【冒険者の遺産】遺跡に眠る刃



<オープニング>


 とある小さな村に、一人の男が暮らしていた。名前はガゼット。
 今は亡き彼の部屋からは、ガゼットが冒険に明け暮れた日々を綴った日記帳と、そして、彼が探し出す事の出来なかった、何枚かの宝の地図が遺されていた。
 彼の願いだった、この地図に記された宝を全て見つけ出し、ガゼットの墓前に供えること……それが依頼主である、彼が暮らしていた村の人々の願い。
 見つかった宝はネックレスが一つ。残る宝は、あと七つ――。

「で、今回は、ここにある宝を探して来て欲しいのさ」
 ストライダーの霊査士・キーゼルは、酒場に集まった冒険者達を見ながら、とある羊皮紙の一角を指す。
「ここには小さな遺跡があるんだけど……どうやら、その一角に宝が隠されているらしいんだよ」
 ただ、この遺跡は地上に廃墟が広がっているというだけの場所で、金目の物は既に盗賊や冒険者達に根こそぎ持ち去られてしまっている為、そんな財宝がありそうな所だとは到底思えないのだという。
「だからまぁ、遺跡って言うよりも、ただの廃墟だって呼ぶ方が正しいような場所なんだけど……霊視してみたら、面白い事が分かったのさ」
 キーゼルが言うには、その廃墟の一角には地下に通じる隠し階段が存在しており、ガゼットの地図に記されている宝は、どうやら遺跡の地下部分に隠されているらしい。
「階段は廃墟の床で塞がれている状態なんだけど、その隠し方が、かなり巧妙らしくてね。隠し階段のある場所と、普通の床との見分けが、全然つかないらしいんだよ。だからこそ、今までずっと、誰からも見つかる事が無かったんだろうけどね」
 具体的にどの場所に隠し階段があるのかは、キーゼルの霊視でもハッキリとは分からなかったらしい。だから、この遺跡に向かい、まずは隠し階段の在処を探し出さなければならないだろう。
「ただ、一つ気になる事も一緒に分かってね。……どうやら、この廃墟の地下には、アンデッドがいるらしいんだよ。数え切れないほどの、人の手の骨のような物が蠢いている様子が視えたから……かなりの数のアンデッドがいるんだと思う。地下に通じる階段を見付けても、迂闊に飛び込んだりせず、十分に気をつけなよ。じゃないと、アンデッドの群れに襲われて命を落とす……なんて事になるかもしれないからね」
 そう助言すると、最後にキーゼルは、思い出したように付け加えた。
「そうそう……ここにある宝だけど、どうも武器みたいだね。刃のような物が視えたから、剣か何かだと思うよ」

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参加者
緋の護り手・ウィリアム(a00690)
虚言の導師・ラク(a01088)
舞い踊る銀月・スズノ(a01261)
天紫蝶・リゼン(a01291)
箱入り重騎士・ルフィリアーナ(a01769)
微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)
緋天の一刀・ルガート(a03470)
白き龍・リュウホウ(a03588)
冒険屋・ジェシカ(a04116)
緑風の双翼・エリオス(a04224)


