<リプレイ>
「では、あちらの畑が狙われるだろう、ということですね」 「はぁ…唯一荒らされていないのが、あそこだけですから……」 聞き込みを進める禍つ日の外道・ジュウゾウ(a03184)に、村人は少々気の引けた様子で答える。 「大丈夫ですよ。必ず解決しますから。危険ですので、しばらく屋外に出ないよう、お願いできますか?」 想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)の微笑みに、その村人は慌てたように返事を返し、村を回って告げるため、駆け去った。 「怖がられてますかね、私たち」 「かも知れませんね。盗みを働いていた者を黙認してきたのも、そのためかもしれません」 村人の背を見送ったラジスラヴァに、旅の行商姿のジュウゾウは苦笑で答えた。 それは、すなわちこの村が狙われた理由にも繋がるかもしれない。ただ捕まえるだけでは、根本的な解決には、ならないような気もしていた。
「盗みが必要なほど生きることに苦しんでいる……か」 小さく呟いたのは、紅と碧の演奏者・カズハ(a01019)。それだけを聞けば、助けてやりたい気にもなる。だが、それができるほど甘い状況ではないのだ。 村か、盗賊か。どちらかが潰されねばならないのなら。今回、依頼として潰さねばならないのは盗賊なのだ。 霊査士に聞いたところでは、その後の処遇については、何とも言えないとの返事が返ってきた。彼ら次第だろう、との言葉も付け加えて。 「会って見なければ、判りませんか」 苦笑を浮かべ、荷として持ってきた少量の食料を手に、村を回るカズハ。 村では、罠を張るために色々と準備をしている仲間がいた。 「そこはなぁ…こうした方が、ええんや」 「こんな感じ、ですか?」 所属旅団の団長であるヒトの医術士・バルム(a06234)に、罠の手ほどきを受けているのはストライダーの武人・テフュラス(a06168)だ。 村から借りた物と、自作の物。沢山の網を用意しているようだ。 その向こう、狙われそうと目星のつけられた畑では、ストライダーの武道家・バレット(a03164)が豪快に畑に穴を掘っている姿が。 「安心せい。作物のことは考えておる。食えんようにはせんよ」 自分の畑に穴をあけられ、戸惑うばかりの村人を他所に。バレットはその大穴に身を潜めるつもりでいた。近くには終焉を奏でる絶望の龍帝・ソラ(a00441)の姿も見受けられたが、フォローするでも加勢するでもなく、じっとしている。どうやら、眠っているようだった。無論、後に備えての体力温存のためにである。 各々に備える中、時は次第に夜へと移り、辺りは暗く更けてきた。じきに、盗賊冒険者たちが動き出すだろう。
「あー…また行くのか…」 「仕方ないだろう。のたれ死ぬのはゴメンだ」 「シス、カジュ。静かにしろ。……誰も、いないな?」 数人の声。村の近くから観察するような目で辺りを見渡すと、こそこそと移動を繰り返す。 彼らは件の冒険者たち。用心に用心を重ねているのだが、彼らは知らない。同盟の冒険者らが、既に隠れ潜んでいることに。 「気のせいか…? やけに人がいないぞ」 「だが特に変わったことは…ちょっと、畑の警備が増えたくらいだろう」 テフュラスとバルム、村人らが共同で作った柵。畑を囲むそれに、訝しげな顔をしながら、辺りを警戒していた。 だが、ラジスラヴァが事前に自分たちの痕跡を消して回っていたため、特に疑われることも、無かった。 「仕方ない…手荒だが、柵を壊して…」 「いや、扉がついている。こっちを使った方が、音もたたん」 ギィ……。 木戸を開き、彼らは一列になって畑へと入った。だが。 「……何か、おかしくないですか?」 医術士の者が、ふとした用に入口で足を止める。同調して、リーダの武人も足を止めた。 「確かに、警備が急すぎるな」 「いままでが何もなさ過ぎたんだろ。平気だって……」 狂戦士の一人――シスが、作物に手を伸ばした瞬間。ごばっ、と言う音と共に、地中から手が伸びてきた。 「逃がさんぞ!」 「何っ!?」 地中に待機していたバレットが、その腕を掴み、同時に投げ…ようとしたが、及ばなかった。相手も冒険者。すんでの所で踏みとどまられてしまったのだ。 「うぬぅ…っ」 唸るバレット。その足元が、薄闇に覆われる。 黒の魔術師・ファロス(a04451)が展開させたアビスフィールドは、場に不幸の闇をもたらした。 「ちっ…冒険者か…!」 「ラウド、ここは退こ…」 言いかけ、逃げ出しかけたもう一人の狂戦士、カジュ。だが、畑を横切ろうとした途端に、その体の自由が奪われる。気づいた時には、網の中。優れた隠匿技術によって完全に隠されたそれに、気付くことは出来なかったのだ。 素早く反応したリーダーラウドは、舌打ちすると、やむをえまい。と剣を抜き払う。 「とりあえず全員…」 「大人しく、眠ってください」 刹那に響く、眠りの歌。