メビウス/虚言の王



<オープニング>


●イヤナモノ
 外気には、陽炎すら漂う。
 日中の熱はトンでもなく、その所為か通りの通行人は今日も余り多くは無かった。
 寝苦しい夜は続くし、海水浴も大流行。
 ……八月の中旬を折り返しても、夏の暑さは変わらない。
「誰にも、関わりたくねぇってモンはあるですよね」
 そんなある日。
 カウンターの中のピーカン霊査士・フィオナ(a90255)は、似合わぬ物憂げな表情を浮かべて目の前の席の冒険者に視線をやっていた。
「仕事か」
「うっす」
「それも、厄介な、かな――」
 もう一度頷いたフィオナは、すっかり聞く態勢を整えた冒険者にその詳細を語り出す。
「街道に、モンスターが現れました」
「どんな」
「説明が難しいっすね。
 形状不明と言うか、説明仕様が無いと言うか。実体の薄いタイプと言うか……」
「……?」
「強いて言うならば、浮いてる8の横倒しでしょうか」
 良く分からない性質を持ったモンスターは、実際余り少なくない。冒険者は、言葉からその様子を想像しかけたが、その作業を後回しにする事にした。
「何より、そのカタチは蛇足な相手なので」
 フィオナの言葉が示す通り、問題はそこには無さそうだったからだ。
「球体は、対象に見たくねぇモノを見せるようっす」
「……えーと」
「根源の恐怖、怖いと思うモノ、最悪の想像。
 まー、何てーかその手の幻覚を見せる事が、最大の厄介みてーっす」
 冒険者は苦笑いを浮かべて、その言葉を聞いた。
 確かに真夏でもぞっとする相手である。
「始末するには、押し付けられるソレに負けねぇ強ぇ意志が必要だと思うです」
 フィオナは、そこで一つ言葉を切って冒険者の顔を見つめ直した。
「この仕事、請けてくれやがりますですか?」

マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
 YAMIDEITEIっす。
 久々純戦シナリオ。
 以下詳細。

●依頼達成条件
 ・メビウスの撃破

●戦場
 デフォルトな街道。
 出現時刻は一定していないようです。

●メビウス(虚言の王)
 呼び名は便宜上。
 宙空に浮かぶメビウスリング。黒く邪悪な気配を纏い、対象に悪夢を見せる力を持ちます。
 それは具体的イメージである事も、「相手にしたくない何か」、「何か良く分からないけどヤな感じ」といった場合もあり、多岐に渡ります。
 以下攻撃能力他詳細。

 ・攻撃の全ては消沈能力を持ちます。
 ・接近した対象に混乱を与えます。
 ・終わらぬメビウス
 ・切り裂く嘘
 ・「皆、不幸だ!」
 ・EX バッド・ニュース

 以上、宜しければ御参加下さいマセ。

参加者
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
縁・イツキ(a00311)
ねこまっしぐら・ユギ(a04644)
徹夜明け紅茶王子・デュラシア(a09224)
伽藍の亡霊・ナナギ(a12381)
燈導・ソエル(a16489)
混沌の群・フォアブロ(a20627)
馨風・カオル(a26278)
藍舞・リース(a32023)
終焉の探求者・ガイヤ(a32280)
真なる闇を作りし漆黒の拳・クロ(a33409)
蒼眼の幼き魔王・ルゥ(a38203)