<リプレイ>

●廃墟に封じられた階段
 依頼を受けた冒険者達は、宝の地図に記されていた遺跡のある場所を訪れていた。
「確かに……これは遺跡というより廃墟だな」
 白き龍・リュウホウ(a03588)は、目の前に広る光景を眺めると、酒場で聞いた言葉を思い出しながら、そう感想を漏らす。古ぼけた石床、崩れた柱、元は壁だったと思われる瓦礫の山……。確かにこの場所は、廃墟と呼ぶに相応しい場所のようだ。
「でも、このどこかに地下に繋がる階段……それに、ガゼットさんが探していた宝があるはずだからね。頑張って探し出そう」
 周囲を見回しながら、口を開いたのは緑風の剣士・エリオス(a04224)だ。そんな彼に、びしっと指を向ける男が一人。
「……エリオスっ! 今回もお前には負けんっ!」
 メラメラと、対抗心という名の燃える炎を瞳に宿しながら、エリオスに宣戦布告をしているのは、千見の賭博者・ルガート(a03470)だ。だが、エリオスはその言葉に、苦笑いを浮かべながら首を振る。
「これは、あくまでも故人の遺志を継いだ依頼だから……賭けも競争も無しだよ、ルガートさん」
 そう言いながら、にこやかに笑うエリオスの姿に、ルガートは若干勢いを削がれるが……とにかく勝負だともう一度繰り返すと、そのまま地下へ続く隠し階段を探し始める。
「さーって……どこに隠れとんかなー、お宝さんは」
 虚言の導師・ラク(a01088)も、きょろきょろと辺りを見回しながら屈みこむと、床に触れ、何か変わった感触がする場所が無いか調べ始める。隠し階段のある場所には、何か他の場所と違いがあるはずだと、そう目星をつけたからだ。
「えと、あの……下に行くための、大きな穴のある場所をご存知でしょうか?」
 微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は、瓦礫の隙間を行き交うネズミの姿を見つけると、獣達の歌を用いて話しかけ、情報を得られないか試みる。
 だが、その返事は芳しい物ではなかった。ネズミ達は、そういった場所があり、そこに『怖いもの』がいるという事を口にはしたが、階段のあるハッキリとした場所については、ネズミ達自身も把握していないらしく要領を得ない。
 だが、西の方だという大まかな位置だけは教わる事が出来たので、メルヴィルはそれを他の皆に伝えると、自らもそちらを調べに向かう。
「あとは、根気強く探すしか無さそうね」
 天紫蝶・リゼン(a01291)は持参した十尺の棒を取り出すと、それで床を叩き、音の反響などから隠し階段の在処を探す。
「そうだね……他に、上手いやり方も思いつかないし」
 エリオスも鞘を握ると石床を突付き、その音の反響具合を少しずつ調べていく。
「……………」
 一方、辺りの様子を見回しながら、ゆっくりと歩いているのは舞い踊る銀月・スズノ(a01261)だ。足音から石床の様子を探ると共に、少しでも怪しい場所が無いか、見落とさないように注意深く観察する。
「これは……また、違ったみたいね」
 ほんの僅かでも気になる部分のあった場所は、丹念に調べていくスズノ。だが、やはり、そう簡単に見つかるほど分かりやすい場所には階段は無いようだ。
「この遺跡……もしかしたら、古のヒト族の遺跡なのでしょうか?」
 そう呟きながら、遺跡の全体を見回しているのは、箱入り重騎士・ルフィリアーナ(a01769)だ。謎を解くには、まず相手を知る事……。ルフィリアーナは廃墟に残されていた残骸から、ここが元はどのような場所だったのかを想像していく。そうすれば、階段を見つけ出す手がかりになるかもしれないと。
(「この建物が使われていた頃から、その隠し階段があるのなら……その頃から、目に付きにくい場所に階段はあるはずですもの」)
 そう考えて、推察しながら廃墟の各所を回るルフィリアーナ。この廃墟は比較的新しい物らしく、ある程度当時の状況を推察する事は可能だったが……だが、やはりそう簡単に階段は見つからない。
「ふむ……」
 追跡を得意とし、隠された痕跡を見つけ出す事に自信があるリュウホウでも、それは同じだ。自分だったらどこに階段を隠すか……そう想像しながら廃墟の各所を調べるが、手がかりは見つからない。
 そうして、黙々と隠し階段を探し続け、かなりの時間が過ぎ去った頃……
「ん?」
 怪訝そうな声を上げながら、首を傾げたのはラクだった。他の石床と、手触りが違う場所を見つけたのだ。それは1m四方ほどの一角で……その部分だけ、他の石床に比べて新しい物のように思える。
「あの……どうか、しましたか?」
 その様子に気付いて近付いたメルヴィルは、事情を知ると、手にした10フィートの棒で床をつつく。
「これは……」
 その音の反響は、他の箇所と明らかに違った。ラクは近くにいた緋き炎纏う武人・ウィリアム(a00690)とルガートを呼び、この部分を外す事が出来ないか試みる。
「くっ……」
 がっちりと固定されているらしく、石は簡単には動かなかったが……腕力のあるウィリアムとルガートが同時に力をかけてると、ガタンという音と共に石が動く。
「階段……やな」
 全員で抜けた石を持ち上げて退かすと……そこには、地下に繋がる階段があった。

