<リプレイ>
●街道を往く化物 赤いバケツの形をしたモンスターが現れるという街道。 脇には樹木が茂り、カーブの続く街道を往くひとりの旅人。 旅人はおっかなびっくり歩を進める。そして、すぐに向かい側からやってくるモノに気付いた。 赤くは無いが、ピンクや緑のバケツを被った怪しい人影。真人間であるはずがない。 「……ひ、で、出たああああぁぁぁ〜〜〜!!! お、おた、お助けええぇぇ〜!!」 全速力で来た道を戻っていく旅人。後日、冒険者の酒場に『バケツ盗賊団の壊滅』なんて依頼が出ていても文句は言えない。いや、霊査士の霊視で真実が明らかにはなるだろうが。 叫び声を聞いてバケツを被った森羅万象の野獣・グリュウ(a39510)が言った。 「コーホー。何かあったなぁ〜ん?」 篭った声。頭からすっぽりバケツを被っているので前が見えないらしい。グリュウの手を引いていた幸せを呼ぶ黒猫・ニャコ(a31704)が教えてやる。 「えーと師匠、旅人がなぜか私達に驚いて逃げちゃったにゃ。ニャコちゃん達は正義のバケツ戦隊なのに、失礼にゃ!」 腕を組み、怒っているらしい様子のニャコ。ニャコは黒いバケツを被り、目の位置に合わせて2つの穴を開けていた。 「アー……ウー……」 柳風・クララベラ(a53155)はバケツを被っていなかったが、ほつれた胴着に身に纏い丸坊主である彼女はまた、異様な存在として映ったのかもしれない。 「バケツはあかん。前が見えんですってんころりん、尻餅ついてのパンチラは流石にサービス過剰や!」 バケツを脱ぎ捨て白塗りの仮面を装着する破綻令嬢・フランシェスカ(a02552)。些か思考のパターンが常人とは違っていたが、常人並の結論に辿り着いたので問題は無い方である。 「えっとですね、グリュウさん。バケツはすっぽり被らないで、こうやって取っ手の部分を顎にかけるといいですよ」 バケツを帽子のように浅く斜めに被った城壁の姫騎士・サクラコ(a32659)が実演してグリュウに被り方を教えてやる。 「おおっ、なるほどなぁ〜ん! サクラコは頭が良いなぁ〜ん!」 「というよりも……いや、なんでもない。こんな格好をしている時点で、ある意味俺も同類だ」 自己完結して蓄えられた自らの顎鬚を撫でる戦場の鍛冶屋・ザウフェン(a50117)。やはり頭にはバケツの帽子。彼は更にバケツの底に詰め物をすることでズレを防止、安定感をアップさせているが、どちらにせよ格好の良いものではない。 「……確かに見てくれは良くないですが、それが依頼を解決する最善手ならば、僕は出来る限りの事をするまでです」 鉄の輪と鋲で補強を施した、頑丈で無骨な木のバケツを被った皚皚たる夜の幻想・ラグナス(a15810)。 「しっかり対策して、バケツちゃんのぽちと対決! 頑張るよー!」 ピンクのバケツから顔を覗かせるのは最終破壊料理兵器・ユン(a42960)。モンスターに名前をつけたりと初依頼という事で張り切っているようだ、スキップ気味に街道を闊歩していく。 「いやあ全く、人を喰うバケツとは……ずいぶん人を喰った話ですね」 スキップが止まった。皆が冷たい視線で寒いギャグの発信者、魔術師・エルンスト(a38200)を見やる。 エルンストは脂汗をかきながら眼鏡の蔓を押し上げた。 「適度のジョークは物事を円滑に進める為に必要なものです」 エルンストが図らずもギャグを言ってしまったのか、狙って言ったのか、それは問題ではない。恐らくどちらにしても彼は同じくこの態度を取っていただろう。 知っている事も知らん振り、或いは知らない事も知った振りをするのが会話を有利に進めるコツだからだ。 「そうかも知れませんけれど……でも、今回の敵もそうですよね。姿形はジョークみたいなのに、はっきり言って猟奇的です……」 自らの体を抱くようにして身震いを鎮めるサクラコ。亡くなった人々の無念を晴らす為、恐れを力に変えてモンスターを撃破すると誓う。 この時点ではどこが恐怖なのかいまいちわかっていない冒険者も居たが、すぐに冒険者達は皆、その恐怖を知る事になる。 道すがら、先程遭遇した旅人が首無し死体となって街道に赤い花を散らしているのを発見するに至って―――