<リプレイ>

●アンフィニ
「さて、今回は珍妙な格好の相手じゃな」
 蒼眼の幼き魔王・ルゥ(a38203)は呆れ半分にそう言った。
「ちなみにいっておこう。わしに怖いものなど何もない」
 それは、微妙だが。
 確かにそれは、成れの果て。モンスターの姿は、幾多あれど――その何れもが間違いない狂気と憎悪に満ちているは、語るまでも無いが。殺戮と言う本能に突き動かされた彼等には、かの一事に特化した原初的な知性の他は無い。討伐に赴いた十三人の冒険者達は、大した苦労も無く虚言を気取る悪趣味なメビウスを見つける事に成功していた。
「確かに、なかなか厄介そうな敵やなぁ」
「間違いない異彩を放っているね」
 深淵より尚深き漆黒の拳・クロ(a33409)、荒野の黒鷹・グリット(a00160)の言葉が、これより戦場となる街道に浮かんで消える。
「形状からして無限の意味合い? そう易々と際限なくさせたくないのよね」
 縁・イツキ(a00311)の視線の先、宙空に在るは、無限。
 ヒトの精神を侵す、金属めいた質感である。
 繊細にして重厚なるフォルムを描くそれは、冒険者達を嘲笑うかのようにそこに居た。
「裏は表。表は裏。
 誰にでも見せたく無い面は有る訳で――それを捻じ曲げて見せられてしまうのは一種の不幸。
 そればっかりは、厄介なのに違いは無いけどね?」
 イツキは、少しだけ微妙な表情をして言葉を付け足した。
 メビウスの輪の悠然さは、一分も揺らがない。逃れる事は不要、逃れるのは常にお前達だけだ――敢えてその意図を邪推するならば、そんな所であろうか?
「心理的な攻撃って、嫌だなぁ。唯痛いだけでも十分遠慮したいのに」
 空翼・ソエル(a16489) の言葉に、
「自分の最も恐れるものを見せることが出来る敵……ね」
 頷いた紅茶王子はヅラじゃない・デュラシア(a09224)の瞳が、グラスの奥で細くなる。
 字面にするだけでぞっとする響き。肌を突き刺すような空気は、恐らくは気のせいでは無いだろう。接敵までは残り数十メートルといった所だが、その力の片鱗を思わせる威圧感を発するのも、
(「けど、それに打ち勝つ事が出来る心の強さと実力を。もう、何にも負けぬ力を」)
 そも、彼がそんな決意を新たにしてしまった事実も、それを物語っていた。
「幻覚と解っていて何を怖れることがある」
 混沌の群・フォアブロ(a20627)が薄く笑む。
 恐れぬメビウスは、新たな獲物を見逃す心算は無いらしい。距離が、ゆっくりと詰まっていく。戦いの前の独特の時間は、幾度目でも冒険者達の肌を粟立たせる一時だった。
「そうね。イヤナモノを見せる敵……
 ひょっとしたらメビウスにとって、わたし達こそが『イヤナモノ』なのかもね」
 誰に言うでもなしに弦奏狂葬・リース(a32023)が言い、
「人々に、災いが及ぶ前に……倒しておかねばなりませんね」
 脳裏に浮かんだ救い難い過去を振り払った馨風・カオル(a26278)が、連なる珠を構え「今を生きる人たちを守るため……僕は、やれることをやるまでです」と呟く。
「成る程、これは幻影の夏だ。しかし俺の悪夢とはどんなものだろうな――? 正直思いつかん」
 終いに射抜く視線を茫と向け、伽藍の亡霊・ナナギ(a12381)は嘯いた。
「ま、どっちでも構わん。さて、悪夢よ。俺が貴様の死になってやろう」
 胸の内の高揚を噛み殺し、恐れずの彼は笑っていた。

●果て無い黒夢
 前に立つアレスタを壁に、
「まさかこの身体で恐怖と対峙するとはな……」
 自由に動かぬ我が身に苦笑いをし、距離と取った贖罪の探求者・ガイヤ(a32280)が呟く。

