カウントセブン!



<オープニング>


 依頼主が言うことには、ある日、夫が家の裏庭にキノコが生えているのを見付けた。
 そのキノコは見たこともないような不思議なキノコで、赤地に黄色の水玉模様がちょっぴりファンシーだと言えなくもなく。
「しかも、踏むと巨大化したそうです」
「ええ!?」
 何となく巨大化した村人を想像したゴタックだったが、それは違った。踏まれた「キノコが」巨大化したのだそうだ。
 偶然踏んでしまったキノコは5センチが10センチ、10センチが20センチと大きくなって行く。面白がって踏み続け、踏めないくらいに大きくなると今度は叩いたり、蹴ったりしてみた。するとその刺激でもキノコはぐんぐん大きくなった。
 そしてついには3メートルほどまで巨大化し、突如として村人に襲い掛かると胴体部分に開いた大きな口で丸呑みに……
「そんな!」
「されかけて命辛々逃げ出したそうです。そうなるまで止めない村人さんもどうかと思いますが。とにかく危険な魔物ですので、早々に退治していただきたいというのが依頼です」
「何だかキノコに同情しちまうべ」
 確かに、虐げられたキノコの復讐と思えなくもない顛末である。
「で、そのキノコ魔物ですが。お察しの通り、攻撃すると巨大化を続けます」
「ええー!?」
 全然お察ししてなかったゴタックだけが驚いた。
「それと今現在は胴体部分の口の上に大きく『7』と数字が浮かび上がっているんですが、攻撃される度にそれが6、5、4とカウントダウンしていき……0になると自爆しますので、注意して下さい。爆発の規模はそうですね……周囲30メートルは焦土と化すでしょう」
「大変じゃねぇか!」
「大変なんです。もともとカウントは100あったのに、93回も試してくれた依頼主の旦那さんにはお礼の言葉もありませんね」
 霊査士の笑顔が黒い。
「とにかく、カウントが0になる前に倒すしかありません。一撃入魂でお願いします」
「攻撃できるのはあと7回……うんにゃ、確実にいくなら6回だべか? うーん、工夫しねぇと難しいかもなぁ。頑張ってみるだよ」
「よろしくお願いしますね」
 冒険者たちに向かって深々と頭を下げた霊査士だった。

マスターからのコメントを見る

参加者
焔銅の凶剣・シン(a02227)
宣伝部部長・フィロ(a12388)
蒼閃月・エリュトロン(a20610)
暗夜に堕ちる・テラー(a25237)
虚奏・ルーシェス(a28566)
護る盾・ロディウム(a35987)
きのこ貴族・シュゼット(a50578)
湛盧之剣・アセレア(a50809)
白き衣の癒し手・ルシルク(a50996)
愛と美を讃えるお菓子な刺者・スフレ(a52319)
NPC:深緑蒼海の武人・ゴタック(a90107)



<リプレイ>


「さぁ! 華麗に決める可愛いパンダちゃんのお菓子なダンスあるよ☆ 良い子のみんな! 寄っておいで〜♪」
 晴天の青空に能天気な呼び掛けが溶けていく。突如現れたパンダ(着ぐるみ)に集まった人々は唖然としていたが、愛と美を讃えるお菓子な刺者・スフレ(a52319)は気にしなかった。
 裏庭に巨大なファンシーキノコが鎮座する依頼人の家は小さな村では昨今の話題の中心で、通りすがりに覗いて行く人も多い。大概は気味悪そうに避けているが、中には物好きで怖いもの見たさの野次馬も居たり……特に好奇心の強い子供などは親の忠告も聞かずに見物に来たりするものだ。
(「だから我の仕事は、皆がキノコ退治に専念できるよう、野次馬を遠ざけることね!」)
 ぐっと拳を握って胸中で固く誓うスフレ。
「美しい我ことパンダちゃんが良い子のみんなに贈る最高のエンターテイメントある☆」
 そうして可愛い仕草で踊って見せると、子供は喜んで周囲に集まってきた。かわゆいパンダの内臓(中の人)が30過ぎの成人男性だとは知る由もない。いや、知らない方がきっと幸せだ。
 そのまま子供を引き連れて村を練り歩いたパンダちゃんは立派に役目を果たし、大人への対応は焔銅の凶剣・シン(a02227)が抜かりなく行っていた。村長を通じて伝達された避難勧告は周辺住民に受け入れられ、冒険者達に家や畑、詰まるところ全財産を託した人々は「どうか無事に退治して下さい」と涙ながらの懇願を残して立ち去ったのである。
「大丈夫です、誰も残っていませんでしたよ」
「それは良かった。万が一の時は30m以上先までいろいろ飛んでしまうでしょうから。キノコとか家とか私たちとか、ね?」
 周囲を確認してきた無名の翔剣士・アセレア(a50809)の報告に頷いて、スミレアフロ大佐・シュゼット(a50578)は物騒な未来予想図を爽やかな笑顔で口にした。
「勿論なるべく確実に仕留めたいですけども……久しぶりのサンプルですから」
 眼鏡の奥で光る緑の瞳がコワイ。視線の先は裏庭を占拠する巨大キノコへ向けられている。立派すぎるほど立派に育ったキノコを見て普通は圧倒されそうなものだが、翼と共に在ることを誓う武人・フィロ(a12388)は違う危機感を感じているようだ。
「……あまり大きいと思えないですね。普段見ているもののせいでしょうか?」
 普段どんなモノを見ているのか是非ともお聞きしたいところだが、残念ながらそれどころではない。
「あれだけ大きいと……93回目を踏む時は勇気がいったでしょうね」
 原始の闇を想うモノ・テラー(a25237)の感想も何だか違う。
「自爆するなんて傍迷惑ですよねー。ともあれがんばりましょっ!」
 ズレまくった会話にゴタックがオロオロしていると、サヤカの玩具・ルーシェス(a28566)がいい感じに纏めてくれました。
「では、参りましょうか」
 護る盾・ロディウム(a35987)の落ち着いた声に促され、冒険者達は行動を開始した。