ラジスラヴァとカズハによるそれに、しかし、揺らいだのは医術士のみ。効果を受けなかったラウドはその俊敏さを持って、邪魔な彼らに斬りかかる。 甲高い音。それと共にその一太刀を受け止めたのは、兄萌妹・フルル(a05046)だ。 「殺しちゃダメって言われてるけど、仲間を傷つけるのは許さないよ〜」 三人の間に割って入ったフルルは、力任せに剣を弾く。一瞬バランスを崩したラウドを更に畳み掛けるように、ソラがその拳をもって夜闇を駆ける。 「さて……盗人の真似事は今夜で終わりにするんだな」 「く…俺たちだって、生きたいんだ!」 「ラウド! この…放しやがれ!」 いまだバレットに掴まれたままのシスは、苛立ちを露にしながら、腕を断ち切らん勢いで剣を振りかぶる。 だが、それは強く刀身を打ったチャクラムによって、大きく外して畑をえぐった。 「潔く、諦めたらどうですか?」 ジュウゾウによって作られた隙をついて、今度こそ、バレットの剛鬼投げが決まる。 己の剣と同じように畑をえぐったシスは、その一撃で気を失った。 「畑じゃなかったら、死んでいたかもしれませんよ」 「なに。計算のうちじゃ」 網の中でもがいていたカジュを押さえつけているテフュラスを背後に。ファロスは奪った武器を手に苦笑して言うのだが、バレットは得意げに言って見せた。 残るラウドも、押されていた。奇跡的に眠りの歌の効果を受けずにいたものの、度々放たれる流水撃にも耐えられてしまうのだ。 そして。苦し紛れの電刃衛を交わしたソラは、その懐に飛び込むと、拳を握り締めた。 「これで……終焉だ!!」 ソラが叩き込んだ一撃は、敵を無力化させるには十分だった。 どうっ、と地に伏したラウド。盗みに手を染めた冒険者たちは、全て無力化した。かと思われた。 眠りの効果が切れたらしい、医術士がよろよろと体を起こす。と、即座にヒーリングウェ−ブをかける。だが、再び戦闘が始まることは無く。彼はそのまま、膝を折り、伏せた。 「…申し訳、ありませんでした」 降伏の意。冒険者らはそんな姿を見て、ようやく、息をついた。
「えー。順にラウドさん、シスさん、カジュさん、それから…?」 「あー。ディンといいます」 縄をうたれた彼ら一人一人、名前を確認していくラジスラヴァ。そうして全員を確認した上で、言うのだった。 「皆さんも本当は盗みがよくないことだと判っていたんですよね。だから、人目につかないようにこっそりと盗みを働いていたんですよね」 もし…。と、一度区切ると、彼女は微笑を浮かべる。 「もし、本当に悪いと思っていたら、その償いのためにも私たちと一緒に働いてみませんか?」 「お前達には力がある……使い方さえ間違わなければ、こんな事をする必要は無いんだ」 「いま手元には、わずかばかりですが、食料があります。我々も、盗みをしなければ生きていけないなどと言う今の状況だけは抜け出せるようにしてみせます」 ソラとカズハの言葉にも、迷う心はぬぐえない。 「近くのグリモアガードに引き取ってもらえるよう、渡りをつける事も考えていますよ」 「冒険者として、一から、出直してみませんか?」 ジュウゾウの提案にも、ファロスの諭しにも、やはり、躊躇ったまま首を縦には振らない。 「あのぅ……」 そんな彼らに、恐る恐る、と言った感じで、村人が声をかけてきた。冒険者らに見られ、一瞬尻込みしたが、やはり恐る恐る。 「私たちの村は獣などの被害も少なく、比較的平穏な村ではありますが…耕作力に乏しい面があります。今回のような、いざと言う時の力も…皆さんの力を貸していただければきっと…貴方がたも、皆飢えずに、安全に暮らせると思うのですが…」 「だ、そうですが…?」 村人から冒険者へ。にっこりと、柔らかく視線を配ったカズハ。 「畑を増やし警備するには、冒険者は最適だとは思うのじゃが…」 更に告げるバレット。彼らは互いに顔を見合わせると、ラウドが地に額をついた。 「必要なら、我々も助力を惜しまない。宜しく、頼みます」 迷惑をかけた村へ、最大の詫び。あわせ、他の者も礼をして。村人の笑顔と共に、和解と相成った。
「丸く収まってよかったね〜」 「そうですねー」 翌朝。フルルが嬉しそうな笑みを浮かべて言うのを、村人の農具をチェックしながら、テフュラスは微笑ましげに返す。 窯を見ていた視線をいつの間にか仲良く打ち解けている彼に配り、もう一度視線を下ろすと。 「ん、これでいいですよ」 にっこり。鎌を手渡して笑うのであった。

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参加者:8人
作成日:2004/03/10
得票数:冒険活劇1
ほのぼの11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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