納涼ハイキングレース



<オープニング>


●暇な3人
「ねえ、デスト」
 トレジャーハンター・アルカナ(a90042)が、近くにいた青年にこっそりと声をかける。
「……なんだよ」
 冒険者スープを食べていた緑衣の狂剣・デスト(a90337)は、少し不機嫌そうに答える。食事は彼の至福の時間だ。
「……ミッドナーが暇そうな顔してこっち見てるんだよ」
 言われてデストが視線を向けると、いつも通りの表情の夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)が、確かに此方を見ている。
 手元の羊皮紙に何かを書き込んでいるように見えるが、此処からでは分からない。
「いつも通りにしか見えんが……ちょっと右に動いてみろ」
「え? なんで?」
 言いながらも動く辺りは、アルカナがアルカナたる所以であるが。ともかく、アルカナの移動に合わせてミッドナーの視線も移動する。
「……安心しろ」
 それを見て、デストはそんな事を口にする。
「見られてるのはお前だ。俺は関係ない」
「そ、それはもっと問題あるんだよ!?」
 アルカナは思わず後ろを振り返り、ミッドナーと視線が合う。慌てて逸らすが、もう遅い。
「アルカナさん、山に行きますよ」
 すでに決定事項のようだ。是非の確認すらない。
「や、やだ!」
「却下です。はい、皆さん集まってください」
 パンパン、と手を叩くミッドナー。余程暇だったのだろう。
 とりあえず、巻き込まれる前にデストは席を立つ。
「ボ、ボク、そんなのやだー!」
 アルカナの絶叫を聞いて、少しの同情をしながら。
「……ま、死ぬわけじゃねえし。気楽にやってこいよ」
 人事のように言いながら、その場をさっさと離れるのだった。

●納涼ハイキングレース
「まあ、海はこの前行きましたしね」
 そんな事を言うミッドナーの肩を、アルカナががっしりと掴む。
「問題はそこじゃないってば」
 必死な形相のアルカナに、ミッドナーはいつも通りの無表情。
「ボクは賞品の事を言ってるんだよ?」
 羊皮紙に書かれた優勝者の賞品。
 アルカナのお宝数点より一個プレゼント。
「なんでボクの宝物をプレゼントなのかなー?」
「あの遺跡から色々持って帰ってきてたくせに……」
 ボソリと呟くミッドナーと、何やら冷や汗を流すアルカナ。
 何を意味しているのかは不明だが、何やらアルカナの秘密らしい。
「で、でもボクが出すなら、ミッドナーも何か賞品出すべきだよね!」
 そう言って、アルカナは羊皮紙に何か書き加える。
 賞品(追加)
 ミッドナーに何か1つお願いできる権利
「……むぅ、アルカナさんもやるようになりましたね」
「ふっふっふ……ボクだってやられっぱなしじゃないんだよ?」
 集まった他の全員を他所に盛り上がる2人。
 何はともあれ、レースが白熱する事は間違いなさそうであった。

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参加者
NPC:夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)



<リプレイ>

●納涼ハイキングレース
 今日も空は真っ青。まだ明け方だというのに、これからの暑さを想像させる。
「じゃあ皆さん、準備は宜しいですか?」
 夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)の言葉に、全員が一様に頷く。
「それじゃあ……よーい、ドン!」
 何やら諦めの入ったような顔をしたトレジャーハンター・アルカナ(a90042)の声が響き、全員が四方へと散る。
 その中でも異色を放つのは、いきなり断崖絶壁を登っていく悪をぶっ飛ばす疾風怒濤・コータロー(a05774)と血飲刀・クフェロ(a32628)だ。
 登山セットを用意して最短コースを選択しようとするコータローの心意気は立派だが、それでも中々苦労しているようだ。
 それに比べるとクフェロは景色を楽しみながら、悠々と登っていく。三点バランスを基本とした登り方を維持して登っていくクフェロはコータローに比べ装備こそ整っていないものの、劣るものではなかった。
「うっしゃ!! いっちょやったるぜ!!」
 気合一発、ファイト一発。ぐいぐいと力を込めて登っていくコータローとは裏腹に、漢・アナボリック(a00210)の様子は実にゆったりとしていた。
 慌てず走らず進んでいく姿は、余りある筋肉故の余裕か、あるいはレースの賞品に興味がないか。それを知るのは恐らく、彼の大腿四頭筋だけであった。
「……ミッドナー、変な解説やめない?」
「暇なんですよ。凄く予想外です」
 暇な二人の会話を、どれだけ聞いていたかは分からないが。近くにいた桃ノソリンの行かず後家・トロンボーン(a34491)がノソリン形態であっても分る程に微妙な表情をしていた事だけは間違いなかった。

