さんどさんど



<オープニング>


 その壁は、突然村に現れた。
 見上げるほどの砂の大壁が、二枚。
 壁はぴったり並行に向かい合って、そのままじりじりと移動する。そして、その壁の間に生物が入り込むと……ばたん。
 物凄い力で挟み込み、何もかもぺしゃんこにしてしまうのだ。
 しかも、厄介な事に、奴の身体は砂で出来ている。正確には、顆粒状の質感を持った可変固体。砂そっくりのアメーバ、といえば判り易いだろうか。
 どちらにしろその体格は『可変』である。壁状の折に二枚に見えるのも、実は地面を伝う細長い部分でしっかり繋がっている訳だ。
 だが、面倒なのは、一度壁状を解除してしまうと、地面の砂と見分けがつかなくなってしまうこと。奴も自身のその質感を重々承知しているのか、出没地点は何処も砂地。被害にあった場所も、小さな砂丘に程近い、砂地の村だ。現在はその砂丘を棲家にしていると思われるが……もっと広い場所に移動されてしまえば、探すのがかなり面倒なのは想像に難くない。砂丘に留まっている間に、なんとか片付けて欲しい。
 とはいえ、戦場は相手の庭も同然。突如足元から競り上がる巨大な壁には、十二分に気を付けねばなるまい。
 今のところ、形状は砂に紛れているか、壁状かしか確認されていない。しかし、基本が可変形態である以上、それ以外の攻撃に注意をしておくに越した事はないだろう。
 この困った砂壁を、ただの砂に帰し、人々に安心を。
 引き受けてくれないだろうか。

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参加者
傭兵上がり・ラスニード(a00008)
黄金の羅針盤・ナシャ(a21210)
全開・バリバリ(a33903)
風舞桜花・フルル(a37802)
白猫に導かれし戦士・ヴァル(a38901)
春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)
悠悠自適・フィスカ(a48957)
孤独を映す鏡・シルク(a50758)
黒騎士・カミユ(a52450)
柳風・クララベラ(a53155)


<リプレイ>

●ペンキペンキ
 灼熱……とは言わないまでも。
 高く照り付ける陽光に、陽炎で揺れる砂の世界。
 台車を使おうにも車輪は瞬く間に砂に埋れ、結局、ノソリンになった、全開・バリバリ(a33903)を先頭に、傭兵上がり・ラスニード(a00008)らが御輿のように担いで使う事に。
「暑ちぃ〜」
 一面に見える砂に辟易した表情の、聖罪の後継者・カミユ(a52450)が漏らす台詞は、さっきからそればかり。
 殊のほか削れる体力。
 道中、白猫に導かれし戦士・ヴァル(a38901)が、
「『腹が減っては戦はできぬ』って言うからなっ!」
 と、弁当を振舞ったお陰もあり、とりわけ消耗したバリバリの体力も、それなりの水準に立ち戻る。ただ、黄金の羅針盤・ナシャ(a21210)の場合は、バリバリノソリンにすっかり和んでいたので、道中の疲労など、あってないようなものだったが。
 ようやっと荷台を下ろせば、積まれているのは色とりどりの塗料。すっかりほかほかになった缶の中身が開けられていく傍らで、ナシャと、桜花の許の眠り猫・フルル(a37802)、緋色の海に浮かぶ銀世界・シルク(a50758)が、有り余る程の砂から、土塊の下僕を喚び起こす。
 汗を拭い、悠悠自適・フィスカ(a48957)は遠眼鏡を覗いてそれらしきものが無いかを見回すが……
「見つけられたら良いのよね〜」
 映るのは一面の砂ばかり。
 止むを得ず、自らも囮の土塊の下僕製作に取り掛かる。
 缶のまま、袋に詰めて、バケツに移して……様々な容器に入った、様々な色の塗料を持たされる下僕達。稀に、逆手にカンテラをぶら提げ、二刀流状態になっているものもあるが、それは、敵の索敵手段が温度感知の可能性もあると考えた、春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)の、念を入れた作戦である。
「頑張ってね」
 ナシャの応援を背に、真っ先に青い缶を持った一体が、砂地へ繰り出す。それ続けと、他の下僕も歩き出し……なんだか、遊びに行く子供の集団に見えなくも無い。
 その間に。人型に戻ったバリバリは、周辺の砂地に適当に塗料を撒き散らし、ある程度の範囲に線を引いたり、色を別けたり……こうすれば、敵が近付いたとき、色の違いで一目瞭然。フルルも下僕作成を一段落し、砂地に等間隔に線を引いて、それを敵とのおよその距離の目安にする算段だ。
 そんな様子を、柳風・クララベラ(a53155)が実に興味深そうな表情で、時に首を傾げ、じっと見つめる。無心に気を惹かれているように見えて、その身は既に二色の氷炎を噴出し、不意打ちに備えて無風の構え。準備は万端。
 何処に居るのか……近すぎず遠すぎず動き回る下僕の周囲を、ラスニードが重点的に遠眼鏡で観察する。
「アメーバさん、どこにいるんでしょうね……」
 フィスカも首から下げた遠眼鏡でを覗き、あちらこちら。
 そして遂に。
 砂の中からすっくと、一対の壁が立ち上がった。

