星凛祭〜炎の掛け橋



<オープニング>


●星凛祭〜楓華列島の神の恋
 神々がまだ人々と共に住んでいた頃。
 楓華列島に住んでいた神と人間の女性が恋をしました。
 それはいつしか愛になり、女性は新たな命を宿したのです。
 しかし、幸せな時は続きませんでした。
 神々が世界から離れていったのです。
 もちろん、楓華列島の神も例外ではありません。
 女性は神と別れる事に酷く悲しみました。

 そして、いよいよ楓華列島の神が旅立つ時が来ました。
 神は言いました。
「年に一度、この地を訪れ、君達の事を見守ろう」と。
 女性は涙ながらも微笑み、神を見送りました。

 翌年の7月7日。
 神は約束どおりに楓華列島に現れました。
 そして、女性と生まれた赤ん坊と再会を果したのです。
 再会を喜んだ神は、自分の幸せを周りの人々にも味わって欲しいと思い、次々に人々の願いを叶えていきました。
 神や女性や赤ん坊だけでなく、周りにいた人々も幸せになりました。
 こうして、神は年に一度、楓華列島を訪れ、人々に幸せを送っていったのです。

●炎の掛け橋
 ちりりん……ちりりりりん……。
 楓華列島に伝わる古い伝承を語る淡雪の霊査士・ミフユ(a90241)の声が、風鈴の涼やかな音色と共に静かに響く。
「……うーん。ロマンチックな伝承だね」
「そうですわね。とても素敵なお話ですわね」
 それまで静かに話を聞いていた冒険者達に、ミフユはにこやかに微笑んで。
「星凛祭は、年に一度神様へ想いを伝える大切な行事なのだそうですわ。楓華列島にお住まいの方は皆、7月7日に必ず神様が下りてくると信じていらっしゃるそうです」
 最近は愛する者同士……家族や恋仲になられた方々が楽しく夜を過ごすのが通例になっているようですけれど……と続けた彼女に、頬を染める者、考え込む者と様々だ。
 そんな彼らに、ミフユは殊更深く笑って。
「そうですわ。皆様、折角楓華にいらしたんですもの。星凛祭を楽しまれては如何ですか?」
 良い場所があるんですのよ……と続いた言葉に、冒険者達は身を乗り出して。
 ――落涙の滝。
 笹舟橋の下を流れる川の源流で、高台へと続く山道を途中で外れると行き着くその場所は、言い伝えにある女性を想い、神が流した涙が滝になったと伝えられている。
 彼女が知っているのは、笹舟橋がかかっている川と分かたれた支流。
 そこに『炎の架け橋』と呼ばれる橋があるのだと言う。
 神と乙女の逢瀬に使われた橋だと言い伝えられ、橋の袂に紅い蝋燭を灯すと良縁成就のご利益があるのだそうだ。
 星凛祭の夜ともなれば、橋には沢山の蝋燭が灯され。
 闇夜の川に炎がゆらめき、掛け橋は浮かぶ炎の橋となる――。
 美しいその橋は、支流にある為にあまり人に知られておらず、穴場的な場所なのだそうだ。
「素敵ですねえ……」
「……良縁成就ってことは、独り身でも大丈夫なのかな……」
 うっとりと遠い目をした冒険者の横で、ぼそりと呟く別の冒険者。
 そんな彼らに、彼女はくすくすと笑って。
「……ええ。お独りでもご利益があるそうですわ。それに、紅い蝋燭の炎にも、お願いを届けて下さる力があるのだそうです。皆様も、炎に願い事をしてみては如何ですか?」
 穏やかに微笑むミフユに、冒険者達は嬉しそうに頷いて。
 ちりりりん……りりりん……。
 軽やかな風鈴の音が、静かに星凛祭の始まりを告げようとしていた。

マスターからのコメントを見る

参加者
NPC:淡雪の霊査士・ミフユ(a90241)



