西方プーカ領を求めて〜川止めする敵〜



<オープニング>


 今は無きソルレオン王国の南。大きな庇護の力を失った大地から人は離散し、街道を利用する者もほとんどない。しかし、この道を守ろうとする者達は決して消えない。道が続き人が出会うこと……それが未来が拓く為の術だと知っているからだ。

 道を進んだ先に川が見えてきた。きれいな水が緩やかに流れる大きな川だ。川幅は広く……と言っても20メートル程だろうか。川の中央部分は底が深くなっているようで、大きな岩が沈んでいるのがところどころで見える。岩があるところは水が渦まいて流れている。部分的に早い流れがあるのだろう。

 その川には1本の橋が架かっていた。古い木の橋だ。しかし今はもう誰も橋を渡る者はいない。ここに2体の異形のモノが棲みついているからだ。
 1体は橋の向こう側。立ち上がったカブトムシの様な姿をしていて、背に弓の様な武器を背負っている。3対の手には2本の短剣の様な持っている。
 もう1体は川の中。やはりカブトムシが立った姿の様だが、角は小さい。背には紋様が描かれている。こちらは水の中を素早く自由に泳ぎ回っている。

 この昆虫の様なモノ達のせいで近隣の僅かに残った人達は難儀している。川に近づくと襲われてしまうからだ。
 向こう岸のモノは長い距離を攻撃する武器を持っていて、向こう岸にいながらこちらの岸にいる人を襲う。
 川の中のモノは水中や橋の影に潜伏し、そっと近づいて襲うらしい。川の中にいる敵は遠くからの攻撃はしない様だ。
 ただ、この2体とも、臭い匂いを放つ事があり、その匂いを嗅ぐと人はフラフラになってしまうらしい。

 この川は越さなくてはならない。勿論橋を迂回することもできるだろう。しかし、異形のモノが居ることを知って、素通りする事は出来ない。
「戦いは嫌いです。しかし、戦わずに手に入れることが出来ない幸せがあることもわかっています。参りましょう」
 ラグは仲間を……頼もしき仲間を振り返った。

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参加者
荷葉・リン(a00070)
気儘な矛先・クリュウ(a07682)
犬と本気で戦えるダメ男・ガンガルス(a09429)
願いの言葉・ラグ(a09557)
ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)
エンジェルの重騎士・メイフェア(a18529)
月笛の音色・エィリス(a26682)
蒼翠弓・ハジ(a26881)


<リプレイ>

●戦いの刻
 水の音がする。まだ川を見ることは出来ないが、それよりも先に小さな音が聞こえてきた。どことなく空気にも水の匂いがする。
「みなさん、そろそろです」
 願いの言葉・ラグ(a09557)は避けては通れぬ戦いを皆に告げる。村人から教えて貰ったのは川へと通じる1本道だ。迷うことはない。すぐに灰色の空を映した水面が現れる。このどこかに村人が言っていた『敵』が潜んでいるのだろう。
「準備に入ります」
 口元を濡らした布で覆った気儘な矛先・クリュウ(a07682)がくぐもった声を出す。共に戦うもう1人の仲間である『双極月牙』を握りしめる。激しく振り動かすとクリュウを取り巻く防御の烈風が生じた。
「みんな、俺の周りに来てください」
 クリュウと同じように口の周りを布で覆い、チャドルを被り直した蒼翠弓・ハジ(a26881)が力を開放すると、その場に不思議な風の流れが起こり始めた。風はその場にいた皆を護るように絶えず流れ続ける。
「うちは先ず、りんさんを守るって決めてるなぁ〜ん」
 そう言いながら、ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)はすぐ側にいた荷葉・リン(a00070)の肩にちょこっと触れる。アユムも厚手の手ぬぐいで口を覆っていたので、言葉はいつもより不鮮明にしか聞こえない。けれど、神聖なる誓いは力となりアユムは身をもってリンを守るだろう。
「……じゃ、行くぜ」
 犬と本気で戦えるダメ男・ガンガルス(a09429)は塩を取り出し、自分の力を分け与えて水晶に足が生えた様なモノを創り出す。偵察型のインセクトは創造主であるガンガルスの意を受け、一直線に川へと向かって進み出す。橋の架かっているところよりもやや川下へと向かっている。
「失礼いたします」
 ラグは意識を集中させインセクトと同調しているガンガルスをそっと背負った。
「私も……行きます」
 リンも自分の力を分け与えたインセクトを川へと向かわせる。やはり橋よりも川下寄りだ。アユムがリンを背負うとする。けれど、意識を集中させていてるリンの動きは鈍い。
「わたくしがお手伝いいたしますわ」
 月下幻想曲・エィリス(a26682)がリンの手をそっと取り、アユムの背へと誘導する
「助かるなぁ〜ん」
「いいえ、こんな事ぐらいしかお役に立ちませんが……」
「よ、よいしょなぁ〜ん、立ち上がったらもう大丈夫なぁ〜ん」
「はい」
 2人とも敵の匂いにやられないように口を布で覆っているので、表情はよくわからない。けれど、目と目を見れば大概のことはわかる。
「メイフェアは悲劇をここで断ち切ってみせますわ」
 言葉とともにエンジェルの重騎士・メイフェア(a18529)の藍色の鎧が形を変える。やはり匂い対策としてフェイスマスクをしている。
「食いついたぜ」
「攻撃されました」
 共に背負われたガンガルスとリンが少し早口で報告する。彼等の目には無防備に川に接近した途端、甲虫の様な敵に川の中から攻撃された情景が映っている。一同は一斉に走り始めた。川に架かる古い橋へと迫る。

