<リプレイ>
●草木も眠る 人気も失せ、静まり返った夜の村。 灯りがなければただでさえ心細いというのに、誰も居ないという状況が不気味さに拍車を掛ける。 聴こえて来るのは、風が揺らした木々のざわめきと、虫の鳴き声と……俄に、深森の迷い子・セーラ(a33627)の差し出した掌、小さく盛られた塩が、みるみると形を変えていく。 「お願いしますの」 結晶の虫は、仲間の提げるカンテラの光をを弾いて蓄えながら、そそくさと暗がりへ消えていく。もう一体、既に別の暗がりを偵察形態で歩くクリスタルインセクトの視界は、死徒の花嫁・セドナ(a30181)と共有されている。 時折、何かの影が見えるが、それは、言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)の喚び出した土塊の下僕。下僕達もインセクトと同じく囮として村の中を動き回っているのだが、如何せん状況は芳しくないようだ。 何しろ、男女を見分けるくらいだ、ひょっとしたら召喚物には興味を示さないかも知れない……直接こちらに襲い掛かってくる可能性も考え、紋章紳士・ナハト(a38377)は辺りへと十分な注意を払う。 探索を開始してから、まだ大した時間は経っていないはずなのに。 「モンスターよ出て来いなぁ〜ん」 不意打ちに備えた隊列の中央付近、立ち塞がる者・ロロニ(a52118)もまたカンテラですぐ側の暗がりを照らしつつ、周囲を忙しなく巡視する。 「やっぱ出てこなくても……いや、出て来いなぁ〜ん」 「……なんだかとっても不気味ですね……なぁ〜ん……」 同じく辺りを覗うように、夜を照らす光・マヒナ(a48535)が……しかし、長身の仲間が多いせいなのか、マヒナの背が低いせいなのか。マヒナのカンテラの光は結果的に下から煽る形になって、なんだか余計不気味な気がする。 変わり栄えのしない夜の景色。セーラとセドナの視界にも、変化はなく……そろそろ効果時間も過ぎるはず。 探索方法を切り替えよう。隊列の先頭に立つ、満ち足りた平凡・ウィンスィー(a21037)は自らもカンテラを取り出し、同じく先頭に立って背に庇う皆と周囲を交互に見渡していた、風斬りの稲妻・アーケィ(a31414)のカンテラから、火を借りて灯す。 ぽつり、と増えた灯りに、先程よりも少しだけ進行方向の明るさが増す。 ……生温い風に、何かの気配を感じたのは、その時だった。
●キモ! 中衛を囲むように立つ探索隊列。 その後方から、それはまさに、ひゅ〜どろどろといった様相で姿を現した。 「あらあら、大きな入れ歯ですの」 気配に気付いた後列、祈りの言霊紡ぐ・コト(a26394)の召喚獣が真っ先に姿を現して、コトを護るようにして闇色のマントを閃かせる。 「あらあら、いけませんわ。歯茎の色が悪うございますの。きっとリンゴを囓れば血が出ますわね」 何処となく悠長に、注意してみたりするコト。 が、歯が狙ったのは、その隣の…… 「なあぁ〜〜んっ!」 同じく後列、身構えようとカンテラを投げ捨てたロロニの身体を、薄気味悪い舌がべろりんちょ! 「き、気持ちわ……痛! いたたたたたたたなぁ〜ん!?」 強張る体。纏わりついた気持ち悪い色彩の唾液が、じわじわ、ちくちくとロロニの身体に焼けるような痛みをもたらしていく。 だが、それにはウィンスィーがいち早く反応。 「せめて昼間に出なさい、不気味な!」 間髪入れず解き放った癒しの聖女が、ロロニに優しく口付ければ、傷はみるみる塞がり、舌と唾液の呪縛もあっと言う間に拭い去る。 「怪我とかしても仲間に治してもらえるけど、けど、あの舌に舐められたくはないっつ!」 同じくカンテラは手放し、隊列先頭から一気に敵の前にまで距離を詰めながら、アーケィが細身剣片手にイリュージョンステップの構えを取る。その鎧が、コトの施した鎧聖降臨で更に力を増す。 