透きとおる蓮の朝露



<オープニング>


●微睡みの池
 大地を抱くかのように揺蕩う朝靄に包まれて、蓮の池はひそやかな微睡みの中にあった。
 水から上に幾多の茎を伸ばし天蓋の如く葉を広げた蓮に護られて、池の水面はどこまでも静謐のままに凪いでいる。けれど地平の彼方から陽が顔を出せば、朝靄の褥で微睡む池とて目覚めの刻を迎えずにはいられない。刻を迎えた池には夜の間に澄み渡った大気を透かした清冽な曙光が射しこんで、緩やかに揺蕩う朝靄を光に溶かし込むように払っていく。
 褥から解き放たれた池を覆うのは清しい緑の蓮の葉達。
 水面近くから見上げてみれば、淡緑の裏葉に曙光を映して揺らめく水面の波紋が映る。
 それだけでも充分綺麗なのですけれど、と藍深き霊査士・テフィン(a90155)はまるで酒気に酔ったかのように頬を染めつつ陶然と藍の瞳を潤ませた。その後にはこう続く。
 ――微睡みの池には今、鮮やかな桃色の蓮の花が咲いていますの。
 見た者が思わず溜息をつく程鮮やかに色づく、丸い蓮の蕾。掌をすぼめたような優しい丸みを保ちながら蕾は花開き、花弁の桃色に劣らぬ程鮮やかな山吹色の花糸を広げる。そして不思議なことに花弁はその鮮やかさを花糸に譲るかのようにして徐々に桃の色を失い、清雅な白の花へと数日をかけて変化していくのだ。最後には、白にほんのりと桃の色がさすばかり。それがまるで花が酔いの中にあるようだとテフィンは言う。微睡みの池に酔う、大輪の――蓮の花。

●透きとおる蓮の朝露
「……で、葉っぱの端から呑めばええの……?」
「いえ、葉の中央に穴を開けてから注ぎますから……こう、葉を掲げて茎から呑みますの」
 左手を口元にやり、右手を天に掲げるような仕草を湖畔のマダム・アデイラ(a90274)にして見せていたテフィンは、ハニーハンター・ボギー(a90182)の視線に気づき、固まった。
「二人で何のお話ですか〜?」
 ボギーが首を傾げると同時にテフィンはあたふたと居住まいを但し、誤魔化しを口にする。
「は……蓮の朝露を呑みに行きますの」
「あは、お米でできた朝露やけどね……v」
「お米……ってつまりお酒ですか! さてはボギーを置いて蓮酒を呑みに行くお話ですねっ!!」
 速攻でバレた。というかバラされた。
「……ええ、仰るとおりですの。でもお酒ですもの、ボギー様は呑めな」
「ぷー! いいですよいいですよっ! ボギーはお酒のかわりに蓮花茶でやりますからっ!!」
 しまった、と思ったのが顔に出たらしい。蓮花茶も結構好きだった。
 ボギーが「お酒を呑む人にお茶はあげないのです」と勝ち誇った顔をする。
「わかりましたの……なら折角ですから、冒険者の皆様もお誘いしましょう……? お酒とお茶があるならどなたでも楽しめますし、それに何より……とても蓮が綺麗ですもの」
 降参、と言うように肩を竦めて提案すれば、当然の如く異論は出なかった。
 蓮が抱く朝露は磨きぬいた水晶の珠の如く美しく透きとおる。
 そんな朝露に酒や茶を見立てて遊ぶひとときは、きっととても心安らぐものだろう。

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参加者
NPC:藍深き霊査士・テフィン(a90155)