<リプレイ>

 星が降りそうな夜。
 色々な人達が、色々な思いを胸に、炎の掛け橋を目指す――。


 揺れる炎に照らされたイオの微笑み。シヅハは目を伏せて。
 捨てられたあの日から、夢を見続けていた。
 ……この人からも、逃げてばかりで。
「もう、優しくしてくれなくて良い。笑顔もいらない」
 それでも。傍に居たいから。
「……おいで」
 声と同時に、引き寄せられて驚くシズハ。
 この微笑が、怯えさせてしまったのかもしれない。
 それなら。見ずに済む位近くに居ましょう。
 イオの囁きを俄かに信じられず、彼女は顔を上げて。
「教えて。去年の願い事って何……?」
「それはね……」
 貴女の心を見つける事だと。
 続いた彼の言葉に、シズハから星のような涙が零れた。


「先日はありがとう。タラシな王子様じゃなければもっと良いのだけどね」
 笑って言うのはオリエ。
 浴衣の隙間から見える包帯に、シギルは眉を潜めて。
 不意にふらつく身体。支えようとした瞬間、足が地面から離れる。
「ちょっと?!」
「俺に抱き上げられるの初めてじゃないだろ? 大人しくしてろよ」
 そう言う問題でもない気がするが、素直に好意に甘えることにして。
 いつもより高い目線から見る炎の橋。
 大切な人達が幸せでありますように、と。灯火に願いを込める。
「生きているって本当に素晴らしいよね。こんなに素敵な光景を見られるのだから」
「俺は姫君の笑顔見てる方が良いな」
 調子の良い彼に、オリエはお望みの笑顔を向けた。


「さて、何をお願いしましょうか?」
「うーん。りょーえんじょうじゅって何ー?」
 首を傾げたアルマに、微笑んだシャリィラ。
 続いた彼女の説明は良く判らなかったけれど。
 お姉ちゃんと一緒に居られるならいいや、と納得して。
「だけど……今大変な人達もいるんだよね」
 ションボリとした少年に、シャリィラは頷く。
 戦禍に泣く人は、あらゆる所に居て。
 いつか皆が笑って暮らせるようになれば良いと思う。
「それを目指して頑張りましょうね」
 呟いて。小さな火を灯し。
「うん! ……お姉ちゃんはボクが守ってあげるからね♪」
 それに元気に頷いたアルマ。
 その宣誓に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 こんな日にまで仕事をしていたエイシェルに、溜息をついたシギル。
 どうせなら付き合え、と。彼に蝋燭を渡されて。
「願い事と急に言われてものぅ……」
 とりあえず、この馬鹿が怪我をしないように、と呟いて。
 己の望みはこの男が生きている事。それ以上はない。
「そういえば……望みは見つかったかの?」
「ん? ああ。生きて帰ることかな」
「……阿呆。それは当たり前じゃろうが」
 何気ない問いにさらりと答えたシギルの頭を容赦なくはたいて。
 でも、不覚にも少しだけ。
 彼の言葉に喜びを感じたエイシェルだった。


「何処を見ても趣がありますね」
「ええ。伝承も素敵ですし」
 一緒に買った服を着たシスとセロはうっとりと燃える橋を眺めて。
 蝋燭に火を灯しつつ、シスは首を傾げて。
「セロさんはもう、良縁は十分ですよね?」
「……え!? 私は別に……そ、そういうシスさんこそ……」
 くるくると表情を変えるセロに、シスは笑って。こっそりと祈る。
 どうか、彼女の大切な人が無事に戻りますように。
 大切な友人には、笑っていて欲しいから。
 隣で手を合わせるセロも、彼の無事を炎に託し。
 風に乗る彼女の呟き。2人の願いは、暖かな光を放つ。


「さて、何処に行きたい?」
「任せるわ」
 フレイの予想通りの返答に、笑ってしまったラティクス。
 徐に彼女の手を取り絡ませて。
 思わず赤くなったフレイに、笑みを返す。
「赤くなった顔も可愛いぞ」
「……からかうなっ! まあ、ええわ。転んで浴衣破いたら勿体無いし」
 ブツブツと呟く彼女。浴衣姿も可愛いと思いつつ、彼は続けて。
「願い事は考えたか?」
「んー。……そーゆーのって判らんのやけど……でも、付き合うさぁ」
 フレイの言葉に、彼はちょっと驚いて。早速、蝋燭の火に願う。
 仲間と過ごす日々が変わらぬように。
 いつまでも君が笑っていてくれるように。
「折角だし、もう少し景色を見て回るか」
 顔を上げたラティクスに、頷いた彼女。
 この光景を記憶に焼き付けるように、ゆっくりと歩き出した。


