<リプレイ>
●夏の湖畔で 「泳ぐ前にはちゃんと準備運動。出たゴミはお持ち帰り。メアリーとの、や・く・そ・く・なぁん!」 団長の壁に耳あり障子に・メアリー(a14045)が団員たちを見回して言う。一年前に出掛けた夏の日を思い出し、一部の団員は感慨に耽った。皆が湖へ向かうのを微笑ましく見守りながら、悲しみ絶ち切る刃となる・アルム(a12387)は早速結婚式場の設営を始める。 幸せ一杯の結婚式は良いものだと知っているだけに、アルムは彼らの為に力を尽くして遣りたいと思ったのだ。太陽の光を吸って輝く真っ白なテーブルクロスを広げ、木々の間に咲き誇る可憐な花を飾る。凶殲姫・ルルティア(a25149)もいそいそと舞台作成を始めていた。 「ふむ。本来ならば湖で泳ぎたいところじゃが……」 何処か虚空を見遣ってニヤリと笑うルルティア。 「妾のナイスバディで新婦に気を揉ませては為らぬからのう。妾なら湖畔の視線を独占じゃ」 アルムは特に何も言わなかった。否定はしなかったが、肯定もしなかった。 「……ち、ちょうどくせんだもん! たいへんなレア物なんだもんッ!?」 ルルティアが目に涙を溜めて必死の主張を行うので、アルムは優しく視線を逸らした。
「やっぱり似合うな……可愛いよ」 可憐な花を恋蒼猫・コーシュカ(a14473)の髪に飾って遣り、花が引き立てる彼女の愛らしさに、青想う朱狼・ヴァル(a01783)は穏やかな微笑を浮かべる。二人は湖から少し離れた位置にある、木々が周りを囲うように育ち、秘密の小部屋を思わせる小さな花畑を訪れていた。結婚式を彩る花を摘む為に、二人は此処を訪れたのだ。 コーシュカはほんのり頬を染めながら、淡い色合いの花々を摘む。髪を結んでいた蒼いリボンを解き、ひとつに束ねた。後は籠に入れて纏めてやれば彼女らの用意が整う筈だ。二人が腕を組んで湖畔まで戻れば、遠目にボートを漕ぐ団員たちの姿が見える。 一艘には凄まじい勢いで波飛沫を上げながらボートを漕いでいるメアリーと、乾いた笑い声を上げながら無理をし過ぎないよう宥めている蒼天の魔術師・スバル(a03108)が乗っていた。もう一艘にはやはり凄まじい速度でオールを操り、メアリーたちのボートと並走させている樹上の射手・ヴィン(a01305)の姿と、大はしゃぎな深雪の優艶・フラジィル(a90222)の姿がある。 他のカップルたちが目を丸くしてしまう程の冒険者パワーを見せ付けながら、ボートは湖を走り続けた。ヴァルは何と無く、オールが折れるかボートが転覆するかするまであの二艘は速度を緩めないような予感を覚えたが、「楽しそうですわね」と笑むコーシュカに唯優しく微笑んで頷いた。
●心地良い水と戯れ 盾となりし白雛菊・シトリ(a30012)は太陽の恵みを一杯に浴びて目を細める。湖に浸した足を動かして、小さな波紋を幾つか作った。夜に始まる式へ夢を馳せ、胸を高鳴らせ昇り行く陽を見遣る。 幸福そうな彼女の横顔を見遣りながら、毒杯・リヴァ(a32814)は少し考えた。正直なところ、結婚と言うものが理解出来ない。永遠の愛を誓うのは判る。だが、判らないのだ。けれど、結婚が祝福に値することは知っているし、理解も出来る。だからこそ、「おめでとう」を贈ろうと思った。 草原に寝転がり、空を見上げる。空を思わせる歌を、新たな道を進む彼らに贈りたいと思った。風が心地良く、緩い睡魔が手を伸ばすのに抗わず身を沈めて行く。一方で湖にも入りたいと思ったのだけれど、はしゃぎ過ぎて疲れてしまいそうだからと自制した。 同様に歌を考えていた自然を愛する聖緑者・シャロ(a50522)は、思索に一区切り付けると団員たちとの水遊びに参加する。日陰で湖水に浸るメアリーの元へ近付き、そっと悩み事を口にした。シャロには想い人が居て、既に想いは伝えてあるのだと言うこと。けれど其れ以来足が止まってしまって、進展らしい進展をしないこと。