●遺跡で待つもの
 地下に繋がる階段を発見した冒険者達は、荷を整えると、下に向かう準備を行う。
「えと、階段の側には、アンデッドはいないみたい、です」
 召喚した土塊の下僕を下に向かわせ、様子を探らせていたメルヴィルは、その下僕が無事に戻った事を受けて、皆にそう報告する。
「油の量は均等にしてあるから、この明かりが消えたら一度戻る事にしましょ」
 リゼンは用意した二つのカンテラのうち、片方をラク、もう片方をメルヴィルに渡す。
 ひとまず二手に分かれて地下を探索し、この明かりが消えたら戻り合流する……冒険者達は、予めそのように遺跡探索の計画を立てていた。
「リア……気をつけて」
 隊列を組んで階段を下り始める中、リュウホウは前に立つルフィリアーナに注意を促す。
 出発前に、冒険屋・ジェシカ(a04116)がキーゼルに対して確認を取り、ここにいるアンデッド達は、炎を吐くなどの特殊能力は持っていないらしい……という事は確認しているが、それでも、この先が危険である事は間違いない。
「ええ……ありがとう、リュウ」
 ルフィリアーナは、一度振り向くと微笑みながらそう返し、すぐに視線を戻すと、この先にいるはずのアンデッド達を警戒しながら歩き出す。
「分かれ道みたいね」
 しばらくそのまま通路を進んでいた冒険者達だが、やがてその前方が左右に分かれる。ジェシカはとりあえず、このまま予定通り二手に分かれようと提案するが……
「待った。何か……」
 しっ、と口元に指を当てながら小声で囁くラク。皆が口を噤んで前方を見やる中……微かな物音が耳元に届く。
「アンデッド……」
「向こうからもよ」
 カンテラの明かりで浮かび上がったのは、左右両方の通路から迫る人影。その姿が、白骨の群れ……アンデッドである事を確認したルフィリアーナは、アクスを握ると鎧進化を使い戦闘に備える。
「来るぞ」
 剣を抜いたウィリアムは、右側の通路へと一歩踏み込むと、流水撃でアンデッド達を薙ぎ倒す。だが、その後ろからは、すぐに無傷のアンデッド達が迫る。
「ファイアブレード!」
 そこにリゼンが剣に闘気を込めながら斬りかかる。その攻撃の反動で、しばしリゼンの体は自由がきかなくなってしまうが、彼女に襲い掛かろうとするアンデッドにはジェシカのブーメランが飛び、その動きを牽制する。
「ニードルスピア!」
 更に、そんなアンデッド達に、ラクが放った無数の針が襲い掛かる。
 もしかしたら、戦闘を行う事で遺跡に影響を与えてしまうのでは……と、そう危惧していたラクは、攻撃後すぐに思わず周囲を見回すが……どうやら、今の所、壁や天井に亀裂が入るなどの崩落の予兆は無いようだ。
「はっ!」
 一方、左側の通路から迫るアンデッド達には、進み出たスズノが格闘術による連続攻撃を仕掛け、次々と衝撃波によってダメージを与えていく。ルフィリアーナもアンデッドの攻撃を受け止めると、アクスで強烈な一撃を放つ。
「リングスラッシャー!」
 更に、エリオスが召喚したリングスラッシャーが数体、冒険者達の隙間を浮遊しながら前進すると、アンデッド達に応戦する。メルヴィルも土塊の下僕を召喚し、前列に立たせると仲間の援護と護衛に充てる。
 だが、それでも敵の方が明らかに数が多く、冒険者達は押され気味だ。
「邪魔はさせないわよぉ〜!」
 ジェシカやルガートが順番に紅蓮の咆哮を上げ、彼らの動きを鈍らせてはいるが、それでも一行は苦戦を強いられてしまう。
「く……」
 特に前衛に立つ者達の消耗が激しく、彼らは交替しながら順番に後列へと下がると、薬神ユンケル様使徒どくたぁ〜・フーリィや、風睡星・クゥリッシュのヒーリングウェーブによる治癒を受ける。
 こまめに回復を行っているお陰か、深手を負った者は今の所いないが……フーリィ達による回復にも限界がある。これ以上戦いが長引けば危険だろう。
「破鎧掌!」
 ジェシカはアンデッドの胸元に触れると、気を叩き込む。その衝撃で、アンデッドは周囲にいた他のアンデッド達を巻き込みながら、後方へと吹き飛ぶ。そのままジェシカは身構えると、出来るだけ多くのアンデッドを巻き込めるように試みながら、もう一度破鎧掌を放つ。
 アンデッド達を多数巻き込んだとしても、彼らは単に倒れただけで、ダメージらしいダメージは与えられなかったが……だが、彼らが体勢を立て直すまでの僅かな間でも、時間を稼ぐ事は出来るからだ。
「はっ!」
 その攻撃で生じた隙を突いて、ウィリアムは接近すると、起き上がろうとしていたアンデッド達を流水撃で一気に薙ぎ倒す。長期戦になる事も想定し、出来るだけ体力を温存してきたウィリアムだが、もうアビリティを使う事が出来るのはこれで最後だ。
「あれは……!」
 そんな中、リュウホウがはっとした様子で息を呑む。倒れたアンデッド達の向こう側……最後尾にいたアンデッドの手に、何かが握られているのを見つけたからだ。
 カンテラの明かりを受けて、鈍く反射する光。……それが剣だという事に気付くまで、そう長い時間はかからなかった。
「きっと、あれがガゼット様の捜し求められていた宝物ですわね」
 アンデッド達が武器を携えているという話は聞いていないし、この場に剣があるとすれば、おそらくその可能性が一番高いだろう。
 そう判断したルフィリアーナは、リュウホウが旋空脚で側のアンデッドを蹴り飛ばすのに合わせ、剣を構えたアンデッドに急接近し、破損させないように注意しながら、剣をアンデッドの手から弾く。
「拾わせないよ」
 エリオスは剣を拾い上げようとしたアンデッドにスピードラッシュを放つ。その間にメルヴィルが剣を回収し、スズノが破鎧掌でアンデッドを打ちのめす間に、後方へと下がる。
「これで……最後よ!」
 リゼンの一撃で、右の通路にいた最後のアンデッドが倒れる。左側にいたアンデッド達も、もう数は残り僅かだ。リュウホウが爆砕拳を放ち、スズノがアンデッドを蹴り飛ばす。
「……ミラージュアタック!」
 最後に残った一体も、エリオスの目にも留まらぬほどの素早い一撃が突き刺さると同時に、断末魔の叫びを上げながら崩れ落ちた。
「はー……全部片付いたみたいだな」
 ルガートは、アンデッド達が倒れ、静まり返った通路の様子を眺めながら、大きく息を吐き出すと、疲れ果ててクタクタになった体を壁に寄りかかる。
 それは他の者達も同じで……冒険者達は順に床に座り込むと、そのまましばらく休息を取るのだった。

