【P.M.】ダディ・ベア



<オープニング>


●Pretty Monsters.
 モンスター。人々の生活や命を脅かす、恐るべき存在。
 しかし、そんなモンスターの中にも、時には攻撃する事に躊躇してしまうような奴、一度、思うさま抱きしめてみたいと思うような可愛い奴も現れる。
 だが、その円らな瞳が心に訴えてきても、そのもふもふの誘惑に負けそうになっても、決して屈してはならない。それらは、倒すべき存在、『モンスター』なのだから。

●廃墟に棲む
「……帰りたいね」
 少女が呟く。未だ聞こえる重い足音は、それを許さないと分かって居ても。
「……帰りたいな」
 二人の少年が唱和するように答える。蘇る悪夢のような光景。廊下に転がっていたテディ・ベアに惹かれて入ったその部屋で、襲い来る巨大なテディ・ベア。
「帰りたいよぉ……!」
 夜はまだ長い。狭い部屋で身を寄せ合い、子ども達は助けを待っていた。

「……これは、可愛いと表現していいものなのでしょうか」
 何やら微妙な顔をしている九転十起の霊査士・リーゼッテ(a90308)。テーブルの上には、何故か一体のテディ・ベアがある。なんだかこのテディ・ベア、微妙にガン付けている気がしないでもない。
「まぁ可愛い、んでしょうね、多分。うん。という事で依頼ですっ」
 やっと納得してテディ・ベアから視線を外した霊査士は、酒場に集まった冒険者達に声をかけた。
 依頼内容は廃墟に棲み付いたモンスターの討伐。とある地方の名家が所有していたというその館は、見晴らしのいい崖の上に建っていた。その名家が没落し館が放棄された後は瞬く間に廃墟と化したが、子ども達が肝試しと称して夜中に入り込むことは多々あったらしい。
「勿論、親御さんはキツく禁止してます。けど駄目だと言われるとやりたくなる、子ども心って言いますか……」
 その日も、子ども3人が夜中に侵入し、そして――帰ってこなかった。丸二日たった今でも、その消息はようとして知れない。
「ダッド君、テリー君、トーリャちゃん。行方不明なのはこの三人です。霊視の結果、生きているのは分かりました」
 廃墟の部屋のどれか一つに居るだろう、と霊査士は語る。迷子を連れ帰るだけなら容易いのだが、勿論それだけでは終わらない。憔悴して部屋の隅にうずくまる子ども達の他に、闇に蠢くモンスターの気配があった、と続けて紡いだ。
「とても大きい、丁度このテディ・ベアみたいな姿をしているんです」
 身の丈2メートルほど。ぬいぐるみといえど爪や牙は頑強で恐ろしく鋭い。因みにどうでもいい話だが、抱きつくと凄いもふもふして気持ちいいらしい。無論、そんな事をすれば無傷では済まないが。子ども達はこれに遭遇して、帰るに帰れなくなったようだ。
「駆けつけるまでは、多分無事でいてくれると思います。ただ、どこかに潜むモンスターを早く見つけないと、被害が出るかもしれません」
 どうかそうならないように、宜しくお願いします。深々と頭を下げた霊査士は、テーブルに額をぶつけ、仰け反った拍子に後頭部まで強打しつつ、涙目で冒険者達を見送った。

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参加者
天紫蝶・リゼン(a01291)
儚き月・ミルフィナ(a16290)
星夜の翼・リィム(a24691)
終焉を綴る少女・テルミエール(a33671)
牡丹色の舞闘華・ヤシロ(a37005)
虚静なる形代・ロティオン(a38484)
煌蒼の癒風・キララ(a45410)
礎と成りせしは甦る森孤狼・サバイヴ(a45939)


<リプレイ>

●募る想い
 彼には、いつだって自分を誇ってくれる家族がいた。命とだって引き換えられる程の。
 大切な彼女を想い、彼が持って帰る土産のテディ・ベアは、常に彼女を喜ばせた。部屋を埋め尽くす小熊のぬいぐるみは、彼と彼女の絆の証だった。嗚呼、だが彼はモンスターと化してしまった。最早理由も意味も忘れ、証に占拠された部屋で、それは――哀れな獲物を待つのだ。

 墨で塗りつぶしたような暗闇の広がる夜。星の海を臨む崖の上に聳え立つ廃墟へ至る一本道を駆けていく、8つの影があった。手に手にランタンを掲げ、その光は時に舞う蝶の姿を写し、時に柔らかな月光にも似た光で行く先を照らす。
「みんな、準備は大丈夫だよね?」
 真っ先に扉の前へ辿り着いた天紫蝶・リゼン(a01291)が振り返り、仲間達に声をかけた。皆それぞれに頷き、答えを返す。
「勿論。早く入りましょう」
「うむ、子どもらも皆、心細かろうしのぉ」
 儚き月・ミルフィナ(a16290)は力強く頷きながら答え、槍投げ老人男子部門第十一位・サバイヴ(a45939)もまた、ゆるりと首を縦に振る。
「さぁ、行きますよ!」
 虚静なる形代・ロティオン(a38484)が扉に手をかけ押すと、重たく軋む音と共にゆっくり開いた。館が抱いた濃く深い闇を、冒険者たちの掲げたランタンの光が、切り裂くように照らした。