 川の中では攻撃を受けたクリスタルインセクト2体が紋様を背に持つ甲虫に反撃に出ていた。虫の前肢の様な部分が甲虫を叩く。

 橋を渡る。恐れていた様な『足が引っかかったり』『川に落とされたり』ということはなかった。渡りきると、ラグとアユムは背負っていたガンガルスとリンを素早く降ろす。2人のクリスタルインセクトは既に攻撃形態に移行している事は確認済みだ。橋を渡りきった先にはもう1体の敵がいた。立ち上がった甲虫の様な姿をしてい、背には弓の様な武器を背負っている。敵が矢をつがえる。放つ! しかし、矢は風に阻まれ放った甲虫へと戻っていく。命中した矢が深く突き刺さる。甲虫がよろめいた。

「ここへ!」
 真っ先に橋を渡りきったクリュウは走り出す前に地面に突き刺した戟を呼ぶ。軽く突き刺しただけの戟はクリュウの望むままに引き寄せられ手に収まる。それを敵へと構えた。
 最後に橋を渡ったハジは目の前の敵ではなく、身をよじるようにして川の中の敵を目視した。バチャバチャと不自然な水音がしている。今はまだ逃走する恐れも、こちらに向かってくる様子もない。
「もう1体は大丈夫そうです」
 振り返る事の出来ない味方へすぐに知らせる。
「今なら出来るなぁ〜ん」
 リンを降ろし手の空いたアユムは白く光り輝く槍を創り出し、すぐにそれを甲虫へと放つ。弓を持つ甲虫は背を向けて槍を受けた。命中したが、あまり弱っていない様だ。なんとなく不満だが、敵2体との間合いを計り移動する。
 ガンガルスは川にいる敵に背を見せることなく、どちらの敵も視界に入れる場所に移動した。リンの立ち位置よりも川岸に誓い。そして、黒い炎を産み出し身体にまとわりつかせる。
 ラグもガンガルスと同じように黒い炎を身にまとった。川岸近くに立つ者達を気にしつつ、戦況を見極める。また敵は匂いの攻撃をしていない様だ。
「しばらくの間、動きを封じさせてください」
 リンは青々と茂る緑の木の葉を創り出す。その木の葉が甲虫へと飛び貼り付いて消える。
 エィリスはラグとはやや距離を取った場所へと移動していた。仲間の回復やフォローをするためには、最前線よりは少し後方にいなければ敵の範囲攻撃に巻き込まれてしまう。どれだけ素早く位置につけるか。これも戦闘が始まった時には大事な事だ。
「……ここなら、大丈夫ですわ」
 直接戦っている敵ではない、別の敵が現れる可能性もある。エィリスは更に遠くにも視線を投げる。
 ハジ同様、最後に橋を渡ったメイフェアも後ろを振り返った。水音はまだ遠い。川の中にいる敵が追ってくる気配はない。攻撃かとも思ったが、まだ味方全員の鎧を強化していなかった。一瞬の間。そしてメイフェアは己の力をクリュウの防具へと注ぐ。瞬時にクリュウの防具も先ほどのメイフェアの物と同じように形を変える。

