西方国境警戒令 〜白き翼の蠱惑〜



<オープニング>


 西方国境の警戒。依頼ではないが、これもまた同盟冒険者の大切な仕事の一つ。
 蒼海の剣諷・ジェイク(a07389)も仲間達と共に、国境以西のモンスター地域からモンスターが迷い込んで来ていないか警戒をしていた。

 その日、激しい雨が降った。雨が降る直前までは普通に晴れていたのだが、急に雲が立ち込めて降り始めたのだ。
 冒険者達は急いで近くの木の下に避難した。
「酷い雨だな」
 バンダナを外し堅く絞るジェイク。絞られたバンダナから水が零れ、地面に染み込む。もう一度堅く絞った後でジェイクはバンダナを着け直した。
「後で武具の手入れをしておかないといけませんね」
 一輪の花・オリヒメ(a90193)もまた荷物の中から乾いた布を取り出し、武器や鎧についた水気を拭き取る。武器の方はともかく、鎧は形が複雑な分手入れが大変そうだ。
 雨は中々止まず、巡回もままならないようであれば一度戻ろうかと話し合っていた時、ジェイクは一枚の美しい羽根が地面に落ちているのを見つけた。
「あそこにも落ちてますだよ〜」
「お、そこにもだ。結構落ちてんだな。売ったら飯の足しにでもなるか?」
 豪雨の中でも、同じような羽根を仲間たちは何本も見つけ出した。実際に手に取ってみると、その大きさは大型の鳥のものと比べて2回り程大きく、普通の動物のものではないと直感が告げる。
「あれは〜動物の死体かなぁ〜ん!?」
 のんびりとした口調の中に見過ごせない言葉を聞き、ざっと確かめると、そこには六頭の狼が倒れていた。うち二頭は首の辺りを引き裂かれていたが、他の四頭に外傷は無く。触ってみると既に命の鼓動は感じられず、全て息絶えていた。
「まだ……死んであまり時間が経っていないようです。見てください、雨が降っているとはいえ、傷口からまだ血が流れている」
「……。まだそう遠くない所にモンスターがいる、という事ですね」
 オリヒメが真剣な表情で告げ、息を飲む。
「探し出そう。モンスターをここから同盟内に引きいれてはならない。俺達はその為に来たのだから」
 被害は未然に防がねばならない。ジェイクの言葉に、仲間の大半が同意した。
 未だ雨は降り続ける。まるでモンスターの痕跡を消し去ろうとするかのように。そして激しい光と共に雷鳴が轟いた。

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参加者
嘲う道化・ロウ(a01250)
射手・ヴィン(a01305)
規矩なる錬金術師・フェイルティヒ(a07330)
蒼海の剣諷・ジェイク(a07389)
悠悠自適な牙狩人・デュ(a07545)
犬と本気で戦えるダメ男・ガンガルス(a09429)
ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)
蒼翠弓・ハジ(a26881)
NPC:一輪の花・オリヒメ(a90193)



<リプレイ>

●敵の像
「うーん……」
 規矩なる錬金術師・フェイルティヒ(a07330)は移動しながら、狼の周辺に散らばっていた大きな羽を手に再び考えた。
 白鳥を思わせる水鳥の白い羽。一見何の変哲もない、大きいだけの羽だ。特別先端が尖っているわけでも、刃のように鋭いわけでもない。もっとも冒険者が武器や防具を変化・硬化させる事ができるように、モンスターが自身の羽を変化させる事ができる可能性もあるのだが、地面を穿つような跡もない事から、この羽自体を矢のように飛ばすとは考えにくい。
「それにしても、獰猛そうな足跡だったよな」
 ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)から貰ったチョコレートを大胆に頬張りつつ遠眼鏡で空を覗き込み、犬と本気で戦えるダメ男・ガンガルス(a09429)が言った。ちなみに体温保護と体力維持が目的のチョコだが、精神は食えるときに食えだ。
 倒れていた狼たちの側、雨を吸って柔らかくなった地面には、狼のそれとは違う一回り大きな足跡が残っていた。動物知識に詳しい仲間の見立てでは、猫科のものだという話だ。気になる所は足跡が大きいだけではなく、地面に何かを刺したかのような跡がある点だった。足跡の位置から考えると、それは恐らく爪。狼の首筋に残っている傷跡は爪によるものだろう。
 この事から、今3手に分かれて探しているモンスターの像が、想像だがある程度浮かび上がってくる。
  1.翼を持ち飛行できる可能性が高い。
  2.直接の攻撃手段は爪による接近戦。
「フェイルティヒさんもしっかり探して下さい」
「ああ、すいません、すっかり考えに浸ってしまって」
 蒼翠弓・ハジ(a26881)につつかれ、フェイルティヒも警戒用に持ってきていた遠眼鏡で警戒をする。ガンガルスが空を中心に探しているならと地平線を目指して筒を除き込んだが、残念ながらモンスターの姿を捉える事はできなかった。
「無傷で死んでいた狼の事なのですが、やはり羽に何か秘密があるのでしょうね」
「そうだな。毒だろうか。即死性なのかはわからねえが。……触っても何ともないんだよな」
「ええ。何も異常は感じませんでした。放たれるとすぐに消えるものなのかもしれません。それでも狼の周辺に沢山落ちているのは不自然ではあるのですが」
  3.触れずに攻撃できる何らかの異常能力。
 これらが、現場に残っていたものから考えられるモンスターの特徴だろう。フェイルティヒとガンガルスの考察は、メンバーを分ける時には簡単に仲間に伝えてある。せめて警戒の役に立てばと二人は願った。
「あ。……ジェイクさんの武器が消えました。見つけたようですね」
 1組3人で構成された3班のうち、いずれかの班が見つかった場合の連絡方法を、冒険者達は各班1人ずつ3人の武器交換を2組行うという形で、ウェポン・オーバーロードによる転送を合図にどの班が発見したかわかるようにしていた。もう1班にも連絡は行っているはずである。
「光は……あそこだな。急ごうぜ」
 同時に上がる黄色のホーリーライト。悪天候で薄暗いとはいえ日中の光源を探すのは困難であったが、ガンガルスはそれを何とか拾った。フェイルティヒとハジは己の得物を引き寄せ、苦戦をしているであろう仲間の元に、ガンガルスと共に駆出した。

