<リプレイ>
●スイカとアフロと夏 「何故僕はよりにもよってこの依頼を受けてしまったんでしょうか」 夏の青空の下で、そんな怨嗟の黒狐・シイナ(a37130)の呟きが聞こえる。 パラソルの下で涼む彼の近くには、大き目のスイカが1つ。 海はとっても広くて、あちこちで遊ぶ人達の姿が見える。 ただ、やはりスイカはないようだ。 例のスイカ団を恐れているのだろう。 楽しい海水浴客は、本当に楽しめているのか。何となく、そんな事を考えていた。 「スイカ割と言えばまず棒だ! 棒と言えばこれ! なんて名前だっけ??」 漢・アナボリック(a00210)が4本の棒を取り出し、アフロ凄杉・ベンジャミン(a07564)に聞くが、ベンジャミンからの答えはない。 ただ、大き目のスイカだけが陽射しを受けて輝いている。 「まあ、とにかく由緒正しき棒だ。使ってくれ。スイカ? まあ、そういうことで、じゃあ、スイカ割頑張ってね〜〜」 4本の棒をスイカの周囲、東西南北に突き刺して周辺の警戒に出るアナボリック。無論、スイカからの答えは無い。 「海なぁ〜ん! スイカなぁ〜ん!」 南風の雲・ユー(a45791)の声が聞こえてシイナが振り向くと、水着の女性陣が現れる。 早々に紫煙の医術士・ヴィヴィス(a52494)が辺りの散策を兼ねた警戒を始めるが、怪しい人物は特に見当たらない。 あえて言うのであれば、波打ち際に首だけ出して埋まっているアナボリックくらいである。 子供たちが石を投げたり、棒で突付いたりしているのが見える。 「こらこら子供達、スキンヘッドを虐めるんじゃない」 冒険者だから子供の投げる石ごときで怪我したりはしないが、それはそれである。 子供達が去っていた後、アナボリックの近くに、丁度良く捕まえたカニを置いておく。怪しいのはそのくらいであった。 「えっと、まずは真っ直ぐです!」 ヴィヴィスが仲間達のところへ戻ってくるとスイカ割りが始まっているらしく、深森に微睡む影・ノエル(a40588)の声が聞こえた。 棒を持ってフラフラと歩いているのは闇祓う黄金の刃・プラチナ(a41265)で、スイカとは別方向へとフラフラ歩いている。 ユーの持ってきた麻のテントの布地の上に置かれたスイカは、今まで冷やしていただけあって美味しそうだ。 他にもユーの選りすぐりのスイカがたくさん冷やしてあり、どれもとても涼しげだ。 審判、と書かれたたすきをかけている動物マニア・ポポル(a51163)は……審判なのだろう。スイカ割の審判など聞いたこともないが、無いと決まっているわけでもない。 「あ、もうちょっと右! 右ですよ!」 ところで、全く関係のない話ではあるのだが。世の中には「偶然」というのものが存在する。 偶発的に巻き起こる数々の事象は、古来より様々な悲劇を巻き起こしてきた。 そして今、偶然に偶然を重ねた悲劇が起ころうとしていた。 「スイカの命守る為!」 「人の未来を守る為!」 「正しき世界平和をこのうえなく望む我等、この青き海にと共にあり!」 「すなわち我等……」 「スイカによる世界平和推進団!!」 砂中からスイカを守るように、5人のマッチョメンがポーズを決めながら湧き出してくる。 いや、実際には今まで埋まってたのが出てきただけなのだが、そう見えてしまう迫力を備えていたのだ。 そして、その声に驚いたプラチナの足が滑り、たまたま、あくまでたまたま緩んでいたヴィヴィスのビキニの紐に引っかかる。 そのまま彼女の胸からビキニのブラがハラリ、と落ちてしまう。 ポポルがその様子を見てセーフ、と言い掛けたその時。 「ハッ」 スイカ団員A(仮)が、すごく侮蔑的な笑みを向けた。 「維持する為の涙ぐましい努力が伺えるでござるよね」 スイカ団員B(仮)が、恐ろしい事を口にする。世の女性の何割かに挽肉にされていてもおかしくはない。 「……アウトォッ!」 そして、ポポルの残酷な判定が響き渡る。 「まあ、今回はご縁が無かったということで……」 「ええ、我等はこれで」 陽射しの下固まっているヴィヴィスをそのままに、そそくさとその場を離れるスイカ団の面々。 「あれ、スイカがないのじゃ」 プラチナが気づいた時には、もうスイカは無い。 「ああっ、冷やしてたスイカもないなぁ〜ん!」 ユーがたっぷりと冷やしていたスイカも、1つ残らず無くなっている。 恐るべき早業である。 ちなみに、紅蓮の咆哮で麻痺させるべく待機していたシイナはというと。 ポロリの瞬間に空高い鼻血を吹いて倒れていた。 嗚呼、鼻血の雨と夏の空。其処はまるで凄惨な殺人事件の跡のようであった。