 川の中にいる甲虫の紋様がぼぅっと光る。紋様は空に浮き上がり、そこから無数の光がクリスタルインセクト2体に降りそそぐ。2体がダメージを受ける。

 弓を背負った甲虫は赤く透き通った矢をつがえる。それはすぐ近くに着弾し、小さな爆発を起こした。クリュウ・ガンガルス・アユム・リン・メイフェアの身体に鈍い傷みが走る。充分な距離を取っていたラグ・エィリス、そしてハジにダメージはない。

 傷みは我慢出来る。というよりは、戦いの高揚感が傷みを感じさせなかった。クリュウはそのまま一気に甲虫へと詰めより、渾身の一撃を放つ。キツイ手応えがあった。やはり、甲虫の背への攻撃はダメージが通りにくい。
「……しぶといですね」
 甲虫から離れていたハジは矢を放った。狙った敵を外す距離ではない。しかし、矢はくるりと方向を変え、放ったハジ本人に戻ってきた。胸の真ん中に矢が刺さり、堪らず片膝をつく。気力で引き抜くが矢尻も手も赤く染まっている。
「大変なぁ〜ん」
 アユムはいきなり大きな声で歌い始めた。伴奏もない歌が戦場に響く。味方を鼓舞し癒す特別な歌だ。
「燃えちまえ!」
 ガンガルスの頭上に光る紋様が浮かび上がる。そこから燃えさかる火球が出現し敵へと向かう。甲虫が炎に焼かれる。
「私が皆さんを守ります」
 ラグの身体から淡い光が波の様に広がっていく。
「炎よ!」
 リンの頭上にも紋様が輝く。そこから火球が出現しやはり敵へと向かって撃ち出される。
 エィリスの身体からもラグと同じ様な光が広がっていった。アユムの歌、ラグとエィリスの光の波が戦いで傷ついた身体を癒していく。
「……ハジさん」
 メイフェアは息を呑む。そして自分の力をハジへと使った。ハジの革製鎧が形を変える。

 クリスタルインセクト2体の攻撃が紋様を持つ甲虫にダメージを与え続ける。更に紋様が空に浮かび光が雨の様にクリスタルインセクトを貫くがまだ戦える。

 弓を持つ甲虫が背を向けたまま前屈みになった。
「匂いに気をつけろ!」
 その不審な格好にガンガルスが警告する。その言葉通り、甲虫の尻あたりから刺激臭が漂い始めた。

 クリュウが再度無造作とも思える所作で間合いを詰め、そのまま武器を打ち下ろす。甲虫の堅い背にヒビが入る。
 ハジは身体の動きが鈍いが、かろうじて立ち上がる。血はもう止まっているようだ。
 アユムは歌を歌う。心が浮き立つような軽やかで元気が出そうな歌だ。
 ガンガルスは頭上に再度紋様を浮かび上がらせ、火球を創り出す。炎に焼かれた甲虫が転げ回った。背のヒビから内部まで焼かれているのだろうか。
 ラグを中心に心地の良い風が吹いた。まるで森の奥で深呼吸をした時の様な清々しい風が吹く。
 アユムとラグの行動を見ていたリンはあえて回復の為の行動をしなかった。先ほどと同じように頭上に紋様を描き火球で甲虫を焼く。
 エィリスは動けない。
 メイフェアはここが勝機だと思った。頭上に白い天使を喚び、その力を武器に宿す。甲虫が地面に転がった。

 川の中ではまだ紋様を持つ甲虫とクリスタルインセクトとの戦いが続いていた。弓を持つ甲虫を倒したことを確認すると、皆は橋を渡って引き返す。ガンガルスが再度召喚したクリスタルインセクトに退路を断たれた2体目の甲虫は、ハジの闇色の矢によって差し貫かれ、動きを止めた。
「大丈夫なのの?」
「みんなに助けて貰ったから……もう大丈夫です」
 心配そうにエィリスが聞くとハジは笑って答えた。

 老朽化した橋はこれから近隣の村が話し合い、新しい橋に掛け直す計画があるという。いずれ川の周りでも人々の笑い声が響く日が来るだろう。そして、西方プーカ領に辿り着いた者達の話題がこの村に届くのはラグ達が村を出立して数日の事であった。


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作成日:2006/08/17
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