【秘密結社ペタン】ウニとバカンス



<オープニング>


 尻尾の無い巨大な獣が、鈍く輝く牙を振り下ろしてくる。
 牙は彼の肌をかすめて地面に激突する。
 土ぼこりをかぶりながら、彼は小刻みに全身を振るわせていた。
 コレは彼をなぶっている。
 いつでも殺せるのにわざと狙いを外しているのだ。
 恐怖で喉が動かず、助けを呼ぶことさえできない。
 牙が真っ直ぐに彼に向けられる。
 勇気を振り絞って逃げ出すが、獣は彼の前に立ちふさがり逃げ場を奪う。
 絶望にとらわれかけたその瞬間。
「ねこちゃんだいじょうぶ?」
 濃い血の匂いと共に、助けが来た。

「ろくな情報がとれないわねぇ」
 エルフの霊査士は肩をすくめてから手紙の続きを書き始める。
 最近行方不明になった子供の持ち物を霊視したものの、持ち主に繋がる情報を得られなかったのだ。
「返事を書くのも気が重いわ」
 霊視が万能でないのは重々承知しているが、残された家族の落胆を容易に想像できてしまうだけに気が重い。
「こんにちはー」
「にしても暑いわね。おかげで山羊乳も日持ちが悪くて」
 霊査士はぶつぶつ独り言を呟きながら、豪快な字体で文を綴(つづ)っていく。
「こーんーにーちーはー」
 猫ストライダーが机の上によじ登ってきた来た時点で、ようやく霊査士は手を止めた。
「あなたに構う時間はないし面白い遊び場所も知らないし猫の集会所も知らないわよ」
 ピンク尻尾の猫ストライダーは机からすごすごと降り、机の下に潜り込んでのの字を描き始める。
「霊査士さんが力を使って私の心を読んでます。セクハラです。じゅーりんされちゃいました」
「頼むから人聞きの悪いことを言わないで」
 冒険者達からの視線を気にしながら咳払いをする。
 ちなみに霊査士は特殊能力など使っていない。
 ミリミリスの行動を予測して発言しているだけだ。
「仕事よ。……あなたじゃなくて冒険者に対する仕事だから」
 手紙を書き終えた霊査士は、ミリミリスに釘を刺してから冒険者に対して説明を開始する。
「ある漁港の岸に大量の超大型ウニが現れたの。棘が非常に堅いことを除けば戦闘力はたいしたことがないけど、棘を含めて直径1メートルはあるから余程の体力がない限り解体と処理に時間がかかりすぎるというわけ」
 そこで霊査士はにこりと微笑む。
「冒険者でないと難しい仕事ではあるけどそれほど危険はないわ。仕事そのものは1日あれば終わるでしょうから、漁師の皆さんの邪魔にならない範囲で海で遊んで来てもいいでしょうね。港から少し歩けば海水浴に向いた海岸があるらしいし」
「泳ぎは苦手です」
 ミリミリスは机の下で、子猫に構われながらミリミリスが呟く。
「超巨大ウニの中にも食べられる味のものがあるかもしれないし、楽しみは泳ぎだけではないわ。……言い忘れていたわ。港町には大量の猫がいるのだけど、人に慣れすぎていて作業中に近づいてくるかもしれないわ。ウニの解体作業中に巻き込んでしまわないよう気をつけてね。それとミリミリス。酒場に猫を連れ込むのは」
「にゃぁん♪」
 霊査士に応えたのはミリミリスではなく、先程までミリミリスと遊んでいたはずの子猫であった。
 ミリミリスにもらったのか、大きな干し魚をくわえている。
「雄ね。……いやそうじゃなくて」
 頭を振って気を取り直す。
「多分あの子が漁港に出没すると思うから、暇があれば付き合ってあげても良いかもね」
 魚をくわえまま外へ飛び出していく猫を見送りながら、霊査士は説明を終えるのだった。

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参加者
縁・イツキ(a00311)
ビッグペタン十貧衆〜萌世魔王・ゴウテン(a03491)
静かなる・プラム(a04132)
ヒューマンフェンサー・ライル(a04324)
螢火夢幻乱飛・メディス(a05219)
赤烏・ソルティーク(a10158)
凶殲姫・ルルティア(a25149)
イカス・ミーユ(a25203)


