青い海原と水平線



<オープニング>


●ある夏の日
 力強い夏の陽射しが、露出した肌に心地好い刺激と共に、じわりと滲み出る様な汗を流させる。上を見れば青々とした広がりを見せる空と共に、所々に浮かぶ入道雲が限りない奥行きを持つ空へと高く延びている。そして耳に聞こえてくるのは、白く続く砂浜に幾重にも押し寄せる、心地好さを内包した波の音。
「まだまだ夏なのですね。何となくじめっとしている気がします」
 浜からやや離れた家屋の縁側に腰を下ろした深緋の忍び姫・ツバキ(a90233)が、防風林として植えられた松の木の隙間から覗ける海の様子を伺う。彼女の足元は水の注がれた盥の中であり、旅の疲れを癒すと共に涼を得るべく出されたものだ。
 枝葉の隙間から、波間からの反射で陽光が零れる。煌く光を見たツバキは、これまで行動を共にしていたエルフの霊査士・コノヱ(a90236)から聞いた話を思い出した。彼女を始めとした同盟の冒険者達の言によれば、海で泳ぐのは彼らの娯楽の一つであるのだという。
 確かに自分も、記憶おぼろげな子供の頃には水遊びをした記憶はある。しかし、それ以後はあまり水辺での遊びをした記憶を彼女はあまり持ち合わせては居なかった。それはツバキが政を行う側であり、またマウサツの国で彼女の守役を務めてきたクラノスケが極力危険から遠ざけていた事が主な理由である。コノヱから『同盟では海水浴と呼ばれており、水に入るには水着を身に着ける』とも教えられているが、水着は湯浴みの時に着るような湯着で良いのだろうかという疑問も同時に抱いていた。

 そんな彼女が身を寄せているのは久し振りに戻ってきた故郷であるマウサツの国。何処も彼処も忙しない様子に思えたので、こっそりとやってきたのである。無論、彼女一人と言う訳ではない。連絡役として働いている黒騎士が手を打って、周囲の手筈と手伝いを一人ばかりひっ捕まえている。勿論、ツバキは彼の行動の詳細は知らないので、台所で包丁を握る白銀の霊査士・アズヴァル(a90071)は純粋な厚意でいるのだと信じて疑わない。
「ええと……ツバキ姫様。誰か来られるまで、少しばかり海で遊んでこられてはいかがですか。こうしているのも退屈でしょうから」
「いいえ、それは皆さんがお越しになってからにしようと思います。先んじて遊ぶというのはあまり好みませんから」
 振り向いて半身となったアズヴァルが声をかけると、彼女は微笑を浮かべながらも首を横に振る。既に本土でも楓華でも黒騎士が足を運んだお蔭で、話自体は伝わっているだろう。
「ところで、海水浴をしようなんて誰が言い出したんでしょう」
「……いやまあ、多少の気晴らしにはなるかと思いまして」
 ふと湧いた疑問を訊ねると、どうやら黒騎士から話を耳にした霊査士の仕業らしい。彼は笑って誤魔化しながら、冷やし飴の注がれた入れ物をツバキに手渡した。
「それはよろしいのですけど……水着って湯着のような物でも良いのでしょうか?」
 冷やし飴を口へ運び、微かに漂う生姜の香りを楽しむツバキの言葉を耳にして、男性の身であるアズヴァルは心の内でこれはどうしたものかと考えるのだった。

マスター:石動幸 紹介ページ
 ――の終わりには虹の橋があるのかも知れません。こんにちは石動です。

 何やらこっそりと海らしいです。うーみー。焼けた白い砂浜に抜けるような紺碧の空と海。そしてたまに打ち上げられた海藻類とか何とか。時期頃的にはぼつぼつ厳しい所ですが、夏の最後と言う事でよろしくお願いいたします。また、ツバキ姫ですがあんな感じですので同盟一般で考えられているタイプの水着は持ち合わせては居りません。少しばかり考える必要があるかも知れません。多分。

