<リプレイ>
●砂塵の迷宮 冷たく沸き出すオアシスの水は、砂漠の行軍で疲れた冒険者の喉を潤し、新たな一歩への活力を与えてくれる。 だが、彼等にとっての本番はこれからだ。 「サンドワームか……巨大なのであろうよなぁ……」 オアシスの更に向こう、灼熱の砂漠の奥にある黒いわだかまり……砂嵐を見つめながら、求道者・ギー(a00041)は呟いていた。 自然のものにしては不自然すぎる気もするが、いずれにせよ、あの中に伝説にある砂漠の巨塔と、それを守るようにサンドワームが待ち受けているという。 「……こうなると、是非とも塔の存在を目にしたい所だが」 にわかに真実味を帯びてきた幻の塔の存在に、魔法剣士・エコーズ(a18675)はその場で考え込む。 だが、そのためにも、まずは目先の障害を排除しなければならない。 「そろそろ、行きましょう」 皆の疲労が一通り回復し、水の補充を終えたのを確認してから、螺旋の騎士・ビクトリー(a12688)はその場に立ち上がり、仲間へと声を掛けていた。 それを受け、冒険者は名残惜しげにオアシスを出発しようとする。 「嫌じゃ、嫌じゃ、妾は行きとうない」 それを押し止めるように、嵐を呼ぶ蒼き雨・レイニー(a35909)の我が儘が炸裂していた。彼女は手足をジタバタさせながら、抵抗の意志を示している。 とは言え、それも仕方ないだろう。 彼女の身体の各所に巻き付いた包帯は、決して飾りなどではない。それは、彼女が重傷者である……冒険者としての力を半減されている証でもある。 これから先に起こる戦いを考えると、出来れば留守番していた方が無難だろう。 とは言え、いつまでも我が儘を押し通せるものではない。 「レイニーさん、行きますよ。ちゃんと私が守りますから……」 「本当かのぅ……?」 付き添い、というより殆ど保護者状態の、誓夜の騎士・レオンハルト(a32571)に促され……彼女は痛む身体を引きずりながら、仲間の後に続く。 その後も、レイニーの我が儘は止まる事がなかったが、それはまあ割愛して、やがて冒険者は砂嵐の入り口――荒れ狂う砂嵐に明確に入り口と呼べる場所はないが――へと到達していた。 「ほっほっほ、相変わらず凄い砂嵐ですの。これはひょっとしてモンスターより自然の方が脅威かも知れませんですの」 ちりめん問屋の隠居ジジィ・ミト(a29811)の言葉に、冒険者は目の前に立ち塞がる砂の壁を見上げる。まるで、冒険者を待ち受けているかのように、渦巻く風が砂を巻き上げ、まさしく砂塵の迷宮と呼べる代物を作り上げていた。 砂嵐の中を突き進むために、今までより念入りに防塵対策をしてきた冒険者であるが、目の前の砂嵐を見せ付けられたら、あまりにも心許ない。 「では、皆で固まって突破するとしよう」 「ちょっと待って下さい」 四凶饕餮・ガルガルガ(a24664)の指示を押し止めるように、破壊竜・バジリスク(a10588)が荷物の中から頑丈なロープを取り出す。 「念のため、皆さんでこれを……」 一寸先も見えないような砂嵐の中で、決してバラバラにならないために。バジリスクの用意したロープの感触をしっかりと確かめながら、彼等は改めて砂嵐の中に突入する。 まともに目を開けていられない砂礫の中、ガルガルガを先頭に彼等は砂塵の迷宮を突き進む。 そこが、何処か。自分が何処にいるのか。仲間が何処にいるか分からない不安感を抱えたまま、彼等は一歩一歩と前に進んでいく。 やがて、意識すらも砂礫の中に置き去りにする前に、彼等は突如として砂嵐を突破していた。
