バーニング・キャンプ



<オープニング>


●やっぱり突然
 もう残暑と言える季節に差し掛かりつつあるのだが、相変わらず外の熱気は変わらない。
 毎年暦の上での季節の分類というモノのあてにならなさを思い知る時期であるとも言えるだろう。
「つー訳で、テメー等! 山に川に行くですよ!」
 暑い暑い暑い暑いと呟いていたピーカン霊査士・フィオナ(a90255)がいきなりそう叫んだのは、やっぱり前触れも無く突然の出来事だった。
「……ホントに毎度毎度……」
 彼女は酒場内の注目を集める事にすら構わず、もう一度叫ぶ。
「夏ですよ! ロマンですよ!
 過ぎ行く季節にサヨナラバイバイなのですよ!」
 名残惜しむような事を言っている割には、平素より全力で「夏嫌ぇ、夏失せろ」と呟く彼女である。
 当然、説得力なんて一ミリも無いのだが。
「キャンプっす。大自然の中で、アタシ等はトラになるです!」
「……なってどうする……」
「自然に帰るですよー!」
 フィオナは、カップの水を一気飲みして騒ぐ。
 言うなれば、夏に酔ったという所だろうか?
「……やれやれだ」
 連れて行かないと煩そう。
 ほっといても世間様に迷惑をかけそうである。イメージだけど。
 冒険者は、ピーカンを宥めるべくその席を立っていた。

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参加者
NPC:ピーカン霊査士・フィオナ(a90255)



<リプレイ>

●ねいちゃー
「こういう森の中だと、落ち着くよね……」
 木立の中に、しゃわしゃわと光の雨が降り注いでいた。
「ん、これ、食べる?」
 掌の上で遊んだ小鳥に目細めながら、フィミアは僅かに微笑んだ。
 そこは、間近に迫りそうな戦いの気配等、微塵も思わせぬ風光明媚な名所である。
 観光客が多く訪れる事も多いという一帯は、やって来る人間に適度な疲労と適度な冒険感を与えてくれる。山には食べられる野草等も多いし、危険な動物も居ない。付近の清流では、魚が幾らか釣れるとも聞く。極々当たり前に考えるならば、そんな場所でキャンプをしようという提案の趣旨は、時期柄悪いモノでは無いのだが……
 どんな素敵な環境であろうとも、どんなまともな趣旨であろうとも。
 御想像にはやはり漏れず、今回も色々、無理があるのである。
「如何せん、大自然ですよ。この上なくネイチャーなのですよ!」
 どうしようも無く、無理があるのである。
「誰より何よりロマンっす。テメー等、惰弱なヒヨコ共をドラゴンばりに鍛え上げてやるのですよ! 嗚呼! 血沸き肉踊る美少女と過ごす二日間! つーか、御無体な視線にさらすんじゃねーですよ、エロシャテー!」
 ……こんな、フィオナの思いつきに、理屈と節度を求める事は。
「さらしてないだろ……」
 もう何か余りの慣れっぷりに条件反射的に呟いたシエンに、小さな石が飛んでくる。
 休日の冒険者一行二十名は、それで何かを言う事を諦め、ステージばりの岩の上に立ち逆光でふんぞりかえる演説者もどきを仰ぎ見ながら、これより始まるらしい凄気な時間を想像した。
「……」
 息を呑んだのは誰だっただろうか。
 どう考えても、モノすげぇ結論しか出てこない想像は、色々な意味でアレだった。
(「自然に帰るってのは、飯食って寧ろ地に還れと……?」)
 マゾマゾしさ猛々しいリセンク、
「マゾとか言うな!」
 マゾじゃん。
「いや、まぁ、何だその。適度にな、適度に……ははは」
「イエス★ ゆあまじぇすてぃ!」
(「駄目だ! 宥めないと、宥めないと、宥めないと……!」)
 ビシと立てられた親指が確信的に信用出来ないスィーニー、
「いやー、ははは。やはり、こういう機会は生かしませんと駄目ですね」
 如何にも形から入りました、みてーな渓流釣りスタイルに身を包むグレイは、毎度の被害にも懲りず我関せずみたいな涼やかな爽やかな笑みを浮かべているからアレであるが。
 ともあれ、誰もが皆、一瞬この先に大いなる不安と、若干の期待を抱いたのは間違いない。
「んじゃー、開会の挨拶行くっすよー! ヴィラ様!」
「はーい」
 どういう打ち合わせがあったのか、フィオナに呼ばれたヴィラがステージ代わりの岩の上に上がる。
 そして、胸一杯に大自然の清涼なる空気を吸い込んで――
「夏キライ夏キライ。夏なんて、大っ嫌いだー!
 うぁー、ダルイ、暑い、ベタベタするー! 太陽のバカー!」
「そーです、そーです! ついでにカレシ出来ねー!」
 ……………後半の一言は、さもありなん。
 夏がどうこうでは無い。フォーナを経て、星凛を経て、恐らくは誕生日を経ても彼女のソレは変わるまい。
「不屈の荒ぶるノケット魂を持つ虎、ここに参上!」
 一瞬、残暑に吹いたブリザードを、ゼソラの力技が粉砕する。
「な、何故抱き付くですくぁー!」
「そこにフィオナさんが居るからです」
「にょ、にょおおおおおおおおおお……!?」
 最早、開会式だか何だか分からなくなった喧騒を、残った面々は生暖かく見つめていた。

