美しき金色の髪



<オープニング>


 緩く波打つ金色の髪。
 朝日に照らされれば美しく輝き、夕日に染まれば儚げな美しさと共に夜を迎える。
 美しく輝き波打つ金色の髪……
「……に憧れてるんだと」
 言ったブレントは椅子の背もたれに背を預け、浅く座りだらしなく足を投げ出して霊視の腕輪の鎖を弄んでいる。
「んで、今の自分の髪はくすんでいて汚いから美しい金色の髪になりたい。そうなれる薬を作るには材料が必要。その材料は山ん中にあって獣だとかモンスターだとかグドンだとかいるかも知れないから取ってきてほしい」
 そこまで少し早口で棒読みに言ったブレントはようやく顔を上げ、冒険者たちを見た。
「その薬とやらだが、聞いた話じゃ髪を染めるっつーよりは髪を綺麗に洗い栄養を与えるとかゆーまぁ、言うなれば気休めのような代物らしい。材料も何処にでもある薬草の類を集めれば良いんだが、敵が2体いるんだよ」
 やる気なさそうな顔で首の後ろを掻きながら、ブレントは続ける。
「まぁ、2体の敵は別々のところにいるんで一度に2体相手にするような事はないだろう。1体は池の側。もう1体は山の中腹の野にいるんでな、まぁ材料集めのついでに倒してくれや〜」
 軽い感じで言ったブレントはひらひらと手を振った。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
金色の世界の中で踊る・ヤタ(a22254)
踊る風・クレイ(a33036)
四季・カーサ(a36741)
麗朗雪花の謡い手・ミリア(a36803)
漆黒の復讐龍・ナゴリ(a41102)
徒桜・ルカ(a45942)
蒼穹の果てを知る者・アルトゥール(a51683)
NPC:金見鶏・トゥイ(a90217)



<リプレイ>

●美しき金色の髪の為に
「は〜い。地図ですよ〜」
 カバンの中から丸められた羊皮紙を人数分取り出し、トゥイは冒険者たちに手渡す。羊皮紙にはトゥイが模写したらしい、今回の材料探しに必要な地図と材料の簡単な情報が書き込まれている。
「サンキューな」
 依頼人に色々と情報を仕入れようと考えていた四季・カーサ(a36741)だが、これで無駄な時間を省く手間がなくなりトゥイの頭を撫でた。 
「どんな髪でもきちんと手入れをしていればとても綺麗だと思いますけど……やっぱり金色に輝く髪がいいんでしょうか?」
 少し首を傾げ、円らな瞳をゆっくり瞬かせ想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は感じた疑問を口にした。
「美しい金の髪…憧れる気持ちわかります! 私も少し、憧れていますから」
 紫色の柔らかな髪を持つ麗朗雪花の謡い手・ミリア(a36803)がぐっと胸の前で手を握り言うと、ラジスラヴァはそういうものですか、と小さく笑んだ。
「綺麗な髪かー……うー、いや、憧れないわけでも、ないけどね〜」
 と、何やら曖昧にどもる踊る風・クレイ(a33036)は材料覚えて帰ってトリートメントでもしてみようか、と自分の赤茶色の髪をそっと見た。
「美しく輝き波打つ金色の髪……に、憧れねぇ……まー気休めでもないよりゃマシか」
「髪は女の子の命って言うもんね」
 効果のわからねぇ薬でもな、と呟いたカーサに金色の光の中で踊る・ヤタ(a22254)は笑い言った。そんなヤタの頭の中にそういえばと疑問が顔を出す。
(「……ん? 依頼人って女の子……?」)
「美しくなりたいと思うのは良いことだと思いますよ。協力したくなりますね」
 徒桜・ルカ(a45942)が微笑み言えば、そうだなと他の冒険者達もひとまず雑談を終え、依頼の成功を考え始めた。
「袋、用意しましたから採取した材料を入れるのに使ってくださいね」
 袋を用意していたラジスラヴァは皆にそれを手渡す。
「班分けはカーサさんが行なってくださった通りですね。私、ラジスラヴァさん、ルカさん、ヤタさんがA班。野原の方ですね」
 蒼穹の果てを知る者・アルトゥール(a51683)が全員の顔を見渡しながら確認の意味も込めて言う。
「トゥイさん、ミリアさん、クレイさん、カーサさん、そしてナゴリさんはB班で池の方をお願いします」
「池ですか……わかりました」
 頷く漆黒夜空に紅の星眼・ナゴリ(a41102)
「んじゃ行こっか。依頼人さんの喜んだ顔の為に頑張ろ!」
「おー!」
 冒険者達は歩みだした。  
 
