乙女チック



<オープニング>


「今回の依頼の構図は単純です。村に居座ったモンスターを退治してください」
 夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)が、身も蓋もない解説をする。
 いつもより疲れているのか、少々表情が沈んで見える。
「……とある村にモンスターが陣取っています。性質上、死人は出ていませんが……恐ろしく迷惑な代物らしいので、退治しちゃってください」
 性質。手を出さなければダメージを伴う攻撃はしてこないが、近づくだけで、状態異常を引き起こすガスを噴出するらしい。
 モンスターに攻撃しようなどという者こそいないが、怖いもの見たさからモンスターに近づく村人が多発している。
「まあ、死なないと分かっていればそういう気も起こるのでしょうが……危険である事に変わりはありません」
 確かに。いつモンスターの気が変わって村人を殺さないとも限らないし、村人がモンスターに攻撃を加えないとも限らない。
「幸いにも破壊力に長けたモンスターではありませんので、村に物理的な被害が出る可能性は低いでしょう……よろしくお願いしますね」
 深く溜息をつくと椅子にゆったりと腰掛けて、 テーブルの上にのっていた瓶を軽く指先で弾く。
「……切ないですね」
 お気に入りのお酒を切らしているらしいミッドナーは、物憂げな顔でそう呟くのだった。

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参加者
光纏う白金の刃・プラチナ(a41265)
真の愛狩人・ミシェイル(a42000)
紫葩・シアレーゼ(a49892)
天嶺に舞いし白花・サクラ(a51242)
朧月・シエル(a52768)

NPC:トレジャーハンター・アルカナ(a90042)



<リプレイ>

●おかしな村
「……暑いね」
 村に入った風の音色・シエル(a52768)の口から出たのは、そんな台詞だった。
 何も、村に入ってからの事というわけでもないが。今日の暑さは、異常とも言える。
 村という場所に入って、思わずそんな言葉が漏れてしまうのも無理からぬ事だ。
 そして、更に彼等の後ろでは。民家の壁に一生懸命登る真の愛狩人・ミシェイル(a42000)の姿がある。
「あのー……冒険者様、あの方は……」
 心配そうに散華の鏡刃・シアレーゼ(a49892)の裾を引っ張る家主に、トレジャーハンター・アルカナ(a90042)が笑顔で答える。
「うん、アレは気にしなくていいんだよ♪」
「はぁ、そうですか……」
 イマイチ納得できない顔で言う家主を他所に、ミシェイルが壁を登りきる。
「やぁみんな! 待たせたね! 僕が噂のミシェイル・ザ・超絶美形・アレンティーノさ!」
 観客の目が潰れんばかりの笑顔で台詞を叫ぶミシェイルに、集まっていた子供達が下から石を投げる。
 実の所、こんな事をやりながらモンスターの位置を探していたのだが。悲しいかな、理解者が居なかったらしい。
「ともかく、村人達には避難していて欲しいのじゃ」
 そう言う光牙咆震閃烈の双刃・プラチナ(a41265)の元に、村長とおぼしき老人が走って来る。
「ごめんごめん、遅れちゃったのじゃよー♪」
 内股で走って来るお茶目な老人から、思わず視線を逸らすプラチナ。
 軽やかにステップを踏む姿は、とても老人とは思えない。
「蹴り倒したらマズいよな、やっぱり」
 天嶺に舞いし白花・サクラ(a51242)の言葉に、先程の村人が鎮痛な顔を向ける。
「こういう状況でして……」
 つまり、皆で興味が恐怖に勝利しているわけだ。
「お願いします……冒険者様。ワシ等は恐怖で夜も……」
 頬を流れ落ちる涙を、キラリと光らせる村長。果てしなくうざったい事この上ない。
「モンスターの位置は此処からじゃ確認するのは難しいかな。場所は分かるかい?」
 そう言うミシェイルに、村人は首を横に振る。
「申し訳ありません。私は怖くて近づかないものでして……けれど、確か村はずれの広場に」
 とりあえずは、それだけ聞ければ充分であった。

