<リプレイ>
●川のせせらぎ心地良く さらさらと流れる川の畔。 近くに大小様々な弁当の包みが置かれていたり、バーベキューセットが置かれていたり……とまぁ、よくこれだけ運んできたものだなと思えるくらいに色々なものがあった。人影は無く、出払った後らしかった。 そんな風景を背に、四人の男女がのほほんと……一部火花を散らしている箇所もあったようだが、そんな感じで岩に腰を下ろし釣り糸を垂らしていた。 くんっ、と竿が動いたのは、矛眼姫・オルーガ(a42017)のものだった。基本的とは言え誓夜の騎士・レオンハルト(a32571)の説明を確りと聞いて頑張っていたお陰だろうか。「要は、竿が引いていたら、槍術の掬い上げの動作をする要領で釣り上げればいいのでしょう?」と、竿を握る手に力が籠もる。 オルーガの焼いたクッキーを勝手に頬張りながら、暁の凛花・アシュレイ(a90251)が頑張れーとか適当な応援を送る。 カッと紫の目を見開く。 「……えいっ!!」 ――――長閑な川原を、枯木が華麗に舞った。
ある夏の日未だ陽も高い頃に、凄まじく打ちひしがれている女性とそれを必死で慰める男性の姿が川縁にて見られたという。(エルフの邪竜導士の青年の証言による)
(「……あの人は、何を思って此れを取っておいたのだろう……」) 感慨深く燬沃紡唄・ウィー(a18981)は地図を指の腹でなぞりながら、そう思った。 楼の蔵書は彼の人が集めた物だ。今はもう聞く術も無く、確かなことは何一つ分からない。やはり皆でこうして訪れようとしていたのか、否かも定かではない。 「……それにしてもリュウやウォッカオード、大丈夫かしら……」 ぴちぴちとバケツの中の魚が跳ねて水飛沫が頬にかかった。浮遊していた思考は漸く地に足をつけ、注意は自然と傍らの釣竿に戻された。 ふと、レオンハルトとウィーの視線がかち合う。 互いに大物狙いの釣り、その釣果はレオンハルトの方が一匹多かった。レオンハルトがにやりと笑みを浮かべる。 まったり感や川のせせらぎを満喫しているのにも関わらず、レオンハルト――侮り難し。 内心ほぞ噛んだウィーの心境をレオンハルトは正確に読み取った。 『負けませんよ?』 二人の声がハモる。序でに火花も散った。 きらりと目を光らせた二人は、同時に釣り糸を川へ投げ込む。
●地図が示す先は ウィーから受け取った地図――それも、ウィーが書斎で見つけた地図、其処に在った走り書きを元に書いた地図を手に、黎燿・ロー(a13882)に入口まで送ってもらった漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)と刻銘し双眸・ガウス(a28795)は地図に示された洞窟へと辿り着いていた。 陽の下とは異なる、洞窟の奥から流れ出るひんやりとした空気が頬を撫でる。 ぴしゃん、ぴしゃん、と岩壁の割れ目から規則的に滴り落ちる水滴の音は、耳に心地良く響いた。 「……予想以上に……暗いな」 ロレンツァが掲げたカンテラが、暗い洞窟の中に淡い光をもたらす。光が当たり、洞窟の壁がきらきらと青く煌めく。指でなぞるも、滑らかな表面を滑るだけ。 「いったい……何があるんだろうな」 湿った足元に気をつけるように一歩を踏み出し、ガウスが呟く。 見るだけでも充分に美しい光景だったが、恐らくこれだけではないだろう。 何かあるから、と微笑んで二人を送り出したウィーの顔を思い出す。しかし、探検にはもってこいだと言っていたが、それにしても随分足場が悪い。足を踏み出す毎に、その足元に違和感が付き纏う。 確かに足を地面につけている筈なのに、安定感が感じられない。 「そこ、窪んでるから気をつけ……」 ずるり。 先を歩くガウスが差し出した手は、地面に沈んだロレンツァの手を確りと掴んでいた。