イャトの誕生日?〜無想の浜、焔葬り〜



<オープニング>


 ――壊れた音色は、誰かの慟哭に掻き消えた。

 ひとつ、ふたつ、みっつ。掌から零れ落ちて行く、破片。
 歌う事を辞め、役目を終えたそれに愛着がない訳ではなかったが……さほど依存もしていない。
 元々手慰みの一つに過ぎないそれ。ただ、相棒として最期まで見葬(おく)ろう。

 ――彼女の亡骸と共に焼き、燃え盛る炎を三日三晩眺めていた。

 ――あの場所。

 ――あれはいつの事だったか。

 今思い出さないなら、これから先もないだろう。
 もっとも、そんな事を考える時点で思い出してはいるのだ。
 あの頃と同じで何の感慨も、湧き起こりはしなかったが。

●無想の浜、焔葬(ほむらおく)り
 どしーん。
 酒場を出ようとした矢先、黯き虎魄の霊査士・イャトは小柄な人影と出会い頭にぶつかった。
 実の所、咄嗟の反応はかなり鈍い男である。そんな所は、誰かさんにとてもよく似ている。
「わぷっ、ごめんなさ……って、何だ、兄ィじゃないの」
「……………」
 退け、と言わんばかりの半眼でイャトが無言のまま見下ろす先には、赤面した烈斗酔脚・ヤン(a90106)の気難しげな顔。怒っているのか照れているのか、今ひとつ解り難いその表情をただただ見つめているイャトに、彼女は視線を合わせようとはしない。
 ……と、言う事は照れているのだろうが、イャトにはどうでも良かった。
「あー、あの、ね……兄ィ、その、今年は――」
 もごもごと、要領を得ない言葉の継ぎ足し。首を傾げる代わりに目を細めて、イャトは口を開く。
「ん。無想の浜へ、送り火を焚きに行く。ヤンも一緒に来るかね?」
「――へ?」
「そろそろこいつが寿命でな。ついでだ。供養して欲しい品があるなら持って来れば良い」
 きょとんとしているヤンを押し退け、イャトは古いハーモニカを懐にしまいながら酒場を後にした。
 ぱたむ。
 扉の閉まる音。
 ややあって。
「うわあぁああ有り得ない、有り得ないわ、イャト兄がプライベートに人を誘うなんてっ」
「そりゃ、さっき俺が通った道だ……」
 戦々恐々と身を捩りながら青ざめるヤンにツッコむ赤戌、十拍戯剣・グラツィエル(a90144)。
 こちらはやけに遠い目をしている。どうやら、彼もひと声掛けられたらしい。
「壊れた楽器は他にも幾つかあるらしい、まとめて持って行くンだと。どうせなら賑やかな方が良いとも言ってたっけな……なんつゥか。つむじの辺りが薄ら気持ち悪ィ感じだ。――とは言え、長年連れ添った道具に別れを告げる儀式っての、俺は嫌いじゃねェけどな」
「でも、わざわざ誕生日にする事かしら?」
「誕生日だから、だろ。多分」
 何かの節目だからこそ、つけておきたいケジメもあるのだろう。
 ヤンはグラツィエルの言う事の半分も理解出来ない表情で、だが泥酔するほど呑みはしなかった。
 要するに、表面は海辺のキャンプファイアーみたいなものだ。
 火を囲み、愛用の品や形見の品に別れを告げ、最後はその灰を海に撒いて供養とする。
「んー……じゃあ、持ってく物は楽器じゃなくても良いのよね。先立った誰かに、届けたい物でも」
 彼女がぽつりと口にした言葉を聞いて、グラツィエルは瞳をぱちくり瞬いた。
 ああ、そういうのも良いな、と笑みを浮かべ――
「……つゥ訳なんだが。てめぇらはどうするよ?」
 と、酒場に集った冒険者達の面々を見回すのだった。

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参加者
NPC:黯き虎魄の霊査士・イャト(a90119)