<リプレイ>

●蓮の咲く音
 桔梗の色に明け染める空が連れて来た清冽な風が、微睡みの池に揺蕩う朝靄を音もなく払っていく。絹よりも柔らかで薄紗よりも儚い水の衣は地平から世界を染める清らな光にゆるりと消えゆき、ただ水上に揺れる荷葉の上にその名残を留めるのみ。緩やかに波打つ明緑の葉上には水晶の珠めいた朝露が光り、風に煽られた葉が傾げば――鮮やかな桃色の花の蕾に滴り落ちて、弾けて消えた。
 細かに弾けた水滴がきらきらと輝く様にオペラは思わず舟縁から身を乗り出したが、静かにして耳を澄ませば花が咲く音が聴こえるかもしれんとのイツキの言葉に瞳を瞬かせて居住まいを正す。けれど花開く時を瞳を閉じて待つうちに、とろりとした微睡みに意識が絡めとられていった。蓮の咲く音――鳴るとも鳴らぬとも言われるその音を、いっそ夢の中で聴けるなら。
 華やかに香る蓮花茶を瑞々しい碧の茎から吸えば、爽やかな風味がふわりと広がった。エルシエーラが瞳を細めれば、眼前の葉の間から顔を出す桃色の蕾が柔らかに霞む。蓮花と荷葉、そして朝の清しい香を深く胸に吸い込んで、ヴィオラとルルイは穏やかに笑みを交わした。明るい色に透きとおる茶で冒険者として四季を巡ったヴィオラを寿いで、優しく凪いだ心で過ごせる友との絆がいつまでも途切れぬようにと願う。水面に揺蕩う小舟に身体を横たえたアイラクは、朝露に濡れた蓮の蕾が綻ぶ様を心もち息をひそめて眺めていた。花の咲く音は、きっと心の中に響くから。
 今にも咲き綻ばんとする花をアズフェルが示せば、藍深き霊査士・テフィン(a90155)は酒気で熱を帯びた瞳を更に潤ませた。綻ぶ鮮やかな桃色の中には輝くような山吹の花糸。優美な花とそれを見つめるテフィンに一言呟けば、驚いたように瞳を瞬かせた彼女は何も言わずにただ微笑んだ。
 蓮の葉と花を飾る朝露が凄く綺麗と声を弾ませるサナに、宝石みたいにそのまま渡せればいいのになと微笑むアモウ。煌く朝露を散らす風にそっと彼女を抱き寄せれば、腕の中に優しい温もりがすっぽり収まった。揺れる淡いブルーのシフォンの向こうで夢のように美しい花が咲く。たとえこの景色が夢でも、この温もりは夢じゃないから――サナは口元を綻ばせ、アモウの胸に身を預けた。
 風にそよぐ荷葉の中に小舟で静かに分け入れば、透きとおる朝露を抱いた花がゆるゆると開きかけていた。この花の前でならと意を決したシアは、フォレストの手を握り彼の瞳を覗き込む。大好きな彼に、星の夜にくれた言葉の答えを。
「シアのこと、世界で一番幸せな花嫁さんにしてくださいね」
 彼女の笑顔にフォレストは破顔して、溢れる喜びのままに彼女を抱きしめた。
 微睡みの池に、フォレストの腕の中に――優しい色の花が咲く。

●揺蕩う花の香
 小舟から覗き込んだ荷葉は、その中心にひと掬い程の澄んだ水を湛えていた。きっとあの水の如くきらきら輝いているに違いないと思いつつ、ツバメは蓮の茎から冷たい米酒を吸ってみる。広がる爽やかな香に瞳を瞬かせれば蓮を支えていたセレもつられたように微笑んだから、セレはんも、と彼の為に荷葉を切り取り手渡した。ゆるりと注げば葉の上で、明るい色の茶が琥珀の如く煌いて。
 四阿から二人を微笑ましく見遣っていたアデイラは名を呼ばれて振り返り、差し出された可愛らしい折り紙の蓮の花に歓喜の声を上げ瞳を輝かせた。めっちゃ素敵なんよ〜と抱きしめられたレーダの尾が得意気に揺れる。水面から天へ向け立ち上がる凛とした桃色の花。四阿の柱に凭れて蓮花を眺め、アーゲイルはこれは呑まずとも酔えそうだと笑みを零す。だから酒ではなく、ノリスが用意した素焼きの壷で冷やされた蓮花茶を所望した。
 蓮花茶を味わいつつ眺める蓮の眺めは夢幻の如く美しく、クリスの唇からはこんな所に誘ってくれるなんて意外、との言葉が零れでた。ディーンは彼女の瞳を覗き込み、お前ももっと奥床しければ可愛げあるのになとどこか意地の悪い笑みを浮かべてみせる。クリスが「もう」と唇を尖らせ拗ねる様に吹き出して、ディーンは悪い悪いと彼女に二杯目の茶を注いでやった。
 柔らかな曙光にふわりと笑みつつ緩やかな曲を奏でるオリヴィエの傍らでは、風流なのもいいものだねとフリスアリスがひとり呟いて、蓮の香を抱いた酒を堪能したエリエラが今日は良い夢が見られそうと吐息を洩らす。蓮の葉を子供の玩具になりそうじゃと矯めつ眇めつ眺めるルーシェンには、きっと喜ばれますのと霊査士が微笑みかけた。
 シュシュから振舞われた濁酒を蓮の茎から吸っていた霊査士は、わたしはお酒に弱いのですと項垂れる彼女に瞳を瞬かせた。弱くても長く酒席に付き合える方法はないかとの彼女の問いに、思わず傍らのテフィンをまじまじと見つめるメビウス。やはり瞬きするテフィンに何でもありませんよと呟き目を逸らすメビウスの様子にくすくすと笑ったアデイラは、咲き初める蓮の形に細工された手毬饅頭を手渡してくれたミストをぎゅっと抱き、シュシュへと瞳を向けて「やっぱり何か食べながら呑むことかなぁ」と微笑んだ。茎から唇を離せずにいるらしい霊査士も小さく頷いてみせる。
 甘い酒香と華やかな茶の香、そしてほのかな花の香が水面の上を流れていった。