 ――シャー!!
 胴体部分にある口を大きく開けて巨大キノコが威嚇する。ゾロリと生え揃った牙が奇妙で生々しいが、それ以上に目を惹くのは口の上でピカピカ光るカウント『7』。
「えっと……7回しか攻撃できないんですよね? 私、昔からこういう……今にも破裂しそうなものというか……ドキドキするのが苦手で」
 回復屋さん・ルシルク(a50996)は緊張に強張る体を威嚇される度に震わせながら魔物と対峙していた。それでも、どんなに怖くても――自分に出来る最善をと、白い術手袋を着けた手を祈るように握り締める。
 場所が人家の裏庭というのがまた厄介だ。先ず狭い。置かれた物干し台や農耕具、設置された花壇や小さな菜園なども邪魔で十分な動きが出来そうにもない。これだけ予想が当たると苦笑するしかないシンである。
「左右から攻めるか……?」
 呟いて抜き放った巨大剣を光が伝い、それは見る間に新たな装飾と強靭な刃へ変貌した。同様にフィロ、ロディウムの武器も変化を遂げる。
「まじかる・えりゅえりゅん、うぇいくあーっぷ! なぁ〜ん」
 蒼閃月・エリュトロン(a20610)の変身――鎧進化もバッチリ決まり、これ見よがしに眼前で繰り広げられる光景に魔物が気を取られるのを見越して、気配を絶ち忍び寄ったテラーの手には不吉な絵柄のカードがある。
「……僭越ですが」
 鋭く投じた初手はバッドラックシュートによる敵の弱体化。赤地に黄色の水玉模様の一部が漆黒に染まると同時にカウントは『6』へ。ブルブルと身を震わせたのは今までに受けた事の無い強力な一撃に驚いたから……だけではなく。
「また一回り成長しましたね」
 覚えずアセレアは目を見開いてしまった。中性的な美貌には呆れたような感心したような、微妙な表情が浮かんでいる。こうも一瞬で大きくなられると冗談のようだ。
「それもどちらかと言うと呆れて物が言えなくなる部類の……ですけどね」
 言いながら、意識をフィロへ向ける。ディバインチャージ奥義によって、彼の大剣は更なる変化を遂げた。神々しい輝きを放つ壮麗でありながら優美な剣へと。
 左右に位置したフィロとロディウムが視線で頷き合った。夏の蒼穹を思わせる碧眼と、深い森の奥に眠る静謐なる泉の如き水色の瞳で。
「カウント……5!」
 紫電が迸り刀身を渡って眩い閃光を放つ。抜き放たれた一撃、電刃居合い斬り奥義は壮絶な威力で魔物を切り裂き。
「カウント……4」
 シュゼットの援護を受け変貌した杖にロディウムは意識を集中した。頭上に集約される紋章の魔力が燃え盛る白熱の太陽となって、放たれる――爆発は目が眩むほど凄まじかった。力の余波が逆巻く烈風となって体を叩く。両腕でカバーし、風を堪えたルーシェスは霞む視界の中で更に巨大化したキノコを見た。
「……嘘」
 体長、およそ5メートル。これだけの攻撃を受けて尚健在なキノコは恐ろしい咆哮を上げ眼前にいる敵……フィロに喰らいついて来たのだ。