 主に浜辺で出来る事柄ですが――
・海で泳ぐとか遊ぶとか
 ベターです。というか海水浴ならこれは外せないかと。甲羅干しとかもこの辺り。

・海の家で休んだり食べたり、以下略
 残念ながら近隣で借りられた休憩所代わりの平屋の家以外には無かったりします。海を汚さない程度にレッツ持込。おさんどんを任せられた不幸な銀色霊査士も居りますのでそれを使い倒すか、自ら露店を開くも良し。

・その他
 何をするにしろ公共良俗の範囲内でお願いいたします。あんまりアレですと埋められたりするかも知れません。誰かに。
 それでは皆様の参加をお待ちしております。

参加者
NPC:深緋の忍び姫・ツバキ(a90233)



<リプレイ>

●静かな海
 その日の空は幸運にも青々とした澄んだ色合いを見せていた。夏の太陽は高く昇り、八月も末に近付くと言うのに、照りつける陽射しと空気の暑さは未だ衰える気配が見えない。幾重にも折り重なって聞こえてくるさざ波を前に、冒険者達は白い砂浜へと繰り出した。所々には霊査士が敷設したのかは分からないが、木の板で簡素に作られた日除けが幾つか立てられている。
「楓華の海と言っても極端に変わったところがある訳ではないんだな」
 紙巻を銜えたままのヴィンセントが目の前に広がる紺碧の海を眺め、率直な感想を漏らす。楓華列島に足を運ぶことすら初めてであったが、一見して分かった事と言えば、時折浜辺で漁師を見かける程度で、自分達以外の人影を見ることが殆ど無いという事実だ。
「先に言ってるわね、ヴィンセント!」
「って、ロゼッタ!?」
 彼の隣にいたはずのロゼッタは身に着けていた服を脱ぎ捨て、その下に着込んでいた水着姿になると早速海へと駆け出していく。投げ渡された服を手にしたヴィンセントは呆然としたまま彼女を見送るのがやっとだった。そんな彼の様子を遠巻きに見るのはマウサツ護衛士として訪れたナナギやリュウの姿がある。
「あまり遊ぶ気は無いが……」
「そうなんだ。僕は折角だし、皆と一緒に楽しむ積りだけど……そう言えばツバキ姫は? 水着は渡したと思ったんだけど」
「ああ、確か――」
 聞く所によれば、借り受けた平屋の一室で水着に着替えているらしい。ナナギとしては女性の水着に詳しく無いので助けにはなれないが、挨拶して多少の話相手にでもなろうかと考える。勿論、助けになれないのは同じ男のみであるリュウも同じなのだが。
 そんな彼の近くには、ナナギ同様に挨拶にと訪れたシオンの姿があった。何故か照りつける陽射しの下だと言うのに全身をマントで覆っている。
「あ、暑いですねぇ……」
「夏だからな。しかし」
 何故、このような姿なのだろうか。ナナギは疑問に思うが、敢えて問うことはしなかった。何となく予想がついたような気がしたからだ。
「あまり無理はするな。倒れられて仕事が増えては敵わんからな」
 溜息と共に、ああ、釣りもいいななどと漠然と考えるナナギ。リュウは一足先にと浜辺に向おうとすると、ひらひらとしたドレスを身に着けたルイが片手に浮き輪を持って走っていく。
「青い海ですの〜♪」
 降り注ぐ陽光を硝子の粉が輝く様に照り返す海に向い、時折砂に足を取られながらも彼女は走る。途中で煩わしくなったのか、手にした浮き輪を捨て、サンダルも脱ぎ放ると、ドレスの裾を両の手で摘んで波打ち際に辿り着く。
「ひんやり冷たいですの〜」
 寄せる波から逃げ、引く波を追い、踊るように振舞うルイは楽しげな笑い声を上げる。