●緩やかな光
 舟縁に凭れ水面に映る蓮花を覗き込んでいたイロハはふと顔を上げ、傍らで花の絵を描いているキルの髪が光に透ける様に瞳を細めた。視線に気づいたらしい彼がこちらを向いて嬉しそうに笑ったから、イロハもつられて微笑み返す。茶を飲みに行こうぜとの言葉には素直に頷いた。蓮花茶もきっと、光を透かして煌くだろう。
 四阿を吹き抜ける風に瞳を和ませていたリラは「ふわっ!」という声に振り返った。見れば案の定ボギーの葉から茶が零れていたので、微笑みながら零れた茶を拭いてやる。きな粉菓子を卓に並べたアスティナは改めて茶を注ぎつつこっそりボギーに願い事を囁いた。はいですティナさん、と笑うボギーにアスティナも顔を綻ばせ。卓にはシュラーフェンの色とりどりの砂糖菓子も並び、ちょっとした花畑のようだった。菓子の色や蓮花茶の香に目元を緩め、ずっとこうしていられたらいいのになとリズリアが陶然と息をつく。カモは肴にと漬物を取り出し霊査士が荷葉に注いだ酒を呑み、ガーベラの咲く浴衣に零さぬよう苦労しつつ蓮酒を呑んだアーケィは、こうやって季節の風流が受け継がれて行くんだねと笑みを零した。面白い呑み方だなと蓮酒を見遣っていたガルスタは、普通の杯で蓮花茶を味わいながら池へと視線を移す。池のほとりで一人静かに酒を楽しむユリカ、そして蓮花の間に浮かべた舟で楽しげに踊るバームクーヘンやミルクレープが目に入り、色々な楽しみ方があるものだと口元に笑みを刷いた。
 茎を少し長めに取ったユダの葉に四阿の椅子に乗って蓮花茶を注ごうとしたボギーがつるりと足を滑らせる。慌てて支えてやればありがとですよ〜とボギーが笑い、つられて頬を緩めたユダは軽くその頭を撫でてやった。椅子から滑り落ちる瞬間を見てひやりとしたリョウは安堵の息をつき、アンシュが蓮の茎を咥えたのを確認してから酒を注ぐ。だが幾ら注いでも瞬く間に酒がなくなってしまう様子に、今度は別の意味で背筋が冷えた。
 翡翠のように瑞々しい色の茎から爽やかな香を吸った甘い白ワインを呑み、スイレンは不思議な感じだなと初めて口にした酒の味に瞳を瞬かせる。その拍子に彼女の髪で螺鈿の簪が揺れ、その煌きにグリュイエールは瞳を細めた。視線に気づいたスイレンが瞳を緩めて笑み、不意打ちを喰らった形となったグリュイエールの頬に血が上る。けれどそれは蓮の香薫る酒のせいだと言うように微笑み返し、彼は細く長い息をついた。