<リプレイ>

●ウニ退治
「天武桜花陣!!」
 巨大な鎌が旋回し、破滅をはらんだ風が吹き荒れる。
 数日に渡って漁港を封鎖していた巨大生物たちは、身動きすることさえできず砕かれ、潰(つい)えた。
「こんなものかのぅ」
 凶殲姫・ルルティア(a25149)は身の丈を上回るサイズの大釜を半回転させ、針と殻事粉砕された巨大ウニを大鎌の柄で突く。
「もうだいじょうぶですかー?」
 螢火夢幻乱飛・メディス(a05219)が離れた場所から呼びかけてくる。
 彼女の体から飛び出した無数の鎖は、うんざりするほど大量の巨大生物に巻き付きその動きを封じていた。
「うむ。味は結構大丈夫……おっといかん」
 ルルティアは指先についた体液を舌で舐めとってから、軽く大鎌を振るう。
 ただそれだけで、鋭く尖った巨大な針が大量に切断されていた。
「針がそのままでは危なくて片付けれんからな」
「あー、それなら大丈夫」
 冒険者達の圧倒的な技に圧倒されていた漁師が、浅黒い頬をぽりぽりかきながら口を挟む。
「ここまでバラしてくれたらあとは俺等で処理できるよ。撒き餌と畑の肥料にすれば全部使えるだろうし」
「その前に中身をもらっていいか?」
 既にバケツで中身を回収しながら、凶ッ風・ライル(a04324)がたずねる。
 彼の背負い袋からはネギを初めとする野菜がはみ出しており、既に準備万端なのが分かる。
「そりゃ構わないが……。食えるの、これ?」
 目を丸くしてたずねてくる漁師に、ライルは大きく頷いて応えるのだった。

●猫となんぱ
「鼠の舞と」
 丸々太ったネズミの動きで、猫じゃらしが地をすべる。
「蝶の舞」
 もう1つの猫じゃらしは、宙を舞う蝶の動きで宙を舞う。
「ふっ。どうです私の技は」
 両手の猫じゃらしを華麗に操りながら、赤烏・ソルティーク(a10158)は整った顔立ちに精悍な笑みを浮かべる。
「あー、うー」
 ミリミリスは指をくわえて猫じゃらしを……より正確には猫じゃらしを追う猫の群れを目で追っている。
「さぁ、猫と遊びたければネコミミカチューシャとネコグローブを装備した上でメガネっ娘メイドになって私に傅きなさ」
 その瞬間。
 背後から殺気を感じたソルティークが素早く前転して位置を変えると、寸前まで彼の頭があった空間を灼熱の火球が通り過ぎていった。
「……」
 おさわり厳禁です、と書かれたプラカードを持った静かなる・プラム(a04132)が、静かな目で彼をみつめていた。
「はっはっは。冗談に決まっているではないですか」
 プラムの本気を感じ取り、ソルティークはにこやかな表情のままごまかす。
「え、えぇぇぇ!? じょうだんなんですか?」
 ミリミリスが悲痛な叫び声をあげる。
 いつの間にかソルティーク持参の猫耳カチューシャ&猫グローブ&伊達眼鏡&メイド服を装着し終えており、涙目&上目遣いで彼を見上げていた。
「わかり易すぎて泣けてきやがりますねー」
 だるそうにノートをうちわ代わりにしながら、ゆうき・ミーユ(a25203)はミリミリスの手をとる。
「ははは離してくださいー。猫ちゃんが、猫ちゃんー」
「はいはい。残酷シーンはお子様お断りなのですよ」
 ミーユに連行(?)されていくミリミリスの後方で、ソルティークは無表情のままぶちきれたプラムから逃げ出すのであった。

