<リプレイ>
●まぁ……夏ですから 焼け付くような日差しの下、問題の迷惑集団を一網打尽にすべく冒険者達は集まった。 「教えは間違っていないが強制はよくない」 バミューダパンツをはいた流れる白波と潮風に舞う・ハルト(a36576)が浜辺を伺う。 「暑いといろんなのが湧いて出てくるな! 流石夏だ! 暑いぜ!」 思わず『海にお還り〜』っつって全員放り込みたくなるな! と、カレーな王子様・ロスト(a04950)も苦笑しながら浜辺に並ぶマッスル集団を見る。 その傍らに召喚獣の姿は見当たらない。 「トラウマになりそうな光景だな………」 走りこみと遠泳までは許容できるが、褌一つでのポージングを目の当たりにした蒼穹の巨影・ラーズルード(a53697)が遠くに目をやった。 「視覚効果だけで浜辺を占拠できるなんて……色んな意味で恐ろしい相手ですな」 闇に潜む赤槍・ウカスィ(a37777)の言葉のとおり、浜辺は筋肉の楽園と化している。 既に余人の入り込む余地は何処にもない。 「……しかしただでさえ暑っ苦しいのに、その上ムサイ教義まで広めようとは……理解に苦しむ連中でござるな……」 しっぽふわふわ・イツキ(a33018)も目くるめく筋肉乱舞に目頭を押さえた。 見ているだけで、熱気に当てられそうなほど暑苦しいのは言うまでもない。 「俺も褌だがな」 ロストと同じように召喚獣に待機を命じていた、白の戦鬼・ブラス(a23561)が立ち上がり胸を張る。 その白い鱗の腰に食い込む赤い褌が眩しい。 「暑苦しいマッチョを一掃……では無く説得、改心させることじゃな」 初めての依頼に少し頬を上気したようにそめたエルフの重騎士・ゼロ(a53636)が拳をぐっと握る。 この依頼の紅一点、唯一の潤いともいえた。 「まぁ……熱気でやられないように気をつけようぜ、皆」 剛健たる盾の武・リョウ(a36306)が仲間を見回し、頼りがいのある笑みを浮かべた。
●だって、夏ですから 「それでは……い……!?」 行くか? というラーズルードの言葉を待たずにハルトとブラスが猛然とダッシュする。 さりげなくという話では…… 「ほら、俺達も遅れないようにいこうぜ♪」 「いや……ちょ……まだ心の準備が………」 「そんなの後々、行くぜ!」 ラーズルードの首に腕を回したロストが引きずるように駆け出した。 「元気だな」 「そうですね」 木陰で囮班がダッシュで筋肉集団に体当たりをかけるのを見ながら、リョウとウカスィが冷えた麦茶のグラスを片手にのんびりと見送っていた。 「おおおぉぉぉぉぉぉぉお!」 「うらぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」 砂埃を地響きを上げて近づいてくる者の存在に、流石に筋力トレーニングに励んでいた男達はその手を休め何事かと首をかしげた。 「「ハィィィィィィィイ!!」」 サイドトライセップスの構えを見せたハルトの上腕三頭筋が綺麗な馬蹄形をつくり、バックダブルバイセップスのポーズをとるブラスの背筋がくっきりと凹凸を見せた。 「筋肉とは皆に愛されるべきであって、特定個人だけが満足すれば良い訳ではない」 「な、なんと素晴らしい教義なんだ……そう! 世界は筋肉により統べられるべきなのだ! 俺は君達の活動に感動した! 是非とも仲間に加えてくれ!!」 「「筋肉万歳!!」」 目指せ神。 「なんと、同士か!!」 むぅんとサイドチェスト、アドミナブル・アンド・サイとポージングを変化させ、其々の筋肉を誇示する二人の真剣な眼差しに男達が諸手を上げて歓迎する。 「俺もいるぞー!」 とうっと、浜辺を駆け下りロストが拳を作ってみせる。 「あ、それおまけね」 「……ぁぅぅぅ……………」 虚ろな呻きをもらすラーズルードは筋肉集団のど真ん中に投げ込まれていた。 「一緒に筋トレしようぜ!」 サムズアップして二カッと笑ってみせた。 「すばらしい、なんと研鑽を積んでいるようだな」 「我らが同士にふさわしい」 「こちらの……者は、鍛えればこれからが楽しみだ」 「ま、まて、脱がそうとするな!!」 変なところに触るな。服を死守しようとあがくラーズルードの努力も空しく、その格好ではトレーニングの邪魔にしかならんだろうという理由で褌に着替えさせられてしまった。
●だから、夏ですから 「なんか……意気投合してないかのぅ」 「してるな」 褌姿の男達に混じりトレーニングを始めた囮の男達を見てゼロが小首をかしげた。 「生き生きしているように見えるのは……気のせいでござろうか?」 「気のせいじゃないですね」 そう、本来の目的を忘れて囮になったメンバーはそれこそ、教団の面々顔負けの勢いで筋トレに励んでいた。 滴り飛び散る汗、隆々と隆起した筋肉の共演。筋力アップを重点的においた練習メニューを嬉々としてこなしていく。 それはまさに水を得た魚のように、筋肉マッチョたちに囲まれても一歩も引かぬ猛練習っぷりであった。 「決行は夜ですから」 とりあえず、このまま皆さんがアジトに連れて行かれるのを待ちましょう。 息を潜めて様子を伺っていた面々の目の前で、ラーズルードが錘を腰に括り付けられ、砂浜でダッシュしているいた。 その頬に残っていたのは涙の後ではなく、きっと心の汗の跡であろう。 「で、ここの一番偉い人ってだれ?」 同じように走りこみをしていたロストがさりげなく、傍で走っていた男に尋ねた。 「ここでは、誰が偉いというのはないんだ」 我々は我々の意志で、集い研鑽の日々をおくっている。 幹部という概念はないらしい。 「ふーん」 毎日のトレーニングメニューを考える年かさのものが、あえて言えば教祖の役割を果たしているのかもしれない。 それも一人ではなく、何人かが持ち回りでやっているという。 面白い組織形態といえた。