 ――――♪

 彼の高らかなる歌声は、一先ず恐慌と消沈に陥った仲間達をその深淵より救い出したが……
 モンスターの形状の恐ろしさは、往々にしてその実力に比例しない事も少なくない。
 一見してコミカル、一見しておどろおどろしくは無いそれでも、時には大きな脅威となって冒険者達の前に立ち塞がってくる事は、ままある。
 そして、今回の相手も丁度、そういう相手であると言えた。
 メビウスは、間違った悪夢を見せる。
 それは、時に自らの断末魔。
 それは、時に大切な誰かの死。
 それは、時に誰かの追憶の痛恨を抉り。
 それは、時に不定形の「悪意」となって、本能を切り裂く刃となる。
「元々無いなら、いっそ楽なんだけどね?
 でも悪夢も落ち込むのも……そういうの、あるから『ヒト』なのかな」
 パーティが、この一夏に、有り得ない狂った夢を紡ぎ続ける敵の厄介さを思い知るに、現状までの二分弱の戦闘は長すぎた。
「――っ! 今度こそ、やるよっ!」
 虚脱より我を取り戻した紫眼ノ蜘蛛・ユギ(a04644)が、後ろに跳ぶ。
 彼女の両手より、シュルと独特の音を紡いで空間に広がった白い蜘蛛糸は、目標を絡め取らんとメビウスに幾重にも絡みついた。
 しかし、その威力は十分には足りない。
 強力なモンスター達の例に漏れず、メビウスは見た目に拠らない膂力を持っているのだろう。
 己が邪魔をする白糸を引きちぎり、非生物めいたフォルムを憤りに染めていた。
「メビウスの輪、まずは落とさなければね」
 だが、冒険者達は怯まない。
 肝胆が冷たく凍る敵意の悪夢すら恐れる事は無く、グリットが踏み込む。
 低い姿勢から伸び上がるように繰り出されたその蹴撃は、光る刃の弧を描いて宙空の敵を切り裂いた。
「そういう事――」
 唯一、メビウスの恐怖から逃れ得るイツキがその得物を引き絞る。
 空気の震える音と共に放たれた青い光は、まさに刹那の時間で間合いを灼(や)いた。

 キン――!

 甲高い、硬質の音が響く。
 だが、威力ある一撃もその効果は致命にはまだ遠いか。
「休ませない事やな」
「同感だね」
 クロの言葉に、デュラシアが頷く。
 デュラシアの叩きつけた突風が、メビウスの姿勢を崩し、
「行くで――!」
 気合の乗った重いクロの蹴りが、強かに敵を打つ。
 更にその一撃をブラインドにするかのように斬鉄を連ねたソエルが、
「これなら、効くよねっ!」
 態勢をやや乱しながらも、見事に敵を切り裂いた。
「僕に出来ることは、あまり多くありませんが――」
 虚言の王は、正常な戦いを阻む。幾多の嘘で、敵の戦意を試すのだから始末に悪い。
「――少しでも、助けになるのならば……!」
 しかし、カオルの静謐の祈り、多くの仲間達が用意した「立ち直る手段」により、成し得た連続攻撃は、ここに来て漸く一定の効果を上げ始めていた。
「は――」
 鎧聖に、付与を得たナナギが一撃を突き通し。
「注意すべきは幻覚で隠されてた攻撃が何時来るのか、どのような攻撃なのかと言った所。だが……」
 フォアブロが、
「行くぞ。滅びよ」
 ルゥが、紡ぎ描いた悪魔の炎が、黒く敵を焦がす。
「下がった」
 幻惑の足取りより、残像すら残した一撃を振り切ったリースが言う。
 彼女の凛とした双眸は、確かに僅かに後退した敵を見据えていた。
 それは、確かに好機にも見えたのだが……
「だけど、来るわよ」
 ……当然、これで終わる程度の相手ならば、そもこれだけの冒険者は必要無い。
 黒のメビウスが浮かぶ周囲の空間が、ぐんにゃりと歪む。その歪な光景が現実のそれであるのか、はたまた気の迷いが見せた幻影であるのか――冒険者達には知る由が無かった。
(「この状況での恐怖、一番はやはり死の恐怖か……」)
 瞬きを忘れた眼球が乾いて痛い。
(「誰だって死にたくはないからな。だが死ぬつもりはない……俺は絶対に死なない」)
 意志と反して、根源的な恐怖に訴えかけるメビウスの気配に体は竦み始めている。
(「……必ず、アイツの元に……!」)
 されど、ガイヤは折れようとする自らを許さない。
 黒く奔流する不吉の気配を、振り払うかのように――
「メビウス、貴様が見せる恐怖に俺は負けない……!」
 ――言葉は、強く、静謐に意志の剣となる。