●レース経過・1
「うぉらあ!」
 森の中では、武侠・タダシ(a06685)が恐ろしい勢いで突き進む。
 オーソドックスな草で編まれた罠を地面ごと蹴りぬき、丸太の罠を打ち砕く。
 高レベルの武道家ならではの力ずくの全力突破だ。
 召還したフワリンが突然消えた事に驚いた彩雲追月・ユーセシル(a38825)が振り向くが、時すでに遅し。
 あっさりと轢き飛ばされて宙を舞う。そのまま崖に飛びついたのは、さすがと言う他無い。
 そのまま迷わず急流を遡っていくタダシの横の道を抜けていくのは伽藍の亡霊・ナナギ(a12381)だ。
 崖の断崖絶壁っぷりに思わず絶句しつつも、意を決して登り始める。
「ファイトー……!」
「い、一発……?」
 ナナギの遥か上のほうで赤雷・ハロルド(a12289)が天藍顔色閃耀・リオネル(a12301)の腕を掴んでいる。
 無駄にピンチを乗り越える熱き姿が、見るものの涙を誘う。
 しかし、一度ピンチを乗り越えれば2人は絶妙のコンビネーションで登っていく。
 ハロルドよりも動きの早いリオネルを、リオネルよりも力のあるハロルドがサポートする。
 同様に2人組で断崖絶壁を踏破しようとするチームもある。
「ファイトー!」
「いっぱーつ!」
 焔たつ水晶・トゥティリア(a18526)と戦女神の寵愛を受けし店長・オレサマ(a45352)のスピードは、ほぼ同等。
 お互いにファイト一発な掛け声をかけながら確実に登っていく。
 理由は全く分からないのだが、ファイト一発の掛け声は二人の心を1つにしていくようだ。
 そして、二人の目的が完全に合致している事もまた、そのコンビネーションを完璧なものとしていた。
 その心は1つ、ミッドナーに自分の店の仕事を手伝って貰いたい。働くかどうかは恐ろしく疑問が残るのだが、ともかく二人の心は1つだったのだ。
 そんな中でも、やはり異色を放つ者がいる。
「あいつの為にも、負ける訳にはいかないんだぁ!」
 アイツって誰だ。そんな突っ込みすら許さないほどの表情で崖を登っていく誓夜の騎士・レオンハルト(a32571)。
 勿論、アイツなんて人は居ないのだが。英雄譚の真似事である。
 愛剣ライオンハートに加えて大型の盾まで背負っているレオンハルトの姿は、それだけで英雄と称えられるに違いない。
 どういう英雄かはさておいての話ではあるのだが。
「ハイキングレース……ハイキングとレースはどちらが重要なのだろうな?」
 そんな事を言いながら川の石を飛び渡っていく櫻を愛する栗鼠・ガルスタ(a32308)とは、かなりの温度差である。
「うわぁ!」
 森の方から聞こえる声は、探索士・エルヴィン(a36202)の罠に引っかかった笑顔のヒーロー・リュウ(a36407)のものだ。
 木に吊るされた格好となったリュウではあるが、それで何かダメージがあるわけではない。
 持っていた短刀で縄を切ると、ドサリと地面に落下する。
「まだ近くにいるのかな……?」
 辺りを少し警戒するリュウではあるが、当のエルヴィンは森には居ない。
 ハイキングコースを駆け抜けていく彼は、近くを一生懸命走っていく麗朗雪花の謡い手・ミリア(a36803)を微笑ましそうに見ながらも、足を速めた。
「どうでもいいけど、アルカナ・ウィンディが優勝すれば本人は宝物を取られる事もないし、ミッドナー・イートゥの命令権も手に入るのよね。優勝できれば、の話だけど」
 野菜ジュースを飲みながら絵本を開いている黒の少女・ルノア(a42211)の後ろを、光牙咆震閃烈の双刃・プラチナ(a41265)が走っていく。
 一生懸命走っていくプラチナの後を追いかける翠色の魔術師・ウェンデル(a47704)。
 そんな2人を、ルノアは眩しそうに目を細めて見た。
「えー……崖、ですか……」
 杏仁豆腐・ラウロ(a50184)が、崖の遥か上を見つめる。
 少し遅れて来た日曜の午後・フルムーン(a49704)も、やはり同じような表情だ。
 2人は顔を見合わせると、その近くのハイキングコースを通っていく戦場の鍛冶屋・ザウフェン(a50117)を眺める。
「……迂回しても着くかな……」
 同じようにハイキングコースを通っていくフルムーンとは違って、崖をちょこちょこと登り始めるラウロ。
 速度のほぼ同じ2人は、此処で別れる事となったのだ。互いに敵同士、手加減は無しだ。

