【砂漠の巨塔】スリースターズ



<オープニング>


●三連星
「砂漠の巨塔が実在したという事は、そこに眠ると言われている財宝も実在するかも知れません」
 冒険者の酒場に集まった面々を見渡しながら、エルフの霊査士・ラクウェルは砂漠の巨塔に関する霊査結果を報告していた。
「ですが、サンドワームの肉片などから霊査出来たのは、塔に潜むモンスターの存在。塔の入り口付近に、三色の宝珠のような物が見えました」
 ですが、宝物だと思って近付いてはいけません、とラクウェルは付け加える。それは、見た目こそ普通の宝珠のようだが、実はモンスターの一部だという。
「赤、青、緑。三色の球体は見た目こそ宝珠のようですが、その正体は、透明な粘液に包まれた1体のモンスターです。おそらく、宝物だと思って近付いた人間を捕食する性質があるのでしょう」
 厄介な性質だが、霊査で正体がばれれば元も子もない。
 とは言え、楽観出来る相手でもないだろう。
「モンスターは、三色の球体から別々の効果のある光線を放射するようです。射程も長いため、逃げ場はないでしょう」
 いずれにせよ、戦って排除するしか道はない。
「ようやくここまで来たのです。最後まで、気を抜かないで下さい。
 皆様に希望のグリモアの加護があらん事を……」
 そう言って、ラクウェルは危険に挑む冒険者を静かに送り出すのだった。

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参加者
求道者・ギー(a00041)
星刻の牙狩人・セイナ(a01373)
白妙の鉄祈兵・フィアラル(a07621)
竜戦士・バジリスク(a10588)
勝利の戦乙女・ビクトリー(a12688)
角殴・ヒリュウ(a12786)
殲姫・アリシア(a13284)
紅炎の想術士・シェル(a16437)
真実の探求者・エコーズ(a18675)
奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)
ちりめん問屋の隠居ジジィ・ミト(a29811)
嵐を呼ぶ蒼き雨・レイニー(a35909)


<リプレイ>

●扉の奥に待つモノ
 砂漠の巨塔の入り口を守る巨大な扉は、異様な重量感を以て冒険者を睥睨していた。
 果たして、この先に噂の財宝は眠っているのか……それとも、彼等の今までの努力が徒労に終わるのか……それは、蓋を開けてみないと分からない。
「数多の守護者を抱えている所を見ると、あながち噂も信憑性を帯びてくる物であろうかね?」
 これまでに出会ってきた多くのモンスターが、求道者・ギー(a00041)の頭の中を過ぎる。
 彼等の存在があったからこそ、幻は幻のままに終わっていたのだろう。
 もしかしたら、そのままにしておくのが賢明だったかも知れない。だが、いざ手が届く距離まで来ると、真実を確認せずにはいられない……冒険者の本能が、彼を、彼等をここに呼び込んでいた。
「砂漠に聳える塔ですか、いやいや、なかなかに興味深い物ですね」
 鬼を狩る黒狐・ヒリュウ(a12786)は、初めて目の当たりにする塔を興味深げに見上げている。
「塔……なんかこう……本当に見付かると、ロマンを感じる……」
 夢幻の殲姫・アリシア(a13284)に至っては、ガラにもなくポツリと呟いていた。
 いずれにせよ、ここまで来たなら確かめるしかない。
「先人の英知こそ、俺にとっては最高の宝となるが……」
 果たして、魔術師・エコーズ(a18675)の望む物は手にはいるのだろうか?
 思案する間に、白妙の鉄祈兵・フィアラル(a07621)の鎧聖降臨が仲間へと行き渡り、彼等は事前準備を終える。
「……いざ」
「さて、今回も楽しませてもらおうかな……」
 それを受けて、不敵な笑みを浮かべながら、破壊竜・バジリスク(a10588)は重い扉を押し開けていく。
 彼にとっての生き甲斐は、戦場に立ち続ける事。
 即ち、彼の望みを叶える物は、既に目の前に待ち受けていた。
「……光よ」
 塔の内部は、灼熱の砂漠が嘘のように、ひんやりとした空気で満たされている。
 昏き理・ルニア(a18122)の灯したホーリーライトの明かりの中に浮かび上がるのは、塔の壁面に沿うように二重螺旋の長い長い階段が遥か高みの闇の中へと続いている光景。そして、中央の台座に無造作に転がされている、三色の宝珠の存在であった。
 一見、宝物にも見えなくはないが、目を凝らせば極めて透明に近い粘膜が三色の宝珠を覆っているのが見て取れる。殆ど大気と変わらぬ屈折率を持つそれは、既に霊査情報を得ている冒険者には何の役にも立たない。
「蒼雨、出番じゃ」
 嵐を呼ぶ蒼き雨・レイニー(a35909)が天に掲げた手の先に、ウェポン・オーバーロードで呼び出された瀑布を象った巨大剣が姿を現す。
 先程まで我が儘ばかり言っていたような気がするが、戦闘となると別らしい。
「猛り吼えろ、ヘルハザード!!」
 同様に、バジリスク達もウェポン・オーバーロードを発動していたが、それらはモンスターに冒険者の存在を知らしめる事となった。
「……気付かれた!?」
 今まで宝石の振りをしていたのが嘘のように、三色の宝珠が滑らかに動き始める。
 星刻の牙狩人・セイナ(a01373)は咄嗟に貫き通す矢を放とうとするが、それよりもモンスターが最初の一撃を放つのが早かった。
 赤色の宝珠が淡い光を放ち、それが冒険者のいる方に向かって集束すると、一条の光線となって撃ち出される。狙われたのは、ホーリーライトの光を掲げたルニア。
「……な?」
「ルニア!」
 赤色の光線が容赦なく彼の身を貫く寸前、身体ごとぶつかる勢いで前に出たフィアラルがギリギリで一撃を受け止めていた。頑丈な盾の上から叩き付けられた光の渦は、しかし、一瞬の拮抗の後に鎧聖降臨の加護に遮られ、弾かれ消える。
 遅れて放たれたセイナの貫き通す矢は、赤色の宝珠を狙っていたが、一撃はそれをかすめるのみ。
 透明な粘液の中で踊る三色の宝珠を貫く事は出来なかった。

