西方プーカ領を求めて 〜深緑のアーチ〜



<オープニング>


 もう、南方街道をどれだけ進んだだろう。
 初夏の日差しを受けながら、剣振夢現・レイク(a00873)達は先を急いでいた。
 と、ふいに日差しが和らぐ。上を見ると、そこには深緑のアーチがあった。

 道端に植えられた木々。その枝と枝が絡み合い、日差しを遮る。
 枝は涼やかな音を立て、時折大きな葉を落とす。
 そのアーチの中を通り抜ける風は、心地よく肌を撫でて行く…………

「静か過ぎる」
 ふと、誰かがそう呟いた。
 よく考えてみると、稀に街道で見かける事もあった人の姿が、今はまったく見当たらない。
 さっきまでは鳥の声も聞こえてきた気がするが、今はそれすら聞こえない。
「脇道にそれちゃったのですぅ?」
「いや、違う。これを見ろ」
 彼は木を指差した。そこには黒い染みが。
「……おそらく、血痕だ」
 その時、彼らは理解した。ここにはモンスターがいる。
 そして、このアーチをくぐった者を、狩っている。

 彼らは辺りを見回す。だが、敵の姿は見えない。
 見えるのはアーチの木々と、そこから落ちる葉のみ。
 聞こえるのは、枝の音のみ。
 が、次の瞬間。後ろにいた仲間が声を上げた。
「うわっ!」
 彼の背中には、切り裂かれた跡。だが、どこから攻撃されたのかはわからない。
 姿の見えない敵に備え、彼らは武器を取るしかなかった……

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参加者
陽射の中で眠る猫・エリス(a00091)
動物愛好魔術師・ミサリヤ(a00253)
在散漂夢・レイク(a00873)
剣難女難・シリュウ(a01390)
分の悪い賭けは嫌いじゃない・リヴァル(a04494)
宵闇の黒豹・ケイ(a05527)
凪・タケル(a06416)
蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)


<リプレイ>

(「歩いていただけで、いきなり敵の領域に取り込まれるとはな。常在戦場とはよく言ったものだ」)
 剣振夢現・レイク(a00873)は、深緑のアーチを見上げながら、そんな言葉を思い出していた。常在戦場とは、「常に戦場に在るつもりで行動せよ」の意味である。
(「ま、今回に限って言えばその本来の意味とは程遠いが」)
 レイクはちらりとそんなことを思ったが、すぐにかき消す。相手は見えない敵。気を緩めればすぐにこちらが殺られる。
 動物愛好魔術師・ミサリヤ(a00253)は、その見えない敵に少なからず恐怖を覚えていた。
(「爽やかな深緑のアーチに、姿無き殺戮者! って……怪談みたいだね〜」)
 だが、怖がってばかりも居られない。この敵を倒さないと、西方プーカ領にはたどり着けないのだから。
(「何とか切り抜けなきゃ!」)
 ミサリヤは覚悟を決めた。

 レイク達は互いに頷き、二重の円陣を組んだ。中の円陣にはミサリヤ達術士を配し、その周りを他の冒険者達で囲む。
(「順当な戦術ってやつだな。背中合わせの後衛を前衛が囲み、全周を警戒っと」)
 コインの表裏は我が掌の内に・リヴァル(a04494)は、辺りを見渡す。だが、敵の動きはなく、そこにあるのは静寂のみ。
(「なかなか、搦め手ってもんをわかってる相手じゃねぇか。がつがつ真っ正面からの力比べも嫌いじゃないが、詰むか詰まれるかの勝負も悪かねぇ」)
 どこから来るかわからない敵に対し、リヴァルは言いようのない高揚感を感じていた。
 動きもなく音もない。重い空気が時間の流れを果てしなく遅らせていく。
(「見えない敵……戦闘において、これほど戦い辛いものはありませんね……」)
 蒼穹に閃く刃・ジギィ(a34507)は慎重に辺りを見回し、警戒する。
(「木々に姿を隠し俺達を狙う者が居るか……はたまた、木々そのものが敵か……そこをはっきりさせないと、手は出せませんね」)
 仲間達の16の瞳が四方八方、天地にも視線を向けている。いつか、誰かが敵の動きを捉える事が出来る。そう誰もが思っていた。
 だが、次の瞬間。その淡い期待は脆くも崩れ去る。
「うおっ!」
 仲間達の中でただ一人、無防備に立っていた凪・タケル(a06416)が声を上げた。彼の体には、やはり切り裂かれた跡。だが、その攻撃をどこから受けたのか、見切ったものは居なかった。
 タケルは立ち上がり、先程までと同じように無防備な構えをとる。そう。彼は『無風の構え』で囮になり、跳ね返しの衝撃波を使って相手の位置を特定しようとしていたのだ。
「それなら、私もやるよ」
 宵闇の黒豹・ケイ(a05527)が同じように『無風の構え』で反対側に立つ。