派手な音を立てて崩れる足元の消失はロレンツァのみならず、ガウスの方まで及んでいる。宙に浮かぶような感覚がガウスを襲う。 別れ際に「お気をつけて」と心配そうに言ってくれたローの顔がロレンツァの頭を過ぎった。走馬灯じゃないと良いななどと縁起でも無い事を考える。 そもそも足元に気をつけて歩いていたのに崩れるなんて最早自然の摂理のような気がしないでも無い。とりあえず崩れる時は崩れるものなのだろう。 そんなわけで、然程深くも無い暗い穴の中に二人は呑み込まれていった。
●山の幸? 「ええと、これは食べれる……で、こっちは毒があるから駄目、っと」 「……なかなか採れるものだな」 誓月冰樹・アスト(a31738)が選り分けた山菜をローが籠に入れていく。 からりと乾いた心地良い暑さのせいか、山の中とはいえ虫も少ない。 季節柄、採れる種類はそう多くなかったが、アストが見た限りではかなり良質の山菜が多く採れたのではないかと思う。 荷物を置いてきた川原から然程離れていない森の中。 獣道としか呼べないような道しか無い為、森林浴をするには不向きではあったかもしれないが、木の葉は強い夏の陽射しを和らげ降り注いでいる。 ――どさっ 『…………』 何故だか鳥が降って来た。 アストとローは上を見上げ、ややあって視線を山菜の詰まった籠に落ちた鳥に戻す。 「あーっ、すみません。其処に落ちたんですか」 がさがさと茂みを掻き分けてきたのは、片手に弓を、もう片方の手には4羽の鳥を携えた呪念刻み贄に捧げし過去未来・ウォッカオード(a31083)の姿だった。 牙狩人として鍛えた弓捌きをここぞとばかりに発揮しているらしい。申し分ないくらい豪華な夕食が期待出来そうである。 「折角なら巣ごと発見出来れば卵も……」 ざざざざざっっ 「…………」 「…………」 「……今のはリュウ殿であろうか」 ウォッカオードの言葉を遮り、其の横を凄まじい形相とスピードで駆け抜けていったのは、多分紅き炎の心を持つ碧の戦士・リュウ(a31467)その人なのだろう。彼の目の前に、やはり必死に逃げるイノシシも見えた気がするのだが。 手にしていたのは鞭であろうか。 今日持ってきた荷物の中に、荒縄とかロウソクも入っていたような気がした。その組み合わせの為か、何だかいけない想像が一瞬頭を過ぎる。ロウソクはただ、落とし穴に被せる木の葉で作った蓋を固めるのに使用したに過ぎないのだが。 皆張り切ってるなー、とアストは未だ揺れている茂みに視線を注いでいた。
●蒼い煌めき 洞窟に向かいがてら摘んだ薬草は散らばり、崩れ滑り落ちたガウスとロレンツァは泥だらけだった。上を向けば2、3m先に淡い光。足をかける場所さえ見つかれば、外に出られるだろう。多分。 体のあちこちが痛んだが、深さがそう無かった事と上手く滑り落ちたようで大きな怪我も無さそうだった。が、落ちた時に弾みで消えたのだろう。カンテラの灯りは二つとも消えていた。 「ん、これは……?」 暗闇の中で淡く光る手の中の蒼い石。頭上の穴から僅かに洩れる光に反射して岩壁が光る。恐らく洞窟の入口で見たものと同じなのだろう。違う事といえば、ガウスの手に在ったのはそれが結晶化したようなものだということぐらいか。 「ウィーが言ってたのは、きっとこれの事だね」 頬についた泥を拭い、ロレンツァとガウスは顔を見合わせて微笑む。
●蛍の光 夕食の仕度も殆ど終えた頃、太陽は既に地平線の向こうに沈み、夜が辺りを覆っていた。 夜の中流れゆく川の音と、響く虫の音が乾いた夏の夜に染み渡る。 探検に行って戻ってきたロレンツァとガウスの二人に他の者が慌てたりという光景も見受けられたが、大事無いらしく安堵の笑みを浮かべたりもした。 因みに食材の方は、小さな魚が少々と大量の大きな魚が釣れてあったり、鳥や猪、果ては鳥の卵まであったり、山菜が積まれていたりと非常に豊富に――豊富過ぎる程に揃えられていた。その豊富な食材は、今は鍋の中で煮えていたり、網の上で焼かれていたりしながら冒険者達の口へと運ばれる時を待っていた。