●カラフルカラフル
 そいつは実に滑らかに。砂の上を滞りなく動いて、目をつけたらしい下僕の一体を、勢い良く挟み込む。
 ぱーんと、手を叩いた時のような高い音を立て閉じる壁。その隙間から、土に返った下僕の破片と、それが手にしていた青い塗料が放射状に飛び散った。
 漸くの敵のお出ましに、クララベラは実に嬉しそうににっこり微笑むと、手近にあった塗料の缶に両手両足を突っ込んで塗りたくり……壁に向け、突撃。
 接近に備え、ラスニードが振り撒いた塗料の砂の上を駆け抜けて、目指すは茶色いキャンパス。
 駆け込む勢いのまま色のついた手で殴りつければ、手形ならぬ拳型が、壁の表面に刻まれる。
 が、その手形は、次の瞬間には見えなくなっていた。粘度を高めた特性塗料を、ここぞとばかりにバリバリが浴びせ掛けたのだ。
「これでどうなぁ〜ん」
 赤、青、白に、蛍光ピンク。膠も加えてどろどろマーブル。
 流石に全面に、とは行かなかったが、壁の片側は見事なまでのけばけばしい色彩に彩られる。
 しかも、砂一色の時には判らなかったが、形は変わらずとも壁の表面は流動しており、つけた色が更にうねうねと動き、実に奇妙な模様に。
 その様子に、ナシャは。
「きもちわるい」
 ぼそっ。
 だが、印が付けばこっちのものだ。
「うおおおおおっっ!」
 巨大剣にありったけの闘気を詰め込み、忙しなく色彩を変える毒々しい壁に向け、ヴァルが肉薄する。
「砕け散りやがれえええっっ!!」
 刃の先をぐにゃりと受け止め、しかしそれはデストロイブレード。唐突に巻き起こった爆発に、片側の壁はまるで水飛沫のように、その一部分を吹き飛ばされる。
 が、元々が可変。多少サイズを縮めながらも、欠けた角をくっつけると、向かってきた三人を纏めて挟むつもりなのか、ずるずると平行移動を始めた。
 そんな特大の壁と、そこにできるこれまた特大の影を狙う者が。
「そうはいかないのなぁ〜ん♪」
 限界一杯に引き絞った弦に黒い矢を番え、ミアが一気に解き放つ。
 びしりと突き立つ影縫いの矢。
 しかし、壁は一瞬身を震わせただけで、三人を纏めて、まっさらとけばけばの壁で、サンド!
 ……三人共マーブルになってるのかな。
 そんなことを何となく考えつつ、砂丘に響く歌声……は、実は耳にとってとても壊滅的らしいので、無傷な仲間にはちょっときついかもしれないが、そこはそれ。黒い炎を纏ったナシャから紡がれる高らかな凱歌が、閉じた中にいる三人を痛みから救い出す。
 あんな状態でも、何もしてこないとは限らない。
 色味の変化が良くわかる色のついた砂の上からでないよう、巧みな足捌きで位置取りを変えながら、フルルが手にした鋼糸を鋭く振るう。
 撃ち放たれる衝撃波。
 内部に貫通するソニックウェーブの一撃に、閉じた壁が薄っすら開き、そこからすかさず飛び出して体勢を立て直す三人。
 そんな三人と入れ違いに、迸る召喚獣の氷炎を剣に纏わりつかせたカミユとシルクが、左右それぞれ別の壁に迫る。
 こうなったら更に物理マーキング!
 振り落とされる巨大剣と、交差して一閃する双刃。
 手応え自体はどこか頼りなく、しかし、カミユからは赤黒と白、シルクからは紅蓮とエメラルドグリーンの魔炎魔氷がそれぞれ刃を伝い、壁を燃え盛る炎とぶ厚い氷の中に閉じ込めた。
 そして、灼熱の砂丘に、燃え上がる木の葉が舞う。
「たぁ〜」
 気の抜けるような音程で、しかし、本人は至って真面目に。フィスカが描いた紋章から迸る炎が、掛け声と共に動きを止めた壁に纏わりつき、陽炎すらも焦がさん勢いで燃え上がる。
 このまま一気に……思い、皆が次の攻撃態勢に移ろうとした時。
 唐突に溶け崩れ、吹き消えていく氷炎。
 壁は形を変え、砂に紛れ……
 でも。
 バレバレだった。