 さくさくさく。
 小気味良い砂の音を立てて走るイロハの後を、青い髪の青年が追う。散歩の筈だのに、郷愁の心が彼女をそうさせたのか、何時の間にか駆けていた。
「この海をまた見れて良かった」
 追いついたキルの姿を認めたイロハは故郷の海の前で足を止め、振り返る。故郷もランドアースも落ち着いた様子は未だ見えないが、せめて楽しめればと思う。
「ったく、どこまで走るんだよイロハは」
「ん、ごめん……」
 少しばつの悪そうな顔になると、イロハは海を見つめ、歌を聞かせてあげると言った。彼女が小さな頃にお父に教えてもらったと言う歌だが、得意でないから恥ずかしいのだとも。
 しかしキルは内心穏やかとは言えなかった。今まで頼んでも恥ずかしがって歌ってくれなかったくせにと、つい余計とも言えることが脳裏に浮かぶ。実はイロハにとってオレと言う存在は故郷の海以下なのではないか。
 なんか、ムカつくぜ。海。
 けれど、彼の耳にイロハの紡ぐ歌が耳に届くと、ささくれ立った感情が徐々に和らいでいく気がする。ちくしょう、と胸に到来した表し辛い感情に悪態をつくと、キルはせめて海を離れる頃までには機嫌が良くなるよう努めてやろう、そう思った。

 海に強い感情を抱くのはルルナもまた一緒だった。自分が拾われたのはこの列島の浜辺。この海ではないが、きっと、彼女の根源へと到る場所に繋がっているのだと思う。塩を含んだ風が彼女の黒い服を揺らし、抱いた黒猫がむず痒げに顔を洗う。
 ただ広がる青を前にして、ルルナは懐かしく思うと共に、言い表せぬ僅かばかりの寂しさを抱く。
「朔……これが海なのですよ」
 とっても大きいのです。とっても、とっても。朔と呼ばれた白い靴下を履いた黒猫はなぁと小さく啼くと、ルルナの腕から飛び降りた。


●彼是
 一方、湯着の様な物で良いのかと口にしていたツバキはエファやライアナと共に平屋の奥で着替えていた。台所では凍らせたプラムとソルダムを持ち寄ったファオや、グリットがホットドックの下拵えなどしている為か、襖の向こうから人の気配が耐える様子は無い。

「えっと、ここを持って下さい。それで、こっちを……」
「こ、こうですか?」
「あ、いや、そこじゃなくて……」
「もう少し引き気味にされた方がよろしいでしょう」
 背中で金具を合わせようとするツバキにエファが手を取りながら誘導する。何とか凹凸を合わせると、ライアナの目の前でパチっと言う小気味良い音と共に金具が固定された。
「これで大丈夫です。胸、大丈夫ですか?」
「あ、はい。一応は……」
 もし緩かったらそれはそれで問題かも知れない。いやそうではなく。
 恥ずかしげに頬を赤く染めたツバキがエファに続けた。
「でも、何か裸になったみたいで……本当にこんな格好で皆さんおいでになるんですか?」
「多少、差はありますけど。大体は似たり寄ったりだと思います」
 やっとの事で黒いビキニを身に着けた彼女の問いに答えるエファ。ケーンやリュウの持ち寄った水着……真紅のビキニやフリルのついた赤いワンピースも合わせてみて、その中から選んでみたのだが、それでも普段の格好と然程変わらないのではないかと思える。
「でも、少し残念でございますわ。こちらも幾つか用意致しましたのに」
 媚びた素振りを少しばかり見せるライアナの傍には紐の様な赤のVフロントやら、胸元に「にねんよんくみ つばき」などと書かれた紺色の水着なども置かれていたりする。一応こっちも合わせたみたいですが、そんな極めて一部に喜ばれるマニアックなチョイスはとりあえず今回は敬遠らしいです。どうも。
「そちらの、赤と白のビキニならとは思いますが」
「……紐、みたいですね」
「異性を誘惑するのなら、これくらいは頑張りませんと」
 先程のVフロントと同じデザインで紫の水着を身に着けたライアナが、ゆさりと豊かな双丘を揺らして言う。そんな彼女に、そういう相手はまだ居りませんからと、丁寧に辞退するツバキ。その様子を見守りつつも、エファは溜息を一つついた後、準備の整ったツバキの様子を下から上まで一瞥する。
「……いいなぁ」
「?」
 何をどうすればこのようなスタイルになるのか。一説に寄ればクラノスケの愛情による賜物と言う話も聞くのだが、その事実は今尚もって定かではなかったりする。