頃合だろうかとカンテラの灯りを吹き消せば、蛍の光が水面を彩る。 「わぁ……すご……」 感嘆の呟きを洩らし、ガウスは目を擦った。 飛び交う蛍の――その光の数は数え切れない程の多さ。 見たことがあるのは1、2匹だけ。 星凛祭の頃から大分日が経つが、此処は未だ蛍が飛び交う様を見れるようだった。 「名所というよりは、隠れた避暑地か」 蛍と夏の夜は大勢と過ごすのもまた趣があって良い、とローは微笑んで空を見上げた。 夜空は昔と変わらない。異なるのは周りに居る面々のみである。 寂しいようでもあり、共に在る面々にもその事に感謝の気持ちもまた覚えた。此度来ることの出来なかった者たちはまた共に来る事が出来れば良いのにとも思う。 ひっそりと寄り添うように蛍を眺めるウィーとアストは蛍の多さに少し慄きながら眺めていた。蛍の光が本当は少し恐ろしかったが、ウィーは傍らのアストの温もりに安堵する。アストも知識でしか知らなかった蛍が目の前に居り、恐る恐る手を伸ばした。 「……何だか悲しい気持ちになりますわ」 瞬く瞳から雫が零れ落ちないのが不思議だとオルーガは思う。 命が短いからか、暗闇でしか存在を見出せないからなのか。確かに言える事は蛍の一生はとても短く儚いものだということだけだ。その命を誰に重ねているのかは、確り分かっていた。せめて一秒でも長く輝きを放って生きて欲しかった、その願いが本当は誰に向けられていたのかも。 自分も同じような事があったとリュウは独り言の様に語り始める。 「自分の不甲斐なくて情けないと自分を責めていたものだった……しかし、ある時気付いたんだ……アイツのやり残した事は何だったのかってね」 だから君も恋人のやり残した事を続ける事が恋人への供養になると思うのだと、青年は空を見上げたまま言葉を終いにした。
●惨劇の夕食 「今回は『これ』を用意いたしました。巣を掘るのは大変でしたけど、高級食材ですので皆さんにも御満足頂けるかと」 爽やかなレオンハルトの笑みは、他の者にとっては何処までも恐怖だった。 塩焼きの魚の横にあるほかほかと湯気を立てているものは一体何なのだろう。 察知して逃げようとしたウィーは更に其の行動を見越していた相棒の罠にものの見事に引っ掛かりガウスに捕えられ、逃げ場を失くしていた。 アストは手伝いはしたものの、色んな意味で凄い出来……寧ろ食材に難ありだと思うのだが、某自称美少女霊査士とどちらが凄いのだろうと比べてしまう。 郷土料理だというそれを楽しみに戴いたオルーガは、一口食べた後、沈黙しピクリとも動かない。 「……レオンハルト? その食材……まさか虫じゃあ……」 「巨大『蜂の子』です。苦労しました」 大いに満足そうに頷くレオンハルトの視線に圧されてガウスとウィーが一口食べると、 「〜〜〜〜っ!!?」 「…………っっ」 二人とも地面に突っ伏し悶絶する。 一歩退いた場所で傍観を決め込もうとしたアストにまずウィーの白羽の矢が立った。 「食べるよね……?」 何だか死にそうだが、実に爽やかな笑みだった。 「……え? 食べ……? 結構俺、美少女霊査士さんのお陰で個性的な料理には耐性が」 上方修正のかかった言い訳をするアストにウィーは笑みを深くした。 「食べるよね……?」 有無を言わせない笑顔だった。気圧されて口に入れたアストは無言で地面の上を転がった。やはり駄目なものは駄目、らしい。 