ロポサ村の雪まつり〜雪輸送ノソリンを守れ



<オープニング>


●ロポサ村の雪まつり
「君達、ずっと北の……ロポサ村って小さな村で、雪まつりがあるんだけど……知ってるかい?」
 ある日、冒険者の酒場でテーブルを囲み、3時のお茶をしていたエルル・レナ・シフォン・キィルスの四人に近付きながら、霊査士のキーゼルは、そう声をかけた。
 キーゼルの問いかけに、ふるふると首を振る四人……そんな彼らの様子を見ると、キーゼルは、ロポサ村と雪祭りについての詳しい話を始めた。

 ロポサ村の雪まつり。それは、雪に包まれたロポサ村で行われる冬の祭典。
 大きな物から小さな物まで、村中総出で様々な雪の像や滑り台を作るこのお祭は、近くの村や街からも多くの人々が見物に訪れる、いわば冬の風物詩だ。
 ちなみに今年の目玉は、ブレイク卿こと貴族のコーギー・ブレークが建築させた大きな雪のお城である。
「なかなか面白そうなイベントだろ。君達も興味があったら、行ってみたらどうだい?」
 その言葉に四人は顔を見合わせると、口々に面白そう、行ってみたいと声を上げる。そして、早速ウキウキとしながら、雪まつりに遊びに行く計画を立てようとするのだが……。
「そう、それは良かった。……実は、このロポサ村から依頼が来ててね。行ってくれる人を探してたんだよ」
「え」
 君達が行ってくれるなら助かるよ……と、キーゼルは満面の笑みを浮かべながら四人を見る。一方の四人はといえば、ついさっきまでの浮かれ気分はどこへやら。ショックのあまり、呆然とした様子でキーゼルの方を見ている。
「依頼の数は全部で四つ。詳しい事はこの紙に書いてあるから、四人でそれぞれ好きなのを選んで行ってきてよ。……じゃあ君達、よろしくね」
 キーゼルは、そう言いながら四枚の羊皮紙を置くと、にこやかに微笑みながら、四人のいたテーブルから離れていった。

●雪輸送ノソリンを守れ
「キーゼルから話は聞いてるよ」
 霊査士のアリシューザが、くっくっと笑いながらキセルを吹かした。
「雪まつり、依頼抜きで楽しめると思ったのにぃ」
 頬を膨らませる二つお下げの戦乙女・シフォンを横目で笑いながら、羊皮紙を取り上げるアリシューザ。
「ロポサ村の雪まつりは、あれで結構有名でね、あたしも毎年見に行ってるよ」
 羊皮紙をテーブルに置くとアリシューザは頷いた。
「でも、今年はいろいろとあってね。だからこんな依頼が出てくるわけさ」
 アリシューザの目がすっと細くなる。
「ロポサ村の雪まつりでは、いろいろな雪像を作るために、とにかくたくさんの雪が必要なのさ。それも、汚れていない綺麗な雪がいるんだよ。特に、今年はブレイク卿の大きな雪の城を作る関係で、例年以上にたくさんの雪が必要でね、雪運びは一月も前からスタートしてる」
 アリシューザはキセルを一服する。
「雪はノソリンに引かせたソリを使って、村郊外から運んでるんだけど、そのノソリンの雪輸送隊がよりにもよってグドンに襲われちまった。幸い、怪我人も大して出なかったけど、雪輸送がストップしちまったのさ。雪像用の雪は、あとノソリン1往復分で終わりだというのにねぇ」
「で、わたしがそのグドンを退治するんですよね?」
 シフォンの問いに頷くアリシューザ。
「まあ、ね。でも、グドン退治は二の次でいいから、とにかく雪輸送のノソリンを守ってくれって言われてる。でないと、祭りの日程に間に合わないからね」
「わかりました。で、ノソリンは何頭いるんですか?」
「4頭だよ。全部大きなソリを引いていて、それに雪を山盛りにしてる。ノソリンのソリには、一人ずつ御者がつくよ。雪は村郊外から運んでるから、主に林の中を通るね」
 アリシューザは、キセルを煙草盆の縁に叩き付けた。
「輸送ルート上に現れた犬グドンの群れは、大体十数頭前後。大した連中じゃないからけ散らすのは容易だよ。ただ」
「ただ?」
 アリシューザは、キセルに火を入れ直した。
「最初の襲撃に現れたグドンとは別に、いくつかの別のグドンの群れが近辺に出没してるらしいんだよ。群れ自体はどれも小さいけど、どこで襲うから分からないからね。ノソリンはソリを引いている関係で、逃げることが出来ないから、特にその辺は気をつけとくれ」
「はい、分かりました」
「この依頼ひとつで、雪まつりが成功するかどうかにかかってる。しっかり頑張って稼ぎな」
 アリシューザの言葉に、シフォンは大きく頷いた。

