トルナードスパイラル



<オープニング>


 嵐が、やってきた。

 倒すべき『それ』が備えるは、竜巻を自在に操る力。
 奴は常に嵐の真っ只中に居る。自らが巻き起こした螺旋の中央に。
 だが、その姿は見えない。
 天を衝いて立ち上がり、そこに留まる直径数十の風の柱がもたらすのは、極めて粗悪な視界。周囲の砂を塵を屑を取り込み巻き上げ茶と灰に混濁した色彩は、空気の流れがくっきりと浮き出る程。
 しかし、その竜巻の効果は、それだけ。
 数分間そこに有り続け、人々を見下ろす威圧的な容貌とは裏腹に、直接的な攻撃能力は有していない。
 むしろ、脅威となりえるのは、もう一つの嵐。
 あらゆるものを切り刻み、吹き飛ばすその風は、先のものとは対照的に、瞬間的に一連の所業を終える。
 それらを繰る、嵐の主は――まるで、枯れ枝。
 留まる竜巻は、その視界の悪さ故、内外、どちらからの行動にも著しい障害となる。
 だから奴は、その細長く小さな身体を風に弄ばれる枯れ葉枯れ枝に紛れ込ませ、人知れず『嵐の領域』を脱し……『抉る嵐』を叩き付ける。
 戦場に立ち昇る、幾本もの竜巻は、奴がその中を渡り歩き、敵を撹乱する為の隠れ蓑なのだ。

 吹きすさぶ風すらも消し飛ばし巻き上げて、嵐の主は荒野をゆく。
 真の嵐さながらに、通った道に残るのは、痛々しき痕のみ。
 人里に届く前に。
 この嵐を、止めて欲しい。

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参加者
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)
暁天の武侠・タダシ(a06685)
愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)
白鴉・シルヴァ(a13552)
黒狐の長・ヴァゼル(a24812)
燃龍ブ・ルース(a30534)
守護者・ガルスタ(a32308)
楓樹より舞い落ちた刃・カエデ(a34095)
リザードマンの特務曹長・マウザー(a49202)


<リプレイ>

●フランツ
 澱む空を衝く、細い柱。
 緩やかに昇り揺れる様に、だが、それは未だ遠くある証。
「あれか……」
 これ以上、野放しにする訳にはいかない。
「気合入れていくぜ!」
 言葉どおりに気を高ぶらせる、燃龍ブ・ルース(a30534)。白鴉・シルヴァ(a13552)はふいと現れては消える風の柱を遠眼鏡で覗く。
 竜巻一つの直径は、領域アビリティ相当だろうか。生まれて消えるまで、およそ十分前後。隣接間隔は不定……ただし、最低近接範囲以上。
 シルヴァの告げる概要に耳を傾ける、荒野の黒鷹・グリット(a00160)の掛ける黒眼鏡の前を、横薙ぎの風に乗った砂塵が流れていく。
「初めて見るタイプのモンスターだね……逃がさない様に気をつけなければ」
 そうはさせない。
 猟兵の目は鷹の目。必ずこの目に捉える。
 手にした弓に力を吹き込み、新たな外装を付け加え、リザードマンの突撃猟兵・マウザー(a49202)は鋭い眼差しを向ける。
 と、弓に続き、力得て相応しき姿を得ていく着衣。
「己が想いを示せ、纏いて鎧と為せ、其が汝の力なり」
 櫻を愛する栗鼠・ガルスタ(a32308)の唱える声が、口笛のように鳴る風に乗って、遠く吹き散る。
「難しい相手だけれど……」
 被害を出さない為には、戦わねばならない。嵐の中にいるはずの主を、愛と情熱の獅子妃・メルティナ(a08360)が赤い瞳に映す。
 その鎧が、楓樹より舞い落ちた刃・カエデ(a34095)の施す鎧聖降臨を受け、力を増す。
 私には……止める力があるのだから……きっと。
 思いは胸に、言葉少なくカエデは鎧の加護を続ける。
 行き届いただろうか。
 最後の一人、新生黒狐盗賊団長・ヴァゼル(a24812)への鎧聖降臨を終え、アイギスの赤壁・バルモルト(a00290)が再び見遣れば、幾ばかりか距離を詰めた嵐。
 風向きが変わった。
 背面から吸い付けるように流れる風に乗り、武侠・タダシ(a06685)のゴーグルの視界に自らの髪先がちらつく。
 風の猛る声が、聴こえる。
「我が闘志よ、燃え上がれ。敵、討たんが為」
 沸き上がる黒い炎を呼び出す為にガルスタが唱えたその言葉すら、呑み込むように。
 そして、駆ける。
 誰からとなく。
 嵐を止める為に。