「あ、ツバキ姫。お久し振りです……」
「こんにちは……って、この暑いのに大丈夫ですか?」
 着替えを終えて平屋を出たツバキは、挨拶に赴いていたシオンの姿を見るや否や、心配そうな声を上げた。幾ら夏も終わりに近付きつつあるとは言え、まだ暑い日差しである事には変わりなかったからだ。
「いえ、大丈夫です。すぐ傍に涼める場所もありますから」
 額に浮かんだ汗を拭い、シオンは浜辺に視線を向けた。既に結構な数の冒険者達が波打ち際で遊んでいる姿が映る。
「では、皆さんで行きましょうか」
「そうですね。早く海に行きましょう」
 ツバキが申し出ると、後から姿を見せたエファが促すように頷いた。先程悪戦苦闘した水着を身に着けたツバキの後ろを見送りながら、エファは一年を振り返る。まるで、本土よりも此方の方が地元になってしまったようだと。


●細波
 太陽が南天を過ぎた頃、グリットの拵えた様々な種類のホットドックが振舞われた。海の幸を盛り込んだシーフードから、野菜をふんだんに用いたサラダ多めのものと、偏らない品揃えが良かったのか、然程の時間を置かずに彼の手元から力作の数々は姿を消してしまう。
「いやはや、動くと腹は空くもんだね。やっぱり」
「そうですね。それにしても、皆さん楽しそうです」
 残り少なくなったホットドックを口にするツバキが、波打ち際で水を掛け合うダフネらの姿を見て苦笑する。
「さっきまでツバキさんと一緒に砂のお城作ってたのです」
「なう」
 自分も、とグリットの足元で自己主張するように立ち上がる朔。そうかとグリットは頷くと残っていたハムを一切れ手渡した。

 ライアナがゆっくりと甲羅干しを楽しむ様子や、ナナギの設けた屋台に目を向けた後、それから程無くして手元の品が無くなったグリットは、空いた時間を有効に使おうとスケッチブックを日除けの傍から取り出した。そうして徐に描きたいと思える被写体を求め始めた彼を邪魔すまいと、ツバキはダフネ達の下へと足を向けた。
「あら、フワリンさんはお水に浮きますのね?」
 海の上では黒ビキニを穿いたケーンがフワリンを呼び出した事で、ぷかぷかと浮島の様に浮かんでおり、ヴァイナやダフネがその光景に笑みを零す。
「列島へはいっつも依頼ばかりで遊ぶ機会ないから嬉しいっ」
「そうですね、大概は鬼退治などでゆとりの多いお話も少ないですから」
 馴染みの深い海に身体を浸したダフネが、正しく水を得た魚の様に活き活きと快活な様子で言うと、ヴァイナが灰色の鱗に覆われたその顔を優しげな笑顔へと変える事で答える。その笑みの下では、実は海が初めてな事をダフネには隠しているヴァイナであったが、敢えて語る必要もないだろう。

