<リプレイ>
星が降りそうな夜。 色々な人達が、色々な思いを胸に、炎の掛け橋を目指す――。
揺れる炎に照らされたイオの微笑み。シヅハは目を伏せて。 捨てられたあの日から、夢を見続けていた。 ……この人からも、逃げてばかりで。 「もう、優しくしてくれなくて良い。笑顔もいらない」 それでも。傍に居たいから。 「……おいで」 声と同時に、引き寄せられて驚くシズハ。 この微笑が、怯えさせてしまったのかもしれない。 それなら。見ずに済む位近くに居ましょう。 イオの囁きを俄かに信じられず、彼女は顔を上げて。 「教えて。去年の願い事って何……?」 「それはね……」 貴女の心を見つける事だと。 続いた彼の言葉に、シズハから星のような涙が零れた。
「先日はありがとう。タラシな王子様じゃなければもっと良いのだけどね」 笑って言うのはオリエ。 浴衣の隙間から見える包帯に、シギルは眉を潜めて。 不意にふらつく身体。支えようとした瞬間、足が地面から離れる。 「ちょっと?!」 「俺に抱き上げられるの初めてじゃないだろ? 大人しくしてろよ」 そう言う問題でもない気がするが、素直に好意に甘えることにして。 いつもより高い目線から見る炎の橋。 大切な人達が幸せでありますように、と。灯火に願いを込める。 「生きているって本当に素晴らしいよね。こんなに素敵な光景を見られるのだから」 「俺は姫君の笑顔見てる方が良いな」 調子の良い彼に、オリエはお望みの笑顔を向けた。
「さて、何をお願いしましょうか?」 「うーん。りょーえんじょうじゅって何ー?」 首を傾げたアルマに、微笑んだシャリィラ。 続いた彼女の説明は良く判らなかったけれど。 お姉ちゃんと一緒に居られるならいいや、と納得して。 「だけど……今大変な人達もいるんだよね」 ションボリとした少年に、シャリィラは頷く。 戦禍に泣く人は、あらゆる所に居て。 いつか皆が笑って暮らせるようになれば良いと思う。 「それを目指して頑張りましょうね」 呟いて。小さな火を灯し。 「うん! ……お姉ちゃんはボクが守ってあげるからね♪」 それに元気に頷いたアルマ。 その宣誓に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
こんな日にまで仕事をしていたエイシェルに、溜息をついたシギル。 どうせなら付き合え、と。彼に蝋燭を渡されて。 「願い事と急に言われてものぅ……」 とりあえず、この馬鹿が怪我をしないように、と呟いて。 己の望みはこの男が生きている事。それ以上はない。 「そういえば……望みは見つかったかの?」 「ん? ああ。生きて帰ることかな」 「……阿呆。それは当たり前じゃろうが」 何気ない問いにさらりと答えたシギルの頭を容赦なくはたいて。 でも、不覚にも少しだけ。 彼の言葉に喜びを感じたエイシェルだった。
「何処を見ても趣がありますね」 「ええ。伝承も素敵ですし」 一緒に買った服を着たシスとセロはうっとりと燃える橋を眺めて。 蝋燭に火を灯しつつ、シスは首を傾げて。 「セロさんはもう、良縁は十分ですよね?」 「……え!? 私は別に……そ、そういうシスさんこそ……」 くるくると表情を変えるセロに、シスは笑って。こっそりと祈る。 どうか、彼女の大切な人が無事に戻りますように。 大切な友人には、笑っていて欲しいから。 隣で手を合わせるセロも、彼の無事を炎に託し。 風に乗る彼女の呟き。2人の願いは、暖かな光を放つ。