●白い蝶の羽
「退治の後で採取、でいいよね?」
 地図を頼りに野へと向かいながら言ったヤタに仲間達は頷いた。
「敵の気にしながら採取をするのは大変ですしね」
 ルカが言い終わるとラジスラヴァが地図から顔を上げた。
「そろそろ近いですね」
「食べ物、用意していますから退治したらちょっと腹ごしらえしましょう」
 微笑んだアルトゥールにつられて笑みを浮べた冒険者達は野へと視線を向けた。
 広がる緑の絨毯には所々赤やピンク、薄い紫色の模様が散りばめられ美しい風景だ。その上を白い羽が舞う。茶色い赤ん坊位の大きさの猿が白い蝶の羽を持ち飛んでは野に下り、毛繕いをしてはまたふらりと野の上を気ままに飛ぶ。
 4人は敵に気付かれないよう、足音を殺し、警戒しながら進む。
 小猿ピルグリムグドンはヘビイチゴを摘み口に放り込んでおり、4人に気付く様子はない。
 それでも相手は野生の獣。自分の身に迫る危険を本能的に感じ取ったらしく顔を上げ、周囲を見渡し胸騒ぎする原因を探す。
 歌が響く。ラジスラヴァの口から紡ぎだされた眠りへ誘う歌にピルグリムグドンの耳がぴくりと反応しゆっくり体を丸め縮めていく。
 ヤタが草を蹴り、駆けた。
 鋭い呼気と共に斬鉄蹴がピルグリムグドンの肩を打つ。
『ギキャーーァ!!』
 耳を劈く悲鳴を上げ眠りから覚めたピルグリムグドンは牙を剥き冒険者たちを睨みつけ、スグに攻撃に移ろうとしたのだがヤタの強烈過ぎる一撃を受けた覚醒したばかりの体はぐらりと揺らめく。
 ピルグリムグドンは冒険者達の命を脅かす脅威には、ならなかった。
「あなたに裂ける時間など無いのでね……」
「安らかに」
 素早く振るったルカの衝撃波とアルトゥールの作り出した3つの頭部を持つ黒い炎がピルグリムグドンの体をただの肉塊へと変えた。
 
●土色の少女
「ミント〜カミツレ、ローズマリー〜♪」
 適当にリズムをつけてクレイは歌い歩く。
「地図で見ると、池はそろそろでしょうか?」
「そうですね。派手に動き回られて材料を台無しにされても困りますし、一気に片付けてしまいましょう」
 ミリアが広げる地図を覗き込み、言ったナゴリの言葉にカーサは頷いた。
「足がアシカっつーと動き鈍そうだしなー」
「うん。がんばりたまえー」
 ふりふりと羽を振り、他人任せの発言をするトゥイに、トゥイさんもですよクレイとミリアからツッコミが入りつつ進む一行の目の前に池の端が見え始めた。
 そして、陽光の下佇む一人の少女。しかし、それは人ではない。禍々しい二本の角を頭部に生やし、土色の肌をしアシカに似た下半身を持つ少女はやって来る冒険者達の気配に気づいてか顔を彼らの方へ向けた。
「一気に……」
「いっくよ!」
 ナゴリとクレイがモンスターへと駆け出すと瞳孔の開ききった銀色の目が二人の姿を映した。
「いっくよ! 避けないでねっ」
 短剣を素早く振り抜き放った衝撃波が真っ直ぐモンスターへと進む。
 土色の肌を切り裂いた衝撃波の一秒後、ナゴリの鋭い蹴りが光の軌跡を描きモンスターの下半身へとめり込む。
 ぐらりと大きく崩れ落ちながら、モンスターは死に際のあがきをみせた。
 鋭い叫び声と共に風の渦が冒険者たちを包み込み、切り裂き傷つける。しかし、そのあがきもミリアの高らかな凱歌によりすぐに癒されカーサの飛燕連撃により完全に土色の肌は湿った大地に沈んだのだった。
  