<リプレイ>

●おくる想いと音色の欠片
 火中に投げた花束は、あの人がいつか好きだと言っていた無垢な黄色の月見草。
(「この花は、本当は待宵草というそうです」)
 本物の月見草はただただ白く、朝までに淡いピンクからピンクに色を変える。花咲き始める刻も同じ、どちらも一夜限りの花。儚くて。白く、優しい姿はその人に通じるものがあるだろうか。
 忘れられない別れ。消えない痛みに微かに疼く胸元を押さえ、ストラタムは小さな声で、誰かの名前を呟いた。
「いつか必ず迎えに行きます」 ――と。

 紅はただ鮮やかに
 咲くが如く音無く揺らいで――

 ユフィアの静かな歌声が、夏の夜空に消えて行く。
 既に欠片も遺さず燃え尽きたブレスレットは、養父の誕生日に、渡せなかった贈り物。蒼いビーズは古ぼけて艶を失ってはいたが、尽きぬ想いは色褪せず、ここに至ってなお鮮やかに胸と瞳の奥に焼き付いて離れない。繰り返し流した涙の記憶と共に。
 何一つ届ける事が出来ず、受けた総てに報いる事も出来なかったあの日、ユフィアの目の前で。
(「貴方を焼いた様に鮮やかに在るこの焔ならば、貴方に届ける事が出来ますか――」)
 飛翔する火の粉を追う様に、空を微かに仰いでユフィアは目を閉じた。

 供連れの、音の一つはニューラが爪弾くプサルテリウム(弦楽器)。
 『白烏琴』と名の付いたそれに白い鳥羽の爪を当てて、込める想いの断片は――
 恋人が遺した未完の曲に、彼女の声無き声たる音を繋いで奏送。
 その曲を耳にしながら、ぱらぱらと熱に煽られる日記帳をぼんやりと眺めていたソエルは、そこに頁をめくる誰かの姿が見えた気がして思わず眼をこすった。錯覚だ。一瞬後、一気に燃え上がるそれをまじまじと見つめて苦笑い。炎に託した報告と共に、贈る言葉は今は亡き団長へ。
「色々、有り難う。僕の方は悩むことはあっても、幸せな悩みばかりだよ」
 失う事に怯えたり、誰かと喧嘩して悲しいのは、大事だと思える相手がいるからこそだと思うから。

「キル様、無理言ってごめんなさいなぁん」
「いいって。気にするなよ」
 初めはどこか強張っていたメロディも、キルが傍にいてくれるおかげで今は気が楽だった。今日まで多くの涙を笑顔に変えてくれた古い人形が、灰燼と化して行くのを2人で見届ける。幼い自分と一緒に浜辺で拾われてから、ずっと肌身離さず持っていた。だが、もし記憶が戻っても戻らなくても、今と何かが変わるとは思えなくて。だから、――
「今まで、ありがとう……僕も君のように、たくさんの涙を止められる人になってみせますなぁん」
 感謝の言葉と共に、見送る笑顔。それを見てキルもまた、安堵の笑みを浮かべた。
「キル様も何か燃やすのかなぁん?」
 メロディの問いには「いーや」と笑顔で頭を振り、空に舞い散る火の粉を眺める。
 いつかはオレにもそういうモンが出来ちまうのかな、と、少しだけそんな事を思った。
「綺麗だなー」
 呟くキルに釣られて、メロディも焔の先を見上げる。
 深い紫、濃紺のグラデーション。鏤められた赤い塵は、夜空に還る星屑の瞬きにも似て。