●そして、決着
「ふぅ……」
 事前にとった「希望するお願い」アンケートを捲る。
 夏着を買いに行こう。
 飲みに行こう。
 店の手伝いをしてくれ。
 思いっきり着飾って欲しい。
 そんな中に、「お友達になって欲しい」といったものを見つけ、微かに笑いながら。
 際どい水着を着て欲しい、とか書いて消した後に皆で酒を飲みに行きたい、などと書いてあるのを見つけて溜息をつく。
「水着とかははアルカナさん向きだと思うんですけど」
「ボクは知らないもーん」
 ミッドナーのサイン入りのアイテムが欲しい……などなど。無記名でこそあるが、一部誰のものか分かりやすいものも多々あった。
「……そろそろでしょうかね」
 頂上から眺めるミッドナー。体力が常にゼロ寸前な彼女を誰が運んだかは、地面に転がったまま起きようとしないアルカナの姿を見れば想像がつくというものだ。
 やがて響く数々の息も絶え絶えな絶叫。どうやら複数人のデッドヒートのようだ。
 やがて道から現れたその人物達は、残る闘志を振り絞って走り抜く。
 ほぼ同時に崖の終わりにに手をかけた者達も、最後の力を振り絞る。
 滝登りという荒業をやってのけた者達も、己の手に、足に魂を込める。
 そして最初に山頂にたどり着いた者は、ミッドナーに声をかける。
「今度飲みに行こう。静かな所でゆっくりとな」
「分りました。時間と場所を決めておいてください」
 手元の羊皮紙にミッドナーが「1位・タダシ」と書き込むのとほぼ同時か、少し前か。全力を使い果たしたタダシが倒れる。
 トップグループ全員のスピードは、ほぼ同等だった。
 そんな中でタダシが勝利を掴みとったのは、極限の軽装と。極限の力づくでの突破方法にあったに違いない。
 続けてゴールしてくる面々がほぼ同着であった事が、それを示していたと言える。
 そこまで頑張って叶える願いが、ミッドナーと2人で飲みに行くこと。
 思わず苦笑して、倒れたタダシの頭にハンカチをかける。彼女なりのねぎらいだ。それにレースはまだ終わっていない。
 リオネルやハロルド、ナナギやレオンハルト、リュウやザウフェンといった面々が次々とゴールする。
 それぞれルートやスピードは違えど、己の持てる能力を注ぎ込んだ結果である。
 そんな中、1人森の中で迷っていた寵深花風なリリムの姫宮・ルイ(a52425)も辿り着き、思わずミッドナーに抱きつく。
 ルイの頭を撫でながらミッドナーは、自分より小さいルイが自分より遥かに女性らしいスタイルをしている事に小さくショックを受けたりもしたが。
 それはまた別の話であるし、ミッドナーは絶対に顔に出さないので、それだけの話である。
 やがて息も絶え絶えに到着したユーセシルやラウル、フルムーン達を迎えて。レースは一応の決着を見たのだった。