●水に咲く花
 咲き初めたばかりの鮮やかな桃の花弁、際に薄らと桃を残した楚々たる白の花弁、花弁を透かすのは光を縒り上げたかの如く眩い山吹の花糸。咲き誇る花々にカルーは小さな感嘆の声を上げて言葉を失い、ナイファは穏やかに笑みつつ静かに彼女と花々を眺めていた。日々情景を謳い上げる彼だからこそ、口を噤むべき場面はよく心得ている。
 二人で櫂を握り花の傍まで舟を漕ぎ寄せたシュリアとルルナは、あでやかに咲く大輪の花を覗き込み、顔を見合わせて微笑み合う。蓮の花はどんな香りがするのでしょうなぁ〜んと舟から身を乗り出したマヒナは、縁にかけた手をうっかり滑らせ寸でのところでクレスに引き寄せられる。肌に温もりを感じてつい「もしや役得なぁ〜ん?」と本音を洩らせば、どうやら二人きりというシチュエーションに緊張していたらしいクレスが一瞬固まった。だがすぐに二人は互いに顔を見合わせ吹き出して。聴こえてきた朗らかな笑声に思わず微笑みながら、レラはガイの荷葉に酒を注いだ。凄く贅沢よねと言えば、蓮の茎を咥えたままガイが瞳を和ませる。清しい空気と美しい花に囲まれ愛しい者と過ごすひとときは、確かに素晴らしい贅沢だったから。
 手を伸ばせば触れられそうなところに咲く蓮を眺め、カイルはこういうのを風流と言うのかなと口元を綻ばせた。シズハも瞳を細めて笑みを浮かべ、彼の二十歳の祝いにと甘い果実酒を荷葉に垂らす。ほんのりと色づく甘露は水滴となって葉を滑り、まるで宝玉の如く煌いた。葉と花の香の中でライカは向かいに座るヒエンの手を取り、結婚してくださいと真摯な瞳を向けて囁く。そして答えが紡がれる前に彼女の唇を塞ぎ柔らかな肢体を掻き抱いて、花色の日傘の下に倒れこんだ。
 ほのかな夜気の名残を抱いた風が水面を渡り、蓮を揺らす。レインは少し肌寒いかしらと呟いたが、その声音は澄んだ空気の香りが快いと言うように心なしか弾んでいた。煙るように微かな桃色を残した透きとおるように白い蓮花と、柔らかに煙る菫色の瞳を穏やかに緩める彼女を交互に見遣り、クィンクラウドは長い蓮の茎から清しく香る酒を呑む。まるで楽器を吹くかのようなその仕草が楽しく心が浮き立ったが、それは己を見つめるレインの優しい笑みのせいなのかもしれなかった。

●穏やかな水面
 微かに揺れる小舟が水面に描き出す波紋は明緑の蓮に遮られ、ゆらゆら揺れて溶けていく。
 舟の上のフリーデルトは冷たい蓮の茎からほんのりと苦い茶を飲み終えて、ようやく目が覚めたと言わんばかりに瞳を瞬かせた。その様にアニエスは柔らかな笑みを零し、彼女を気遣って用意してきた金平糖を手渡してやる。するとまるで彼女と入れ替わるかのように、眠気がアニエスに忍び寄ってきた。少し眠くなったかもと舟に身体を横たえた彼をそっと撫で「どうか、ご無事で」と呟いたフリーデルトの言葉は……揺らぎと共にアニエスの心へ染み渡る。
 酒気で微かな熱を帯びた意識の下で「俺が急にいなくなったら怒るか?」とアイズは小さく呟いた。ミユは蓮の茎に悪戦苦闘しつつ聞き返し、再度紡がれた言葉に眉を顰め冗談でも怒るよと返す。ならいなくなれないな、と頭を撫でてくれた彼の笑顔が何故だか消えてしまいそうで、ミユはアイズの服の裾を無意識のうちにきゅっと掴んだ。涼気を孕んだ風に心地よさげに瞳を伏せるイブキを見遣り、穏やかな時間の流れに幸福を感じながらオキは蓮花茶で喉を潤した。イブキも和らいだ表情でいる彼の姿に小さな安堵の息をつき、そっと彼の髪を撫で付ける。心に抱く思いは異なっていても、この優しいひとときを愛しむ気持ちは――同じ。
「露を湛え、朱を抱きて……朝露の泉に、蓮華揺らめく」
 鮮やかな色の花を前に詩を詠むって難しいなぁと呟いたリィリの様子に、ウィーとレオンハルトは揃って目元を緩めた。でもとにかく朝露に煌く花がとっても綺麗なの、と言う少女にそうだねと返し、ウィーは凛とした朝の香気に酔う大輪の花に笑みを零す。緩く頷いたレオンハルトも花へと目を移し、光を纏って咲くかのような花々に暫し心を委ねてみた。
 瞳を輝かせつつ冒険譚をねだるウィズにひとしきり話をしてから、ユーリースは彼に蓮花茶を注いでやる。茎の切り口から滴る茶をおっかなびっくり吸い込むウィズの様子に瞳を細め、ユーリースは小さな呟きを風に溶かした。
「……美味いもの食って、めいっぱい生きて、良いものを沢山見聞きしろよ」
 子供には、そうやって大きくなって行って欲しいから。