●ダンシング・スリースターズ
 モンスターとの戦闘が始まると同時に、冒険者は硬い床を蹴りながら駆け出していく。
 だが、彼等が到達するよりも、モンスターの次の攻撃が早い。
 青色の宝珠に光が集束し次の瞬間に撃ち出された青色の光線は、奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)に命中する寸前、方向を変えてヒリュウの背中を貫いていた。
「……っ」
 予想外の方向からの攻撃に、避ける事も出来ずヒリュウは顔をしかめる。
 後方から、ルニアの放った癒しの聖女が彼の体力を回復させ、ちりめん問屋の隠居ジジィ・ミト(a29811)の奏でる高らかな凱歌が傷を塞いでいく。
「ほっほっほ、回復は任せて下され」
 黒炎覚醒の力で増幅されたミトの回復力は、もはや、他の仲間に引けを取らないだろう。
「打ち砕け!」
 それを横目に、右側面から回り込んだバジリスクが、破壊の一撃を繰り出していた。
 狙うは、赤色の宝珠。
 渾身の力を込めて放たれたそれは、ウェポン・オーバーロードの力も借りて透明な粘液による分厚い防護を突き破り、赤色の宝珠を穿っていく。
 瞬間、赤色の宝珠が明滅するのを確認した彼等は、攻撃が確かに効いている事を理解していた。
 ならば、話は早い。
「集中攻撃しろ!」
 言いながら、ギーはウェポン・オーバーロードで強化された得物を手に、達人の一撃を放っていく。見事な太刀筋で繰り出されたそれは、赤色の宝珠を打ち貫き、更にモンスターを萎縮させる。
 遅れて、紅炎の想術士・シェル(a16437)の放った緑の業火は、ミレナリィドールの力と同化し、虹色の輝きを放ちながら突き刺さっていた。
「やったかしら……?」
 会心の笑みを浮かべるシェルだが、炎は分厚い粘液に押し戻され、赤色の宝珠には届かない。
 ただ、未知の物質の燃える匂いだけが、彼等の鼻を衝いていた。
「統べて、奈落の底へ堕ちよ!」
 エコーズが展開したアビスフィールドが、周囲の景色を不吉な色に塗り替えていく。
「捕らえ、緑の戒めとなれ」
 それを受けて、夢幻の殲姫・アリシア(a13284)の放った緑の束縛が、モンスターに襲い掛かるが……モンスターを拘束する事は出来ない。
 そこに、螺旋の騎士・ビクトリー(a12688)の放った達人の一撃が襲い掛かる。
「行きます!」
 ウェポン・オーバーロードに裏打ちされた刃は、粘液を突き破り、赤色の宝珠を貫いていく。
「コケッと一発、発射♪」
 だが、モンスターが再度戦意を喪失したところで、黒炎覚醒を起動しククルの放った漆黒の炎が、モンスターを正気に戻していた。
 今度は緑色の宝珠が発光し、緑色の光線を撃ち出していく。
 こればっかりは、盾や鎧で防ぐ事は出来ない。
 放たれた緑色の光線は、後方で狙われないように絶えず動いていたシェルの身体を容赦なく撃ち抜いていた。
「こんな所で無様に寝てられないのよッ!!」
 硬く冷たい床に倒れ込む寸前、彼女は気力を振り絞り、その場に踏み止まる。肉体を凌駕する魂の力が、彼女を戦場と押し戻していく。
 後方の仲間が使用する癒しの力が、それを更に後押ししていた。
「ピンポイントで蹴り抜く!」
 前方では、ヒリュウが先程のお返しとばかりに赤色の宝珠を狙い、斬鉄蹴を繰り出している。
 強烈な蹴りの一撃は、しかし、分厚い粘液の膜に受け止められていた。
 力を逃がされるような不思議な感触を振り払い、ヒリュウはモンスターとの距離を取る。
 そこに、一足遅れてフィアラルが駆け付けていた。
「……破っ!」
 聖なる一撃がモンスターの身体を打ち据え、その時に発生した淡い光の粒子が集束して護りの天使の姿となる。
「妾を謀ろうとは甘いのじゃ!」
 同様に、マッスルチャージを使用して筋力を確保していたレイニーも、破壊の一撃を繰り出してモンスターの身体に叩き込んでいた。
 後方からは、緑の業火が降り注いでいく。
「声は遠くに……想いは遙かに、我が剣を業火とす!!」
 シェルが言い放つと同時に、撃ち出された虹色に輝く緑の業火は、透明な粘液を突き破ると、モンスターの体内で不規則に蠢く赤色の宝珠を撃ち抜いていた。