●納涼の果てに。あれ、納涼出来た?
「それでは、アルカナさんから賞品授与をお願いします」
 上位の面々が並び、アルカナが笑顔で賞品を渡していく。
 その様子に違和感を感じたか、ハロルドが声をかける。
「貰えるのは嬉しいけどさ。いいのか?」
「うん。皆全力で頑張ったからね。ボクからのお祝いなんだよ♪」
 だからこれからも、ボクの負担の軽減を頑張って欲しいんだよ♪
 言外にそんな意味が込められているのを感じ取り、冷や汗を流す。
 今更ではあるが、アルカナの笑顔が凄く怖かった。
「あー、それと。この皆さんのお願いに関してなんですが」
 ミッドナーが、そんな事を口にする。
「勿論、優勝者のタダシさんが優先ですけれど。他のお願いも可能な範囲でお聞きしようと思います」
 それを聞くと同時に、参加者達が一斉に詰め寄る。
「アルカナの……」
「却下です。次!」
 いきなり身も蓋も無いが、それでも勢いは収まらない。
「ミッドナーさんに一週間お店の手伝いをお願いしたいのだけど」
「あ、俺もそれを共同のお願いってことで」
 そう言うオレサマとトゥティリアに軽く視線を向けて。
「1日です。あと、私は仕事しませんので」
 スッパリと言い放つが、ミッドナーにしては大きな譲歩であると言える。
「ミッドナーさんとお友達になりたいです」
「ええ、分りましたミリアさん。お酒を酌み交わすわけにはいきませんが、貴方用の果物ジュースを常備しておく事にしましょう」
 そうやって全員のお願いを聞き終えた後、アルカナがそっとミッドナーに耳打ちをする。
「どしたの? ミッドナーにしては気前がいいような……」
 ミッドナーはそれにはすぐに答えず、アルカナにそっと耳打ちして立つ。
「さ、てと……では、まず最初にザウフェンさんのお願いを叶えましょうか。皆さん、酒樽亭に行きましょうか?」
 今晩、皆で飲みに行く。それを叶えるためには、今からまた全力疾走である。
「あの……ミッドナーお姉さまは先程、何て言ったんですの?」
 先程の会話を気にしていたルイが、アルカナにそんな事を聞く。
「ん? えーとね……」
 アルカナは、いつもの通りに快活に笑って。
「無茶なお願い以外は、最初っから全部叶えるつもりだったんだってさ♪」
 そう言って、皆に遅れて走り出す。
 こんな馬鹿馬鹿しいイベントでも、全力で参加してくれる人達。
 そんな人達のお願いくらい聞いてあげるのが、人情ってものでしょう?
「こんな事を考えるのも、夏の陽気のせいですかね……」
 タダシの背中に乗りながら、ミッドナーはそんな事を考える。
 優勝者らしからぬ扱いではあるが、いつもの光景ではあるに違いない。
 いつも通りの日常、愛すべき日常、愛すべき人達。
 その全ては永遠ではない。時は流れ、日常は変化していく。
 悲しい事も、辛い事もあるだろうし、経験してきた。
 それでも、こんな日常があるのなら。作り出していけるのなら。
 明けない夜は無いと。夜の闇は必ず晴れるのだと。そう、信じていけるのだ。
「ま、そんな難しい事でもないのかもしれませんけどね」
 誰にも気づかれぬように、小さく笑ってミッドナーは目を閉じる。
 少し休んで、目が覚めれば。この小さくて大きなお祭りの第二弾が始まるのだ。
 誰もがそれに想いを馳せ。夜闇の少女もまた、想いを馳せる。
 夏の夜はまだまだ、終わらない。納涼ハイキングレースは、此処からが本番に違いなかった。


マスター:じぇい 紹介ページ
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作成日:2006/08/25
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