●渓流釣る
 それは、平和な光景のオーパーツ。
 川の中頃に、グレイが逆さに突き刺さっていた。
 渓流での釣りは、海釣りとはまた違った趣がある。
 せせらぎを見つめながら、静かな緑の中で義務の無い時間を過ごせたなら、船の上での釣りよりも、一層ゆったりとしたスローペースを楽しむ事が出来るだろう。
 ……実際に、静かかどうかは取り敢えずさて置いてだが。
「……釣りは良いね、大自然との対話。心を落ち着かせ世界と一体化するこの境地」
 シュウは、色々を豪快にスルーしながら、目を閉じうっとりと呟く。
 以前の仕事でも時折その嗜好を垣間見せていただけあって、今日の彼は極素直にそれを楽しもうという顔をしていた。珍しく(と、言っては彼に失礼だが)子供に付き合う事無く、年相応の佇まいを見せる彼は、釣り糸を垂らして渓流での時間を楽しんでいた……
「つーか、釣れねーじゃねーですくぁ」
「……」
「アタシ、飽きたです。芸しやがれですよ」
「……………」
 ……のだが。
「聞いてるですか、エロシャテー」
「ってか、テメー等皆うるせー!」
 健闘も虚しく、青の閃剣のその表情がお崩れになる。
「喧騒が聞こえるかもしれないが、過ぎ行く夏の終わりだと思えば……」
 諦めた顔で首を振るスィーニーの言葉を受けても、シュウは微妙な表情を浮かべたまま。
 端的に言えば、静かな渓流での時間は、外的要因によって一瞬たりとも、そういう時間にならなかったのだ。

 ――フ、イワナ16匹目フィッシュ。良い渓流です。
 面白いように魚が釣れます。フィオナさん、別にこの渓流の魚を釣りつくしても構わないのでしょう?

 ついさっき、ニヒルに笑った赤い背中は、

 ――テメーのクラスなんざアングラーで十分っすよ!
 破軍の剣、アングうわなにするやめ……!

 その言葉と共に、先述のドッグネ申一族ごっこであり、
「ひゃっほー!」
 少し離れた下流では、ヤナギが冷たい水の中に飛び込んでいる。
「ヒャッハーイ川! キャハハ☆ こんちくしょう。シルさん待ってってばぁ☆」
「ははは、コイツぅ。待てよう、これでも喰らえ☆」
 更にデュラシアとシルヴァは、何故か知らネェが、気味悪い程に二人きりの世界を演出しつつ、水の掛け合いっこに興じていた。無駄に青春スキルのフレキシブルな二人は、キラキラと輝く水飛沫にえも言われぬアレさを醸し出している。
 えーと、何だ。とっくにお気付きかとも思いますが、全然静かじゃないし、全然スローライフっぽくも無いのでした。
「つー訳で、次はテメーです。構いやがれ★」
(「どうして、こう何時も何時も……」)
 頚に絡み付く霊査の鎖(←スキンシップ)の冷たさを感じながら、シュウは何となく涙を流す。
 多分、きっとこの後は川に流されるんだ。決まってる、そうに決まってる。
 青空には、戦友(グレイ)の遺影(げんかく)もあるし。
「……ま、さもありなんだ」
 テンユウは、流れの中で冷やした酒を煽りながらそう呟く。
 一応「魚釣り」の名目は立てていたが、彼の本来の目的はそちらだった。
「どこが自然に帰っているか?
 ……昔から酔っ払った人を『虎』と言うだろ?」
 おういぇ、中々お見事。
 テンユウの釣果は特に無いが、当然気にした風も無い。
「うむ。……あ、釣れた」
 何だかんだで、マイペースが最強なのか。
 竿を振るガルスタは、口元に極々僅かな喜色を浮かべて水から跳ねた獲物を見つめていた。

●燃え盛れ
 そんなこんなで日も暮れて……
「えーと、コレはここでいいかな」
「十分だろう」
 ノリスとショウがキャンプファイヤー用の土台を組んでいた。
 ノリスが手に入れた薪を、ショウが的確に指示を出し組み上げていく。
 アウトドアを好むショウは、何時ものクールフェイスも何処へ行ったか、
「ほらほら、キャンプファイヤーするんだろ?
 組み方が甘いな、こうやって空気が通る道を造っておいてやるんだ。
 そうすればほら、いい感じに火がついて……」

 ごわんっ!