昼間の狩でお腹を空かせていたウォッカオードも良く見ずに口に運んだリュウも悶絶した後気絶して転がっていた。 被害は当然ながらロレンツァにも及んだ。 「ガウス料理長……毒見、もとい味見って大変だよな……すぐにお腹一杯になるから……」 反らした視線は明後日の方に向けられていたが、そんな事でガウスが誤魔化される筈も無い。口に運んだ直後、ロレンツァは手を口に当てたまま猛然と川原へ駆けていった。 如何かしたのだろうか、と平然と食べるのはローのみである。他者の言によれば、自覚は無いがかなりの味覚音痴らしい。尤もこの状況を見れば恐らく一目瞭然だが。 「ところで……その、なんだ。もし、アシュレイ殿が宜しければ、ご馳走に為っても良いであろうか」 アシュレイは青い顔のままこくこくと頷く。アシュレイもレオンハルトの『郷土料理』を食べたらしく、何と無く魂が抜けかけている、ようにも見えた。 見た目はそれなりに悪くは無かった。寧ろ盛り付けセンスだけを問えば良い方なのでは無いだろうか。 「……美味いと思うが。アシュ…………レイ殿」 「あ、本当? ……少しはマシになったのかしら」 何か色々と葛藤しながら結局挫折に終わったローの様子に気付くことなく、自分の手を見つめながらアシュレイは怪訝そうに呟く。料理をしたことが無いわけではなかったが、見た目は兎も角味は最悪だった。水で流し込めば何とかなる程度のものとは言え、やはり料理の才能が無いことに変わりは無い。 当然ながら、蜂の子ダメージから復活した面々を再び沈黙させるには充分な味の様だった。
●晩夏の夜 喧騒も落ち着き、火の爆ぜる音と虫の鳴き声だけが辺りに響く。 草の上に寝転べば、火照った頬を夜風が優しく撫でていった。 願い事をしても良いのなら、と蛍の動く光が流れ星にも見えたウォッカオードは小さく呟いた。そう、ささやかなものかもしれない。叶わないかもしれないが、この平穏がいつまでも続きますように、と。そう願う。 物憂げに見上げたロレンツァの髪を、風が柔らかに揺らし通り過ぎる。 夜の風景を描いた羊皮紙を指でなぞり、レオンハルトも酒盃を傾けた。お世辞にも上手いとは言えないだろうが、間違いなく宝物になる。 「貴方が愛した世界は、こんなにも綺麗だよ」 今はもう亡き彼の分として最後に一度酒盃を傾けた。
(「俺はいっつも躓いたり見失ったり、しちゃうけれど……でも、ひとつの誓いは絶対に違えないから。いつでも傍にいる事は、願いで、誓いで、望みだから……」) アストは背に温もりを感じながら空を見上げる。どうか大切な人達がこれからも健やかにあるよう、そんな祈りと願い。見上げた横顔は悲しげで、だからなのかは分からなかったが互いに感じる温もりが嬉しいことだけは確かでもあった。 無言で微笑みアストとガウスの二人を快く迎えた、ウィーは盃を傾ける。 (「……一緒に、見たかったな……」) 心の中で呟いた言葉は決して音にならず、しかし今は唯、其れだけを想った。 ――もう叶わない。其れは絶対的な事実だ。 楼から持参した酒を杯に注げば、物悲しく浮かんだ細い月が映った。杯が揺れて波紋が広がり、酒に映る月が滲んだ。心を映したようにとでも言うのだろうかとやはり悲しげに笑みを浮かべ、ウィーは杯を小さく持ち上げた。 今この時だけは、この杯は彼らに捧げようと――

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参加者:9人
作成日:2006/09/02
得票数:ほのぼの18
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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