●透きとおる蓮の朝露
 水底から水上へと花茎を伸ばし、天へ向けて鮮やかに咲き誇る蓮の花。その様はひたむきで、そしてとても強いとファオは思う。あるがままに咲く命は、何故こんなにも心を打つのだろう。
 瑞々しい蓮の香を纏う濁酒。蓮酒をゆるりと堪能したグレイは――脇腹を霊査士に突付かれ「おひょう!?」と奇声を発したりもしたが――身体に浸透した清しさと瞳に映る情景の美しさに笑みを刻んだ。まさに夏を思わせる草の香と濁酒の柔らかな口当たりに満足気に頷き、ギーは自身とグレイの使った荷葉を卓に広げる。首を傾げる霊査士に、茸や冬瓜、豚肉を詰めた鶏を荷葉で蒸し焼きにして馳走したいと言えば、瞳を潤ませた霊査士は蕩けるような歓びの声を上げた。
 さも可笑しそうに笑いながら、メイレンも周りに倣って蓮酒を口にする。酒だけではなく清しい空気や穏やかな雰囲気までもを吸い込むようにゆるりと呑んで、また戦いへ赴くために心の憩いを満喫した。ハーツェニールも静かに安らぐひとときに心を浸し、清しい甘露で喉と魂を潤した。せめて一時でもこのような安らぎが多くの人の上にあれば良いと、瞳を伏せ祈りのような願いを抱いて。
 終始機嫌の良さそうなアデイラの様子に笑みを誘われつつ、コウは彼女へ心からの言葉を紡いだ。途端にアデイラはこの上ない歓びの表情を浮かべ、幸せのお裾分けと彼を思い切り抱きしめる。あの子、幸せそうやったんよと至福の表情で告げられて、その言葉に満足する自分の心が――コウには何故だかとても嬉しく感じられた。
 水面の上に小さな森を成す蓮の中、手折った蓮の葉を掲げてみれば、曙光を透かした蓮の茎が宝玉か砂糖菓子のように煌いた。そう思いつつ茎を咥えてみれば流れ落ちてきた濁酒がひときわ甘く感じられ、すっと抜けていく草の香の清しさも相まった心地よさに、ボサツは思わず瞳を細めた。同じ酒をテフィンが乾すのを待って話を切り出せば――藍の瞳からは大粒の涙が零れて落ちる。
 喜びでも哀しみでもなく、ただ純粋に心が震えたからこその涙。
 涙に自分自身が驚いたかのように瞬きした彼女は、彼のひとつめの問いに素直に頷いて、次いで訊ねられた言葉には「貴方と同じことを、貴方に」と答えを紡いだ。そして最後に消え入りそうな声で願いを囁かれ、ボサツはその意味を確かめるようにして――静かに瞳を閉じる。

 咲き綻ぶ蓮花の花弁から透きとおる朝露が零れ、水面に跳ねて――
 きらきらと輝く小さな水飛沫を、朝の光の中に振りまいた。


マスター:藍鳶カナン 紹介ページ
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作成日:2006/08/15
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