かき氷、あぁかき氷



<オープニング>


 ヒトの霊査士・エイベアー(a90292)はテーブル下のたらいに素足を放り込んでいる。
「こう暑いところいい話があるのじゃよ」
 近頃の暑さで体力がのぅ、と3分ほど愚痴を続けた後、エイベアーは本題に戻る。
「とある山奥の村に、裏山があるんじゃ。裏山に5日ほど分け入ったところにのう、氷室があるそうでな」
「う〜ん、そんな舞台の冒険譚を聞いたことがありましたね」
「うむ。春のグドン退治で氷室を占拠していた狐グドンどもが片付けてもらったのう。あのころはまだ寒かったのに、気づけばこう暑い。時が経つのは早いのう」
 そこまで言うとエイベアーは足をじたばたさせる。テーブルの下からの水音がちょいと涼気を呼ぶような気もする。――まぁ、じいさまの素足を見ると涼気の気配もどこかに行きそうだけれど。
「さて、いい話なのじゃがな」
 気を持たせるように、エイベアーは口を閉じ、愉快そうに冒険者たちを見渡す。
「かき氷コンテストの案内じゃ。同盟諸国の平和を守る冒険者の皆様の感覚を活かしたかき氷のデザインコンテストと、その審査だそうじゃ」
「ほほぉ。つまるところ、かき氷がつくり放題、食べ放題なわけですか」
 リザードマンの年増狂戦士・バーリツ(a90269)の青い瞳が鈍い光を抱く。
「まぁ、それに近いかたちになるじゃろう。無制限に氷を使えるわけじゃないじゃろうがのぅ」
「しかし、急に何でコンテストなんてはじめるんです?」
「例年では氷室周りは、避暑地として賑わうそうなのじゃがのう。どうも、今冬グドンが住み着いていたという噂が近隣に流れてしまったらしく、グドン臭い氷という悪評がたってしまったようでな」
「そこで、悪評をカバーするためのコンテストですか。なるほど、冒険者ならば万が一、グドン臭い氷にあたっても腹痛で死んだりしませんしね」
「これこれ、変なことを言うでない。今回はわしも氷に惹かれて足を運ぶでのう、変なことをするでないぞ」

マスター:珠沙命蓮 紹介ページ
 珠沙命蓮(たますな・みょうれん)です。
 暑い夏はやっぱりかき氷。
 というわけで、かき氷コンテストです。今回コンテストできるのも春に氷室を救ってくれた冒険者さんのおかげ。みなさん、おなかを壊さない程度蠢きましょう。

 このシナリオに参加する方は、プレイングに〈コンテスト出展者〉、〈コンテスト審査員〉のどちらの立場になるかを明記しておいてください。

>出展者心構え
 あなたの作りたいかき氷についてプレイングに明記しておいてください。
 氷以外の材料については、装備アイテム、裕福度によっては準備できず使用できないことがあります。
 複数の方が協力して一つのかき氷を作る場合は、協力するPC名、分担などがわかるようにしてください。

>審査員心構え
 あなたのかき氷の好みについて、次の方法でプレイングに明記しておいてください。
 10ポイントを「フルーツ」「甘い」「しょっぱい」「すっぱい」「臭い」「ゲテモノ」「生もの」に振り分けます。
 その好みに応じて、出展者の作品を評価します。誰かのかき氷だけを贔屓して評価することはできません。
 NPC2人(エイベアー、バーリツ)、村長さんと審査員の評価を合して、コンテスト上位者を決定します。

参加者
NPC:ヒトの霊査士・エイベアー(a90292)



<リプレイ>

●前日
 コンテスト会場の近くにある氷室である。
「氷の護衛だろうか……妙な気分だな」
 苦笑いで、エンジェルの男性が中から出てきた。グラティアが名乗ると、『かき氷コンテスト』護衛のロレンツァだと名乗ってくれた。
「明日のコンテストに使う、氷を作りに来たんです〜♪ とっても甘いんですよ〜♪」
「出展者か、失礼した。警備の都合もあるので手早く頼む」
 ロレンツァは頭を下げ、道を譲る。グラティアは礼を述べると、軽い足取りで奥へ向かっていった。

●前半
「このたびは多数の方に参加いただけ、誠にありがとうございます……」
 舞台中央で村長は挨拶を行い、そしてコンテストの開始を宣言する。その過程で運営役員の紹介が行われ、氷商代表の欠席が伝えられ村人のどよめきが起こるがそれはまた別の物語。
「わたくし、できるのならば事前に白雪を食べてみたいと思いますの」
 審査員の一人、リゥが村長にそう声をかけてみた。残暑が厳しい陽気であるが、観客に扇いでもらっているので汗の量は他者より少ない。
「そうですね、素材の味も確認しておいてもらいましょう」
 村長は快諾し、スタッフにシロップなしのかき氷を出すよう指示を出した。
「リゥさんや、素材の味から確認するとは通じゃな。わしはおぬしを甘く見ていたようじゃ」
 エイベアーは心底感心した様子で氷を口に運ぶ。