 川のせせらぎ。遠くに見える炎の橋。
 寄り添って見る光景に、熱い吐息が漏れるユイリン。
 見上げると、サコンの黒い瞳があって。
 それは絵のように綺麗で、頬が熱くなって行く。
 神様に恋した女の子も、ドキドキしたんだろうな。
 一番好きな人と結婚して、家族になって――。
 ……私も、そんな幸せが知りたい。
「……お願い事はしましたか?」
 サコンの優しい声にユイリンは気が遠のきそうになりながら。
 心の中でそっと囁く。
 寄り添う星のように、貴方の側に居られますように――。


 愛しい女性を想い、神が流した涙の滝。
「なかなかセンチメンタルじゃないか」
 淡々と呟いたフィー。
 願い事……とりあえず『世界平和』と呟いて火を灯し。
 聞き慣れた声に振り返ると、浴衣姿のルーシェンとマオーガーを見つけて。2人に子供が生まれたのを思い出し祝辞を述べる。
「……で、結局お名前は何にしたのかな?」
「マロンじゃよ。マオ殿の命名は却下されたのじゃ」
 相棒の返答に安堵したフィー。
 彼の命名はちょっと難があったので。
「何とも幻想的じゃなぁ……」
 炎が集まった橋の姿に見惚れるルーシェン。灯した炎に幸福が続く事を願う。
 そこでふと、夫が気になって隣を見ると。
 何やら拝んでいたと思えば、顔を上げて。
「さて、早く帰ろう。あの子が泣いてるだろうしね」
「君は素敵な親馬鹿になるよ」
「ハハハ……しばくよ?」
 イイ笑顔のフィーに、負けじとイイ笑顔を返すマオーガー。
 そして妻の穏やかな笑顔。彼が願う、優しい時間が過ぎる――。


 竹林を手を繋いで歩くコノハとショコラーデ。
 一緒なのが嬉しくて、揺れる尻尾。
 それが不意に止まって。
「一年に一度しか会えないなんて、切ないなぁ〜ん」
「なぁ〜ん? 俺は毎日でも会いに行くなぁ〜ん!」
 コノハは伝承の事を言ったのだが、彼は自分達の事だと思ったらしい。
 勘違いに、彼女は笑って。赤い蝋燭の火を眺める。
「……何をお願いしたのなぁ〜ん?」
「今は秘密なぁ〜ん♪ 願いが叶ったら、教えてあげるなぁ〜ん」
「ぅな……じゃあ、その時教え合いっこするなぁ〜ん!」
 笑顔の彼に、元気に頷いて。またしっかりと手を絡める。
 大好きな貴方。ずっと手を繋いでいて――。
 ――その願いが、全く同じである事を知るのは、まだ暫く先の事になりそうだ。


「俺の用意したもんが食えないってのか!」
「こんなんエルフの食い物じゃねーッ!」
「何だとー!? 椎茸に謝れ!」
「やかましいッ!」
 星凛祭の一角で何故か繰り広げられる流し素麺。
 壮絶バトルを始めたゼロとビゼンノスケを眺めて、テラーは首を傾げる。
「炎に何を託しましょうか……」
 止めるのかと思いきや、何を願うか悩み中。
「私は良縁祈願かしら……」
 頬を染めたスウリン。
 落涙の滝に顔を出した折。カップルが誕生するのを見て、思う所があったらしい。
「テラーは決まったの?」
 問われて、再び思案する彼女。
 次の瞬間手を叩いて。笑いながら火を灯す。
「ビゼンノスケの椎茸嫌いが治りますように」
「……あ。消えたわ」
「オラオラ! そんなんじゃ団長の名が泣くぜ!」
「お前等少しは助けやがれーッ!」
 スウリンが呟く間も続く2人のガチバトル。
 仲間との縁を大切に出来るよう、祈る予定のビゼンノスケだったが。
 ちょっとだけ、この仲間と来た事を後悔したとか。