「さて、何処に行きたい?」 「任せるわ」 フレイの予想通りの返答に、笑ってしまったラティクス。 徐に彼女の手を取り絡ませて。 思わず赤くなったフレイに、笑みを返す。 「赤くなった顔も可愛いぞ」 「……からかうなっ! まあ、ええわ。転んで浴衣破いたら勿体無いし」 ブツブツと呟く彼女。浴衣姿も可愛いと思いつつ、彼は続けて。 「願い事は考えたか?」 「んー。……そーゆーのって判らんのやけど……でも、付き合うさぁ」 フレイの言葉に、彼はちょっと驚いて。早速、蝋燭の火に願う。 仲間と過ごす日々が変わらぬように。 いつまでも君が笑っていてくれるように。 「折角だし、もう少し景色を見て回るか」 顔を上げたラティクスに、頷いた彼女。 この光景を記憶に焼き付けるように、ゆっくりと歩き出した。
川のせせらぎ。遠くに見える炎の橋。 寄り添って見る光景に、熱い吐息が漏れるユイリン。 見上げると、サコンの黒い瞳があって。 それは絵のように綺麗で、頬が熱くなって行く。 神様に恋した女の子も、ドキドキしたんだろうな。 一番好きな人と結婚して、家族になって――。 ……私も、そんな幸せが知りたい。 「……お願い事はしましたか?」 サコンの優しい声にユイリンは気が遠のきそうになりながら。 心の中でそっと囁く。 寄り添う星のように、貴方の側に居られますように――。
愛しい女性を想い、神が流した涙の滝。 「なかなかセンチメンタルじゃないか」 淡々と呟いたフィー。 願い事……とりあえず『世界平和』と呟いて火を灯し。 聞き慣れた声に振り返ると、浴衣姿のルーシェンとマオーガーを見つけて。2人に子供が生まれたのを思い出し祝辞を述べる。 「……で、結局お名前は何にしたのかな?」 「マロンじゃよ。マオ殿の命名は却下されたのじゃ」 相棒の返答に安堵したフィー。 彼の命名はちょっと難があったので。 「何とも幻想的じゃなぁ……」 炎が集まった橋の姿に見惚れるルーシェン。灯した炎に幸福が続く事を願う。 そこでふと、夫が気になって隣を見ると。 何やら拝んでいたと思えば、顔を上げて。 「さて、早く帰ろう。あの子が泣いてるだろうしね」 「君は素敵な親馬鹿になるよ」 「ハハハ……しばくよ?」 イイ笑顔のフィーに、負けじとイイ笑顔を返すマオーガー。 そして妻の穏やかな笑顔。彼が願う、優しい時間が過ぎる――。
竹林を手を繋いで歩くコノハとショコラーデ。 一緒なのが嬉しくて、揺れる尻尾。 それが不意に止まって。 「一年に一度しか会えないなんて、切ないなぁ〜ん」 「なぁ〜ん? 俺は毎日でも会いに行くなぁ〜ん!」 コノハは伝承の事を言ったのだが、彼は自分達の事だと思ったらしい。 勘違いに、彼女は笑って。赤い蝋燭の火を眺める。 「……何をお願いしたのなぁ〜ん?」 「今は秘密なぁ〜ん♪ 願いが叶ったら、教えてあげるなぁ〜ん」 「ぅな……じゃあ、その時教え合いっこするなぁ〜ん!」 笑顔の彼に、元気に頷いて。またしっかりと手を絡める。 大好きな貴方。ずっと手を繋いでいて――。 ――その願いが、全く同じである事を知るのは、まだ暫く先の事になりそうだ。
「俺の用意したもんが食えないってのか!」 「こんなんエルフの食い物じゃねーッ!」 「何だとー!? 椎茸に謝れ!」 「やかましいッ!」 星凛祭の一角で何故か繰り広げられる流し素麺。 壮絶バトルを始めたゼロとビゼンノスケを眺めて、テラーは首を傾げる。 「炎に何を託しましょうか……」 止めるのかと思いきや、何を願うか悩み中。 「私は良縁祈願かしら……」 頬を染めたスウリン。 落涙の滝に顔を出した折。カップルが誕生するのを見て、思う所があったらしい。 「テラーは決まったの?」 問われて、再び思案する彼女。 次の瞬間手を叩いて。笑いながら火を灯す。 「ビゼンノスケの椎茸嫌いが治りますように」 「……あ。消えたわ」 「オラオラ! そんなんじゃ団長の名が泣くぜ!」 「お前等少しは助けやがれーッ!」 スウリンが呟く間も続く2人のガチバトル。 仲間との縁を大切に出来るよう、祈る予定のビゼンノスケだったが。 ちょっとだけ、この仲間と来た事を後悔したとか。