●耐える戦い
「いましただよ」
 悠悠自適な牙狩人・デュ(a07545)の優れた感覚がモンスターの姿を捉えた。白い翼を持つ黒豹。狼を襲ったモンスターだ。
 モンスターは空を飛びつつ、何かを探しているようだった。恐らく獲物だろう。狼の体に引き割かれた傷はあっても肉を喰らった跡はなかった。食べる為ではない。殺す事が目的なのだ。
 飛行速度はゆっくりで、追いつけない速さではない。蒼海の剣諷・ジェイク(a07389)は同じ班のデュとアユムの顔を見て、心の準備が出来ているのを確認して行動に移った。
「……いくぞ」
「はいですだ」
「わかりましたなぁ〜ん」
 ジェイクとデュが、仲間に預けていた武器を手元に転移させる。これで他の2班にジェイク達の班が見つけた事が伝わるはずだ。しばらくして逆にジェイクとデュが預かっていた武器が消える。また並行して、アユムの頭上に黄色く輝く光の環が浮かんだ。仲間達はこの光を目印に集まってくるはずだ。
 後はモンスターを逃さないように引きつけ、戦いながらも合流が少しでも早くなるように3班が別れた樹の側に移動する。通常モンスターは依頼を受けた冒険者が総出で相手をして、逆に言えば討伐に必要であろう人数を集めて退治する事が多い。それをまずは3人で相手をしなければならない。口で言うのは容易いが、非常に危険な役割だ。
 デュが間合いを詰めて愛用の大弓を引き絞る。弓と弦との間に追尾する矢を生み、勝手を放した。飛び出した矢は軽い弧を描いてモンスターを撃ち抜き、孟狂ったモンスターは矢が放たれた方向、黄色い光の元に集う獲物の姿を認めて向かってきた。アユム、デュの2人を庇うように前に立つジェイク。
 バサッっとモンスターが羽ばたくと、何枚もの羽が光を帯びて3人の周囲に舞った。その様子は正に心奪う美しさがあったが、その美しさは魔的なものが込められているように感じた。
「この感覚は……毒か?」
 肌に何かが浸透するかのような感覚。じんわりとした痛みも感じる。
「デュはん〜? しっかりしてくださいなぁ〜ん?」
 立ちすくむデュ。弓を構える手が緩み、瞳の焦点も定まっていない。すぐさまアユムが光り輝く聖女を呼び出すと、聖女はデュの鼻に口付けをした。はっとして弓をギュッと掴むデュ。そこにモンスターが上空から爪を伸ばして前足でデュを襲い掛かる。間一髪の所をジェイクがデュを突き飛ばし、辛うじて爪の一撃を避けた。
 デュが弓矢を射り後退を支援しつつ、冒険者達はモンスターから距離を開ける。その3人をモンスターは地を空を駆け、さほど間をあけずに追いつき再び羽ばたき羽を飛ばす。
 惑わしと毒を秘めた羽は、とりわけデュとは相性が悪いようでしばしば心を乱され、またジェイクも仲間を庇って傷を負い、アユムの治療を受けている。
 やがてデュは矢の力を、アユムは癒しの力を使い果たし、ジェイクはモンスターが追いすがった時に剣を振るっていた為他の2人よりはアビリティの使用頻度が低くかったが、アユムに代わって毒消しの風による治療に回り始めた為に更に攻撃の機会は減った。3人はよく奮戦したが、傷の治療ができない為に徐々にダメージは蓄積し。
「!! 危ないですだ!」
 矢筒から矢を取り出し速射するデュだったが、モンスターはそれを辛うじて避け、アユム目掛けて爪を振り下ろす。アユムの首に巻いたタオルが避けて飛散し、皮鎧に傷跡が残った。
「このっ!」
 ジェイクの電刃衝がモンスターの表皮を掠り、軽い痛みと共にモンスターはアユムから離れた。
「大丈夫か!?」
「へ、平気ですなぁ〜ん」
 満身創痍の3人。モンスターが再び飛翔するべく翼を大きく広げた所で、雷光の一閃が横からまっすぐモンスターを貫いた。
「間に合ったみたいだね」
「待ってたぜ、ヴィン」
 3人の辛うじての無事を確認し、樹上の射手・ヴィン(a01305)は再び弓を引いた。