 橋の形をした炎の揺らめきが闇に浮かぶ。
 愛しい人の腕に手を絡めて、浴衣姿のヴィオラはうっとりと溜息をつく。
「何だか吸い込まれそうどすなぁ」
「ええ、素敵。……遠くからなら、蛍の群れみたいに見えたかしらね?」
「そうどすね。……ウチは最初の頃に比べて成長したんかなぁ」
「そうねえ……こことか」
 続く他愛もない話。笑ったシキに身体を撫でられて頬を染めたヴィオラ。
 不意に微笑んで、シキの顔を引き寄せる。
「どんな時も愛してますえ……」
「私もよ……」
 重なり合う唇。
 お互いに夢中で……願掛けは後回しになりそうだった。


 2度目の浴衣。去年と何も変わっていない気がする。
「あたしの願いなんて、お前が一番知ってるんじゃないか?」
 蝋燭を灯しながら、冗談とも本気ともつかないリシェール。
 肩を竦めたシギルにそっと触れる。
「……自分をもっと大切にしろよ」
 触れた胸から微かに感じる鼓動。
 ――生きる意味は与えられるのではなく、作るものなのかもしれない。
「俺、そんなに死にそうに見えるか?」
 彼のぼやきに、リシェールはニヤリと笑って。
「見えるから言うんだろ。……次に会った時は誕生祝いでもくれよな」
 頷くシギル。とりあえず、約束は取り付けたから良いか。
 彼の紅い瞳を見ながら思う彼女だった。


 浮かぶ炎の掛け橋は、現実離れした美しさで。
 浴衣に身を包んだザインとレンカは、ただ寄り添い、その光景を眺める。
 ――遠い伝承。離別の運命。
 いつか。同じ様に。別れは来るのだろうか――。
「何があっても、必ず無事に帰って来られるように……」
「……離れないよね? 一緒に居られるよね……?」
 彼の声を遮るようなレンカの言葉。
 気丈なはずの彼女の弱々しい声に、ザインは目を見開いて。
 勿論だと。レンカに伝わるよう、手を強く握った途端。
 不意に飛び込んで来た彼女の身体を抱き止める。
「大好き。大好きだよ……ずっと、一緒にいたい」
「あー……う。お、俺もだよ」
 頭を掻きながら続けた彼に、レンカから微笑が零れて。
 一緒に、切なる願いを込めて蝋燭に火を灯す。
 ――いつまでも一緒に……。


 灯る赤い光が水面に映り、橋が2つに見える。
 レイジュに寄り添っていたリヤは、不意に地面が無くなった感覚を覚えて。
 次の瞬間、盛大に上がる水飛沫。
 一緒に落ちた彼は、少女の無事を確認しようとして……。
「風邪を引いてしまうのじゃ」
 そう言って、自分のみならず、彼まで脱がそうとする彼女を慌てて押し戻す。
「……あのね、キミは女の子なんだから、もう少し嗜みを……」
 肩を落とすレイジュに、彼女は首を傾げて。
「じゃあ、これなら風邪引かずに済むかのぅ?」
 そう言って、彼を抱きしめたリヤ。
 その無邪気さと暖かさ。炎の揺らめき。
 想うのは、愛しい人を救う為、焼かれた人形の御伽噺。
「……想いも願いも巡り巡って、大切な人の元へと還れば良いと思うよ」
 レイジュの突然の言葉を判っているのかいないのか、素直に頷くリヤ。
 彼女との縁に、彼は愛しさを憶えて。
 少女の手をそっと撫でた。


「今日は浴衣じゃないのか」
「……又足捻ったら困るもの」
「何だ。触る口実が減っ……」
 パオラに蹴られて悶絶するシギル。
 溜息をつきつつ、彼女は蝋燭の火を見つめて。
「……勝手に突っ走って死ぬんじゃないわよ?」
「ん。不慮の事故の時は諦めてくれ」
「嫌よ。骨を拾いに行くのも面倒でしょうが!」
 にっこり笑ったパオラは、彼を見上げて。
「他人の安全祈願でも良いのかしらね」
「どうだろうな」
「ま、面倒がなくなるなら自分の為よね。感謝するのよー?」
「いつも感謝してるぜ?」
「よく言うわ……」
 続くやり取り。仄かな祈りを手に、楽しげな談笑が辺りに響く。