●大砂蟲 彼等の目の前に広がるのは、砂嵐の壁に囲まれた無風地帯。台風の目のような領域の中央に、問題の砂漠の巨塔は実在した。 黄金、とは少し材質が違うようだが、問題の塔は太陽の光を浴びて金色に輝いている。 如何にも財宝が眠っていそうな雰囲気ではあるが……とは言え、彼等には諸手を挙げて喜んでいる余裕はない。何故なら、そこはモンスターの狩り場に他ならないから。 「ククル、気配はどうです……?」 「それが、砂嵐に突入する前から危険を感じっぱなしなのよね♪」 先程から、敵襲に備えてガルガルガと一緒に仲間に鎧聖降臨を施しながら、白妙の鉄祈兵・フィアラル(a07621)は後方にいる仲間に尋ねる。問われた、奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)はというと、チキンレッグ特有の能力である臆病者の勘を働かせていたが、警報は彼女の中で延々と鳴りっぱなしだった。 そもそも、臆病者の勘は危険の度合いにかかわらず作用する。それに、グドンもモンスターも自然の驚異にも大差はなく、果ては借金取りにさえ反応する事もあるらしい。 そんな能力だから、当然敵の出現のタイミングまでは分かるはずもなく、ただそこが危険な場所である事を彼女に知らせるのみ。 最も、そこに潜むものは、呼ばれなくても向こうからやってきている。 エコーズ達が土塊の下僕を呼び出しながら警戒する目の前で、砂漠の砂が不自然に盛り上がり、徐々に高さを増しながら彼等の目の前に到達すると、そこから病的に白い色をした太く長い巨体が、砂地を突き破り姿を現していた。 「……何を食べたらこんなに大きくなるのかな」 見上げるほどの巨体に、星刻の牙狩人・セイナ(a01373)は思わず呆れたような声を漏らす。 真白きサンドワームの姿をしたモンスターは、砂地から上半身だけを突き出し、巨体からこぼれ落ちる砂を振り払うと、四方に展開する異形の口を開き、眼下にいる冒険者に向かって威嚇して見せた。 いや、それだけではない。 サンドワームは異形の口から凄まじい悪臭のするガスを吐き出してみせる。 吐き出された青緑色の不気味なガスは、彼等の前にいた土塊の下僕を押し流し、冒険者へと襲い掛かっていく。 「……っ、皆無事か!?」 ギーは慌ててモンスターの射程外に退避しながら、ウェポン・オーバーロードで強化した弓を手に、貫き通す矢を放っていた。 分厚い皮膚を貫く一撃に、サンドワームは身悶える。 「あんまり戦いたくない相手だけど……」 そうも言ってられないね、と。充満するガスを何とか耐え抜きながら、夢幻の殲姫・アリシア(a13284)は高らかな凱歌を奏でつつ、仲間に掛かった呪縛を解いていく。 だが、中には重い症状に陥っているものもいて、簡単には取り除く事が出来ない。 「これだけ大きいと当たりやすそうね」 その間、紅炎の想術士・シェル(a16437)は頭上に巨大な火球を生み出しながら、眼前のサンドワームの巨体に狙いを定めていた。 ミレナリィドールの力と同化し、虹色に輝くエンブレムノヴァがサンドワームの身体を灼く。 「レイニーさん、無事ですか?」 「けほけほ、あんまり大丈夫じゃないのじゃ!」 後方では、レイニーに君を守ると誓うを使用したレオンハルトが、彼女の無事を確認していた。元気の良い返事が返ってきたので、たぶん大丈夫だろう。 前方では、バジリスクがサンドワームに駆け寄りながら、キルドレッドブルーと同化した力で氷炎の一撃を叩き込んでいく。不意を突かれたのか、サンドワームはその一撃を避ける事も出来ず、炎が、氷が、サンドワームの巨体を覆い隠す。 「……やったか!?」 だが、サンドワームは一声吼えると、氷を打ち砕き、炎を振り払い、冒険者の目の前で砂の中へと逃げ込むのだった。