●ハイフライ
「さて……お目当ては何処にいるかな?」
 煙る視界を注意深く見据え、時に舞い上がる枝葉を視線で追うグリット。
 先ほどから、幾つもの枯枝、枯葉が、巻き上がっては隣の風に巻き込まれ、行ったり来たりを繰り返している。
「視界不良に擬態出来る環境下……確かにこれは労力がいりそうだな」
 若干の距離を置き、ルースもまた昇る風を注意深く見据える。
「さて……いぶり出せますかどうか? 乞うご期待ですな」
 共に待つ者達の位置に常に気を配りつつ、ヴァゼルは風に揺れる黒眼鏡をぐいと押し上げる。
 風の音は鳴り止まぬのに、弓構え研ぎ澄ませたマウザーの耳に届くそれは、まるで沈黙。
 ――彼らは、待っていた。
 別の嵐が、起こるのを。
 心持ち後ろに待機する若干五名の位置を確認しつつ、タダシは最も近く、竜巻の領域へ。
 何処から来る?
 反響しているのか、打ち消しているのか。四方で鳴る風の音。携えた巨大剣を握るシルヴァの手に力が篭る。
 眼前に立ち上がる竜巻群。
 刹那。
 それは風によるものか、それとも、魂を共にする者を護らんとしてか。
 闇色のマントが三枚、『抉る嵐』の中で翻った。
 僅かに舞って散る赤い飛沫。
 だがそれは、鎧の加護により真の意で僅かであった。それもまた、直後ガルスタより広がった癒しの光が消し去っていく。
 消え去った嵐の中心に向け、咄嗟にカエデが振り返れば、それよりも先に隣接する二本の竜巻。
 次に隠れるとしたら……
「そちらです!」
 発した声に応じるように、タダシが濁った風の流れの中へ飛び込む。続くシルヴァ。
 更に続こうとするのを、バルモルトが押し留める。
「まだだ」
 もし、あの中に居るのなら……次に逃げ込むのは自らが飛び込むべき風の中のはずだから。
 轟いて天を衝く螺旋。
 砂塵と抉る嵐に砕けた小石が、ゴーグルを叩く。
 何も見えない。
 ……いや、微かに。
 風の流れに沿って目をやれば、頭上を泳ぐ幾つもの黒い影。
 渦の中から、シルヴァの声が聞こえた。
 ごぉ、と。
 光を返さぬ黒き刀身より迸る、第三の嵐――レイジングサイクロン。
 天と地を繋ぐ柱がへし曲がり、ぶつかり合う二つの風の中で砕け散る、幾つもの枝葉。
 その中に、タダシは見た。折れない影を。
 だが、伸ばした手は……まだ、届かない。
「隣へ移った!」
「出るぜー!」
 領域を脱す旨のシルヴァの叫び声を合図に、グリットとバルモルト、ガルスタがもう一つの柱へと入り込む。
 果たして、先ほど突撃を制したバルモルトの判断は、正しかった。
 さっき飛び出て砂塵に消えたあれに違いない。上空を舞う無数の影の中、見覚えのある造型に目掛け、グリットはけぶる視界に紋章を描く。
「まずは目印を付けなければね」
 輝く紋章。無限とも言える勢いで飛び出す眩い光線。
 飛び出す枝を待って、その姿を双眼鏡で探すメルティナの目に映るそれはまるで、竜巻の中に走る無数の稲光。
 数歩先すらも砂に煙る視界。時折晴れる風の切れ目で、撃ち放ったエンブレムシャワーを風と無関係な方向に舞いかわす。
 灰色と黄土の螺旋に閉じていく世界で、三人は確信した。
 あれが、嵐の主だ。