●白い光芒
 次々と繰り返される冒険者の攻撃に、赤色の宝珠は確実に傷付いていたが、その力はまだまだ健在である。
 モンスターの体内で踊り狂う三色の宝珠は、先程までとは変わり、一斉に発光すると赤から青、青から緑、緑から赤と光を放っていく。
「……来るか!?」
「コッケー♪ 逃げるが勝ちよー♪」
 咄嗟に身構えるギーと、慌てて逃げ出すククル。だが、敵の行動を見てから、20メートルもの距離を逃げ切るのは、例えチキンレッグの足を以てしても絶対に不可能である。
 三色の光の生み出す三角形が、一瞬にして白へと染まり、その間に生まれた光が爆発的に膨れ上がり、周囲の冒険者を呑み込んでいた。
 まるで、天地開闢の瞬間を見ているようだと、後に冒険者の一人が言ったとか言わないとか。
 冒険者を呑み込んだ光が消え去った時、そこに立っている者は決して多くはない。
 倒れたまま動かないのは、ククルとミトの二人。
 一度は倒れながらも、気力を振り絞り起き上がったのは、セイナとフィアラルとヒリュウとレイニーと……少なくはない。
「全てを噛み砕け!」
 彼等の中でも、持ち前の体力で耐え抜いたバジリスクは、力の反動で動けないモンスターに容赦なく刃を振り下ろす。
 傷付いた状態で放った破壊の一撃は、赤色の宝玉を強烈な一撃となって容赦なく打ち貫く。
「動き出す前に……決めます!」
 そこに、ビクトリーが渾身の力を込めた電刃居合い斬りを繰り出すと、電光石火の一撃は赤色の宝珠を叩き割っていた。
 赤色の宝珠は真っ二つに打ち砕かれ、力を失いながらモンスターの体内から転げ落ちる。
「まだ……まだ膝は付きませんよ!」
 モンスターの最大の技を堪え忍んだヒリュウは、気力を振り絞り立ち上がりながら、癒しの波動を放って自分と仲間の回復を図っていた。
 動ける者の中で、回復の力が使える者は一斉に回復を施していく。
「風を纏いて……想いを遙かに、我が剣を雷光とす!!」
 シェルの回復を受けながら、セイナの放ったライトニングアローは、身動き出来ないモンスターの身体を撃ち抜いていた。
 だが、モンスターの体力も戦意も尽きてはいない。
 モンスターは厳しい状況下でマヒを逃れると、残された二色の宝珠を蠢かせ、青色の光線を放っていた。
 空中で屈折する光の帯が、死角から容赦なくフィアラルを撃ち抜いていく。
「……舐めるなっ!」
 だが、一撃を受けてもフィアラルは何とか耐えきると、ルニアの癒しの聖女に支えられながらホーリースマッシュを繰り出していた。
 聖なる一撃がモンスターを打ち据え、先程の攻撃で消えた護りの天使が再度彼女の前に現れる。
「焼き尽くせ……!」
 後方から、アリシアの放った虹色に輝く緑の業火がモンスターを呑み込み、更に、レイニーが渾身の力を込めたデストロイブレードを叩き込んでいく。
 透明なので分かりにくいが、徐々にモンスターの体積は小さくなっているらしい。
 それでも、モンスターは残された体力で反撃を続ける。
「……っ、これまでね」
 空中で軌道を変える青色の光線がシェルの体力を奪い取り、全てを貫く緑色の光線がビクトリーを冷たい床に横たえさせていた。
「少しだけ……疲れました」
 その間にも、冒険者の攻撃は続いている。バジリスクの攻撃がクリーンヒットし、炎と氷の呪縛に身動きを封じられたモンスターに、ヒリュウの斬鉄蹴が襲い掛かり、残された体力を削り取っていく。
「そろそろ、終わりにしましょう」
 エコーズの放った緑の業火が燃え盛るモンスターを更に燃え上がらせ、焼き払い……そこに、ギーの裂帛の気合いを乗せた達人の一撃が襲い掛かっていた。
 洗練された太刀筋が、モンスターの身体を容赦なく引き裂く。
 それが、モンスターにとっての限界だったのか、繋ぎ止めていた力を維持出来なくなったモンスターの身体はボロボロと崩れ去り、全てが終わったあと、残された青色の宝珠と緑色の宝珠が硬く冷たい床に転がるのみであった。