如何すれば良いのだろう、と不安を洩らす。 「なぁ〜ん……」 バットで殴って気絶させたら後はベッドに連れ込むだけで此方の勝ちなぁ〜ん、なんて思ったかも知れない。が、メアリーとて人妻である。折角頼られたのだから、落ち着いたアドバイスを返して遣らねば為らないかな、と考えた。彼女は大いに悩み、一言で全てを解決することの出来る助言は流石に見当たらず、「一緒に考えて行こうなぁ〜ん」とシャロを慰める。 白き花を守り抜く桜・リヴェル(a35508)はさり気無さを装って水辺に居たフラジィルに近付き、何かを尋ねつつ、目的が果たせた後の事柄についても簡単な約束をした。フラジィルの返答を聞くとリヴェルは顔を綻ばせて礼を紡ぎ、急ぎ足で湖畔から離れて行く。何を話していたのか、と不思議そうに首を傾げるエンジェルの医術士・フウア(a23205)に彼女は「秘密です♪」と微笑んで応えた。 木々の間を走り、リヴェルは湖から少し離れた丘に向かう。丘を登り更に進んで、岩肌が近付けば小さく白い花が目に入った。愛しい人の髪に咲くのと良く似た白い花を選んで摘んで、赤い糸で纏める。束ねた茎に指輪を通して、彼は思わず頬を緩めた。 「シトリ、吃驚するだろうな」 小さく呟く。そして傾き掛けた陽に気付き、大慌てで湖に戻った。
●夏の夜に誓いを 「ほら、ジル殿。キミにも……」 花嫁と御揃いの可愛らしい白雛菊の冠を頭に載せてやると、フラジィルは嬉しそうに目を細めて、御結婚おめでとうございます、と微笑んだ。身体の線に沿った滑らかなウェディングドレスを纏い、レース編みの清楚なストールを肩にシトリも微笑む。髪には花冠とヴェールを飾り、花婿を待った。 正装して現れたリヴェルは、花嫁を一目見るや動きを止める。目を見開いて彼女を見詰め、呼吸を続けることさえ困難な様子で、「凄く綺麗だ」とだけ呟くと彼女の頬に口付けた。そして彼は用意して来た花束を彼女に手渡す。シトリは目を瞬いて白く小さな花束を見詰め、そしてリヴェルの顔を見詰めた。瞳が僅かに潤むのを見て、リヴェルは微笑を浮かべる。 「ほら、笑って。シトリは笑顔が一番可愛いんだからな」 並んだ新郎新婦の元へアルムが向かう。 アルムは双方に、御互いを生涯の伴侶とすることを誓わせる。如何なる時にも御互いを愛し、助け、命ある限り真心を尽くせるのかを問い、誓いとさせる。儀礼的な問い掛けは結婚式と言う場に己が居ることを深く感じさせた。 「……では……誓いの口付けと指輪の交換を」 促すアルムの言葉に、シトリは恋人を見遣る。淡桜を抱く青年を見詰めて、変わらぬ愛を胸に抱いた。ヴェールを持ち上げ、リヴェルは恋人の唇に口付けを落とす。 「……この場に立ち会った全ての物と……天上の月を証人とし……此れより二人を夫婦とする……」 アルムの言葉と共に、フウアは場に柔らかな光を齎した。幸福を思わせる輝きが新郎新婦を中心に広がって行く。裾が花弁を思わせる可愛らしい爽やかな青のドレスを着たコーシュカが、花籠から鮮やかな花弁を撒いた。 「御二人ともぉ〜おめでとうですよぅ〜♪」 フウアもフラジィルも一緒になって花弁を撒く。美しい花の洪水に、新たに生まれた夫婦二人は目を細めた。拍手と共に祝福が向けられ、メアリーの呼んでいた白い鳩たちが月の輝く空に飛び立つ。此れからの二人に幸多からんことを、とスバルも夫婦の晴れ姿を祝った。 「皆、有難うな!」 花嫁の肩を抱いて、リヴェルが笑う。幸福の溢れる笑顔で、心からの感謝を紡いだ。 祝福の花束を二人に渡すと、ヴァルは愛らしい恋人を見遣る。 「コーシュカも……いつか、俺のためにあんなドレスを着てくれるかい……?」 少女は淡く頬を染めながら、いつか、を想った。 「……もう少し先、ですけれど。それまで、待っていて下さいませね」 いつか、綺麗なドレスを着て憧れの花嫁となり、愛しい人の隣に立つ。そんな未来に夢を馳せ、コーシュカは小さく微笑んだ。