●無限のメビウス
 ――――♪

 ルゥの高らかな凱歌が、黒みがかった靄を打ち消していく。
 リアリティを持った幻覚は、時に容易にヒトを破滅させると言う。
 さて、何より考えたくない事を敢えて想像して欲しい。
 ……個々人、それぞれにその内容は違うだろうが、確かなのは一つである。
 つまり「想像しろと言われて思いつく内容は、真にそれだけの威力は持っていない」という事だ。
 ヒトなる存在の領分の問題であるから、それは当然の事と言えるのだが……
 パーティは、カオル、クロ、ガイヤらを脱落に欠きながらも、真に胸を穿つ痛ましい記憶に、意識を凍らせる映像に良く立ち向かっていた。
「俺の通り名は飾りじゃないさ、この程度なら余裕だ」
 グリットが、虎の子の居合い抜きで強引にメビウスを押し込む。
「近・中・遠の三段構えで状態回復。これで悪夢を見せられる訳にはいかないわよ!」
 イツキの言葉通りだった。
 陣形を主立って三段に分けたパーティは、今のグリットのようにこの難敵に対して確かな位置取りを取り、取らせる術を身に付け始めていた。
 終わらぬメビウス、自己修復能力を持ち、意地悪く長期戦を強いるメビウスは、接近するだけで、その心を惑わす悪夢である。多くの戦力が、同時に力を失えば……敗北は免れ得ぬ結論となってしまう。
「倒されない……僕は、絶対帰るんだっ!」
 だが、ソエルはその全身を切り裂く、呪いの響きにも耐え切った。
 ざわと心を揺らす黒影を、静謐な祈りも高らかな歌も待つ事は無く打ち払い、
「一気に――」
 その手で、傷付き、綻び始めたそのフォルムを掴み取った。

 ――ッ!

 地にメビウスを叩き付けたソエルの一撃は、地面を揺らしたかのような錯覚を齎していた。
 渾身の投げに、黒い破片が散る。この攻防は、完全な好機を作り出していた。
「我等に出会ったことが貴様の悪夢の始まりだったな」
 フォアブロが、
「下らん見世物だったな。見物料に死をくれてやる、存分に受け取れ」
 不敵に笑み、黒炎を繰り、
「そろそろ、決めてあげるわよ」
 リースが、彼の炎を追うように素晴らしい連携で不可視の刃を叩き込む。
 消耗を考えれば、もう多くは無いこの機会に……冒険者達は一気の攻めを見せていた。
「落ちろ」
 グリット、
「虚ろなる言を真に受ける気は無いからね」
 イツキ、
「悪いけど……悪夢だって不幸だって断ち切る強さをわたし達は持ってるんだからねっ?」
「いい加減、分からせてやるぜっ!」
 ユギの、デュラシアの白糸、紋章術が、交差し力強くメビウスを縛り、決定的な瞬間を作り出す。
「言ったろう」
 姿勢は、可能な限り低く。
 極限の戦闘論理に、肉食動物のような獰猛さを押し込んで、ナナギは冷たく言い放つ。
「所詮一夜で消える夢。このまま千切れて消えるがいい」

 キン――!

 バロールの抱く呪血が啼く。
 メビウスの動きを押し留めた拘束が破れる。
 それは、まさに同時。バッドニュース、ライをナナギのその一撃が貫いた――

●有限のメビウス
「……ところで、ねぇ、イイ夢見れた?」
 程無く風に溶ける灰燼(メビウス)に、意地悪くユギが言う。
「お疲れ様、ですね……」
 傷に表情を歪めたカオルが力無く呟く。
 その彼の様が、パーティの被害が示す通り、容易い結果にはならなかったが。
「や、もうこういうのは勘弁願いたいモンだが」
 疲れたようなデュラシアに、
「ええ。虚ろの悪夢より、これからの現実の方が切実よねえ――」
 頷いたナツキの一言は、世情を憂いてのモノか、それとも「人生」を指してのモノなのか。
 どの道、大変には変わりなかろうが、虚言との戦いは、パーティの勝利で幕を閉じたのだ。
「……や、もうこういうのは勘弁願いたいモンだが」
 それも又、冒険者の務め。
 デュラシアの言葉は変わらなかったが、言葉には僅かな満足感も覗いていた。


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作成日:2006/08/31
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