「1番、チョッピリとトロピカル風味のかき氷です。私、絶対に負けませんわよ!」
 狐尻尾のバームクーヘンが、青から白にグラデーションしているビキニ姿で舞台に登場した。
「あの胸には食材のスイカでも隠しているんかねぇ」
 などと副村長が鼻の下を伸ばして呟いているうちに、スタッフにより作品が各審査員の前に運ばれる。
「杏ジャムの酸味が……魅力的だな」
「かき氷ってこんなにおいしいものだったんですね! 練乳の甘さに潜むマンゴーの甘酸っぱさ――すてきです」
 フィラがしみじみと、ノーリーンが涙に鼻水を流して喜んでいる。
「評価点合計23点じゃ。現時点で一位じゃよ」
「当然ですわ……って、まだわたくしだけじゃありませんこと?!」

「5番、見た目のシンプルさに徹してみました。いかがでしょうか、審査員の方々」
 シークヮーサーの絞り汁、ジュース各種、果実酢で酸味を付けたシロップがかけられた作品が運ばれる。
「時期的にも美味い頃合だな」
「んー、まずこの氷が絶品なぁ〜ん! 透き通った純粋な味の中に、ほのかな甘さがあって、さらに清々しい夏の風のような爽やかな香りが鼻をくすぐるなぁ〜ん。それをひきたてるように、このシロップは……」
 フール、グリュウが満足げに氷を口に運んでいく。
「本日のコンテストで『臭(にお)い』を評価項目として重要視された方がすくなかったのが実に惜しまれます。評価合計27点です」
「おいおい、『臭(くさ)い』じゃなかったのか。やれやれ……だな」
 村長の言葉に、フールをはじめとする審査員らが呆れかえって見せた。

「6番、はちみつシロップカキ氷です。甘くてさわやかだよね……ところで、みなさんのカキ氷おいしそう」
 うきうきキョロキョロするキヤカを苦笑しながら、スタッフが作品を運び込む。
「冷たくて良いんですが、キーンとキますねぇ。蜂蜜の絡みつくような甘さがシロップでとくことでなめらかに」
「まさにこれこそ……『甘酸っぱさ』の極みかもしれない」
 がつついたノアが頭へのツーンときた苦痛にもだえ、フィラが添えられたレモンの風味にのたうつ。
「蜂蜜とレモンという甘さと酸っぱさの代表格を対比して配置――基本中の基本的な味わいをわしは好きじゃよ。評価合計30点じゃが」

●夜の部(でも昼間)
「さて、ここから昼の休憩に合わせ、夜の部というか大人の部じゃな」
「しばらく見ているだけか、かき氷をたくさん食べられそうだと思ってきたのだがな」
「若者は昼食を食べてくるんじゃよ……『お・と・な』の時間じゃからのう」
 エイベアーはシェンドら若め審査員にウィンクしてみせた。

「夜の部1番、ぶっかけ氷ですわ。乾物もまぶしてありますので戦場での栄養補給にも抜群でございませんこと?」
 すでにできあがっているバーリツが舞台に上がるのと前後して、ブランデーがぶっかけられただけのかき氷が配られる。
「あっ、この風味は……私の秘蔵のブランデーじゃないですか。あぁ、こんなかたちではなくちびちび飲んでやりたかった……」
「つまみがまぶしてあるのなぁん! ……干し豆に混じって蛇皮の干物をちぎったトッピングは野性味あふれるけれどなぁ〜ん」
「ぐっ、こ、これは……! げふっ……本望、です」
 村長の嘆き、グリュウのぼやき、ノアの悶えが続く。
「……評価合計10点じゃ」

「気を取り直して夜の部2番、すでにカキ氷とは違う気がするけど気にしない気にしない。強くはないけど一応、お酒が混ざってるので二十歳未満は食べちゃダメ」
 ヴェルシーラの作品は、ブルーキュラソー(酒の一種)、パイナップル、レモンの果汁を混ぜ合わせたシロップに、小さく砕かれた果物が飾られていた。
「キュラソーの持つオレンジの風味に加え、パインとレモンの酸味――かき氷とはこれほど奥深いものだったとは……」
「実にフルーティじゃ……夜の部1番とは大違いじゃよ。評価合計31点」
 フィラは全身をふるわせ、エイベアーは顔中に喜色を漂わせている。

●後半
「さて、再開一番手、11番ノソリンスペシャルです。かわいいノソリンが貴方をお待ちしております。さぁ、お試しください」
「ノソ耳、尻尾を構成するメロンの果肉、そして緑のボディを強調する緑色のメロンシロップ……そして、私は甘党でな」
「グリュウの色と同じなのなぁ〜ん★」
 シェンドが果物に起因する甘さに身震いし、グリュウが自身の緑ノソ部位をアピールしながら食す。
「外観特別評価1点を加え、評価合計は32点じゃ」
(……やっぱり、こんな小手先の品物で賞が取れるほど世の中甘くないやね)
 ナルヤはそんなことを思いながら舞台から降りた。