●集結
 ヴィン、嘲う道化・ロウ(a01250)、一輪の花・オリヒメ(a90193)の3人が合流し、すぐさま戦闘に加わった。
 オリヒメが自分に鎧聖降臨を使って傷だらけの仲間の前に立ち、ロウが勇ましい凱歌を歌い、傷ついた仲間に勝利をもたらす力を呼びこむ。
「アユムはん、ここはわいらに任せて下がっといたほうがええ。万一の時の生命線やからな」
「わかりましたなぁ〜ん」
 命の抱擁を使える仲間を戦列から下げ、モンスターと対峙する5人。先の3人の善戦もありモンスターはそこそこの怪我を負っているが、引くつもりはないのか翼をばたつかせて羽を飛ばしてくる。
「気をつけろ。心を奪い、体を蝕む羽だ」
「わかりました」
 気を引き締め武器を構えるオリヒメ。人数が増えて退避しながらの戦いではなくなった為、ヴィンとデュの牙狩人2人は矢が届くギリギリの範囲に陣取り、羽の力が及ばない。そしてロウ、ジェイク、オリヒメは心を揺さぶる力に強い為、羽の誘惑を精神力で退けた。
「そんなんに負けてたまるかいな!」
 ロウが嵌めている銀糸で織られた手袋の指先から七色の光が放たれモンスターを直撃し、軽快なファンファーレが鳴る。再びヴィンが稲妻を生み、弦を放して稲妻を飛ばした。
「お待たせ」
 その稲妻から少し遅れて、同じく稲妻が飛びモンスターを打つ。
「遅いですよ、ハジさん」
 ハジ、フェイルティヒ、ガンガルスの3人も、ヴィン達にわずかに遅れるタイミングで戦線に到着、術や弓の使い手が増えた事で俄然優位に立つ冒険者達。
 フェイルティヒが放った粘り蜘蛛糸がモンスターを捉えて地面に引きづり下ろす。そこに一斉に剣や槌、光弾や矢を叩きこむ。苦悶の声をモンスターは上げつつもモンスターは網を抜け出しジェイクに爪を振るうも、鎧聖降臨で強化されたコートは傷一つ負う事なく、爪から主の身を守った。
「止め、いくで!」
 ロウが掛け声と共に再び華麗なる衝撃を見舞う。ガンガルスのエンブレムシュートとフェイルティヒのソニックウェーブがモンスターの両翼を傷つけ、落ちてきた所をジェイクの電刃居合い斬りとオリヒメのホーリースマッシュ、デュの矢が打つ。
「いきますよ!」
「これで、最後です」
 ヴィンとハジが同時にライトニングアローを打ち出し、重なって巨大に見える稲妻はモンスターを撃つと消え去り、同時にモンスターも消失した部分から大量の血を吹いて倒れ、動かなくなった。血は雨水で流され、薄く大地に広がっていった。

「みんな〜無事ですかなぁ〜ん?」
 離れていたアユムが、戦いが静まったのを見て戻ってきた。幸い、彼女の術の世話になる程の酷い怪我人はおらず、アユムはほっとした。
「遅れて悪かった。無事でなによりだ」
「いやいや、間に合って助かったですだ」
 ガンガルスがそう言いながら、癒しの力でデュの傷を治療した。他の治療術が残っている仲間も、同様に全員の傷を癒す。
「雨が少しゆるくなりましたね」
 空を見上げ、ハジが言った。手分けして探し始めた時と比べ、雨足は確かに収まっていた。
「今の内に戻りますか」
 ヴィンが弓を背負いながら提案する。反対の声はない。
「戻ったらあり合わせの材料で何か暖かいものを作りましょうか」
「それはありがたい。楽しみだな」
「体が温ったまるスープとか、美味しそうやね。……っくしゅん」
 オリヒメの申し出に、ジェイクとロウが感謝と希望を述べた時、ロウがくしゃみをした。雨に打たれ続けた為だろうか。
「ロウさん、大丈夫ですか? ……っくしゅ」
「はは、フェイルティヒもくしゃみしとるやん。……くしゅん」
「暖かいスープを飲めば、軽い風邪くらいすぐ吹き飛びますよ。さ、帰りましょう」
 暖かいスープ。雨で冷えた体には、それが何よりの報酬であった。


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