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参加者
銖煌華婉せし慧護を薫べる蓮風・サユーユ(a00074)
終焉を謳う最後の龍皇・ソラ(a00441)
神殺騎士・サファイ(a00625)
邪竜導士・セレネス(a00717)
天真爛漫な人形遣い・シャラ(a01317)
銀鷹の翼・キルシュ(a01318)
喰えない老人・ジュラン(a01956)
ニュー・ダグラス(a02103)
真白に閃く空ろ・エスペシャル(a03671)
白き一陣の旋風・ロウハート(a04483)
NPC:二つお下げの戦乙女・シフォン(a90090)



<リプレイ>

「あんたたちが頼りだ。しっかり頼んだよ」
 壮年のノソリン使いが、冒険者たちに頭を下げた。荷台に高いあおりをつけたソリには、あおりからあふれんばかりの雪が山積みに積まれていた。荷台のあおりには「ロポサ村雪まつり雪輸送中」の垂れ幕が張り付けてある。
「グドンたちは任せてもらおう」
 神音騎士・サファイ(a00625)が重々しく答える。
「相手はけ散らすのが容易なグドンだが、ノソリンまでには手が回らないかもしれない。ノソリンの方はよろしくお願いする」
 終焉を奏でる絶望の龍帝・ソラ(a00441)の言葉に頷くノソリン使い。
「こんにちわ。今日はよろしく」
「なぁ〜ん」
「うん、いい挨拶だ」
 白閃空・エスペシャル(a03671)が、ノソリンに挨拶をしている傍らで、鍾情をし薫然慈仁なる蓮藕の風・サユーユ(a00074)が、一人シャベルを握りしめて呟く。
「邪魔する子はお仕置ですわ」
「そのシャベルは何に使うんですか?」
 二つお下げの戦乙女・シフォン(a90090)の問いに、グドンを埋めるために使うとは言えずに、ただ笑うサユーユ。
「蹂躪殲滅破砕滅殺虐殺抹殺〜、ってしたみたかったんですけどね〜。今回はおとなしく護衛に専念しますね〜」
 邪竜導士・セレネス(a00717)の言葉に、顔を見合わせて苦笑するのは、天真爛漫な人形遣い・シャラ(a01317)と銀鷹の翼・キルシュ(a01318)の二人。
「雪は確実に届けたいところだね」
「ボクも雪の輸送の護衛、頑張るの〜」
「祭りのために一肌脱ぐぜ」
 漢(おとこ)笑いを浮かべながら、一人張り切っているニュー・ダグラス(a02103)をよそに、喰えない老人・ジュラン(a01956)は、一人のんびりと構えていた。
「わしゃぁ、年じゃしのぉ。のんびりやらせてもらうわい」
「菱形体形は無理ですか」
 白き一陣の旋風・ロウハート(a04483)の問いに、ノソリン使いが答える。
「道幅はソリ一台分しかないんだよ。それに、ソリが横転する危険を考えると、ソリを並走させるのは厳しいな」
「そう、ですか」
「心配ないだろう、ロウハート」
 ソラが言った。
「これだけの人数がいれば、大して変わらん。列が伸びるのは致し方ないがな」
「だといいんですが」
「まあ、不安が残るメンバーもいるが、彼らもやるときにはやるだろう」
 サファイは、一同を見回すと言った。
「よし、出発するぞ!」

 隊列の先頭を白い息を弾ませながら、ソラが先行する。油断なく周囲を見回したソラが、不意に足を止めた。それを見たサファイがノソリンを止めさせると、ソラに駆け寄る。
「どうしたソラ?」
「こいつを見ろ」
 ソラが顎で指さした先には、人間とは明らかに違う足跡が、無数に付いていた。
「何かあったの、サファイ?」
 駆け寄ってきたシャラの傍らで、しゃがみ込んで足跡を調べるサファイ。
「ざっと10頭程度ってとこだろう」
「気をつけたほうがいいな。近くにいるぞ」
 サファイの顔が引き締められ、シャラが頷く。
「ボク、みんなに伝えてくるね、サファイ」
「ああ、頼む」