「ツバキお姉様、とっても楽しいですの♪」
 水着姿に着替えた彼女を見かけたルイが、波打ち際で二人でくるくると舞うようにはしゃぐ。幾度かすると、目が回ったのか、二人してとさりと尻餅をついてしまう。
「今のところは問題無さそうだな……」
 そんなツバキの様子に気を配るナナギだったが、このままなら問題は特に無さそうだと彼は判断していた。何よりも人が少ない分、注意する点が本土よりも少なく済む。場合によっては芋洗いになる場所と比べれば苦労は断然少なかった。
「ツバキ姫、海にクラゲが居るかも知れませんから、一応気をつけてください」
「わかりました。刺されたら腫れてしまいますし」
 ナナギの注意に素直にツバキは頷く。
「あー、ツバキ姫だ! こっちこっちー」
「あ、はい」
 波打ち際で漸く立ち上がったツバキにリュウが手を振ると、彼女はルイに二、三言葉を交わした後にダフネ達の下へと向おうとする。そう言えば彼女はまともに海へ入るのは初めてだったとダフネが駆け寄ってくる。
「海で泳ぐのは初めてですか?」
 訊ねたダフネにええ、ツバキがと頷くと、大丈夫。彼女は僕がついているものと励ましながら、ダフネがゆっくりと海の中へと誘う。そうして腰辺りの深さの所にいたヴァイナ達の元へ向うと、何時の間にかヴァイナの姿は掻き消えていた。
「……あれ?」
 きょろきょろとダフネが辺りを窺ったその時、唐突に彼女の後方から水音が立てられると共に、腰に何者かが組み付いた。
「ひゃあああああっっっ!?」
「……ふふ、ビックリしましたか?」
 不意をつかれたダフネは思わず素っ頓狂な声を上げると、組み付いた何者かは直ぐに離れ、正体を露にした。彼女が場を離れた隙を見計らって姿を隠したヴァイナが、ダフネを驚かせるべく一計案じたのである。
「んもう、ビックリしたよ!」
「早く泳ぐことでは敵わないと思いましたから、せめて別の事でと思いまして」
「皆さん、大変仲がよろしいのですね」
「まったく、何かあったのかと思ったぜ」
 楽しげに笑うツバキと共に、フワリンの上で辺りの様子を気に掛けていたケーンが肩を竦める。ツバキ姫も喜んでいるし、何事もなかったので良しとするか。そんな事を思いながら、またフワリン上の人となった彼は辺りに目を向けた。その光景はちょっとばかりファンシーだったりするかも知れないのはちょっと秘密。

 ゆったりとしたペースでツバキ達が水遊びに戯れる最中、砂浜に設けられた日除けの板の陰ではファオとアズヴァルの姿があった。おさんどんや食べ物の支度を一通り終えた二人は、浜辺の様子を黙したまま見守っている。
 見れば、陽に弱い肌の彼女は長袖のパーカーに麦藁帽子と言う出で立ちで、極力直射を避けていた。一方、霊査士の方はと言えば、髪を上げて普段と比べて飾り気の少ない服を着ている。肘の上辺りまでの袖口から露になった腕は、ファオが思っていたよりも確りとした筋肉がついているのが一見して分かる。戦うことの無くなった今でも日常的に鍛えいるのかも知れない。
「何かありましたか」
「……いえ、特にこれ、という事ではないのですけど」
「ただ、歯痒くて、もどかしい気持ちがあって。少し、零したかったんです」
 すみません、と謝る彼女にアズヴァルはそうですかと一言だけ返した。話を聞くだけでも楽になる。人間そんな時もあるのだと、頭上で鳴く海猫の声を耳にしながら、アズヴァルは彼女の傍に座す。
「これ、冷えていて美味しいですね」
「……ありがとうございます」
 程好く溶け始めたプラムを齧るアズヴァルに、ファオは静かに笑ってみせた。


●夕暮れ
 海の向こうへと太陽が身を沈める頃には、ルイを始めとした冒険者達は平屋で塩を落として帰路に着き始めていた。だが、ロゼッタとヴィンセントはまだ海岸線をゆっくりと歩んでいた。ロゼッタの手には彼が見つけた綺麗な貝殻が握られている。
「これ、綺麗ね」
「日頃の感謝の気持ちって奴さ。夏最後の海を楽しめたみたいで良かったよ」
 照れ隠しに頭を掻くと、髪の青い薔薇が揺れる。泳ぎの不得手な彼がここに来たのも、彼女の喜ぶ顔が見たかったからだった。
「今日は、連れてきてくれてありがとう」
 ――大きな太陽、綺麗ね。
 強く脈打つ胸をそっと手で押さえながら、ロゼッタは彼に礼を告げた。

 帰路に着いたのは彼らだけではない。海から離れたキルとイロハは日に焼けて僅かに痛む肌をむず痒く感じながらも帰り道を行く。
「……歌、ありがとうな」
 海の向こうへと沈みかけた橙色の夕焼けに染め上げられ、キルの髪が赤く染まる。イロハはそっと、彼の手を握り返して、笑みを零した。
「よかったらまた……二人で楓華に来ようね」
 それは時に不器用に見える二人の、小さな約束のように思えた。


マスター:石動幸 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:16人
作成日:2006/09/03
得票数:ほのぼの19 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。