 その最中、確かめる様に奏でられていた哀調のメロディーが、ふつ、と途切れた。
 自分のせいかと一寸訝りながら、砂利を踏みつけた足を軽く浮かせてナオは、黯き虎魄の霊査士・イャト(a90119)の背を窺い見る。視線だけで振り返る彼に、愛想を振りまき「尻尾を狙った訳じゃない」と告げると、「そうそう不意を衝かれてやる気もないが」と淡白な反応。
 足りない音が多すぎて使い物にならないのだと、彼は古いハーモニカを見つめて言った。
 年月を経て僅かに歪んだ木製のボディ。音を出す為に必要なリードも、ダメになっている。
「……で?」
 お前は何だ、と言わんばかりの冷瞥にナオは笑みを揺らした。
「私は……、今日はこの子のお守でね」
 ぽん、と背中を押されたヒトノソリンの少年、エコナが慌ててお辞儀。その手が握りしめている手鏡は、数メートル離れた場所で炎に還ったメロディの人形と同様、彼にとっては失われた記憶を取り戻す手がかりになるかもしれない物だった。しかし、寄りかかるには不確かで、振り返るばかりでは前に進めない。
「一足先に、海にお帰りしてもらうのですなぁ〜ん……」
「ん。こっちの怖ーいお兄さんの眼は気にせず、送ると良い」
 ナオの台詞にますます温度を下げる霊査士の視線を気にしながらも頷くエコナ。最期の一曲を歌い終えたイャトのハーモニカも運命を共にした。
「……おかしな方ですね。お誕生日に、大事な物を見送るなんて」
 笑みを含んでヨルが言う。イャトはそちらを一瞥し、「少し、違う」と呟いた。
「愛用していた『壊れた物』を、だ」
「ああ……えっと――」
 小首を傾げ、一瞬言葉を見失いかけた彼女の困惑を察してか、片手を挙げて、
「気にするな。誰かが余計な事を言ったらしい。俺が、言葉足らずだった」
 始めにイャトは『供養したい品』としか言わなかった。その時、すぐには何も思い浮かばなかった誰かが苦し紛れに何かを言い、それを聞いた誰かが更に勝手な解釈をしたのだ。
 かくして、イャト自身が思うものとは少々趣の異なる集いになっているらしい。
「……不満そうだな」
「え。そ……そうかな?」
 目が合うなりイャトに言われてジェイは思わず顔に触れ、曖昧な言葉を返す。
 思い過ごしかね――? 全てその眼に見透かされている様な気がして、誤魔化し笑い。
(「だって、そりゃそうだろ。せっかくの誕生日なのに、真っ直ぐ祝えないのは――」)
 何か嫌だ。彼の区切りらしき日に、本人から誘われた事で帳消しのつもりでいたが、微妙な心境は(あまりありがたくない事に)正直に顔に表れていたらしい。弄んでいた枝を炎の中に放り込むジェイのその行動は八つ当たりにも見えたが、彼とて届けたい想いはあるのだ。
「あの」
 声上げたヨルに、イャトは視線を戻した。
「……使える物なら使ってやるのが良いと思うが、壊れた物でなければならんという野暮もない。焔葬りは道具をただ捨てるのではなく、労をねぎらい、その働きに感謝するための祭事だ」
 詳しくは訊かんが、それもその手の道具なのだろう?
 ヨルは、我知らず痛む胸に、布に包んだそれを抱き締め「はい」と頷いた。
 つい先だってその任を解かれた『剣』――破軍の剣アンサラーにおいて、護衛士証を受け取ったばかりの頃に使っていた相棒。思い出される最前線での日々と、共に戦った仲間の笑顔。絆。
「その名が消え、あの頃の武器(おもいで)が灰になっても、誇りは消えません」
 だから今は、笑顔でさよならです。言いながらヨルは布に火を移し、楽器の山にそれを埋めた。
 例え最初は小さな灯りでも、それを頼りに集う光が束になり、暗夜を照らす一条の標となる様に。目の前で燃え上がる炎は天高く、闇を裂く光明さながらに。
(「――それぞれの道に光あれ。そして、また会いましょう」)
「忘れません。ずっと」
「――」
 イャトが眼を細める微かな笑みを、笑みと知る程、ヨルはこの霊査士の事を知らない。
 そも初対面である。唐突に思い出して、ヨルは相好を崩した。
「お誕生日、おめでとうございます」
「………」
 興味なさげに聞き流したイャトは、悔しい顔で何事か訴えるジェイにも背を向けてしまう。

●揺るぎない信条
 全てが死に絶えた村から一人逃げ延びた彼女には形見と呼べる物はなく、その時着ていた服だけが唯一、自分を証明出来る物。
「見つけてくれる両親は居ないのに、ね」
 瞬く間に子供服を飲み込んで揺れる炎に両親の面影を重ねる。ルシエラの心の中は穏やかに和いでいた。――より大きな驚きと、喜びがあるせいだろうか。
 イャトさんが。
 人の集まる所が嫌いで、去年の今頃はこっそり姿を消したりもしたあのイャトさんが。
 こんな風に皆を誘うなんて。
「……?」
「♪」
 今にも飛びついて来そうなルシエラの、色んな感情が混ざって輝く瞳と困った眉、堪えきれずに口元に滲む苦笑に気付いたイャトは、咄嗟にかける言葉を探せない。
 ――悪い物でも食べたのか?
 不審げに眉を顰めるイャトの心の声が聞こえる様で、ルシエラはくすぐったげに微笑を吐き出す。
「困ったルシエラだね。でも、大丈夫だよー」
 鎮める様に吸い込む空気はほんのり磯の香りがした。