「筋肉のカットが旨く入らないんだよ」 「それには、バーベルトレーニングがいいんだぜ」 「あ、俺にもその肉くれ!」 浜辺から程近い断崖の洞穴にアジトはあった。 すっかり打ち解けた囮班のメンバーは夕食を囲み談笑をする。 「……結局……一日付き合ってしまった……」 一日でいい感じに肌が焼きあがったラーズルードが入り口を背にして、床にのの字を書く。 筋トレがきつかったわけではない、こんなメンバーと一緒に妖しい集団の一員として活動してしまった自分が悲しい。 ラーズルード以外の3人はといえば……既に教団の一員といってもいいほど溶け込んでいた。 恐るべしマッスル教。 よく動き、よく食い、そしてよく寝る。 これが教義の柱の一つであるというだけあって、地の海産物を使った晩餐は良質共にすばらしいものであった。 「これは誰が?」 「一日中は無理だけど、たまにならっていう奴の中には宿とか酒場をやってる奴もいてな」 手があいた職業料理人というのが数人いるらしい。 ここに集まっているものが全てではないという。 話を聞く限りそうとう数のメンバーがいるようであった。 筋肉に魅せられた者の行き着く先がここなのだろうか……考えるのも恐ろしい。
●それでも、夏ですから 波打ち際から様子を伺い、迫るものがあった。 「行きますか?」 「うむ」 ウカスィに促されゼロが重々しく頷く。 イツキとリョウも陸から襲撃をかけるはずである。 「……み、皆の者、か、活目してください……なのじゃ……そ、その筋肉を他の方達の役に立てて見ませんか……? ……のぅ……」 ザバリと突然可憐な水着姿の少女が姿を現す。 「……………」 暫しゼロを見て、ダメダメと首を振ると男達はまた筋肉談義に戻った。 「ま、負けた…このワシが?!」 こんな筋肉の塊どもに!? 「ほそっこい嬢ちゃんに興味も何もわかんよ」 「そうそう、男ならコレ! だろ?」 むっきっと力瘤を作る。やはり筋肉がないとダメらしい。 「きぃーーーー!」 「おわぁ!?」 「何だこの小娘!」 「ゼロさん落ち着いて下さい!」 数人の首筋をつかみ上げ海に放り込み暴れるゼロにウカスィがあわててとめに入る。 「はいはい、其処まででござるよ」 「神妙にお縄に付きやがれ」 脱がされてもいいようにとパンツ一丁のイツキと逞しい体躯のリョウが駆けつけてきて信者達を手際よく縛り上げていく。 「って、なんでお前たちまで」 「いやだって……」 「思ったより筋肉談義が楽しくて……」 当初の目的を忘れていた囮班のメンバーまで縛り挙げてしまったのはご愛嬌。
「お前達の筋肉は何のためについている?」 筋肉ってのは魅せたり、鍛えるためだけにあるわけじゃないだろう? リョウが縛り上げた面々の前に胡坐をかいて口をきりだした。 「鋼の筋肉! 飛び散る汗! 子犬のように助けを求める被災者に、直ちに駆け寄り見せる笑顔と、鍛え抜かれた肉体! これぞマッチョの真骨頂でござるよ! たまらんでござる!!」 どうせなら人に貢献してはいかがかとイツキが思わず興奮して鼻血をもらす。 何に鼻血下のかは聞かないほうが彼のためであろう。 「筋肉ってのはな、ただ在ればいいってもんじゃねぇ。信仰に必要なのは……在り方なんだよ」 それこそ真の筋肉に求められること。 筋肉ってのは存在するだけで凄みがあるもんだからな、民には刺激が強すぎる。でもお前達の努力次第ではそれも変わってくるだろうさ。 マッスルは時に人から恐れられることがある。 ならば……いっそのことライフセーバーだとか山岳救援隊とかになって有効活用してはどうか? 「親がわが子をぜひ入れたい、未来ある子供たちが自ら入りたいと願う、そんな教団でないと意味がないんじゃないか?」 筋肉ショックからラーズルードも説得に加わる。 人のために役に立つマッチョになれ。そう冒険者達は繰り返し説いた。 「アレだ、筋肉というか鍛え抜かれた肉体を使ってできる人助けを繰り返せば自然と筋肉も普及できるんじゃないか?」 でもお仕置きはしておかないとな……… 「ぎゃーーーーー……」 「ぐえぇぇぇ……」 「お助け………」 「ブラスさん……骨が……」 「おいおい大丈夫かよ……」 バキバキボキボキと嫌な音を立てる背骨を気にせずブラスが熱い抱擁をする。 「大丈夫だ、癒しの力だからな」 ブラスの命の抱擁を施された盗賊たちは暫くベッドにお世話になったという。 「結局熱くなっちまった俺も筋肉が……いや、微妙だ、微妙。そういうことにしておこう、でイツキ鼻血は止まったか?」 「少し暑かっただけでござるから大丈夫でござる」 けして……興奮した訳ではないでござる……というイツキの尻尾が心なしかだらりとしていた。 「人の為になるマッスルになってくれればいいな」 これでこの浜辺の騒ぎは収束するだろう。 これから先このマッスル教が、清く正しい筋肉道を進んでいく事を冒険者達は願う。 そう彼らなら……きっと人々に愛されるナイスマッスルになれるに違いないそう信じていた。

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参加者:8人
作成日:2006/08/20
得票数:ほのぼの9
コメディ24
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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