●想いとの遭遇
 館に全員が入ると、見計らったように扉がしまった。扉はバタンと大きな音を立てて閉まり、何人かは思わず驚いて身を竦める。星夜の翼・リィム(a24691)、終焉を綴る少女・テルミエール(a33671)、煌蒼癒風・キララ(a45410)が、それぞれにホーリーライトを灯した。
 白い光がすぐさま漆黒を払えば、埃と蜘蛛の巣にまみれた調度品や、破れた絨毯が物悲しい階段が見える。放置されてから如何ほど経つのかは分からないが、その荒れ様は誰の目から見ても酷いものだった。
「それじゃ、予定通りあたし達は二階に行くね」
「はい。どうか……お気をつけて」
 旋風の八重牡丹・ヤシロ(a37005)とテルミエール、他の皆も一言二言かわし、冒険者達は二手に別れた。

 一階を捜していた一行は、割とすぐに行き詰っていた。扉と扉の間隔だけで部屋の大きさは測りきれず、なかなか子ども達の姿を見つけられない。モンスターに見付かることを恐れてか、話し声もなかった。
「ここも……違いますね」
 うーんと首をかしげて、テルミエールは考える。狭い部屋――この広い館においても、狭くなる、部屋?
「あ……」
 何かに思い当たったテルミエールが、素早く周囲の扉を確認した。その一つに目を留めて、皆に声をかける。テルミエールが指したのは、他よりも装飾がない、侍従用と思しき部屋だった。
「ほう! そうじゃの、ここは本邸というより避暑用の館のようじゃし、侍従の部屋は他に比べて狭いわな」
「うん、見てみようよ」
 サバイヴが納得したように笑い、リゼンも同意を示す。ミルフィナがそっとその簡素な扉を開けた。
「わぁ?!」
「きゃあっ」
 突然差し込んだ光に、小さな声が悲鳴を上げた。中を覗き込めば、小さく固まってこちらを見ている、子どもの姿。
「やほ♪ あなたたちを迎えにきたよ」
 声をかけられ、相手がヒトであることを確認した子ども達は、ほっと息を吐いた。そろそろとこちらに歩み寄ってくる。ぎゅうと縋ってきた手はまだ力強くて、冒険者たちも知らず知らず安堵する。
「よし、じゃあ安全な所に……」
 リゼンがそう言い掛けた時、上で輝いていた光が赤に染まった。

 時間を少し巻き戻す。二階に向かった一同は、まず廊下の荒れ具合に目を瞠った。手すりは腐り落ち、床もあちこちに小さな穴が開いている。これでは、通常攻撃をうっかり当てただけでも崩れそうだ。そろそろモンスターが動き出す時間帯だったこともあり、気配と足下に細心の注意を払いながら移動する。
「……足跡だらけ、だな」
 ドア周辺を観察していたリィムが呟いた。廃墟なので、砂埃は積もる。だから足跡をよく見れば子ども達がどこに居るか分かるかもしれない。彼女のその考えは、ほぼ当たっていた。しかし、ここは子ども達が度々遊びに入るスポットだったという事を計算に入れていなかった。足跡はいくつもあり、それで判断するのは難しい。仕方なく、一つ一つ調べていく。
「ガキども居るなら返事しな」
 その口調からは呆れも見えるが、何より真剣な心配そうな色も覗く。子ども達の声を聞き取ろうと、耳を澄ました。
 ロティオンはカンテラに布をかぶせて光を調整して、モンスターに気付かれぬよう気を配る。もっとも、ホーリーライトを使っている仲間が二人も居る状態では、効果は余り望めそうに無かったが。扉と扉との間隔から部屋の大体の大きさを測り、狭そうな所からそっと扉を開け、中を確認する。しかし、なかなかアタリの部屋は見付からない。
「この辺にはテディ・ベア、落ちてないね」
 ヤシロは、子ども達が逃げられないのは、モンスターの方が出入り口に近い位置にいるからだと踏んでいた。カンテラを持つ手を動かし、向かい側の廊下を見遣る。
 その紫紺を宿した目が、大きく見開かれた。
「みんな、あそこ……!」
「え? ヤシロ、何か見つけたの……」
 そしてキララも、ヤシロが指差した一部屋に視線が釘付けになった。僅かに開いた扉、そこから、明らかに人ならざる者の腕が覗いていたのだ。一同は駆けた。キララがホーリーライトを赤に変えて、階下の仲間達に合図を送る。そして、ちょうど扉から『それ』が姿を現した時、四人が周囲を取り囲んだ。