 かつて救えなかった者の記憶を呼び覚ます赤を瞳に映し、ティトレットは強く握り締めていた手を解いた。ミュントス略奪部隊の犠牲になった子の血を浴び、自らも血を流し、それらを吸って変色したあの時の布が、炎の中に翻る。
「未熟、でした……」
 共に往こうと取っておいた戒め、だが、この機に返そうとやって来た。
 名前も顔も知らない両親に今の自分を伝える事も考えたが、そちらの方は良い方法が思い浮かばない。グラツィエルが気負わぬ様子で放ったサングラスが火の中で硬質な音を立て、散らす火花を見るともなしに眺めながら、そっと祈るのが精一杯。
(「……一緒に届くと良いな」)
 ふと、視界に動くものを見つけてそちらを見下ろしたティトレットは、ぎょっとして思わず半歩、身を引いた。すぐ傍でイャトが、真面目な顔で魚の串を火の回りに並べて刺している。
「ぇあ、あの……?」
「夜は長いぞ。前に葬った時は、三日三晩かかったからな」
 飄々と、イャト。よく見れば、その向こうではヤンがトウモロコシとパンの実を火の傍に転がしていた。頬を掻きながら、ヤン曰く――「胸がつまって皆、それ所じゃなさそうだったから……」
 どうやら、近くの漁村で分けて貰って来たらしい。

「誰かに看取られて逝く道具達は、幸せだね」
 炎を見つめるリオンの瞳は羨望に細められ、言葉にはどこか空虚な闇が潜む。
 この身が焔に焼け落ちても、後に残るのはきっと塵だけだ。足元にある魚の串より更に奥、リオンは火の縁ぎりぎりに躊躇なくつま先を進める。ぐい、と強い力で引き戻され、振り返る。と、そこには彼女の眼を真っ直ぐ見つめるイャトの暗い瞳が在った。
「焦げるぞ」
 驚くでも、憤るでもなく、気遣いなどとは程遠い。短い言葉で、何でもない事の様に言った彼はすぐ火の傍にしゃがみ、唖然と立ち尽くすリオンにニューラが「そういう人ですから」と耳打ち。
 一部始終を見ていたニューラは、リオンの行動に己の姿を重ね見ていた。切なる願いは胸を過ぎれども、その一線を越えられない。一人でいれば思い詰めてしまうから、生まれた事を祝うその日にこの身を繋ぎ止めようとして――半ば押し付けの贈り物を、イャトは少なくとも拒絶しなかった。何を訊くでもなく、いつもと変わらぬ佇まいでそこに在る彼は、やはり勘付いているだろうか。
 ニューラの葛藤を知る由もなく、リオンは強く掴まれた腕をさすりながら再度炎と向き合っている。
「私には何もないよ。送るものも、……多分、送ってくれる人も」
 愛されて逝く道具達を羨むと同時に、それは自らの遠い願望でもある。
「……関わった者達は、その縁を忘れんよ。たった一夜、一度きりでも」
 肌に纏わりつく潮風が運ぶ呟き。それが彼の信条なのか。
 リオンとニューラが寄せる視線を意に介さず、魚を見ていたイャトは「焼けた」と2人分の魚の串を手に取った。と、そこに聞こえて来たのは泥を啜る様な嗚咽。
「な゛ぁ〜ん…なぁ゛〜〜ん」
 ネネゥの両手はしっかり肩を抱き、時折膝頭を掴む。自分で自分を抑えていないと、食器を拾いに火の中へ飛び込んでしまいそうだった。悩んだ末にようやく手放した養祖父の形見。木製のスープ皿とスプーンが、燃える。燃えて、無くなってしまう。思い出のきのこシチューぅ、う゛うっう。
 涙が溢れる寸前、ぽふんと頭に手を置かれ、驚いて見上げると湯気の立つ焼魚が居た。
「きのこシチューの用意は出来んが、魚が焼けた」
「な、なぁ〜ん」
 口内にほどける魚の肉は、天然の塩味に涙が混ざって少々しょっぱかったが、お腹を満たすと気持ちも落ち着き、ネネゥは隣に腰を下ろしたイャトに思い切って訊ねてみた。
「……あの、イャトさんのハーモニカ……」
「………」
 睨まれた、と思ったネネゥは頭を抱えて縮こまる。
「……。別に。壊れただけだ。直す技術は俺にはないからな」
「そっ、そんな簡単に送れちゃうものなぁ〜ん……?」
「俺は楽器を集めているが、直せない。こまめな手入れも限界がある。歌わない楽器は、持っていても仕方ない。邪魔だ」
 淡々と吐き捨てられる言葉に、ネネゥは少し後悔した。自分が期待する様な由来など無いのかもしれない。「イャトはまた、一言多いぜー?」とジェイが横から飛ばす軽口も右から左。暫し立ち直れず、「だが」と続いたイャトの言葉の本懐を危うく聞き零す所だった。
「俺の所に流れて来たからには、そういう縁だ。俺以外の誰が、供養してやれる?」