橋の形をした炎の揺らめきが闇に浮かぶ。 愛しい人の腕に手を絡めて、浴衣姿のヴィオラはうっとりと溜息をつく。 「何だか吸い込まれそうどすなぁ」 「ええ、素敵。……遠くからなら、蛍の群れみたいに見えたかしらね?」 「そうどすね。……ウチは最初の頃に比べて成長したんかなぁ」 「そうねえ……こことか」 続く他愛もない話。笑ったシキに身体を撫でられて頬を染めたヴィオラ。 不意に微笑んで、シキの顔を引き寄せる。 「どんな時も愛してますえ……」 「私もよ……」 重なり合う唇。 お互いに夢中で……願掛けは後回しになりそうだった。
2度目の浴衣。去年と何も変わっていない気がする。 「あたしの願いなんて、お前が一番知ってるんじゃないか?」 蝋燭を灯しながら、冗談とも本気ともつかないリシェール。 肩を竦めたシギルにそっと触れる。 「……自分をもっと大切にしろよ」 触れた胸から微かに感じる鼓動。 ――生きる意味は与えられるのではなく、作るものなのかもしれない。 「俺、そんなに死にそうに見えるか?」 彼のぼやきに、リシェールはニヤリと笑って。 「見えるから言うんだろ。……次に会った時は誕生祝いでもくれよな」 頷くシギル。とりあえず、約束は取り付けたから良いか。 彼の紅い瞳を見ながら思う彼女だった。
浮かぶ炎の掛け橋は、現実離れした美しさで。 浴衣に身を包んだザインとレンカは、ただ寄り添い、その光景を眺める。 ――遠い伝承。離別の運命。 いつか。同じ様に。別れは来るのだろうか――。 「何があっても、必ず無事に帰って来られるように……」 「……離れないよね? 一緒に居られるよね……?」 彼の声を遮るようなレンカの言葉。 気丈なはずの彼女の弱々しい声に、ザインは目を見開いて。 勿論だと。レンカに伝わるよう、手を強く握った途端。 不意に飛び込んで来た彼女の身体を抱き止める。 「大好き。大好きだよ……ずっと、一緒にいたい」 「あー……う。お、俺もだよ」 頭を掻きながら続けた彼に、レンカから微笑が零れて。 一緒に、切なる願いを込めて蝋燭に火を灯す。 ――いつまでも一緒に……。
灯る赤い光が水面に映り、橋が2つに見える。 レイジュに寄り添っていたリヤは、不意に地面が無くなった感覚を覚えて。 次の瞬間、盛大に上がる水飛沫。 一緒に落ちた彼は、少女の無事を確認しようとして……。 「風邪を引いてしまうのじゃ」 そう言って、自分のみならず、彼まで脱がそうとする彼女を慌てて押し戻す。 「……あのね、キミは女の子なんだから、もう少し嗜みを……」 肩を落とすレイジュに、彼女は首を傾げて。 「じゃあ、これなら風邪引かずに済むかのぅ?」 そう言って、彼を抱きしめたリヤ。 その無邪気さと暖かさ。炎の揺らめき。 想うのは、愛しい人を救う為、焼かれた人形の御伽噺。 「……想いも願いも巡り巡って、大切な人の元へと還れば良いと思うよ」 レイジュの突然の言葉を判っているのかいないのか、素直に頷くリヤ。 彼女との縁に、彼は愛しさを憶えて。 少女の手をそっと撫でた。
「今日は浴衣じゃないのか」 「……又足捻ったら困るもの」 「何だ。触る口実が減っ……」 パオラに蹴られて悶絶するシギル。 溜息をつきつつ、彼女は蝋燭の火を見つめて。 「……勝手に突っ走って死ぬんじゃないわよ?」 「ん。不慮の事故の時は諦めてくれ」 「嫌よ。骨を拾いに行くのも面倒でしょうが!」 にっこり笑ったパオラは、彼を見上げて。 「他人の安全祈願でも良いのかしらね」 「どうだろうな」 「ま、面倒がなくなるなら自分の為よね。感謝するのよー?」 「いつも感謝してるぜ?」 「よく言うわ……」 続くやり取り。仄かな祈りを手に、楽しげな談笑が辺りに響く。