「歯槽膿漏はおっかないですわ、きちんと歯を磨いて歯槽膿漏を予防しましょうの」 カタカタカタカタ。 笑っているのか、不健康……むしろ腐敗完了と称して過言でない、色の悪い歯を鳴らし、化け物は再び暗がりに消えようと、宙に浮いたまますぅ〜っと後ろに下がっていく。 逃がしてなるものか。 カンテラの灯りに揺れる、薄い影を確認し、四季の器・ミルフェミナ(a51380)は引き絞った大弓の弦に、闇夜に溶ける薄暗い矢を生み出す。 と、その時。 暗がりに紛れてしまいそうな歯に向けて、夜の闇すら焦がさん勢いで燃え上がる無数の木の葉が、歯の周囲に舞い踊った。 「燃やしてあげますの」 セーラの掲げた杖の先、空中に浮かぶ紋章から飛び出す木の葉は虹色に輝きながら……と、もう一つ、握る宝珠の力を解き放ち、セドナもまた宙に紋章を描けば、召喚獣のガスを乗せ、入り乱れて歯に向かう。 大きく燃え上がる、緑の業火。 すると、もう一つ。こちらは散開した皆の後方に、一際明るく燃え盛る火球が生まれ、皆を背後から照らす。 「さて……行きますよ」 魔炎に焼かれもがく歯に向け、今度はナハトが、頭上に生み出した巨大な火炎の玉を投げつけた。 「空飛ぶ入れ歯は……お化け屋敷だけで十分なんですよ!」 ひゅるる、どーん。 この場が戦場でなければ、花火に見立てたエンブレムノヴァに向けて、たーまやーとでも叫んだかも知れない。 それくらい見事に火花を散らせて弾けた炎。そして、その真下に一瞬くっきりと浮き出た影に向け、ミルフェミナが限界にまで引き絞った影縫いの矢を解き放った。 「その場を動くことを禁ず。ただ立尽し、己が終わりを待て」 矢は小さな風切り音を立てて地面に突き立ち、しかし、流石に拘束力が足りないのか、敵は未だ残る魔炎を纏わりつかせながら、カタカタ歯を鳴らして……今度は前進! 「きゃー! きゃー! こっちに来ないでくださいなぁ〜んっ!」 距離を詰めようとするグロテスクな物体。マヒナは思わず後退りしながら、慌てて反撃の一矢。 暗闇で青白く発光する稲妻の矢は、皆の頭上を雷光を描いて飛び再び舌を伸ばそうとしていた歯を真上から直撃した。 直後、そんな戦場を、遠くにまで届く明るい光が覆う。 頭上、ヨウリの灯したホーリーライトが、辺りをその光で黄色一色に染め上げていた。 なお、元々色の悪い歯は、単色光のせいで黒っぽい斑模様の塊っぽくなり、周囲の景色からはすっかり浮いている。 「……迷彩柄に見えなくもないですね」 気持ち悪い事に変わりはないですが。そんな呟きを漏らしつつ、セドナが再び宙に紋章を描く。 その気配を背後に感じ、アーケィが連携に持ち込めるようにと、更に近付こうとする歯に向けて真っ向、地を蹴る。 歯も迎撃宜しく、これまた黄色い光のせいで妙な色彩と化した舌をアーケィに向かって伸ばすも、アーケィは軽やかな動きでそれをかわし、細身剣を振り上げる。 「耳の穴から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせたろか!? ……って、耳は無いんだよね〜」 軌跡から生まれ舞い飛ぶ薔薇の花。 華麗に、そして、鋭く突き刺さる薔薇の剣戟。 そして、その薔薇の花びらを巻き込み、渦巻いて、再び虹色と薄暗い紫を乗せた緑の業火が、歯を取り囲んで飛翔する。 「以外にしぶとい……ですね」 再び投げつけた火球が弾けて消える様を見つめるナハト。ウィンスィーはこの隙にと黒炎を纏い、コトは相変らず飄々と。 「あらあら、でもやっぱり色が悪いですしきちんと廃棄処分しなければいけませんわね」 余計色悪くなった敵を前にそんな事をいいつつ、今度はロロニに鎧聖降臨。 もうあの舌にやられるのは懲り懲り。そんな思惑もあるのか、大鉈を手に歯へと距離を詰めるロロニの鎧は、全身を覆い尽くすように変貌を遂げる。 