●焔葬り
 ――自分はまた、送り損ねたらしい。
 その場に胡坐をかいたナオは、脱力感から吐息した。焔葬りも二日目を数え、うつらうつらと舟を漕ぐ周囲の目を盗んで炎に近付いたまでは良い。だがそこで、見回り中のイャトと鉢合わせた。
「今からでは、燃え残る」
 言われて見れば、衰えを見せ始めている火勢。
 ――また、還って来るのか。そう考えると自分のやっている事がひどく不毛に思えて。
「何やってんだろうかね、私は」
「無為だ」
「……無為?」
 聞き返しても、返事はない。ぐるりと炎の反対側へ歩いて行くイャトの背を見送り、伏せる様に落としたナオの視界に揺れる、指輪の銀鎖。

 断崖から海へ。
 季節外れの粉雪が降ったのは、彼らが焔葬りに訪れ三日目の正午を過ぎた頃の事だった。

 一掴みごと――込める感謝と葬送の念は波に浚われて。
 高い陽射しに煌きながら舞い散る灰は、誰も知らない往く先へ。
 スゥ――と、深く息を吸う音に、数名がそちらを見遣る。そして――
「――あの時の貴女と同じ歳になりました。俺は相変わらずの俗輩です」
 一瞬誰もが耳目を疑う、イャトの声にはいつもの気だるさがない。
 今年でなければ意味がなかった。そしてもう二度と、自分が焔葬りに訪れる事はないだろうと仄めかす。彼女の歩みは28の歳に止まり、この先に、彼女の影は存在し得ないのだから。
 冒険者として在る限り、いつでも、いつまでもそこに在るとは限らない日常。
 志半ばで斃れる命は少なくない。まだ熱を持つ灰を、後悔と共に風に投げたジェイは、だからこそ自分の事だけでなく大切にしたい時間があるのだと、それを彼にも伝えたくて。
「イャト! 来年からの誕生日はちゃんと祝わせ……ぶっ、ぺぺっ!」
 逆風に煽られた灰をまともに食らい、最後まで言えなかったがちゃんと伝わったらしい。
 好きにしろ、と聞こえた気がした。
 
 先立つものがその全てではなく、想いの器に注ぐもの。
 この先も、しかと見届けよう。彼がその意思を口にする事は稀であったとしても。


マスター:宇世真 紹介ページ
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星影・ルシエラ(a03407)  2009年12月19日 17時  通報
無想の浜へのイャトさんからのお誘い。
幕の向こうでは、何かが見えるけど、
ルシからは見えないし、
何が一番気になるって、誘うイャトさんだものー。
それが嬉しくってしょうがないのが気持ちをほとんどしめるものだからー
海がらみ何かありそうだけど聞かなかった。
壊れたって自覚してる対象は無いルシの幸せ。送るのは、無い宛への大丈夫ー。
最後に零れた呟きへは、海じゃなくちゃ聞けるものでなくて
話してくれるのを待つもんだもん