 そこからは、また静寂が彼等を包んだ。音もなく、光も木漏れ日のみ。
 そんな中、キャットレッドブルー・エリス(a00091)は『黒炎覚醒』を纏いながら木々の動きに注意を払っていた。
(「さっきから、なんだか違和感があるですぅ。もしかして……」)
 彼女の直感は、別の危険が在ることを知らせていた。そして、その直感は当たってしまう。
 ――バシッ!
 再び繰り出される、見えない攻撃。だが、その攻撃は今最も攻撃を喰らって欲しい人を目掛けて振り下ろされていた。
「おっと! 隙を突いたつもりかい? でも、そうはいかないよ!」
 無防備な構えのケイが、相手の見えない攻撃を何とか防御し、攻撃を跳ね返す。その行き先は、先程までエリスが見ていた場所だった。
「わかったですぅ! そこですぅ!」
 キルドレッドブルーの魔炎・魔氷を乗せ、エリスは『ブラックフレイム』を放った。黒い炎の蛇は木に向かい、炎の牙を突き立てた。
「相手は『ハイドインシャドウ』で隠れてたんですぅ」
 エリスはそう見抜いた。アーチを最も注意深く観察していたから、攻撃によって姿を現した新しい木……モンスターを見つけることが出来たのだ。
「そう言うことなら」
 タケルは攻撃に転じた。ただ、狙いは今見つけた木ではなく、周りの木々。『緑の業火』の魔炎で、延焼を狙っていく。その横で、ジギィが目を凝らした。
 次の瞬間。
「来ます!」
――バシッ!
 ジギィの声で、タケルが今度はしっかりと攻撃を受け止める。延焼に驚いたモンスターが焦って攻撃を仕掛けてきたのだ。
 攻撃は衝撃波となり、もう1体のモンスターへとカウンターを喰らわせた。
「仕掛けてくりゃ、こっちのもんだ!」
 隣にいたリヴァルが、衝撃波の当たった所まで近接し、『紅蓮の咆哮』を上げる。更に、レイクが『緑の業火』を放ち、木は炎に包まれた。

 魔炎に包まれ、2体の狩人が浮かび上がる。
 それは周りの木と寸分違わぬ木の形をしたモンスター。幹は動かさず、根っこで歩く事もなく、じっとその場で獲物が来るのを待つ。そして、獲物を見つけると高速で枝を振り下ろし獲物を切り裂く。
「木だよ木! しかも2体!」
 敵の正体がわかり、ミサリヤは正直なところ更に恐怖を感じていた。
(「これじゃホラーだよ。普通は動かない木が動いただけで怪談だもんね……」)
 恐怖を感じながらも、ミサリヤは回復に専念した。
「正体がわかれば!」
 剣難女難・シリュウ(a01390)は、片方のモンスターに向かいながら剣を鞘に収め、稲光と共に走らせる。
「『電刃居合い斬り』!」
 惜しむことなく、初手の一撃で自らの最大攻撃を撃ち込むシリュウ。他の冒険者達もその攻撃に続けとばかりに、次々と攻撃を繰り出していった。