「どーして彼氏と一緒じゃないですかぁっ!?」 友人の後をつけてみるも、するのは仕事ばかりで。痺れを切らしたエリスに驚くアヤノ。 最近、デバガメが趣味になりつつあるのは抜群に秘密だったりする。 「……そう言うエリスは?」 そのツッコミを笑顔で誤魔化した彼女。 お互い色気がないと思いつつ、一緒に蝋燭の火に願いを乗せる。 これ以上、仲良しの人が消えてしまいませんように……。 一方。不意にラングに声をかけられ、ミフユは首を傾げて。 「何故、神様は炎を橋として用いたのでしょう?」 炎が橋では、人間である娘は橋を渡れない。触れる事すら許されない。 ……もしかしたら、神は自戒の為に、あえてそうしたのではないか。 続く彼の話に、ミフユは頷いて。 「そう言う意味もあったのかもしれませんわね」 幸せに触れたら手放す事を恐れ、二度と以前には戻れなくなるから、と。 微笑む彼女に、何度も頷くラング。それを聞きながら、ローダンセは切ない気持ちで炎の橋を見る。 その昔、神を送り出した女性は、何を思ったのだろう。 自分だったら……泣いて、怒って、責めて。それでも……最後は笑って送り出すだろうか? 愛する方が自分を思い出す時、いつも笑顔であるように……。 「……ねー。皆は何をお願いしたのかなぁ?」 マロウの声で我に返った彼女は声の主に笑顔を向けて。 「マロウさんは……?」 「んとんと、まずねー……」 お願い事を指折り確認。その多さに気付いたのか、慌てるマロウ。 「んとっ。私今幸せだから、皆も幸せになって欲しいんだもんっ」 焦って続けた少女の頭を撫でるローダンセ。そして、トオルと目が合って。 「俺か? 俺はまあ……そう言えば、ミフユは何か願い事をしたのか?」 「……秘密ですわ」 「そうか。……叶うと良いな」 「ありがとうございます。トオル様はお祈りされましたの?」 「ああ。……嘆く者が減り、愛しい者達が幸福であるように、と」 ありがちだろう? と自嘲的に呟いた彼に、ミフユは首を振って。 素敵ですわ、と言って微笑んだ。
「カップルなんて、ちっとも羨ましくないぜッー!」 叫んで、川縁に寝転んだクロノシン。 目に入るは満天の星と炎の橋。 何て風流なのだろう。 いつかこの世界が、こういう幸せな時で満ちるといい……。 どげしっ。 「コラーッ!」 珍しく感慨に浸るも、愛犬に踏まれて台無しである。 そこから少し離れた所で橋を眺めていたシオン。 「あの炎に触れていいのだろうか……」 「さすがに火傷すると思いますけど?」 その呟きに、シズナが苦笑して。 そして、旅団の皆様が元気であるように……と願いを込める。 ストラタムの目に浮かぶのは炎ではなく。地に伏したあの人の姿。 共に往けば良かったのか、それとも――。 小さな灯火を頼りに、見慣れた姿がないかと目線を泳がせる。 「……明日に願いをかけられるのは良いことだよね」 炎の橋を見つめて呟くファスティアン。 明日を、その先を。守るのが冒険者の勤めならば。 明日を信じられる現実が、失われないように……。 続いた彼の言葉に、ストラタムの胸が痛む。 私の願いに未来などない。 私はただ――。 ……彼女の蝋燭は、叶わぬ願いを抱いて。 じりじりとその身を溶かして行った。
それぞれの願いを込めた紅い蝋燭が、夜を仄かに照らす。 その、小さな暖かい灯火を、冒険者達はいつまでも見つめているのだった。

|
|
参加者:38人
作成日:2006/07/27
得票数:恋愛5
ほのぼの27
|
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
|
|