●フライハイ
 グリットが投げた塗料は、しかし、絵の具で塗ったように一瞬で塗り変わった砂塵の中に消えた。
 想像以上の視界の悪さ。
 願わくば、命中している事を……だが、その身体を襲って吹き荒れる、もう一つの嵐。
 飛沫を上げる赤が、風に乗って昇る。
「癒しの力よ、我が友を護れ」
 全てを守る。抱く誓いの元に、ガルスタが光を発する。
 絡み付くような風の刃と、癒される感覚を瞬時に味わいながら、バルモルトは逡巡する。
 風向きは?
 ……もう脱出している!
 だが、それに気付いた時、濁った壁の向こうで爆音がした。
 あのタイミングであんな中途半端な位置から飛び出すものは嵐の主に違いなし。狙い定めていたマウザーは、確かに見たのだ。
 『あれら』を中心にして、抉る嵐が生まれたのを。
 だから、彼は赤く輝く炎の矢を射た。
 嵐の主を射抜き、かつ、その周囲にある枯枝を消し飛ばす為に。
 矢は燃え上がり、からからに干乾びた枯枝を粉々に砕き、葉を焼き、小石を弾く。
 この隙を逃すものか。
「そこだな!」
 擬態でもしているつもりなのか、無防備に横たわる枯枝に向け、ルースとメルティナが一気に距離を詰める。
 掬い上げるようにメルティナが伸ばした手に主を捕らえ、走る勢いそのままに振り回し……竜巻のない方向目掛け、投げ飛ばす。
 大きさゆえなのか、手応えに乏しいデンジャラススイング。枝はくるくると宙を舞い、何事もない素振りで地面に落ちる。
「ホワタッ!」
 追撃宜しく、ルースが跳ね上がった枝に向け、輝く軌跡を描く蹴りを叩き込めば、枝は衝撃で再び宙を舞った。
 折れずに。
 からりと落ちる枝。
 だが、そこには既に……いつ、近付いたのか。
 それは達人のみぞ成しえる一撃。
 無造作に嵐の主の間合いへと侵入したヴァゼルが、その手に煌く長剣を、無駄ない動きで叩き込む。
 一体何処が顔に相当するのか、枝は無反応にされるがまま刃を受けて跳ね上がる。
 次の嵐が起こる前に。
 皆を更に我が身で護るようにして、カエデが枯枝と近接する者達との間に割って入る。その手には、錆び付いた両手剣が高々と掲げられ……頭上に生まれる、護りの天使。
 地面を抉る勢いで振り落とされたホーリースマッシュ。
 だが、直後。
 風が吹いた。
 枯枝を中心に、巻き上がる砂塵が正面から吹き付ける。かと思った時にはもう、嵐の主を捉えた四名は、何も見えない竜巻の中に居た。直前にマウザーが打ち込んだのであろう、ホーミングアローが嵐を跨いで掠め飛ぶ。
「くそったれ、的が小さい……!」
 風に乗って遠のいた嵐の主は、その姿を尚一層小さくしていく。
 そしてまた、嵐が吹いた。
 正面。
 砂塵と共に吹き付けてくる風の刃を受け、タダシは傷もそのままに濁った世界へ向かう。飛び込もうと駆け出したシルヴァとグリットの前に立って。
 螺旋の壁に見えなくなった背後から、ガルスタの歌が聞こえる。
「弱き者護るため、己が道歩むため、いざ、我ら立ち上がらん」
 高らかに歌い上げられる凱歌が、鎧の加護を超えて裂けた傷を塞ぐ。
 また、シルヴァの声がした。
 それは第三の嵐の合図。
 柱が、曲がる。
 ぶちあたる風と風。
 舞う砂塵を切り裂き生まれた隙間に、グリットは見た。
「この高度なら届く……貰った!」
 振り上げた足が、眩い奇跡を描く。
 ばきん、と。
 遂に砕け、寸法を縮めた嵐の主は、また風に……いや、それは叶わなかった。
 タダシの腕が、流れた血をわざと纏わり付かせた手が、今度こそ嵐の主を捉える。
 できるだけ、攻撃を任された者達の所へ。
「狙え!」
 掛け声一閃、投げ飛ばした枝は、濁った螺旋模様の壁から、赤く色付いて弾き出た。
 声は届かずとも。
 狙い済ました鷹の目が、弧を描く追撃の矢で以って、それに応える。
 マウザーの一矢に中空で撃たれ、枯枝は更に身体の一端を弾き飛ばされる。
 くるりくるりと落下しながら……主は再び、風を呼ぶ。
 抉る嵐。
 それは、先の嵐の領域を脱し、仕掛けんと駆け寄る者達を尽くに襲う。
 血飛沫舞う戦場。
 しかし、この時の為に携えてきた使い慣れぬ武器を掲げるルースから広がるヒーリングウェーブが、誰一人倒れることを良しとしない。
 鎧の加護と癒しの光と。傷は軒並み塞がった。
 ヴァゼルは再び、からからと舞い落ちる嵐の主の間合いへと侵入する。
 無造作に、無遠慮に。
 鋭く打ち込まれる達人の一撃に、赤い印は残して枯枝は尚一層に痩せ細る。
 消えた護りの天使を呼び戻し、カエデはまた最前列にまで詰め……正面から肉薄したバルモルトの傍らにも、護りの天使が浮かんでいた。
 二振りの剣が、交差するように地と、そこに横たわる嵐の主を目掛け振り落とされる。
 真っ二つに砕け折れる枯枝。
 もう、次の嵐は呼ばせない。
 辺りに立ち昇る柱を映すメルティナの白刃に、その身体から噴き出すエメラルドグリーンと紅蓮の氷炎が伝った。
 一閃。
 召喚獣の力を帯びた攻撃が小さな身体を一瞬で凍りつかせ――僅か残った嵐の主の身体が燃えて尽きるまで、その氷が溶けることは、なかった。

●チャイルド
 主の喪失と共に、天を衝く柱は一つ、また一つと消えていった。
「よし、戻ろうか」
 思わせぶりに吹いたつむじ風に、グリットの言葉が吹き散った。


マスター:BOSS 紹介ページ
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