【君を思う】ほたる火を追って



<オープニング>


 君の灯を目指して、飛んでいこう。
 僕はきっとまっすぐに君を目指す。
 同じような灯りを目にしても、間違えないように、
 確かな約束を、この手に掴んで……。

 玉石の敷き詰められた沢を、風が渡る。おだやかに流れゆく水の上を通り過ぎた風は、心地よく肌を撫で。
 冒険者達が蛍の名所のある小さな村を救ったのは去年のことだ。季節が巡り、また、柔らかな光を灯す虫達が求愛に舞う時期がやって来た。
 沢には特別に、竹を組んで作ったベンチがいくつも用意されている。思い思いに身を寄せ合って座る、恋人や家族の姿……。
 その頭上を舞うは、短い命を燃やして光る、蛍達。
 空の星に負けぬほどにかがやく、命の灯。

「依頼だ。つーても、半分はお誘いでもあるんだがな。冒険者様を蛍の名所にご招待。但し、ついでに盗賊をシメてくれる人ー」
 手ぇあげてー、と若干気だるげに言う霊査士。
「観光地の定めだな。沢が薄暗いのをいいことに、観光客を相手にする物盗りが現れてな。ちょっくら行ってきてシメてやれ。……ついでと言っては何だが、客を装えるよう土産物屋が浴衣とか小物を提供してくれるらしいんで、好きなモノ選んで遊んで来いよ。いい風景だぞ、あそこは」
 俺もどーせなら付いていきたーい、と暑さにやられた霊査士は机に突っ伏した。

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参加者
蒼の紋章術士・イルイ(a01612)
銀隷・ルシェル(a16943)
風声鶴唳・ゼアミ(a21108)
白水六花・ロッカ(a26514)
世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)
流れゆく風の如き・ミネルヴァ(a29527)
守護者・ガルスタ(a32308)
世界を救う希望のひとしずく・ルシア(a35455)
闇を纏い光を仰ぐ・ミサ(a37391)
水天一碧・ロゼッタ(a39418)
氷壁の勇魚・キル(a39760)
婀娜花・ネメシス(a45935)
NPC:深蒼の萌花・マリーティア(a90343)



<リプレイ>

 夕暮れが訪れると同時に、沢には人があふれだす。そぞろ歩きの恋人達はそっと手を握り、子供達ははしゃいだ声で走回って、それを見る親御は誰もしあわせそうな笑みを見せ。
 鈴の鳴るような虫の声、さらさらと流れる水音は爽やかに。闇が訪れる頃には、沢山設けられた筈のベンチも、寄り添う人々の姿で埋まってしまう。
 ひとつ、ふたつ。
 ……沢に、光が飛び交いはじめた。

 ある者は観光を装い、ある者は沢を巡って。誘き出されるは無粋なるやから。
 まんまと掛かったそれらは、痛い目に遭う者、眠りに誘われる者、拘束される者、衆目の中で詰問される姿もあり。
 光が沢に広がる頃には……。
 素早く問題を片付けて、いとしき者や、友の待つ場所へ急ぐ、冒険者達の姿があちらこちらに。

●それはいざないの光
 銀隷・ルシェル(a16943)は急いでいた。大切なご主人様……シューファを随分と待たせてしまったから。
「お、お待たせしました……ご主人様。そ、その……ごめんなさい……」
 シューファは息を切らせ走ってきたルシェルの姿に笑い。
 いつもと違う浴衣姿にどきどきしながら手をつないで川原を歩く。飛び交う蛍のやわらかい光に映し出されたシューファの、濃紺に菖蒲の柄がとても落ち着いた雰囲気をただよわせていて。
「……あ、あの……とても……お似合いです……」
 蛍を眺めるシューファの横顔に、ルシェルは引き寄せられるように……頬に触れる、あたたかな唇。
「ボクも……ご主人様に呼び寄せられちゃいました……」
「ルシェルったら……」
 シューファはくすぐったそうな、ひどく幸せな顔をする。
 ひとしきり蛍を眺めた二人は、土産物屋に向かう。ルシェルは螺鈿細工の櫛を買った。二匹の蛍が舞うさまが、自分達のように思えて。そっと差し出した櫛を受け取る彼女を抱き寄せ、
「いつまでも……蛍のようにボクを導いて下さい♪」