●帰還後の一幕
 そして、ある程度体力を回復させた冒険者達は、手に入れた剣を携えて、遺跡をあとにした。
 スズノやウィリアム、ジェシカなどは、何か他に宝は無いか遺跡の探索を行い、剣が安置されていた部屋らしき場所に辿り着くと、そこで発見した燭台や小さな宝石を回収していた。ただ、それらは全て財宝というよりも、どこにでもありそうな変哲のない品だったが……。
「これで、二つ目だね」
 彼らから報告を聞いたキーゼルは、返却された地図を受け取りながらそう頷く。残る宝はあと六つだ。
「そういえば……」
 ふと思い出した様子で手を伸ばしたルフィリアーナは、キーゼルから地図の束を借り受けると、それらを見比べる。
「この地図は、どなたがお描きに……宝物そのものをお遺しになったのは、どなたなのでしょう?」
 地図を保有していたのは、今は亡き冒険者のガゼットだ。だが、この地図自体の出所がどこなのかについては、ルフィリアーナはまだ知らない。
「……描き方を見る限りでは、同じ方が記された物のようですが……」
 線の引き方や添えられた文字などの特徴が、どの地図の物も酷似している事から、おそらくそうだろうと判断するルフィリアーナ。そんな彼女の様子を見ていたキーゼルは、微笑みながら頷く。
「いい所に目をつけたね。そうだよ、これは全部、同じ人物が書き記した物さ」
 どうやらキーゼルは、地図を記した人物についても、何か知っているらしい。ただ、それ以上の事については、キーゼルは何も口にしなかった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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