●薄まっていく確率 「う、これは……!」 魔物の接近を感じ、辺りを見回すザウフェン。道端の茂みにずたずたにされた旅人の首が転がっているのを見つけた。顔のあちこちが溶け、ナメクジが這いずり回ったような跡が残っている。顎付近には旅人自身がモンスターを引き剥がそうとしたのだろう、掻き毟るような爪の跡。消化されたのだろうか、歯と眼球は残されていない。 「あ! あそこなぁ〜ん!」 春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)が首とは反対側、暗がりを指差す。 サクラコとニャコが同時に声を上げた。 「わ、ホントにバケツが浮いてますよ」 「ほんとにバケツが浮いてるにゃぁ」 それは緑葉の内に隠れ、身を潜めているつもりだったのかもしれない。知れないが、旅人の返り血を浴びた赤色は保護色とはなりえていなかった。 バケツ型モンスターの鮮やかな赤色の表皮を見て、首を傾げるミア。 「あのバケツが赤いのは、人の血を吸ったからなのなぁ〜んね??」 「さあ。ただ一つ言えるのは、アレは明らかなバケモノだという事です。こんな事も有ろうかと……」 冷静に用意していたバケツを被るエルンスト。傍から見れば冷静ではないが、それでも予定していたとおりの行動なのだから、きっと冷静なのだ。 バケツを被りながら、エルンストは心の内でひとりごちる。 (「バケモノ……私もグリモアを巡る戦争に敗北すれば、ああなるかも知れないのですね」) それでも自らが決めた道だ。エルンストは地から土を掬い、土塊の下僕を作り出す。 「かりそめの命よ! 我が命に従い己が義務を果たせ」 「今のうちに戦闘の準備をしておくのがいいにゃね……ニャコちゃんはなんもにゃいのにゃけど」 ニャコは自分よりも高いところをふよふよ飛んでいるモンスターを見上げた。 その刹那―― 「ニャコさん、来ましたッ!!」 切迫したラグナスの声。モンスターはその容貌からは想像できないほどの速度で角度を変更し、ニャコの頭へと覆い被さったのだ。 「うにゃっ?!」 首筋にヌメヌメとした感触。ニャコはすっぽりとはまったモンスターをバケツごと引っ張り上げようとする。 だが、抜けない。 モンスターの内蔵されていた触手が首に絡みつく。触手の先からは尖った爪が露出し、首筋にその牙を突き立ててくる。普段なら取るに足らない程度の痛みも、詰まる息や目の前に広がる暗闇と共に襲われると確実な恐怖となって襲い掛かってくる。 死神はゆっくりと、だが確実にニャコへと近づいていた。 「だ、誰か――」 触手は休む事を知らず、穴という穴に侵入を試みてくる。ニャコのバケツに空いた穴を通り抜け、ニャコの口や耳、鼻から目にまで――ニャコは痙攣した手を宙へ伸ばし、助けを求めた。 「おとめの顔に傷なんてつけたら許さないのなぁ〜んよ!??」 「んだんだ、代わりにこいつでも食らっとけや!!」 後ろから前から、ミアとフランシェスカがモンスターの引き剥がしにかかる。ミアが力任せにモンスターを引っ張ると僅かに隙間ができ、そこへフランシェスカが毒キノコを詰め込む。 「ニャコ、しっかりするなぁ〜ん!!」 毒キノコが効いたかどうかは定かではないが、駆けつけたグリュウがモンスターを持ち上げると、鮮血と共にモンスターとニャコが切り離された。顔面と首筋の肉をかなり持っていかれたようだ、ニャコの顔は真っ赤に染まっていた。 すぐさまグリュウがデンジャラススイングで手に持ったモンスターを近くの木の幹へと投げつける。幹は真っ二つに折れたというのに、モンスターは未だ健在だった。よろめきを見せつつも、また空中を漂いはじめる。 「……どうか頑張ってください!」 