●開かれた道と、課せられた謎
 モンスターが倒れたあと、体力の残っている者達は休む間もなく周囲を調べ始める。
 少しでも、砂漠の巨塔に関する情報が欲しいのだろう。
 特に、モンスターが乗っていた台座を調べていたアリシアは、そこに文字らしい物を見付けていた。
「これ、何かな……?」
 紋章術士である彼女には辛うじて読めるみたいなのだが、何しろスライム状のモンスターが乗ってた台座だけに、かなり侵食されているらしい。
「えっと、生命と……黄金……正しき道……どちらの道も……剣と盾を……太陽と大地に……帰り道は……」
 辛うじて分かるところを拾い上げ、アリシアは声に出して読み上げていく。それを、彼女は逐一羊皮紙に記していた。
 果たして、これは何を意味する言葉だろう。
「それにしても、何で二つも階段があるのかな?」
 そう疑問を口にするのは、内壁を調べていたセイナである。入り口から見て左右の壁から、内壁を剔るような形で螺旋状の階段が伸びているが、わざわざ二つも設置されている理由が分からない。
 そのどちらが、彼等の望む物に繋がっているのか……それとも、そのどちらもが……答えは見上げる闇の奥に消えている。
 いずれにせよ、近く答えは出るだろう。
 その時まで、暫しの休息を。彼等は疲れた身体を引きずりながら、砂漠の巨塔をあとにするのだった――。


マスター:内海直人 紹介ページ
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死亡者:なし
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