●バレバレ
 本人は砂と同化しているつもりなのかも知れない。知れないが。
 うにうに動くマーブル模様。
 それは更に、色付きの砂の上に乗り上げ……
 ナシャはまた呟く。
「やっぱり、きもちわるい」
 後ろを取ってるつもりなんだろう。きっと。たぶん。
「見た目は余り良くないが、判り易いのう」
 近付いて来た敵をかわして、色分けされた別の区画へ飛び退くフルル。
 そんな敵の端っこを、わしっと掴み上げるバリバリ。
 そのまま、力の限りに……振り回す!
 渾身のデンジャラススイングに、敵は砂中から引きずり出され、あまつさえ、宙を舞う。
 皆で色付けしたカラフルな砂地に落下して、どばっと崩れる敵。
「……芸術は爆発なぁ〜ん?」
 なんかそれっぽい。
 そんなひしゃげた敵に更に鞭打つように。挟まれた時の痛みと恐怖も命を賭す喜びに替えて、クララベラは照り付ける太陽に負けないくらい眩しい笑顔で、もう一度砂に紛れようと蠢く砂の化け物に拳を振り落とした。
 ごり、と肘まで埋れ、しかし今度はその身から迸る青と紅蓮の氷炎が瞬く間に敵を覆い、不定形のそれをくっきりと砂の上に浮かび上がらせる。
 そんな敵の頭上に、巨大な剣が影を落す。
「今度こそ砕け散りやがれえええっっ!!」
 巨躯ごと乗り上げ、一番盛り上がった部分に向けて、ヴァルが今一度渾身の一撃を叩き落す。
 先ほどとはうって変わった、実にいい手応え。
 続けて巻き起こった爆発に、氷炎に閉ざされた敵の破片が、眩しい砂地へと弾けて飛んだ。
 何は無くとも回復専念。高らかな凱歌で大地賛唱を寂しく一人合唱中のナシャの歌声を、何となく意識の向こう側で受け止めつつ、ラスニードがウェポン・オーバーロードで力を増した剣を手に、流れるような動きで切り込む。
 陽光を照り返し、流線型の筋を描く剣の煌き。
 切り飛ばされた敵の一部は、それを覆い尽くす氷炎に焼かれて、やがて溶けるように消えていく。
 そして相変らず放射線状に広がり固まったままのど真ん中に。
「住人さんたちの平和はミアたちが守るのなぁ〜ん♪」
 黄褐色の背景を貫いて飛ぶ、青白い稲妻の矢。ミアの撃ち放ったライトニングアローは、恐るべき威力でヴァルの抉った傷口に減り込み貫通、凍り動けぬ敵に穴を穿つ。
 その傷口を、更に抉るのはフルルから飛来する衝撃波。
「そのまま朽ち果てるがよい」
 氷炎もマーブルな表皮も貫通し、敵の内部を破壊するソニックウェーブ。潰れ消えて消失した部位にあわせるように、氷炎もまたその輪郭を変え、敵の形はなんだかドーナツのようだ。
 そしてそこに、もう一つの巨大剣の影。
「それにしても……暑い」
 この魔氷に冷却効果があればいいのに。
 いかんともし難く、実にだるそうな雰囲気を醸し出しながら、カミユが氷炎迸る巨剣で敵を更に追撃する。
 一方、同じく氷炎を噴出しつつも、シルクは目の前の砂アメーバの方が気になるらしく。
「ちゃんと燃え残ってくれるでしょうかっ!」
 一握の望みとは裏腹に、振るった双刃に千切れ飛んだ破片は、カラフルな砂地に落ちると、どんどん燃え尽き、溶け消えていく。
 痛烈な連携に、見る間に縮んでいく敵の全体像。
 そこに更に追い討ちをかけるように、フィスカが太陽に負けじと輝く紋章を宙に描く。
「てやぁ〜」
 やはり掛け声は間延びして、しかしそこから飛び出す緑の業火の威力に容赦などなく、纏わりついた木の葉が燃え上がれば、敵はまたもう一周り小さくなる。
 だが、敵も必死なのだろう、何とか綻び始めた氷炎の隙間から、変幻自在の身体を伸ばし……砂の『下』へ逃げ込もうと蠢く。
 そうはいくものか、バリバリがうねうね伸びる端を掴み、デンジャラススイングをお見舞いするも、べしゃっと潰れたその身体を、カラフルな砂の下へとずるずる沈ませていく。
 すかさず、クララベラが追撃、腕をもぐりこませても、今度は上手くガードしたのか、氷炎広がることはなかった。
 だが、そんな地形を物ともしない一撃によって、砂アメーバは再び皆の前に毒々しい姿を晒す事になる。
「吹き飛びやがれええええっっ!!」
 巻き起こるは嵐。ヴァルが渾身で撃ち放ったレイジングサイクロンが、色付きの砂諸共巻き上げる。
 竜巻の中、千切れ飛び、みずぼらしいまでにその身を縮めさせる敵。
「逃がしません」
 ぽとりと落ちたそこに向け、すかさずラスニードが頭部を発光。
 怯む敵。
 その一瞬を、フルルとミアは見逃さない。
「これで、終わりだ」
「きれいな景色を壁なんかで遮ってはいけませんなの……なぁ〜ん♪」
 衝撃波は内部から敵を破壊、その身体を真っ二つに引き裂き、僅か残った小さな的を、弧を描いて飛ぶ矢が、見事に撃ち抜く。
 そして、敵は遂に粉々に砕け散り、真に砂に還っていったのであった。