 エスペシャルがそれに気づいたのは、列の殿を歩きながら、持参した飴玉を口に放り込んだ時だった。
「……あま。ん?」
 林の木陰で何かが動いた。
「何か、いる」
 その少し前を歩いていたセレネスもそれに気づいたのか、嬉々とした表情を浮かべてエスペシャルの方を振り返った。
「みなさ〜ん、グドンさんがいますよ〜」
 セレネスの声とほぼ同時だった。風切り音がして、シャラの耳元を何かがかすめた。粗末な作りの矢が、ノソリンのソリの荷台に突き刺さる。なぁ〜んと悲鳴を挙げるノソリン。パニック状態になりかけるノソリンを必死になだめるノソリン使い。
「敵襲だッ! 隊列を止めるなッ!」
 サファイが怒鳴った。林の木陰から、犬グドンたちが雄叫びと共に飛びだしてきた。ブーメランを引き抜いたサファイの目の前で、犬グドンの1匹が、雪玉を食らって倒れ込んだ。
「おイタは許しませんよ」
 いつの間に用意したのか、サユーユが雪玉を次々とグドン目掛けて投げつけた。数発がグドンに命中し、歩みを止める。すかさずサファイのブーメランが舞うと、グドンの鼻先をかすめて威嚇する。
「もっと近づいてほしいですの〜」
 セレネスのニードルスピアが、飛びだしてきた数匹のグドンを吹き飛ばした。慌てて逃げ出すグドンを見て、シャラが叫ぶ。
「あ、グドンが逃げるよっ」
「あら〜、残念ですの〜。せっかく〜全滅させてあげようと思いましたのに〜」
「グドンを追いかけなくていいんですか?」
 シフォンの問いに、のんきに答えるジュラン。
「わしらは、護衛が任務じゃよ、シフォン。ノソリンとソリが守れればそれでいいんじゃ」
「ち、オレの出番がなかったぜ」
 悔しがるダグラス。
「皆さん、怪我はありませんか?」
 ロウハートの言葉に、首を振る一同。ソリの荷台に突き刺さった矢を引き抜くキルシュ。
「矢を使ってくるみたいですね。気をつけないと」
「また、来るかな?」
 シャラの問いに、キルシュが矢をへし折って答えた。
「また来るかもしれません。皆さん、気をつけて下さい」
 一同は、頷いた。

 それからしばらくは、静かなものだった。
 サユーユは、歩きながらせっせと雪玉を作り、ジュランはソリの後部にちゃっかり腰を下ろしていた。
「シフォンさん、雪まつりの雪像ってどんなの?」
 エスペシャルの問いに、答えるシフォン。
「えーと、アリシューザお姉様の話では、ノソリンとか動物とか。あと、大きなお城みたいな家も作るんだって」
「それって、うさぎさんみたいなの?」
「うん、そうだと思う」
 ダグラスが、ロウハートに歩み寄ると言った。
「気づいてたか?」
「ええ、何頭か隠れてついてきてますね。シャラさんにお願いして、前にいるソラさんたちには伝えてあります」
「嫌な予感がするな。ジュランの爺さんには俺から言っておく」
「お願いします」
 ダグラスが歩み去り、ロウハートはちらりと楽しそうに会話するシフォンとエスペシャルを見てから、林に厳しい視線を向けた。