●想い馳せる
 ゆっくりとした動きで姿を見せたテディ・ベア、いやモンスターは、茶色の艶々した毛並みにガラスのように煌く瞳で冒険者達を見ていた。そして見た目だけでも、そのもふもふ具合がある程度察せるほどにふかふかだった。中身が伴わなくては、真実可愛いとは言えないと思っていたキララも、その愛らしさに思わず和みかける。
「い、いけないわ、退治よ退治っ」
 気を取り直し、それぞれが武器を構えた。真っ先に動いたのはリィム。その手に現れた不気味なカードは正確にモンスターを捉えた。モンスターの腕に黒が広がる。
「もふもふいいなぁ……じゃない、いくよっ」
 次いでヤシロが駆けた。床を蹴ったと思った次の瞬間、モンスターの目の前まで接近し、鋭い蹴りをお見舞いする。茶色の毛がばっと飛び散った。
「こっちです!」
 ロティオンは素早く攻撃して気を引き、一階へと走った。確かにこの狭さでは、階下のメンバーが集まることもできない。他の三人も、同様に下へ向かった。緩慢な動作で、モンスターが階段を下り追ってくる。
 モンスターが階段を降りきる前に、巨大剣がモンスターの体を吹き飛ばした。豪快な爆発音と共に、階段に強かに体をぶつけるモンスター。その前には、巨大剣と身の丈さほど変わらぬ女性―リゼンが立っている。
「参ります……!」
 テルミエールが目に見えぬ衝撃を放った。一瞬のけぞったモンスターは、ここで初めて反撃に出る。今までの動きよりは若干素早く、その爪がミルフィナに迫った。咄嗟に避けるも、爪は腕を掠めて幾筋かの赤を刻む。痛みに顔を顰めながら、ミルフィナは緑の業火を放った。
「容赦はしないよ!」
 その言葉通り、情けを持たぬ炎がモンスターの身を焼く。焦げた耳が焼け落ちるが、このモンスターには表情が無い。それがどうにも不気味だった。
「皆、気をつけるのよ!」
 ここで倒れてしまえば、自分達だけでなく子ども達の命も危ない。暖かな色の光が波紋のように広がり、傷を治した。サバイヴがモンスターの足下を狙って粘り蜘蛛糸を放ち、その身を拘束する。
「あ、今ならふかふかできますよ!」
 モンスターが動きを止めたことを確認し、ロティオンが発した声に、二人程が突撃を敢行した。
 もふっ。ふかふか。
 数秒程幸せそうな顔をした後、はっと我に返って離れる。――でもしっかり堪能したようだ。
「……終わりだ!」
「ごめんね、さよなら!」
 リィムとヤシロが左右から同時に動いた。シャドウスラッシュが左半身を裂き、炎を纏った扇が右半身を焼き尽くす。ぐらりと体が傾き、モンスターが仰向けに倒れた。次の瞬間、体が端から砂になって崩れていく。最後に、ガラスの瞳が落ちて砕けて――涙のように、煌きだけを残した。

●想い抱えて
「よく頑張ったね、もう大丈夫だよ」
 館を出て、ミルフィナは子ども達を優しくねぎらった。サバイヴがビスケットを、リィムがパンをそれぞれに差し出すと、子ども達は律儀にも丁寧に礼を言い、それからかぶりつく。その様子を微笑ましく見ながら、キララがフワリンを召喚し、子ども達を乗せた。
「気持ちいいでしょ? このままお家まで帰りましょ」
「わぁ、凄い、可愛い!」
 簡単の声をあげて、フワリンの首にぎゅうと抱きついたのはトーリャ。幸せそうな笑顔に、テルミエールも思わず微笑する。
 のんびりとした帰り道だった。そろそろ月は沈んで空が白みかけていた為に、お腹一杯になって幸せな子ども達はすぐにうつらうつらとし始める。このままだとフワリンから落ちかねないので、リィム、リゼン、ミルフィナがそれぞれ一人ずつを背に負う。
「みんな疲れたんだろうね……」
 すぐ寝息をたて始めた子ども達を見て、リゼンが呟いた。夜が明ける頃に村に辿り着くと、寝ずに待っていたらしい三人の家族が出迎える。まだ眠り続ける子ども達をそっと受け取ると、家族たちは揃って頭を下げた。
 恐らく子ども達は、目が覚めればたっぷり叱られることだろう。でも今は、お疲れ様――。
 登り始めた朝日を背に、冒険者たちも帰路に着いた。


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