●狩る者、狩られる者 サンドワームが砂の中へと消えたのを見届けた冒険者は、それぞれの行動に移っていく。 「出でよ、土塊の下僕!」 エコーズの呼び掛けに応じて、一握りの土が小柄な人型へと変成される。砂漠では周囲に砂しかないので、おそらくは事前に採取した物だろう。 アリシアやシェルも同じように、それぞれの目の前に土塊の下僕を呼び出していた。 「大丈夫かのぅ」 不安そうな表情で、レイニーは周囲を警戒している。 レオンハルトの君を守ると誓うが彼女に加護を与えているため、同質の力であるホーリースマッシュの護りの天使は併用出来ないが、いずれにせよ、直接呑み込まれるような事があれば、どんな守りも役には立たないだろう。 「何処からでもかかってこい……!」 バジリスクは殲術の構えを発動し、足元の気配に注意しながら身構えている。 不意に、彼等の足元で動きがあった。 エコーズの足元で渦巻いた流砂は、咄嗟に飛び退いた彼の身代わりに、土塊の下僕を砂ごと呑み込みながら、サンドワームの姿となって地上へと飛び出していく。 サンドワームに丸呑みにされた土塊の下僕に、これが自分だったらと思うと、エコーズは思わず身震いしていた。 「今ですじゃ!」 いずれにせよ、サンドワームが砂地から顔を出した今がチャンスである。 後方で様子を見守っていたミトの呼び掛けに応じるように、フィアラルがサンドワームに駆け寄り、聖なる一撃を叩き込んでいく。 だが、サンドワームの分厚い皮膚は、重たい衝撃を柔軟に受け止めていた。 「なかなか厳しいものであるな……」 ギーは後方から貫き通す矢を撃ち込み、それに、セイナが追随する形で鮫牙の矢を解き放っていく。 「鮫牙よ、食い破れ!」 ギザギザの逆トゲが生えた矢が皮膚に食い込み、身体を突き破る凄まじい激痛に、サンドワームは傷口から体液を撒き散らしながら一声吼える。 「……焼き払え!」 そこに、アリシアのエンブレムノヴァが撃ち込まれていた。 虹色に輝く巨大な火球が、サンドワームの巨体を容赦なく打ち据える。 更に、シェルの放ったエンブレムノヴァが、サンドワームに追い打ちを掛けていた。 エコーズの放った緑の業火がサンドワームに突き刺さり、燃え盛る炎が全身を呑み込んでいく。しかし、サンドワームは上半身を振り回して炎を掻き消すと、手近なビクトリーに体当たりを仕掛ける。 「……っ!」 サンドワームの巨体を活かした猛烈な体当たりを、ビクトリーは鎧聖降臨の助けを借りて受け止めていた。 それでも、受け止めきれない衝撃が、彼女の身体を軋ませる。 ビクトリーは、尚も気力を振り絞ると、そのままの姿勢から達人の一撃を放っていた。 ウェポン・オーバーロードに裏打ちされ、極限まで研ぎ澄まされた竜牙剣の切っ先が、サンドワームの頭部を貫いていく。 その一撃に、思わず後退していくサンドワームに、後方から次々と攻撃が降り注いでいた。 だが、サンドワームは冒険者の追撃を振り切ると、再度砂の中へと潜っていく。 「……っ、またか!?」 ガルガルガが目の前で消えていく巨体を見ながら、思わず舌打ちしていた。 周辺を警戒しながら、身構える冒険者。 不意に、アリシアの足元が陥没し、彼女の身体が呑み込まれていく。 「ちょっ……!?」 アリシアの本気の悲鳴が、入れ代わりに姿を現したサンドワームの巨体に掻き消された。 抵抗する暇もなく、環状生物に丸呑みにされたアリシアを目にした冒険者は、咄嗟に彼我との距離を取りながら迎撃し、あるいは、駆け寄り包囲しながら刃を突き立てる。 だが、冒険者の度重なる攻撃にもサンドワームは倒れることなく、再度、その巨体は砂の中へと消えていった。