 異変に最初に気づいたのは、やはりソラだった。
 ソリのわだちが続く進路の先を遮るように、大木が倒れていたのを見て、ソラは全てを悟った。後ろを振り返ると、サファイに怒鳴った。
「グドンどもが来るぞッ!」
 サファイとキルシュは、大木を見て、ソラの言葉の意味を理解した。
「道がふさがれてる?」
 シャラの言葉に、キルシュが頷いた。
「あくまでも諦めきれないようですね」
 ソラの怒鳴り声は、全員に聞こえた。
「え? どこどこ?」
 シフォンが周囲を見回した時だった。シフォンの足元に、矢が突き刺さった。飛びずさるシフォンをかすめるように、次々と矢が降り注いできた。雪原に倒れ込むシフォンの頭上で、ノソリンの荷台に立て続けに矢が刺さる。
「ちくしょう! 待ち伏せたぁ、グドンの分際で変な知恵つけやがって!」
 吐き捨てるダグラスの目の前で、喚声と共に、先程とは明らかに違う別の犬グドンの群れが飛びだしてきた。その反対側からは、手に槍を持った犬グドンが数頭。隊列のはるか前からは、まるっきり恰好が違う犬グドンが、こちらはどうみても20頭近かった、隊列目掛けて突撃をしてくるのがみえた。
「ノソリンを守れッ!」
 ソラが怒鳴った。先頭のノソリン目掛けて突撃してくるグドン目掛けて、ニードルスピアを放った。ばたばたと倒れるグドン。だが、全てを倒すことが出来ず、ノソリン目掛けて突っ込んでくる。グドン目掛けて突進するサファイ。
「邪魔だ!」
 サファイの流水撃が一閃すると、残ったグドンをなぎ払った。
「キルシュ! そっちに行ったぞ!」
 討ち漏らしたグドンが1匹、逃げようとした。キルシュの眼鏡の向こうで瞳が光り、リングスラッシャーがグドンを引き裂いた。
「んー。石入り」
「しつこい子にはお仕置きですの」
 エスペシャルと、サユーユがグドン目掛けて雪玉を投げつける。サユーユのそれはただの雪玉なのに対し、エスペシャルの雪玉には石が入っていた。石入りの雪玉をぶつけられたグドンが、ひるんで立ち止まる。
「カタつけさせてもらうぜ!」
 ダグラスの眠りの歌が響き渡り、数頭のグドンが雪原に崩れ落ちる。
「ソリは絶対に守るねっ」
 眠りの歌で倒れなかったグドンに、シャラがエンブレムシャワーを放つ。さらに数頭のグドンが倒れた。シフォンが、ノソリンに近づいてきたグドンを斬り伏せる。
「シフォン!」
 シフォン目掛けて矢が飛んできた。その前に、土塊の下僕が立ちはだかり、矢が突き刺さる。振り返ったシフォンの視線の先に、ノソリンのソリの側で微笑むジュランの姿があった。
「消えたか?」
 肩で息をするサファイが我に返ると、残ったグドンは逃げたのか、その姿は消えうせていた。
「大丈夫ですか、サファイ?」
 駆け寄るキルシュに、頷くサファイ。
「大丈夫だ」
「みんな無事か?」
 駆け寄ってきたソラに、キルシュが微笑みながら頷く。
「ソリもみんなも無事です」
「ならいい。サファイ、キルシュ、あの大木をずらすのを手伝ってくれ」
 キルシュはシャラを呼んだ。
「分かりました。シャラ! 他のみんなも、大木をずらすのを手伝って下さい」
 
 グドンを捕まえて埋めるために使おうと思っていた、サユーユのシャベルが役に立った。道を塞いでいた大木は思いのほか大きく、雪に深々とめり込んでいた。シャベルで周囲を掘り起こし、ノソリンからソリを外して、ノソリンで大木をずらして進路を確保した。額の汗をぬぐうダグラス
「これで先に行けるぞ」
「また〜出てくるんでしょうかぁ〜」
 目を輝かせるセレネスの言葉に、サファイは首を振った。
「あれだけ手ひどくやられたからな。もう出てこないだろう」
「それは残念です〜」
 残念そうなセレネスの横で、ソラが言った。
「日が暮れる前までにはロポサ村に入れるだろう。先を急ごう」

 日が暮れる頃。
 その後は、ソリを付け回すグドンの姿もなく、無事にロポサ村に到着した。キルシュとソラが、ソリの雪下ろしを手伝いに行った。
「お疲れさま、サファイ。ココアだよ」
「ありがとう、シャラ」
 シャラが、全員にココアを配って回る。
「えーと、シフォンさん? 私と雪まつりに……」
 ロウハートが何か言おうとした時、シフォンにココアを差出したサユーユが言った。
「シフォンさん、雪まつりは見に来ますの?」
「はい、来ます」
「私と雪まつりに行きませんか? お土産屋さんとか回りません?」
「はい、いいですよ」
 微笑むシフォン。横合いから、漢(おとこ)笑いを浮かべたダグラスが言った。
「よぉ、シフォン。雪まつり行くのか? 美味い屋台とか出るんだろ? 俺と食いにいかねえか? 奢ってやるぞ」
「あら、奇遇ですわ。ダグラスさんも雪まつり、ご一緒しますか?」
「おう、頼むぜ」
 シフォンに、声を掛けそこなったロウハートの肩を、ぽむと叩いたのはジュランだった。
「せっかくのチャンスだったのに、雪まつりに誘えなくて残念じゃったのぉ、ロウハート」
「な、何言ってるんですかジュランさん!」
 赤面するロウハートに、ジュランはほっほっほと笑った。
「まあ、せいぜい頑張りなされ」

 ロポサ村の雪まつりが開かれたのは、それからまもなくのことだった。


マスター:氷魚中将 紹介ページ
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わからない
参加者:10人
作成日:2004/03/03
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冒険結果:成功!
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