●いとしき光に
「蛍は好きだわ……とても、儚いけれど」
 蛍を見上げ、マイヤが呟くのを地伏星・ゼアミ(a21108)は耳にした。はかない光を灯す彼らが空を舞う時間は、余りに短い。だからこそあの輝きが目を奪うほどにうつくしいと、そう感じるのかも知れない。
 私も、あんな生き方ができたら………。
 ゼアミは考え事から引き戻されるように、悲しげな表情を消して笑顔を浮かべた。
「ちょっと、お腹すかないですか?」
 何か食べに行きましょう、とぐいぐい引っ張るゼアミの笑顔につられるように、マイヤも笑顔を浮かべ。
「そうね。ゼアミさんは何を食べます?」
(「この穏やかな時間が続けばいいのに……」)
 二人は浴衣姿で河原を歩く。つないだ手はしっかりと、互いの存在を知らせ。それでも感傷的になってしまうのは、はかない光の中で微笑み合う、そんな時間が……夢のように美しいからだろうか。
 せめて今だけでも、この優しい時間を壊さないように。……笑い合って。

●あたたかな光
 竹のベンチに座って、白水六花・ロッカ(a26514)は蛍が舞うさまを眺めていた。それは、何度も見た風景。特別に見えるのは、隣にはセイルがいるから。
 蛍の光ははかなげで、何だか切ないけれど……見ていると心があたたまる気がする。やさしい、やさしい光。
「……この蛍の光みたいに……人に優しくできるかな? ……暖かい気持ちにすること……できるかな?」
 浴衣の裾を掴むロッカの頭を優しく撫でながら、セイルは微笑んで。
「勿論出来るよ。今も僕の心を温かくしてくれているんだから」
 そう言うセイルこそがロッカの光だ。ぴったりと身体を寄せるロッカに、セイルは肩を抱き寄せて。あたたかな、その手の温度に心がやすらぐ。
「……大好き、だからね」
 ロッカは溜息のように小さく呟く。
 くるくると、追い掛けるように空を舞う蛍。あの光のように、ずっと一緒に飛んでいけたらいい。

●その手に光を携えて
「ホタルーっ! キレイにゃ!」
 世界に一匹だけの猫・アルテミス(a26900)は白猫柄の浴衣を着て蛍舞う空を見上げ、はしゃいだ声を上げた。一緒に来てくれたフィルには、薄紫色の浴衣を選んだ。おっきな紫の瞳に、きっと似合うと思ったから。二人は手をつなぎ沢に踏み出す。
 アルテミスは光を追うように手を上げると、そっと手のひらの中に蛍をつかまえる。
「ホタルって何で光るのかにゃ……?」
「どうしてだろう? でも、綺麗だよね」
 つかまえた蛍をフィルの手に蛍を乗せると、それは光の軌跡を描いて空に飛び立つ。舞い踊るような光の群れ。その只中にあって、二人は幻想的な風景に心を躍らせる。
「アルテミス、ちょっと……」
「なんにゃ?」
 耳打ちするように小声で呼びかけるフィルに、耳を寄せると。
 頬に触れるのは少年の唇。驚いた顔のアルテミスに得意そうに笑う。その笑顔を見て、アルテミスもまた笑った。

●やさしき灯をみあげ
 櫻を愛する栗鼠・ガルスタ(a32308)は至紺の名を持つ紺色の浴衣を着て、アティと共に玉石を踏んで蛍を見上げていた。
 流れる水の涼気、光の乱舞。夏を楽しむのに絶好の場所だ。アティは金魚柄の巾着を手に楽しそうに微笑んでいる。その笑顔を見るガルスタもまた、笑みを浮かべ。
 オレンジの木の下で見た星空に照らされた彼女も美しかったが、蛍火に朧にうかぶその姿も風情が違っていい。水音に紛れるように囁きがあちらこちらから聞こえる。きっと二人のように、仲睦まじい恋人が寄り添っているのだろう。優しい闇が、それを覆ってくれているうちに。
「綺麗ね……」
「ああ……」
 交わす言葉は少なくても、触れる指先に、何気ない仕草に、幸せを感じる。
 おだやかな時間を共に過ごせる事が何よりも得難いのだと知るがゆえに……。
 二人は静かに、この優しい時間を壊さないようにと、共に沢を歩んだ。

