな気配が飛んできた。みるみる痛みが消え、ダメージが癒えていく。ヒーリングウェーブのアビリティ、声の主は……アイーナだ。
「私はもう大丈夫なぁ〜ん! だから早く撤退するなぁ〜ん! 迷子になったら大変なぁ〜んよ〜!」
「ちょっとアイーナさん、言ってる側から違う方に行ってるなぁ〜ん!」
「そっちじゃないなぁ〜ん、こっちなぁ〜ん!」
「……どうやったらそれだけ間違える事ができるのか……神秘ですねえ」
 目の前に怪獣がいるので振り返りこそしなかったが、声から察するに、後方も大変そうだ。
 やがてバタバタした足音と共に遠ざかって行くのを感じて……シュネーは小さく息を吐く。
「……いい娘のようだな……」
「貴殿も、そうではないの、か?」
「どうかな、私は……」
 穏やかな声音で会話を交わす2人の周囲で、再びアリ怪獣達が酸を飛ばす構えを見せる。
「貴殿等の相手は某がしよう! 是非1体づつかかってくるがいい、ぞ!!」
 腹からの大声で、パペットが正直な叫びを上げた。そちらに怪獣達が気を向けた一瞬、
「私は──」
 尻尾をゆらりと揺らめかせたシュネーが地を蹴り、疾る。
「武人だ!」
 彼女の放った電刃衝奥義が、アリ怪獣の腹に深々と突き立っていた──。

「さて、こっちにもお出ましのようですね」
 一方の4名+アイーナの前にも、山を回りこんで来たらしいアリ怪獣が姿を現す。数は……5匹だ。
「3匹は抑えます。残り2匹はなんとかして下さい」
「了解なぁ〜ん!」
「わかったなぁ〜ん!」
 エミリオが右へと駆け、固まっていた3匹を粘り蜘蛛糸でまとめて拘束。
 先頭を切って飛び込んできたアリ怪獣には、
「そこっ、なぁ〜ん!」
 電刃衝でコノハが斬り込み、ナナのニードルスピアで牽制しつつ動きを止める。そこに最後の一匹が近づいて来たのを見計らって、
「なぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜ん!!」
 ハーシェルが紅蓮の咆哮で一気に麻痺させた。
「お見事なぁ〜ん♪」
 笑顔でアイーナが手を叩く。
「さあ、今のうちです。回復しないうちにさっさと行っちゃいましょう」
 エミリオが言い、コノハとアイーナはすぐにおー、と手を上げたが、
「……な゛ぁ〜〜〜んっ……」
 ハーシェルは真っ赤な顔をして、一生懸命でっかい岩を押していた。
 何してるなぁ〜ん、とコノハが尋ねると、
「ついでだから、これを転がして追い討ち、って……お、重い……な゛ぁ〜〜〜ん……」
 相当力を入れているようだが、動く気配すらない。
「それもいいですけど、今は急ぎましょう」
「……わかったなぁ〜ん」
 エミリオに言われて、素直に諦めた。結構疲れたのか、肩で息をしている。
「もうっ、なぁ〜ん」
 最後に小石を拾って、腹いせに岩にぶつけてみた。
 散々押してダメだったものが、そんなので普通動くはずはないのだが……。

 ──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

「やったなぁ〜ん! 転がったなぁ〜ん!」
「喜んでる場合じゃないですって! こっちに来てるじゃないですかーっ!」
「あんなのに潰されたらペシャンコなぁ〜ん! 逃げるなぁ〜ん!」
「えと、あの、一応命の抱擁は人数分あるなぁ〜ん」
「ふっ、不吉な事は言ったら駄目なぁ〜ん!」
 ……えらい事になったが、とりあえず無事に逃げ切ったようである。岩から。もちろん、アリ怪獣からも。

「しかし、蟻に踏み潰されそうになる時が来るとは思いも寄らなかったな。これがワイルドファイアか……やはり驚くべき地だ」
 背後を振り返り、呟くシュネー。さっきまでいた岩山は、もう随分と小さくなっている。怪獣も追いかけてくる様子はなかった。彼女とパペットも、当然適当な所で切り上げて撤退したのだ。
「なにはともあれ、みんな大した怪我もなくてなによりなぁ〜ん」
 コノハが、言った。まさしくその通りだ。
「よし、後はアイーナ殿を黒ノソ巡視隊に送り届けるだけであるな!」
「え? ううん、1人でちゃんと帰れるなぁ〜ん。聖域の方向は確か……えと……えとえと…………なぁ〜ん?」
 パペットに言われてあたりを見回すアイーナだったが、どう見ても頭の上にハテナマークが浮かんでいるご様子である。
「……また岩山に逆戻りするといけませんし、送り届けるまでが仕事のようですね、これは」
 苦笑するエミリオ。
「そ、そんな事はないなぁ〜ん。たっ、確かあっちなぁ〜ん!」
「だから、そっちは今来た岩山の方なぁ〜ん」
 アイーナが指差した方を見て、ハーシェルが指摘する。
 まだ岩山は見えているのにどうして間違えられるのか……もはやこれは名人級と言っても良いほどの方向オンチっぷりだ。
「……なぁ〜ん……」
 しょんぼりする彼女の肩に、ナナが軽く手を置いた。そういえばこの2人、髪の色と瞳の色が同じで、その上黒いノソ耳とノソ尻尾という所まで同じだ。ハーシェルも黒ノソだが、髪の色だけは違う。
 ……こうしてみると、姉妹のようにも見える、な。
 などと内心思っていたりするパペットである。

 ──かくて、皆でアイーナを聖域まで送り届た後、冒険者達は帰還の途につく事となった。
 彼らがほとんど見えなくなるまで、アイーナはありがとうなぁ〜ん、と手を振っていたとの話である。

■ END ■


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