●ウニ料理
「最高にゃー」
「もう少し冷めればよりよかろう」
 2匹の猫の意見を聞いたライルは獣達の歌奥義を解除し、口元だけで微笑む。
「鮮度が最高な分、大味な分を差し引いてもまずくなりようがないって訳だな」
 複数の薬味と調味料を混ぜ合わせてから、大皿の上に載せたウニの身の上にかける。
「うー」
 ミリミリスはメガネっ娘猫メイド状態のまま落ち込んでいる。
「猫ちゃん……」
 彼女の視線の先には、猫に盛大に引っかかれ続けているメディスの姿があった。
「可愛いよぉ、和むよぉ」
 猫の反撃を甘んじて受けつつ、ひっかき傷を大量につくりながら笑顔で猫達をなで続けている。
「あぅ」
 猫が多いと聞いたからこの港に来たのに、猫達は猫扱いが上手な冒険者達にじゃれつくだけで、ミリミリスに構ってくれない。
「あぅぅぅ」
 海岸に急造された海の家の座席で、ミリミリスはどんどん落ち込んでいっていた。
「人間腹が減ったらろくなことを考えないぞ」
 熱々の御飯をどんぶりによそってその上に大量のウニと薬味を添え、大皿と一緒にミリミリスの目の前に差し出す。
「でも」
 何か言いたげなミリミリスの肩に、ライルの肩が定位置のデブ猫がぽんと肉球で触れる。
「……」
 猫ストライダーと猫の視線が絡まり合う。
「はい。いただきます」
 こくりと頷き、ミリミリスは器用に箸を使って料理に取りかかる。
「あら」
 一泳ぎして戻ってきた縁・イツキ(a00311)が、ほんの少し意外そうな声を呟く。
 ぴんと伸びた背筋。
 正しい箸の持ち方。
 礼法に則った動作。
 本能と欲望に忠実な猫娘らしくない姿が、そこにはあった。
「実はいいところのお嬢さんなのかしら」
 木製の座椅子を引き寄せ、ミリミリスに向かい合うようにして座る。
「変ですか?」
 ミリミリスが首をかしげると、首輪についた銀の鈴が澄んだ音をたてる。
「ううん、そんなことはないわ」
 慈母のような微笑みを浮かべ、優しく否定する。
「?」
 ミリミリスは首をかしげながらも、どこか楽しげに新しい料理に手をつけ……。
「ぷふーっ!?」
 盛大に吹いた。
「吹くほど美味しかったですか?」
 はずれをひかされやがったですかねー、と呟きながら作者であるミーユが1冊のノートを隠す。
 意識してドジを踏んでみたのだが、ここまで簡単にひっかかるのも面白くないかもしれない。
「なまぐさいです〜」
 あうーと、涙目でミーユに抗議する。
 ミーユ作のウニ茶碗蒸しの一部はミリミリスの服にも付着し、あまり麗しくない姿になってしまっている。
「仕方がないわね」
 イツキはひょいとミリミリスの首根っこを掴む。
「水着は着てるわね?」
「え、あ、そうだすけど、え?」
 混乱するミリミリスにを手際よく剥いてから、イツキは大きく振りかぶり……。
「さあ、逝くわよー♪」
 そのまま見事なフォームで、海に向かって放り投げる。
「みーっ!」
 熟練冒険者の体力とミリミリスの軽さが相乗効果を発揮し、放物線を描きながら海に向かって飛んでいく。
 そして、着水。
「…………浮かんでこないわね」
 イツキの頬に、冷や汗がたらりと流れた。

●海辺にて
「か、はっ」
 唐突に意識が回復する。
 目の前にあるのは暗くなり始めた青空。
 背中に感じられるのは、まだまだ熱を持った砂浜。
「ここ、どこ」
 意識が混乱しているのが自分でも分かる。
 ミリミリスは全身身動き取れないほどの疲労に耐えながら、ゆっくりとあたりをみまわした。
「ちょっと変な顔になってますー」
 見覚えのある顔を見つけたミリミリスはにぱっと微笑むが、疲労のせいか生彩を欠いている。
「ま、色々あってね」
 ビッグペタン十貧衆〜萌世魔王・ゴウテン(a03491)はほっと胸をなで下ろしながら、ミリミリスに分厚いバスタオルを手渡す。
「?」
 いつの間にか体が冷え切っている。
 ミリミリスはバスタオルにくるまってから、うーんと唸る。
「ごめんなさい。まさかすぐ体が硬直してしまうほど水が苦手とは思わなくて」
 イツキが深々と頭を下げたことで、ようやくミリミリスが現状を理解した。
「溺れちゃったんだ」
 しょぼーんとうなだれる。
「こんなんじゃ溺れる猫ちゃん助けられない……」
 あうー、あうー、と今にも泣き出しそうな顔で地面をみつめている。
「だったら」
 濡れた髪に小さな手が優しく触れる。
 ミリミリスが驚いて見上げると、そこには優しい目をしたメディスが微笑んでいた。
「泳ぎの練習しよ♪ 体力が回復してからでいいけど」
「ううん今すぐ! 今すぐ練習します!!」
 ミリミリスは弾かれるようにして立ち上がる。
 猫に対する思いが燃え上がっているのか、先程までの疲れた印象は全くない。
「それじゃイツキ姉様。水泳教室を初めてください♪」
 昔と相変わらず子供っぽい仕草でイツキを促す。
「よろしくお願いします!」
 燃える瞳のミリミリスにもみつめられ、イツキは内心苦笑した。
 一見変わらないようでも、皆いつの間にか成長していく。
 ならばイツキもそれに応えるしかない。
「びしばしいくから、覚悟してね」
「はい!」
「は〜い♪」
 3人は連れだって、夕暮れの海へ踏み出していくのだった。