ラグナスが癒しの所業でもってニャコの首から上を治してやる。先制を取られはしたものの、なんとか覆い被さりの被害を止める事ができた。 バケツ作戦は効果が無いのが明白となり、皆はバケツを脱ぎ捨てる。モンスターと距離を取り、仕切りなおしの再戦。 「ユンだって、さっきから何もしてなかった訳じゃないんだよ♪」 ユンの前、彼女を守るように展開される三体の土塊の下僕。土塊の下僕は同時に、エルンストの周囲にも同数が出現していた。 「罰ゲームを食らいたくないのなら、参加者を増やせば良いんだよ」 ハンマーを構えて嘯くザウフェン。土塊の下僕に攻撃力は期待できないが、冒険者達を守る壁になら充分なりえる。 土塊の下僕が壁として耐えられる時間は恐らく一瞬。だが、冒険者達からすれば一瞬もあれば充分だ。 そしてモンスターは冒険者達の用意した罠にかかった。人型、土塊の下僕に覆い被さってしまう。 「アイヤー」 自らの禿頭をぺちぺちと撫でて自分が攻撃されなかった事に感謝しつつ、薄ら笑いを顔に貼り付けたクララベラが走る。 そして両手で土人形の頭ごとモンスターを掴み、宙を横方向に旋回させた。 「アァー、ウ、ウゥーー!!!」 獣のような雄叫びと共に、モンスターが投げ捨てられる。土人形はとうの昔に首から下がもげてしまっていた。 投げ捨てられた方向にいるのはフランシェスカ。自らに向かって飛ばされてくるモンスターへ、手にした巨大剣の切っ先を向けてやる。 この一撃に力みなど要らない、ただ一切を破壊するという闘気さえ込めれば、刀身は透き通り、代わりに深紅の焔を有し始める―― 「ブチ壊しじゃぁ!!」 神速の突きと、大爆発。 モンスターと巨大剣の正面衝突、衝撃度は倍以上に膨れ上がり、モンスターはその身に大打撃を負う。 「うわ、ま、まだ生きてるの?!」 ボロボロになりながら、尚もモンスターは再度宙に浮いた。 ユンはそのしぶとさに舌を巻きつつ、ラグナスと共にニードルスピアを掃射していく。 「お前は回復禁止なの……なぁ〜ん♪」 更に後方、ミアの放った逆棘な魔法の矢がモンスターを貫き、重傷からの回復の手立てを奪う。 矢を食らい、モンスターの表皮に生じた亀裂。そこをサクラコが放った衝撃波が襲う。 亀裂は徐々に広がり、そして――湿った木材が地面に落ちた時の音が響く。 街道には体の半ばより斜めに断たれたモンスターの姿。体内で蠢いていた触手が日の光に晒され、苦しむようにのたうち回っていたかと思うと、やがて動かなくなった。
●バケツでぷりん 「アー……」 戦いを終え、墓へ手を合わせるクララベラ。世界は弱肉強食、自分の代わりにこの世から消えたモンスターへ感謝の意を表しているのだ。 「全く赤いバケツはもう懲り懲りですな」 「やっぱバケツはバケツらしく、水でも張ってんのが幸せってもんだな」 全てが終わった事を悟り、軽口を叩き合うエルンストとザウフェン。冗談を言えるのも生きているからこそなのだ。 「皆さんお疲れ様でした、お顔が無事でなによりです」 サクラコはニャコの顔を遠巻きに見つめ、微笑んだ。回復アビリティの力でニャコの顔の傷は問題なく回復されていた。今はグリュウと共に「帰ったら超巨大なバケツプリンなのにゃ」「バケツプリン食べたいなぁ〜ん」とはしゃいでいる。 「……………」 クララベラと同じく墓を拝んでいたラグナスが顔を上げた。 「……帰りましょう。グドンや野生動物もいるでしょうから、気をつけて」

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参加者:10人
作成日:2006/08/26
得票数:戦闘7
ほのぼの3
コメディ3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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