「13番、パフェ風かき氷ですぅ。フルーツいっぱいでぇ、激甘なんですぅ」
 セラがエンジェル翼をひょこひょこさせながら、のんびり舞台に上がった。
「純白の生クリームに見え隠れする深紅のイチゴか……」
「これはっ! おいしいです〜♪」
 シェンドは鼻の頭に、リュミィルは頬にクリームを残したまま喜んでいる。
「評価合計は38点じゃな。今回はフルーツ派、甘党派が多いようじゃのう」

「14番、とっても甘くて美味しいかき氷です〜♪ フールさんには特製の激甘氷です〜♪」
 グラティアが自らフールの前に特製かき氷を置く。スタッフが並べたほかの氷とは一見違いはわからないが……、フール用も通常用も特製の砂糖水を前日から凍らせておいたものだ。なお、フール用は溶けきる限界まで砂糖を溶かし込んだ氷である。
「ほどほどが一番ってところじゃねーか? 甘すぎるのは流石に辛いぜ……って俺だけ激甘ぁ?」
「うーん、こんなに甘いと太っちゃいそうです。甘いの好きなんですけど……」
 フール、ノーリーンはこう評しながらも、氷を口に運ぶ手を止めはしなかった。
「評価合計は38点じゃ」

「15番、フルーティシロップでどうだ? 甘いのが好きならば別皿のミカンの皮の砂糖漬けを追加でかけておくれ」
 甚平姿で登場したバチカルが勢いよく、そう説明した。
「ミカン果汁控えめの加糖シロップに、砂糖漬けしたミカンの皮……これは甘さの『黒炎覚醒』といえるかもしれん」
「これはこれで美味ですけれど……、ありきたりなものばかりですわね」
 シェンド、リゥとコメントが続く。口調は厳しいものの、リゥの顔はミカンの香りにまんざらでない様子。
「評価合計は38点、終盤らしく点数も団子になってきたのぅ」

「16番、サマーフェスタ。うふふふふ……」
 踊りながら登場したのはラジスラヴァ。開会式前に踊りを披露していたのが思い出される。加糖練乳に、メロン、ブルーベリーをトッピングしたトロピカルな雰囲気に合わせた衣装がきわどく、村の純朴な青年が顔を赤らめている。
「わぁ。すごいですね。すごい。ふふ……おいしいです〜♪」
「目を瞑り耳を塞ぐ……それでもこの風味は消えやしねぇ」
 リュミィル、フールが歓喜の声を上げた。
「まさに思い出に残りうるこの味わい、その名はサマーフェスタ。評価合計は39点じゃ」

「毎日、暑いね……18番、納涼ハビちゃんよ。目に楽しく、お口に嬉しいカキ氷……を目指してウサギさんとハビちゃんって、よく、似ているので一緒に……と長いお耳は、直接『あむっ』ってしてみてね」
 シェラーフが大きな平皿に設けられたブックハビタントを模したかき氷の山を切り分ける。小皿には、ブックハビタントを囲んでいたウサギの像1体と、切り分けられたブックハビタントが盛られ、審査員卓へ運ばれていく。

「氷に練乳が混じっていますのね……。素晴らしかったですわ」
「これならばみんなで楽しく食べられそうだな」
「ウサギの目のクランベリー、耳のミントが練乳の甘さを引き締め、実に至高の味じゃ!」
 リゥ、フィラ、エイベアーが瞳を輝かせて叫ぶ。
「外観特別評価3点を加え、評価合計42点です」
 村長の発表に、シェラーフは深々とお辞儀をした。

●表彰
「第1回から白熱したコンテストになり、冒険者皆様のご厚意、誠にありがとうございました」
 村長の挨拶は11分半ほど続いた。熱中症に倒れる者、かき氷を食べ過ぎて腹を下した者がトイレに駆け込むのに気づき、村長は慌てて話を止める。
「大賞はシェラーフの納涼ハビちゃん」
 エイベアーの発表を聞き、シェラーフが一歩前へ出てお辞儀をする。
「続いて佳作はラジスラヴァのサマーフェスタ」
 ラジスラヴァは満面の笑みで観客の声に応えた。
「最後に特別賞として、夜の部大賞がヴェルシーラの作品じゃ」
 バーリツのゲテモノブロックに隔離されたとばかり思いこんでいたヴェルシーラは、予想外の特別賞に慌てて頭を下げた。

「こうしてかき氷コンテストは幕を閉じた。
 コンテストに協力してくれた人々のおかげで、村の氷に対する悪評は忘れ去られていくはずだ」(以上、村長の日記)


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参加者:18人
作成日:2006/09/10
得票数:ほのぼの14  コメディ3 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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