●新たな夫婦に祝福を 「先ずは御結婚おめでとう、なのじゃ」 こほん、と咳払いするとルルティアは雪辱を晴らす想いで長い旗を手に舞台へ立つ。何処か楓華を思わせる動きで舞い踊り始めると、隣ではメアリーがワイルドファイアらしい派手なダンスを踊り始めた。二人とも思うが侭、好きに踊っているのだがとても楽しそうであるし、何より新郎新婦を祝福したいのだと言う想いが良く伝わってくる。 パーティの裏方作業に徹しているアルムは、ドリアッドの夫婦を想って少しばかりの羨ましさも感じた。愛しい人と永久に過ごして行けることは何よりの幸福だろう。怪我だけには気をつけてね、と真面目な顔で言葉を向けると、アルムは食材の補充にと早足でコテージまで移動した。 「ねぇ、新しい道を――」 空いた舞台でリヴァが歌い出す。ずっと笑顔で幸せな時を過ごして欲しいと想うからこそ、何も出来ないかも知れないけれど、手を貸すことが出来るならば何時でも手を貸したいのだと言う願いを篭めた。おめでとう、此れからも宜しく、と伝えたい。 「手を繋いで、微笑み合って――」 歌唱を趣味とする彼女の歌声が夜の湖畔に柔らかく響いた。 続けてシャロも歌い出す。微笑み合う花婿と花嫁に、想い人が想われた。 「どうか末永く御幸せに」 シャロが微笑んで祝辞を述べる頃に為れば食事もひと段落し、宴も緩やかに収束を向かえる。 片付けを終えると、ヴィンはフラジィルをテラスへ誘った。星明りを映す湖を眺めながら、ホワイトガーデンの結婚式についてなど他愛も無い話を幾らか交わす。少しばかり言葉に悩むような間を置いてから、彼はプレゼントの箱を取り出した。開けば中から純白のレースを編み上げた美しくも軽やかなヴェールが現れる。街でウェディングドレスを見掛けて思わず買って来てしまったのだ、と彼は言った。 フラジィルの髪のヴェールを飾って、御嫁さんみたいだよ、とヴィンは微笑む。 「ジルちゃんが本物の御嫁さんになるのは、きっと、ずっと先だろうけど」 目にすることも適うか判らぬ姿を想って、彼は少しばかり目を伏せた。 フラジィルはにっこり微笑んで言葉に答える。 「じゃあ、もしもジルが御嫁さんになりたくなったら、ヴィンさんが御嫁さんにしてくれますか?」 思わず素っ頓狂な声を上げて顔を赤らめる彼を見、少女は女の子らしい仕草でくすくすと笑った。 「きっと、ずっと先でしょうけど」
夜の湖畔に何処からかハーモニカの音色が響き、涼やかな風に滲んで行く。 シトリは彼の肩に寄り添い、間近で彼の顔を見上げた。何故だか彼のことを、出会った頃以上に逞しく思える。何時の間にか強く為っていたのだろうリヴェルに、そっと囁く。 「……来て良かった。でも、出来るなら来年も、遊びに来たいな?」 今度は三人で、と彼女は森色の瞳を細めた。 言葉の意味を理解すればリヴェルは満面の笑みで彼女に応える。 「此れからは、絶対に無茶をするのは駄目だぞ」 諭すような声音で釘を刺す彼に身を凭れさせ、シトリは言った。 「なら……リヴェルが、もっと強くなってくれよ?」 甘えるような彼女の髪を優しく撫でて、リヴェルはシトリの額に口付け、約束に代える。 コテージの明かりが煌く夏の夜に、またひとつの男女が愛を誓った。 一身に祝福を受け、最高の幸福を感じて、二人は短い夜を終える。 けれど二人が共に歩く道は夜が明けて尚、此れから先、永遠に何処までも続いて行くのだ。
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参加者:12人
作成日:2006/08/05
得票数:戦闘2
ミステリ1
恋愛21
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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