●ともにある光
 同盟を奮い立たせる応援団長・ルシア(a35455)は、蛍の光の映える暗がりを探しながら沢を移動していた。隣にはライシェスが頼もしい姿を見せている。共に居てくれるだけでうきうきしてしまうのは、大好きな人だから。
「今日は、リードは任せるよ」
 その言葉に、ライシェスは笑って頷いた。少しでも前に進みたいけれど、どうして欲しいのかを告げてしまえればいいとも思うけれど……自分から告げるのは、何だか違う気がして。
 優しいリード、優しい笑顔。しあわせな時間は過ぎる。蛍火が励ますようにそんなルシアの周囲を飛んで。
「ねえ、ライシェス……?」
「ん、何だ?」
「……ううん、何でもない」
 ゆっくり、今夜のように、彼の速度で歩いていく……。それが今の、ルシアの答え方なのかもと思う。

●ともがらの差し出す光は
 闇を纏い光を仰ぐ・ミサ(a37391)は、シュヴァルツと共に沢を歩いていた。同じ黒でも染めの違う浴衣を着た二人は、若干隣の存在に不満の様子。
「また……、ミサはわたくしなんて誘ってどうするんですか」
 シュヴァルツの呆れ声が耳に痛い。無論共に来たい子はいたのだ。だが、お誘いしたところ『いつも誘って貰っては悪いですから』 とやさしい笑顔でお断りされてしまい……。
「ここは涼しいな。まあ、お前でもいないよりはましだ」
 強がりの言葉で、一人きりで来て落ち込むのを阻止してくれた悪友に、感謝の気持ちを隠しつつそんなことを告げ。照れ隠しの言葉を察しているだろうシュヴァルツは、そっとミサの肩を叩く。
 橙の光は軽やかに宙を舞い、墨染めの空をやわらかく照らす。彼女に見せてあげたかったな、とミサは心の中でひとりごち。
「流石に水辺の近くは涼しいですねえ……」
 のんびりした友の声にああと生返事して。二人はからりと下駄を鳴らしながら、のんびりと光の中を歩いた。

●またたく光の中で
 水天一碧・ロゼッタ(a39418)は、無粋な輩の退治を終えて慌てて沢へと走っていた。暴れたり走ったせいで、白牡丹の柄の浴衣が乱れていないか気になりつつ。
 煙草が無くて心なし口寂しい思いをしていたヴィンセントが、そんな彼女に気付いて傍に寄ろうとすると……。玉石に足を取られ、ロゼッタが躓いた。苦笑しつつヴィンセントは手を取って助け起こしてやる。
「今日はつきあってくれてありがとうね。………浴衣似合ってるじゃん」
 珍しい彼の浴衣姿に、ちょっと照れながらロゼッタが言うと。
「……綺麗だ」
 微笑みながらヴィンセントが言うのに、ロゼッタは戸惑う。それはこの風景にか、それとも、自分自身に向けられたのか……?
「うん、綺麗だね」
 きっと風景のことだと結論付けたロゼッタは、その言葉に頷く。初めて見た蛍の瞬く光。それはとてもはかなく美しいものだったから。
 何だか調子が出ないな、などと思いながら、ヴィンセントと共に沢を歩く。
 ……この胸が騒ぐのは、いったい何処から来るのだろう?