●BP団
「平和な眺めだねぇ」
 イツキにつかまり必死でバタ足の練習するミリミリスを見ながら、ゴウテンはひっそりと呟く。
「実はどうなることかと思っていたのじゃが……。問題なくてなによりじゃ」
 ルルティアは大きく伸びをしてから、小さくあくびをする。
「今日は騒がなかったの」
 すらりとした肢体をそのまま見せる水着姿のまま、からかうようにBP団の男を見る。
「そういうこともある。役得もあったしな」
「……そうか」
 ルルティアはほんの少しだけ違和感を感じた。
 現実の人工呼吸は色っぽくはないし役得にはなり得ない。
 される側は鼻水や体液をを垂れ流しているし、人工呼吸は時間との勝負なので肌の感触を楽しむ余裕はないからだ。
「日の暮れないうちに戻った方が良いぞ」
 しかし彼女はそれ以上何も言わず、海に背を向け今晩の寝床に向かっていく。
 ゴウテンは腕を組み、じっとミリミリス達をみつめている。
 やがて、ふらりと姿を現したプラムがやって来る。
「どうだった?」
 視線を動かさず問うと、プラムは小さなプラカードをゴウテンにだけ見えるように掲げる。
「荷物はポシェットだけ、か」
 荷物が少ないほど素早く移動出来るし、潜伏も容易だ。
 そこからあることが推測できるが、2人とも決して口にしようとはしなかった。

●はじまり
「はい。これでおしまい」
「えーっ!?」
 夕暮れの中、ミリミリスはバタ足を続けながら唇をとがらせる。
「やっと沈まなくなったのにー」
 ぷぅっと頬をふくらませる。
「くすっ」
 こちらは自力で平泳ぎで泳いでいたメディスは、ミリミリスを眺めて微笑む。
 ミリミリスはすっかりイツキに懐いている。そうでなければこんな言葉は出てこない。
「だーめ。夜の海で泳ぐのは危ないでしょ。それに」
 イツキは手を離す。
 ミリミリスは大あわてで手を振り回し、何度か海水を飲みつつも、なんとか水面に顔を出すことに成功する。
「水への恐怖は克服できたのだから、あとは練習すればするだけ上手になるわ。焦ることはないんだから確実にいきましょ」
「うん♪」
 猫娘は楽しげに泳ぎ、イツキに真正面から抱きつく。
 豊かな胸に柔らかな頬をすりつけ、機嫌良くのどを鳴らす。
「甘えんぼさんね」
 くすりと笑い、お姫様だっこで猫娘を抱え上げてから岸へと向かう。
「もしよかったらあなたの誕生日を教えてくれないかしら?」
 祝えないのは寂しいからと、見上げてくるミリミリスに伝える。
「誕生日……誕生日?」
 うーんと。
 塩の水で濡れた猫娘は真剣な顔でうなる。
「誕生日?」
 ごまかすのでもなく、演じるのでもなく、内心をそのまま言葉にする。
「思い出せないです。誕生日も、祝われたことがあるかどうかも」
 イツキの表情は逆光になっているため見えない。
 けれどミリミリスの髪をなでる手は、どこまでも優しい。
「……」
 何をつぶやいたのか、それは自分でもわからない。
 ただ、誰かの胸の中で安らぐのは、これが初めてということだけは確かだった。


マスター:のるん 紹介ページ
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作成日:2006/08/13
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