●塔に至るモノ 悠然とそびえ立つ砂漠の巨塔に見守られながら、冒険者の死闘は繰り広げられる。 仲間が呑み込まれた事で、彼等の脳裏に退却の二文字は無くなっていた。 あるのは、勝利による生還か、全滅のみ。 「……私は、退かぬ!」 砂地に仁王立ちになりながら、フィアラルは周囲を警戒する。 だが、気付いた時、今度はククルがサンドワームの体内に呑み込まれていた。 「……わ、私は美味しくなんかないわよ♪」 言いながら、彼女は漆黒の闇の中へと落ちていく。 一人一人、確実に戦力を減らされながら、これまでのものとは比べ物にならない苦戦を強いられながら、それでも冒険者は恐るべきモンスターを迎え撃つ。 「穿ち貫け!!」 セイナが、遠方から貫き通す矢を放ち、モンスターを撃ち抜いていた。 激昂したサンドワームは、辺り構わず体内から悪臭のするガスを撒き散らしていく。 「年寄りには堪えますな……」 周囲に充満するガスに耐えながら、ミトは高らかな凱歌を奏でつつ、仲間の治療に専念していた。 だが、黒炎覚醒の助けがあっても、一人の力だけでは足りない。 不足分を補うように、エコーズがヒーリングウェーブを放ち、仲間を癒していく。 「紅蓮の焔よ、我にあだなすモノを滅せよ!」 シェルが頭上に生み出した巨大な火球を解き放ち、サンドワームの巨体に叩き付ける。 渾身の力を込めた一撃は、サンドワームに深い傷を与えていた。 「食らえ!」 サンドワームの上体が崩れた所に、ビクトリーが研ぎ澄まされた斬撃を放っていた。繰り出された達人の一撃は、サンドワームの体力ばかりでなく、戦意までをも根こそぎ奪い取る。 だが、反撃の機会を失したサンドワームは、再度砂地に潜り込み、冒険者の前から姿を消していた。 「『明鏡止水』」 シェル達が囮の土塊の下僕を作り出す中、バジリスクは殲術の構えを発動し、足元の気配に集中する。 周囲にある雑音を取り払い、砂の中から聞こえる僅かな音だけに耳を澄ます。 そして――。 「バジリスク! 下だ!」 ガルガルガの警告と同時に、バジリスクの足元が崩れ落ちていた。だが、彼は流れるままに身を任せ、足元に巨大剣の切っ先を突き出していく。 飛び出す勢いのまま、サンドワームはその身を裂かれ、砂上へと倒れ込んでいた。 のたうち回るモンスターに、冒険者の最後の反撃が開始される。 後方から放たれたギーとセイナの援護射撃が、サンドワームの分厚い皮膚を貫いていく。シェルとエコーズの撃ち出す炎が、サンドワームの巨体を焼き尽くす。 ビクトリーの斬撃が、モンスターの身体に深い傷を与えていく。 それでも、サンドワームは最後の力を振り絞り、反撃に転じていた。砂上を突き進む巨体が、ビクトリーの身体を跳ね飛ばす。 しかし、それと入れ替わるように、フィアラルがホーリースマッシュを放ち、サンドワームの巨体を打ち据える。 そこに、バジリスクが駆け寄りながら、破壊の一撃を繰り出していた。 「仲間を返してもらうぞ!」 デストロイブレードはサンドワームの頭部に叩き付けられ、強烈な一撃となって打ち砕いていく。 それでも、サンドワームは暫くの間のたうち回っていたが、やがて力を失うと、その巨大な骸を砂上に晒していた。
いつの間にか、彼等の周囲で渦巻いていた砂嵐は、影も形もなくなっている。 サンドワームの体内から呑み込まれた二人を助け出し、冒険者は砂漠の巨塔の前へと辿り着いていた。 「ようやく、ここまで来たか……」 感慨深げに呟くギー。とは言え、今は怪我した二人の治療が先である。 果たして、財宝が眠るという伝説は本当なのだろうか。期待に胸をふくらませながら、彼等は灼熱の砂漠に降り注ぐ日差しの中、帰路へと就くのだった。

|
|
参加者:12人
作成日:2006/07/18
得票数:冒険活劇1
戦闘13
ほのぼの1
|
冒険結果:成功!
重傷者:殲姫・アリシア(a13284)
奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
|
|