●どこだどこだ
「ちゃんと砂に返ってねなのよ〜なむなむ」
 もう見えなくなった敵に手を合わせ……それっぽい残骸も全部焼き尽くすフィスカ。
 が、それはシルクにとっては。
「とにかくっ、わたしはアメーバさんの正体が知りたいんですっ!」
 燃え尽きた辺りを、ごそごそ掘り返してみて……
「ああっ、さっぱり見分けがつきませんっ!」 
 それでも意地で探すシルク。果たして成果はあるのだろうか。
 一方、クララベラは、闘いへの感謝の意と、強敵への追悼なのか、残骸らしき所に、更に砂を掛けたりしていた。シルクの発掘作業難航必至。
 兎も角は後片付け……と、色をつけた砂を掘り返しておこうかと思ったバリバリであったが、先ほどのヴァルのレイジングサイクロンですっかり混ざり合っていたので、そのままにしておくことに。
「それより早く水浴びしたいなぁ〜ん」
 見ればすっかり塗料まみれ。塗料まみれな敵を殴ったり、挟まれたりしたのだから、まぁ当然ではあるが。
 ただ、塗料には縁がなくとも、皆して砂丘で暴れまわった訳だから。
「あーもー髪ばさばさー! 肌かさかさー!」
 砂避けのマントを羽織って歌っていただけでもこれである。
「うー、必死に砂漠対策してきたのに……帰ったらすぐお風呂入ろ……」
 一人リサイタルを終え、ナシャは髪や服についた砂を荒っぽく払い落とし、深い溜息をついたのであった。


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