 攻撃後の僅かな隙を突かれた彼をキノコ魔物は易々と飲み込んでしまうかに見えた。避ける事が出来たのは多分に運が力を貸したのと――間に立ち、牙の一撃を受けたシンが居たからだ。
「ま、非常識極まるキノコだが、的はでかくなって結果オーライだな」
 鮮血を滴らせて爽やかに笑っている彼の方がよほど非常識に見えるし、癒しの水滴を使おうとしたルシルクを制してエリュトロンへの援護を優先させろと言うに至っては常軌も逸しているように思えたが、彼なりの目算はかなり理想に近付いていた。
「つーか、こんなヌルイ攻撃じゃ足りねーぜ」
 そうして、挑発するように武器を肩に担ぐ。眼前で開かれた巨大な口は虚空に出現した真っ赤な洞穴のようだ。そこに輝く白き槍――シュゼットの放った慈悲の聖愴が吸い込まれるように突き刺さると体内で弾け、悲鳴のような咆哮が頭上から轟く。
「カウント3、ですね。……程々に願いますよ?」
「ん、済まん」
 シュゼットの怜悧な一瞥を受けて謝罪し、困ったように笑うシン。そうすると精悍な顔立ちが一転し、親しみやすい柔和さを感じさせる。
「……残り4回なぁ〜ん。キノコはまだまだ元気みたいなぁ〜ん」
 エリュトロンは青玉石の瞳を僅かに曇らせた。恐るべき魔物は更に巨大化を続け、家屋を押し潰さんばかりになっている。壁にはひび割れが走り、猶予の無さを物語っていた。
「一気に決めるなぁ〜ん!」
「私に出来るのはこれくらいだから……エリュトロンさん、お願いしますね!」
 小柄な体が大地を蹴って駆ける。一拍で間合いを詰めたエリュトロンの長剣が全身全霊を込めたルシルクの助けを受けて神々しく輝き、抜き放たれた白刃に雷光が閃く。魔物も黙って受けはしない。再び牙を剥き――交差する攻撃。
「最大威力のこけてぃっしゅ・すらっしゅ……なぁん!」
 カウント『2』――屋根が音を立てて崩れた。再び鮮血が舞い、敵の攻撃を引き受けたシンが壮絶に嗤う。
「カウント、1!」
 交差するよう駆け抜けたフィロの剣は稲妻よりも尚蒼く煌き、痛烈な一撃を刻む。魔物の悲鳴は大地を震わせて。
 前線から引き下がったゴタックがロディウムに視線を送る……自分には荷が重過ぎる。とてもじゃないが皆ほど威力ある攻撃は放てないと。
 頷いたセイレーンの武人は身に馴染まぬ紋章の力を、今一度頭上に集約させ、解き放った。白く染まる視界――その先に紫暗の外套……否、召喚獣を従えた狂戦士が居た。
 鳴動する琥珀の刀身に爆発的な闘気が凝縮している。ルーシェスはそこに意識を、祈りにも似た力の息吹を送り込んだ。そして――
 ――カウント…………『0』
 不思議と音の消えた世界の中、振り下ろされた巨大剣が、真紅の旋風に彩られ――爆音が村を震撼させた。


「……つーか、マジ痛ぇ」
 崩れ落ちた瓦礫の中に座り込むシン。かなりの無茶を強いた体には無数の裂傷が刻まれ血を流している。だがその甲斐はあって、十分な体力を残していた魔物は屠られた。まさにギリギリの際どい賭けに、彼らは勝ったのだ。
「我の優雅で力強い愛で蘇るヨロシ!」
「背景に薔薇の咲きそうな命の抱擁もありますけれど?」
「……俺が悪かった」
 スフレが手をわきわきさせながら癒しの水滴を迫り、もういっそ突き抜けた爽やかな微笑でアセレアが訊くと――要するに無茶をした彼に怒っているのだ――シンは全面降伏して謝るしかない。
「見事に一片たりとも残ってませんね……残念です。黒いお茶、飲みますか?」
 周辺を探して魔物のサンプルが取れないと知ったシュゼットもニッコリ笑顔で眼鏡を押し上げているのだ。魔物と対峙した時よりも数倍、命の危機を感じたのは間違いないだろう。
「……まあ、成功して何よりということにしておきましょう」
 淡々とテラーが言うと、頷いたロディウムは少しだけ疲れたように、吐息を零す。
「奇妙な相手……でしたね。普段あまりやらないようなことをしてしまいました」
「家は少し壊れてしまいましたが……踏んだ方も悪いんですから、納得していただくしかありませんね」
 屋根の残骸を見下ろして言い結んだテラーが顔を上げると、折りよく奥様に叱責されながらやって来るその旦那が見えた。非常に恐縮した様子で感謝と謝罪を述べる中年の男性に「日ごろの鬱憤でも溜まってたのでしょうかね……」と胸中で首を傾げるアセレア。
「こんな面白そうな物……じゃない、少しでも怪しい物を見かけたら、早めに依頼を出していただくことをお勧めしますよ。何かあってからでは大変ですからね」
 温和な笑顔――これが人の良さそうな青年に見えるから知ってる人には尚怖い――でシュゼットが報告の後に言い添えると、依頼人は何度も頭を下げて必ずそうすると確約した。

 途切れなく掛けられる謝辞と笑顔に送られて帰路につく冒険者達は最後に、子供たちから小さな向日葵の花冠を手渡された。スフレには『パンダちゃん、また来てね!』と書かれた手紙が添えられて。
 そこには全ての冒険者が最善を尽くした結果が燦然と輝いている。真夏の太陽のように。

■END■


マスター:有馬悠 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2006/08/13
得票数:冒険活劇4  戦闘5  ミステリ2  ほのぼの1  コメディ11 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。