●どうしようもない人達
 シアレーゼが、曲がり角で誰かと衝突する。
「いたた……もう、何すんのよ!」
 そう言いながら服についた埃を払いながら立ち上がったのは、お肌も曲がり角であろう女性。
 何故かパンを咥えている意味は果てしなく不明であるが、恐らく、この女性もガスを浴びてきたのだろう。
「全くもう、遅刻しちゃうじゃない!」
 何処に遅刻するのかは、やはり不明なのだが。そんな事を言いながら女性は走り去っていく。
「な、何だったのかなあ?」
「知らん」
 シアレーゼの言葉に、思わず頭痛を覚えた様子のサクラが答える。
「貴方、タイが曲がっていてよ」
 そんな事を言いながらプラチナに近づくのは、やはり妙齢の女性。
 プラチナのタイを治すと満足そうに去っていくのは、やはりガスの影響なのだろうか。
「気味悪いんだよ……」
 アルカナの言葉に、それぞれ同意するような反応を見せる面々。
 何とも不気味な空間を抜けていくと、やがて大きな広場に出る。
 陽射しのせいか、やけに華麗に見える空間には、男性1人を除いては誰もいなかった。
「いや……違うね」
 ミシェイルは、その男性を見て断言する。
 あれが、モンスターだと。
 身構える冒険者達に、やっと気がついたかのようにモンスターがゆっくりと振り向く。
 その姿は、確かに美青年そのものだ。しかし、そこかしこからあふれ出る雰囲気が、モンスターである事を明確に物語る。
 遮蔽物は、この場にある建物のみ。此処から先はモンスターの元まで遮蔽物は何も無い。
 いち早く真実の美を語る為のラヴ・アローEXを手早く構えるミシェイルだが、それよりも更に早くモンスターのビームが冒険者達に放たれる。
「きゃああっ!」
 乙女チックな声を上げるシエルに、思わず全員が振り向く。
 胸元を手で抑えるようにしてよろける姿は、それまでのシエルとは似ても似つかない。
「お、恐ろしいね……」
 シアレーゼは呟きつつも、自らのツインサーベルを抜き放つ。
「それじゃあ、いっくよーっ♪」
 ミシェイルの放った貫き通す矢に続いて放ったスーパースポットライトの光にモンスターが目を細めたのを見届けると、素早く前に出る。
 とにかく先手必勝。乙女チックになる前に倒さなければ、トラウマは間違いない。
 サクラの兜割りを難なくかわしたモンスターに、プラチナのホーリースマッシュが命中する。
「よーし、ボクだって!」
 アルカナが気高き銀狼でモンスターを組み伏せるが、何故だか組み伏せられたモンスターの服のように見える部位が開き、胸元がはだけた様に見える。
 何処と無くエロティックな表情を浮かべるモンスターを間近で見たサクラは、思わず鳥肌が立つのを感じた。
 その銀狼がアッサリ消え去ると、モンスターの身体からガスが吹き出る。
 思わずバンダナで口元を覆うサクラだったが、この攻撃がアビリティであった事を思い出す。
 アビリティであるならば、効果を及ぼす場所は風の向きにも左右されず、一定を維持する。
 極限まで距離をとっていたミシェイルを除く全員がガスに包まれる格好となった。
「シエル、大丈夫なの? 君に何かあったら、ボク……」
「アルカナ……」
 互いにそっと手を重ねあう2人。
 念の為に語れば、2人はそういう関係では一切無い。
 乙女チックな混乱を引き起こした2人は、互いが自分の好みの異性に見えているのだ。
 感情にも一定の混乱を引き起こした2人に、正常な判断力はあまり無い。それ故なのである。
「妾は……ダメなエンジェルじゃ。戦いの最中だと分かっているのに……この胸の鼓動は……一体何なのじゃ?」
「分かっている……私だってそうだ。プラチナを見ていると、自分の気持ちが止められなくなっていく……!」
 互いに見つめ合うプラチナとサクラ。お互いの距離が少しずつ近くなっていく中、1人正気なミシェイルの矢がモンスターへと飛んでいく。
「サクラ……妾は……汝の事を……駄目じゃ、言えぬ! こんな……こんな……!」
「プラチナ!」
 逃げようとするプラチナを抱きしめようとするサクラに、シアレーゼが背後から抱きつく。
「ダメだよ……行かないで!」
「何故だ! 私はプラチナを……」
 そう言って振り向くサクラの口を、シアレーゼが自らの唇で塞ぐ。
「シア……レーゼ……?」
「あたしだって……あたしだって、サクラの事大好きなんだもん!」
 タイミングよく降りだした夕立に打たれて立ち尽くす2人を眺めながら、ミシェイルは呟いた。
「……なんか楽しそうだよね」
 答える者は、その場には無く。
「いくよ……毒消しの……風ー!」
 胸元で祈るように固く握った手を、ふわりと優しい動作で広げていくシエル。
 心地良い風が辺りを包んでいき、シエルを含む全員が正気に戻る。
 混乱していたり乙女チックになっていても、当然記憶は残っている。
 それも、かなり鮮明に。
「あああ……妾はもう、嫁にいけんのじゃ……」
 赤面しながら崩れ落ちるプラチナ。
 他の面々も似たような様子である。
 しかし、それでも戦闘中なのに変わりはない。何とか気持ちを奮い起こし、モンスターへと斬りかかる。
「ああっ……」
 ビームを受けて、ゆっくりと崩れ落ちるようによろけるミシェイルをシエルが支え、高らかな凱歌を歌う。
「涙が出ちゃう……だって女の子だもん」
 いや、ミシェイルは男の子なのではあるが。そんな突っ込みは誰もいれない。
 思わぬ羞恥を味わった乙女達の怒りは、そんな余裕も無い程に根深く。
 サクラの怒りの兜割りの一撃が、モンスターを一刀両断の元に沈めたのだった。

●それでも乙女チック
「ありがとうござまいます、冒険者様」
 すっかり正気に戻っていた村長が頭を下げる。
 毒気の抜けた表情の村長は、人の良い老人、といった感じである。
「気にしないでよ。あたし達は、冒険者として当然の事をしたんだから♪」
 そう言って笑うシアレーゼに、村長は優しく笑う。
「……ところで、ワシ等はすっかり乙女チックな感情に嵌ってしまいましてな」
 突然雲行きの怪しくなってきた発言に、全員が顔をしかめる。
「これから、乙女チックな村として知名度を上げようかと思うのですが……つきましてはー、そのう。冒険者様達にも、この村の事を広めていただきたいなー、と」
 絶対嫌だ。
 口には出さなかったが、全員の心はこの場において……間違いなく1つだったのだ。


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