 恐ろしい火勢を上げたキャンプファイヤーを見て満面の笑みを浮かべつつ、
「な、な!? 燃えただろ? 燃えろ!」
 何か微妙なテンションを発揮していた。
 確かに、暗がりに赤々と燃える火柱は、何処か幻想的で夏の終わりの光景には相応しい。童心に立ち返ると言えば格好も付くだろう。それを眺める事は、理由無く楽しいのだ。
「うーん、たまにはこんなのもいいわね?」
「ああ」
 セレアは、塩を振って焼いた魚をちびちびと齧りつつ、傍らのフォークスに問い掛ける。
 やはり今日も騒がしかったが、彼女の言の通り何時もと比べればゆったりした感じだったのも事実である。ノンストップは楽しいが、少しペースを落とすのも又良い。
「まぁ、夜は長い。楽しく行こうぜ」
 フォークスは、バーベキューにおけるピーカンとの主導権争いを思い出し、満足げに答えた。
 テント設営に、渓流釣り、バーベーキュー、そしてこのキャンプファイヤー。
 やる事は多く、皆疲れていない訳では無かったのだろうが、そこはそれ冒険者の、若者の体力である。まぁ、取り敢えず一同は、体力とかそういうの関係ない強制スリープに入らなかった事をメインディッシュにおける戦闘を制したこのフォークスと、
「はい、まだありますからねー」
 後ろからフィオナを抱き(ブロックし)ながら、配膳の采配を振るっているゼソラに感謝するべきであるが。
「そうやって大人しく抱かれていてあげると、優しくていい女って感じなんですよ」
「野郎は面倒くせーですね、立ててやらねーと役に立たねーとか何ですくぁ」
 ゼソラの言葉に、ノリスから貰った香油の瓶を掌の中で転がし、フィオナは唇を尖らせていた。
 かくして、彼女の用意した自称手料理は、隅っこの方で奇声を上げる数名にのみ振舞われる事に相成った訳だから、である。
(「こんなの、何時も喰ってるのか、マゾ連中は――!」)
 フラグ上げたシエンが青い顔で川に向かって走って行った事等、青春の淡いメモリーであった。
「……本当に、やかましいんですから」
 付き合ってられない、とばかりにグラスを傾けながらベージュは溜息を吐く。
 空になった彼女のそのグラスに、
「まぁさ、これからも一つよろしくっつーことでねぇ」
 デュラシアが、次の一杯を並々と注いだ。
 シルヴァ、デュラシア、ベージュに、それからシャル。酒飲み達は、喧騒を肴に我関せずに酒を呑んでいる。

 ――毎度定番の台詞やが、一献いくか?

 最初は、シャルがベージュを招き、そこにシルヴァとデュラシアが合流してすっかり一角を形成する格好になっていた。この三名の男性陣、普段は何れも騒がしいタイプなのだが……
「らしくないか?」
 無言のベージュから、慣れた様子で察したシャルが笑う。
「過ぎ行く夏を惜しんで、な」
 その答えを待たず、良く星が見える夏の空を眺めて、彼は少しだけ気取って続けた。
 どんなに騒いでも、どんなに名残を惜しんでも、もうすぐこの夏は終わるのだ。ならば、「再会の為に」最後位はそれらしく見送ってやるのも、悪く無い。
「そうですね」
 ベージュは、幽かに笑って頷く。
 少しずつ寝苦しさの薄れてきた夜に抱かれて眠る事も、良いかも知れないと思ったのだ。
「フィオナさん、塩を振って焼くだけの魚が、なぜ殺傷能力を持っているのでしょうかー!」
「生臭さを取る為に良く洗えとかアレなので、『良く洗って』みたですよ」
 ああ。そして、濯がなかっただけで、な。お察し下さい。
「何だこれ……! 泡立ってる……ッ! 駄目だ、リーオン! どうしても、これだけは!」
「夏らしく清涼感を出す為に、ジューソー味です。つーか、涼しみやがれ★」
「何、故、なぜおま素直に塩を振ら、……いんだ……!」
「どうせ、白い粉なんだから、どれだっていーじゃねーですか」
「良くねえええええええええええ――!」←合唱
 だけど、それでも――

 夏の夜
 それ相応に
 阿鼻叫喚。

     ――詠み人、知らず

 しんみりと夏を送る四人の想いも知らず、未だ加速する夜は止まらない様子。
「ま、構いませんけど」
 そう呟いて次の一杯を飲み干したベージュは、小さく笑っていた。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
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作成日:2006/09/03
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