●スイカ事変 「我等にかかればスイカの保護など苦ではない!」 スイカを抱えながら走るスイカ団員A。 その行く手には、大き目のスイカが1つ転がっている。 「おい、B。スイカ落としたか? お前」 「いや……一応回収しておけよ」 スイカ団員Bの言葉に頷いて、スイカを手に取るC。 近くに人影はないが、誰かが忘れていったのだろうか? 「あれ、なんだこのスイカ……やけに……」 妙な感触のスイカに不思議な表情を浮かべるスイカ団員C。 「それはミーのアフロネー」 そう、このタイミングを掴むまでに何時間かけたのか。 それはスイカに扮して砂浜に埋まっていたベンジャミンであった。 「HA−! 砂風呂が熱いって事を身を持って体験したYO! 死んだ婆ちゃんが河の向こうから手招きしてたネー」 「うわああ、なんだコイツ!」 「とにかく逃げろ!」 思わずベンジャミンから逃げ出すスイカ団員達。 「待つネー、最近は黄色いスイカだの人面スイカだの種なしスイカだの、世の中は乱れきってるネー。この乱れ切った現代スイカ界でユーらの道を正そうとするそのソウルは認めるネー。しかし(中略)という事にも考慮しなければならないネー。そもそもスイカというものは(中略)という由緒ある食べ物ネー、わかったカーイ?」 「おお、そうじゃのう……確かに最近の若者の成長具合は凄いものがあるのう」 しかし、その話が終わる頃にはスイカ団員達は踵を返して逃げている。普通の海水浴客達も円を描くように離れている。 聞いているのは近所に住むガリクソンさん(51才・バツイチ子持ち)のお父さんだけだった。 「HA−! 人の話は最後まで聞くネー」 砂浜から勢い良く飛び出し、ダンサフルにソウルフルに踊りながらスイカ団を追いかけていくベンジャミン。 マッチョの男達を追いかける、スイカアフロのリザードマン。この不気味な構図を称するならば。 まさに真夏の変態対決であったと言わざるを得ない。
「ぜえ、ぜえ……」 何とか逃げ切ったスイカ団員Dが、近くにあったものに手をかけようとする。 布のようなそれは、プラチナの水着……だったのだが。 「アウトォッ!」 それに手がかかる前にポポルの声が響き、ヴィヴィスの粘り蜘蛛糸がスイカ団員達を絡め取る。 プラチナ・ベルウッド。外見年齢9歳。例え偶然がポロリに向かい積み重ねられようと、運命とかそんな感じのものがそれを許さない。 そして、自らの安全圏を作り出しているノエルもまた、ポロリには至らない。 ポポルの場合は、審判なのでポロリはない。すべてのスポーツにおいて審判とは、常に最高の防御力を持っているのである。
●スイカ解決編 「馬鹿馬鹿しい。スイカ割りを妨害しただけで世界が平和になると思っているのなら、あなた方はただの馬鹿です。いい歳してスイカが可愛そう? はっ、ふざけるのは顔だけにして欲しいものですね」 「いいからレバー食え、青年」 「若いっていいねえ」 周りの海水浴客達から野次が飛ぶ。 危ないスイカ団が捕まって安心と感じたのか、いい気なものである。 「メロンに対しても同じことが言えるんですか?」 このシイナの言葉に、スイカ団員Cがニヤニヤしながら答える。 「バカな。メロンの血は緑色じゃないか」 つまりスイカを割ると赤い血を連想させて、割って赤いものが出てくるのを賞賛される感触を覚えると将来が云々、という事らしい。 「黄色いスイカとかはどうなるなぁ〜ん?」 そんなユーの言葉に、スイカ団員達は顔を見合わせる。 「どうなんだろうなあ……」 「黄色いなら、いいんじゃないか……?」 ざわざわと騒ぎ出すスイカ団員達を見ながら、ポポルがカウントを始める。 「1……2……3……カンカンカンカ―――ン!」 そう、それはスイカ団の理論的な敗北の合図。 ガックリとうなだれたスイカ団員Aに、ノエルが優しく手を載せる。 「あの……例えスイカが死んだとしてもそれを私達が美味しく頂く事で、きっとスイカは満足してくれます……一種の食物連鎖です」 この言葉が届いたのかどうか、スイカ団員達がぶわっと涙を流す。 「アンタ……スイカの死を無駄にせずに生きてくれるというのか……?」 「こんな、こんな人がいるのなら……」 たっぷりと男泣きをしたスイカ団の面々は、今後はスイカ達の運命を見守っていくと約束して去っていく。 「……そういえばアイツ等見てると誰かを思い出すネー」 そんなベンジャミンの言葉で、全員の頭に色黒のスキンヘッド男の姿が浮かぶ。 「そういえば、何処に行ったのかのう」 何処に行ったのかといえば、波打ち際で埋まったまま、ぐっすりと寝ていたのだが。 それに気づくのは、彼等がたっぷりと夏のビーチを楽しんだ後であった。

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参加者:8人
作成日:2006/08/30
得票数:冒険活劇1
ほのぼの2
コメディ19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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