●光を、つかまえて
 氷壁の勇魚・キル(a39760)は互いの間にある分厚い空気の壁に気付いて内心動揺していた。悪人退治が終わり、イロハを蛍が集まる場所へと案内したはいいが、竹のベンチに座った時に発生した何とも言えない二人の距離。これが今の二人の距離なのだろうか?
「なんだか、故郷で見た蛍より凄くキレイに見えるよ」
 魚の泳ぐ桃色の浴衣を着たイロハは、微笑んで宙を見上げ。
「んじゃ、故郷の蛍との違いを探ってみようぜ」
 キルはイロハの手を取り沢へ向かうと、蛍を捕まえる。それをそっと彼女の手の中に落とし込む。
「違いがわからなくて、ごめんな」
 彼女の故郷の蛍の光は、どんな風に違って見えるのだろうか? 彼女自身と、この世界を……もっと知りたいとキルは強く思った。
「……まるで恋人同士みたいで、なんだか照れるね」
 間近に近付いた互いの距離に、はにかむように呟くイロハ。
「こ、恋人同士に間違えられても、かまわねーけどな、オレは」
 それを口に出すのは少しだけ勇気が要った。キルの頬が熱くなる……蛍火が朧に二人を囲んで。

●いのちの灯、きみの光
 セイレーンの狂戦士・マリーティア(a90343)は土産物屋での衣装の選択中、婀娜花・ネメシス(a45935)の選ぶ浴衣に目を留めて同じ柄で色違いの浴衣を身に着けた。後で付き合っておくれと彼女が言うのに、喜んでと返し。

「蛍は静かに見るのがマナーだそうだ」
 マリーティアと共に盗賊を捕まえた今日もまた誰か乙女のピンチ・イルイ(a01612)が竹のベンチに座り、膝丈の風変わりな浴衣姿で沢を渡る風を受けている。やわらかに広がる青の長い髪。
 羽虫を団扇で追い払いながら、ほのかに光る蛍達の姿を目で追う彼女は、ふと口をひらき。
「点いては消える命の輝きか」
 儚いがゆえの輝きと、大人びた表情で少女が呟く。
 脆い命は、生き急ぐようにその魂を燃やし尽くす。蛍火だけではない、それは人とて同じこと。
「瞬きの間に消える命とはいえ、力強くも見えますわ。命を繋ぐ為に舞うのなら……」
 それはとても激しい恋情のようにも見えて、羨ましくもあるのだ、と。マリーティアは微笑んだ。

「マリーティア、一緒にどうだ?」
 玉石を踏みながらやって来た流れゆく風の如き・ミネルヴァ(a29527)は、蛍酒と洒落込もうと素焼きの徳利を掲げる。
「申し訳ございませんの、わたくしまだお酒は飲めませんわ」
 恐縮そうに断るセイレーンの娘に、それでは仕方ないかと隣に座り、ミネルヴァはねずみ色の甚平姿で持参の酒を手酌で呷る。
 蛍の光を杯の酒に映せば、それだけで良い肴になった。
 暗闇を押し返すように精一杯に輝く命の灯。川は鏡のようにそれを映して。
「綺麗なもんだな。川面が星空のようだ」
 今宵は気持良く酔えそうだとミネルヴァが呟くのに、マリーティアはそうですわねと頷いて。

 婀娜花・ネメシス(a45935)は気に入りの扇子を口元に当て、マリーティアを誘い出した。
 蛍を眺めながら宙を見上げ。白地に曼珠沙華の浴衣をネメシスは、ゆっくりと扇子を動かしてはそれを目にして。墨色に同じ柄の浴衣を着たセイレーンの娘と共に、急ぐこともなくゆっくりと沢を歩く。
「……しかしこうして蛍を見ておると、昔を思い出すの……」
「昔、ですの?」
「わらわがかつて、愛しき方と共にいた頃に蛍狩りをしたことがあっての……」
 ネメシスは愛しき背の君と共に見た光景を思い出す。夜を彩るは幻想的な光。愛する者が微笑みを浮かべ、導く手はどこまでも頼もしく。あたたかな手の感触を思い出せば、自然に笑みすら浮かぶ。
「……どれだけここが美しくともあれには敵うまいよ」
 つまらぬ話だと長くを生きたセイレーンの夫人は自嘲したが、同族の娘は憧れの眼差しを向けた。
「いいえ、とても素敵なお話ですわ……」
 特別な人と見る光景。それはどんなものだろう……。

●ほたる火を追って
 川面を渡る風が優しい涼気を連れて来る。空の輝きにも負けぬ地上の光。
 優しい光を受けながら、夜は静かに更けていった。


マスター:砂伯茶由 紹介ページ
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参加者:12人
作成日:2006/08/07
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