盾を構えた横っ面から、駆け込む勢いを武器に載せ繰り出す大地斬。 惜しくもその一撃はかわされてしまったが、また暗がりに身を寄せようとしていた歯を、再び通路側へ誘導する事には成功する。 そんな歯に、しっかりと狙い定めるのはミルフェミナ。 再び突き立つ影縫いの矢。しかし、やはり拘束力が足りないのか、歯はさして意に介した様子もなく、カタカタと鳴りながら宙を移動する……その側面から、マヒナの射たホーミングアローが弧を描いて襲い掛かる。 「やられちゃってくださいなぁ〜んっ!」 刹那、撃たれた歯の一部が、衝撃で弾き飛んだ。 もう一息! 「さあ、皆様。跡形もなく粉砕してすっきりさせましょうの」 コト、にっこり極上の笑顔。 恐ろしいまでの笑顔と共に、いよいよ黒炎を纏い攻撃態勢に移るコトに危機感を感じたのかなんなのか。歯はまたカタカタカタと歯抜けた音を立てながら……しかし、またもやべろりと舌を伸ばす。 「なぁあぁ〜ん!?」 またもや襲われるロロニ。 直接ではないにしろ、鎧を這う舌の音や感触の気味悪さに、またもや硬直。 が、鎧聖降臨の加護と、黒炎覚醒の力も得て更に強力になったウィンスィーの癒しの聖女の前に、舌の毒気などはもはやさしたる脅威ではなかった。 そして、歯が攻撃をした隙に、アーケィがその身に纏う銀と黄の氷炎を、細身剣の切っ先に乗せ、一気に突き立てる! 見る間に魔炎と魔氷に覆い尽くされ、動きを封じられる歯。 謎の浮力も失って、ごとりと地に落ちた歯に、更にヨウリが投網を投げつける。 直後、周囲を、幾度目かの炎が舞い踊る。 キャンプファイアー宜しく、高々と燃え上がるセーラとセドナの緑の業火。その炎を、またナハトの叩き込んだエンブレムノヴァが、纏めて花火のように弾き飛ばし、夜の景色を彩った。 そして、一瞬で消え失せた炎の中心に向け、雷光が走る。 「やられちゃってくださいなぁ〜んっ!」 マヒナの射たライトニングアローが、地面にまで縫い付ける勢いで歯を真上から襲う。 身動き取れぬまま、散々に打ちのめされる歯。それでもなお、地面でごとごともがく様に、ミルフェミナは溜息交じりに弦を引く。 「あぁ、もう。気持ち悪いな……とっとと滅しろ」 引き絞った弓より放たれる、ホーミングアロー。 ひゅるるる、と小さく風を切る音をたてながら、それは弧を描き…… その一撃が、止めになったのであろう。 歯は、矢の着弾と同時に、その身を覆い尽くす氷炎諸共、ぱぁん、と景気のいい音を立てて、粉々に砕け散ったのであった。
●たーまやー 「素敵な粉砕ぶりでしたわね、すっきりしましたわ♪」 相変らずにこにこと、コトが亡骸を見下ろす。 敵の沈黙を確認するや、セドナは姿を見えにくくするために纏っていた黒いマントを脱ぎ、ほうと一息。 「やっと終わりましたね……」 「終わりましたね……なんとも夏らしいというか……気味の悪いモンスターでしたなぁ〜ん……」 マヒナも嘆息しつつ、しかしその息は安堵でもあったろうか。 敵の骸は、最早、数々の炎攻撃によって消し炭同然。なので、そのまま埋葬、周囲に荒らされた後がないかも確認し、アーケィはうんと頷く。 「これで村の人達が安心して帰ってこれるね」 静けさを取り戻した夜の村。 響く虫の声。 ただ、二回も舐められてしまったロロニは。 「夢に出そうなぁ〜ん……今日は歯ブラシを枕の下に入れて寝るなぁ〜ん……」 至極、疲れきった表情をしていたそうな。

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参加者:10人
作成日:2006/08/21
得票数:冒険活劇2
コメディ15
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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