「どーして彼氏と一緒じゃないですかぁっ!?」
 友人の後をつけてみるも、するのは仕事ばかりで。痺れを切らしたエリスに驚くアヤノ。
 最近、デバガメが趣味になりつつあるのは抜群に秘密だったりする。
「……そう言うエリスは?」
 そのツッコミを笑顔で誤魔化した彼女。
 お互い色気がないと思いつつ、一緒に蝋燭の火に願いを乗せる。
 これ以上、仲良しの人が消えてしまいませんように……。
 一方。不意にラングに声をかけられ、ミフユは首を傾げて。
「何故、神様は炎を橋として用いたのでしょう?」
 炎が橋では、人間である娘は橋を渡れない。触れる事すら許されない。
 ……もしかしたら、神は自戒の為に、あえてそうしたのではないか。
 続く彼の話に、ミフユは頷いて。
「そう言う意味もあったのかもしれませんわね」
 幸せに触れたら手放す事を恐れ、二度と以前には戻れなくなるから、と。
 微笑む彼女に、何度も頷くラング。それを聞きながら、ローダンセは切ない気持ちで炎の橋を見る。
 その昔、神を送り出した女性は、何を思ったのだろう。
 自分だったら……泣いて、怒って、責めて。それでも……最後は笑って送り出すだろうか?
 愛する方が自分を思い出す時、いつも笑顔であるように……。
「……ねー。皆は何をお願いしたのかなぁ?」
 マロウの声で我に返った彼女は声の主に笑顔を向けて。
「マロウさんは……?」
「んとんと、まずねー……」
 お願い事を指折り確認。その多さに気付いたのか、慌てるマロウ。
「んとっ。私今幸せだから、皆も幸せになって欲しいんだもんっ」
 焦って続けた少女の頭を撫でるローダンセ。そして、トオルと目が合って。
「俺か? 俺はまあ……そう言えば、ミフユは何か願い事をしたのか?」
「……秘密ですわ」
「そうか。……叶うと良いな」
「ありがとうございます。トオル様はお祈りされましたの?」
「ああ。……嘆く者が減り、愛しい者達が幸福であるように、と」
 ありがちだろう? と自嘲的に呟いた彼に、ミフユは首を振って。
 素敵ですわ、と言って微笑んだ。


「カップルなんて、ちっとも羨ましくないぜッー!」
 叫んで、川縁に寝転んだクロノシン。
 目に入るは満天の星と炎の橋。
 何て風流なのだろう。
 いつかこの世界が、こういう幸せな時で満ちるといい……。
 どげしっ。
「コラーッ!」
 珍しく感慨に浸るも、愛犬に踏まれて台無しである。
 そこから少し離れた所で橋を眺めていたシオン。
「あの炎に触れていいのだろうか……」
「さすがに火傷すると思いますけど?」
 その呟きに、シズナが苦笑して。
 そして、旅団の皆様が元気であるように……と願いを込める。
 ストラタムの目に浮かぶのは炎ではなく。地に伏したあの人の姿。
 共に往けば良かったのか、それとも――。
 小さな灯火を頼りに、見慣れた姿がないかと目線を泳がせる。
「……明日に願いをかけられるのは良いことだよね」
 炎の橋を見つめて呟くファスティアン。
 明日を、その先を。守るのが冒険者の勤めならば。
 明日を信じられる現実が、失われないように……。
 続いた彼の言葉に、ストラタムの胸が痛む。
 私の願いに未来などない。
 私はただ――。
 ……彼女の蝋燭は、叶わぬ願いを抱いて。
 じりじりとその身を溶かして行った。


 それぞれの願いを込めた紅い蝋燭が、夜を仄かに照らす。
 その、小さな暖かい灯火を、冒険者達はいつまでも見つめているのだった。


マスター:猫又ものと 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:38人
作成日:2006/07/27
得票数:恋愛5  ほのぼの27 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。