●美しき髪へ
「植物ってまじまじと見つめる程、愛情注いだ事ないので、教えて頂けると嬉しいです」
「私も、地図に書いてあるとはいえ見た事がない植物ですので……植物には疎くて……お恥ずかしい」
 アルトゥールとルカが少し恥ずかしそうにはにかみながら言う。
「俺もあんまりわかんないんだよね。これを元に探すしかないんじゃないかなぁ」
 とヤタが羊皮紙をひらひらさせる。
「そうですね。わたしも詳しい知識はないのですけど、ここに描かれているカミツレはわたしが聞いた情報と同じですから、これを頼りに採取すれば大丈夫、だと思います」
 と地図に描かれた植物の絵を示しラジスラヴァが言えば、アルトゥールとルカは少し不安ですがと言いながら目的の物を探し始めた。
 不安を胸に材料採取をする者もいれば、楽しそうに採取する者もいる。
 ミントの葉を指で擦り、胸一杯に香りを吸い込んだクレイは満足そうに息を吐き出した。
「うん、いい匂い♪」
「あ、あった♪」
 地図を片手に柑橘系の実を見つけたミリアはまるで宝物を見つけたように目を輝かせ、手を伸ばし一つもいだ。丸いオレンジ色の実は爽やかな甘酸っぱい香りがする。
 ふらりと地図を頼りに歩くナゴリは全ての材料を集めるつもりらしい。池周辺の材料は既に袋の中だ。さて、と野の方へと歩き出すナゴリの後を追うように歩き出したカーサにボケっと座り休んでいたトゥイが首を傾げた。
「ありーカーサちゃんどこいくの〜?」
「んー野に行くんだよー野薔薇の花担当だからなー」
 池側来るのに野薔薇選んじまってよーと尻尾をだらりと下げながら歩いていく背にトゥイはバイバイと軽く手を振った。
 材料の採取にはそれほど時間は掛からなかった。
 最初は不安を感じていたアルトゥールとルカも目当ての材料をちゃんと見つけ出せ、一安心。冒険者達は依頼人の元へと急いだ。
「ここが〜依頼人の家だよ〜」
 とトゥイが指し示した家はこじんまりとした普通の一軒家で、玄関の横には鉢植の花が綺麗に咲いていた。
「ちわ〜冒険者で〜す。材料のお届けにまいりました〜」
 扉をノックし、何ともマヌケなトゥイの呼びかけに家の中からガタガタっと慌てて人がやって来る音が響く。 
 開かれた扉から覗いたきつく結ばれたくすんだ金の髪。そして、白い肌にふくよかな大きな体。待ちに待っていた物が届き、瞳を輝かせ笑顔で冒険者たちを迎えた30代の男は歓喜の声を出した。
「あぁ、待っていたぜ〜!」
 一瞬、冒険者達の間の空気が固まったような気がした。
「これで、俺の髪も美しい金色の髪に……よーっしゃ、早速作るぜー! 悪いなぁ、こんな事頼んじまってよー」
 にっかりと白い歯を見せて愛嬌のある笑顔を向ける依頼人に冒険者たちは引き攣った笑いを浮かべる。綺麗になった髪を見せてもらいたいとか、薬の作り方を教わろうとか考えていたが、依頼人を前にするとそんな言葉は中々出てこない。
「あの、素敵な金色の髪になると、良いですね」
 何とかようやくそう口にしたミリアに依頼人は嬉しそうに巨漢を揺らし、材料を受取りながら一人一人と握手を交わし礼を言う。
「んじゃ、ありがとうな!」
 一刻も早く薬を作りたいらしく、そそくさと冒険者たちに片手を上げた依頼人にカーサとヤタが片手を上げ返した。
「まー綺麗な髪の毛になるといいよな、頑張れよ」
「……イエス! イエス! イエ……もがむぐっ」
「ばいば〜い」
 何か念波を受け、イエスと叫んだヤタの口を押さえ手を振ったトゥイ。笑顔で消えた扉を前に、冒険者達は揃ってちょっぴり遠い目をして爽やかな笑みを浮べていたそうな。 


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