 だが、冷静に考えると、今冒険者達が状況はあまり良くない。図らずも、2体のモンスターに挟み撃ちになっている格好だからだ。エリスが敵のトリックを見破ったお陰で、これ以上敵は増えないことはわかっていたが、それでも相手の攻撃は強力だ。2体に攻撃を分散させるか、集中攻撃で撃破するかは難しい判断だ。
 エリスは一つ息をつくと、仲間達にこう言った。
「もう片方から攻撃を受ける可能性はあるけどぉ、開き直って1体ずつ倒すのが良いと思いますぅ」
 口調はのほほんとしているが、全員のアビリティを考えるとそれが一番最適だと思われた。
 仲間達はその言葉に賛成する。あとは行動に移すのみ。相手に与えたダメージを考えると、電刃居合い斬りで縛られている木を集中攻撃で撃破する方が良いだろうか。
(「さって……狩人の立場が絶対じゃねぇって事、しっかり刻んでやりますか」)
 リヴァルはそんな事を思いながら、魔炎と魔氷で木を切り刻む。
「更に押していきますね」
 続いて、タケルは『緑の業火』を放った。もちろん、今度は周りの木々ではなくモンスター本体。炎に包まれたモンスターは、苦し紛れに枝を激しく振り回し始めた。その枝が鞭のようにしなり、ミサリヤへと向かってくる!
「おっと。危ないね」
 だが、それより先にケイが動いていた。『斬鉄蹴』で枝を払い、ミサリヤへの攻撃を未然に防ぐ。
(「距離も近いですし、出し惜しみはしません」)
 引き続いて、ジギィが『薔薇の剣戟』を繰り出した。その跡は光を放ち、薔薇が辺りを彩る。
 1つ。2つ。3つ……
 ジギィは更に木を切り刻み、死連撃を狙ったが、相手はそれを阻止してきた。
(「動きが鈍くなってきてるな」)
 レイクは注意深く敵を観察しつつ、『エンブレムノヴァ』で敵の体力を削っていった。もちろん、今は攻撃を集中していないもう片方の動きも、見落とさないように気をつける。
(「また見失っては厄介だからな」)
 その視線の先で、シリュウが流れるように剣で薙ぎ払った。
 ――バサッ!
 『流水撃』の一撃は、モンスターの幹を倒し、そのままもう片方のモンスターの枝を切り落とす。
「あと1体だ!」
 少し恐怖の解けたミサリヤが、『ヒーリングウェーブ』を放ちながらそう叫んだ。

 2体目は、1体目よりは楽だった。後ろからの攻撃が無い分、回復役のミサリヤ達が攻撃する回数が増えたからだ。
「『ニードルスピア』!」
「『ソニックウェーブ』!」
 持てる力を駆使し、次々と攻撃していく冒険者達。魔炎が、魔氷が、業火が、電刃が、木を容赦なく打ち据えていく。
「これを倒して、プーカ領に向かうんだ」
 その思いが、最後には打ち勝った。タケルの『斬鉄蹴』が幹をなぎ倒す。

 モンスターが完全に倒されたのを確認し、ケイは懐から一つの玉を取り出し、木漏れ日に透かす。
(「遠き西の地……彼等はそこでまだ戦っていると信じたいね。この道が繋がるその日まで……」)
 レイクは、アーチの先を見つめていた。
(「この道は希望のグリモアの民となった、西方ドリアッドへの道でもあるのだな……」)
 もしかしたら、この深緑のアーチはかつてこの辺に出入りしていた西方ドリアッド達が作った物なのかも知れない。
(「彼らのためにも。そして、既に眠らせてやるしかなくなったソルレオンのためにも、例え間に合わなくても……届かせたいものだな」)

 仲間達の怪我の具合を確かめ、彼等は早々に帰路へ付く。長居をしていると、トロウルや悪の旗軍団の襲撃を受けるかも知れない。だが、素早い行動のお陰か、特に襲撃は受けずに彼等は帰り着くことが出来た。

 西方プーカ領への道程。それはどこまで続くのだろうか。
 もう少しで辿り着くのか、それともまだ遙かの空の下なのだろうか。
 その答えが出るには、もう少し時間がかかりそうだった。


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