砂漠の薔薇



<オープニング>


 砂の中に咲いたのは瑞々しさは欠片も無い乾いた硬質の薔薇だった。
 表面は細かい砂に覆われ、其れ自体も石で出来ている。
 砂丘の端にその薔薇を管理しているところがあるのだが、其処に魔物が現れたという。

「……というわけでさくっと行ってさくっと倒してきて下さい」
 花灯の霊査士・ティーリア(a90267)は色々すっ飛ばしてそうのたまわった。
 せめてもう少し詳しく説明しろと冒険者に言われ、不承々々といった風情でティーリアは再び口を開く。気を落ち着かせる為に山羊乳を啜るが、全く落ち着けていないような気もする。
 全て飲み干して、一つ息を吐き出したところで常の平静さを取り戻したらしい。
 見た限り霊査士が焦っている理由は緊急を要する、というものだけでは無いようだった。
 更に言うならば霊査士の個人的趣味とかそういったものが多分に混じっているように見受けられるのだが。
 涼しい表情で霊査士の少女は口を開く。
「砂の薔薇、石の薔薇……主に『砂漠の薔薇』と呼ばれる事が多いのですが、その薔薇を管理している場所にモンスターが現れました。
 これが腹の立つ事に、見た目がその砂漠の薔薇に酷似しています。本来なら、ええと……」
 辺りを見回して少し悩むような仕草をしたあと、「本来、砂漠の薔薇はこれくらいの大きさなんです」と霊査士は自分のヘッドドレスに付けられた花飾りの一つを指した。
 口調が荒いのは多分きっと気のせいだ。
「それがモンスターは直径2m程度とかなり巨大です。砂と石で出来た蔓のようなものを自在に操り、砂の中から現れて時に人を地中へと引き摺り込みます。引き摺り込まれたら一発で戦闘不能でしょうね。地中で薔薇の内部に取り込まれるようなので、倒すか時間を少し置けば吐き出されるでしょう。只、必ずしも吐き出されるわけでもありませんし、倒せずに撤退という話になれば呑み込まれた人はまず助からないと思います。覚悟を決めていって下さい」
 言葉を切った序でに霊査士は山羊乳のお代わりを注文した。
 如何にも調子が狂う。
「話を続けます。蔓の動きは非常に速いのですが、花自体の動きはそれほど速くないというのが救いですね。蔓と花は結局のところ全部ひっくるめて一体のモンスターなので、どこを攻撃してもダメージを与える事は可能です。
 他に注意するべき点は、『花』を中心に巻き起こす竜巻のようなもの、混乱を誘発する花による甘い香り、強烈なスピードで花の部分から吐き出される巨大な棘……」
「さっき、花自体の動きは速くないとか言わなかったか?」
「動きは遅いです。棘が吐き出されるスピードが速いだけです」
 間違った事言ってません、とティーリアは運ばれてきた山羊乳を啜る。
 他に何か補足すべき事柄はあっただろうかと、霊査士は小首を傾げ、ややあって「ああ」と呟いた。
「……言い忘れてましたが、『花』の部分、砂地を這うように移動しますから」
「動くのかよっ?!」
「というわけで、色々危険なので気をつけて行って下さい」
 冒険者のツッコミはさらりと無視しつつ、霊査士の少女はさっさと行くように手を振る。
「早く行って下さい。砂漠の薔薇が勿体無いです」
 ぽつりと零した言葉に、思い切り本音が含まれていた。
 冒険者の命と砂漠の薔薇と天秤にかけるようなことは無いだろうが、ティーリアは殊の外石の類と花に執着心を見せる。
「モンスターを倒した暁には……まぁ、薔薇への被害が少なければお土産にもらえると思います。結構重たいのでアクセサリーには不向きですけど」
 付け足した後、今度こそ追い立てるように少女は冒険者を一瞥した。

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参加者
求道者・ギー(a00041)
双斧使い・ジィーン(a12348)
舞闘漢女・コノオ(a15001)
奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)
天穹風花・クローネ(a27721)
星舞い落ちる夜・マイヤ(a28554)
嵐を呼ぶ蒼き雨・レイニー(a35909)
龍殺し・ミュノア(a37080)
四天裂く白花・シャスタ(a42693)
黒の烙印・ヨギ(a48421)


<リプレイ>

●欠片舞う砂丘
 轟々と音を立てながら砂が風に煽られ、舞い上がり空を覆う。
 砂丘の端にあった――恐らくは『砂漠の薔薇』の管理小屋であろう建物に人影は見当たらなかった。遠く離れた場所にテントの影が見えたことから、管理していた者達はそちらへと移り様子を見守っていたのだろう。近づく事も出来ず、かといって見えぬ程にまで離れることも出来ずに。大切に育ててきた石の花がどれほど魔物に荒らされようと、自分達が何も出来ない事を知っているのだ。
 その切なさはどれ程のものだっただろう。
 砂丘からやや離れた場所で仲間が準備を整える中、四天裂く白花・シャスタ(a42693)と黒の烙印・ヨギ(a48421)が交互に遠眼鏡を覗いていた。薔薇に興味を持たないシャスタには管理していた者達の悲哀など分かりようも無かったが、敵を倒さなければいけないことだけは冒険者の誓いを守る者として違えるつもりも無かった。
 遠眼鏡の先に見えたのは砂丘を這うように動く一つの薔薇だった。砂の上に張り付くように咲いた大きな砂の薔薇に茎は無く、時折蔓が地面から姿を現しては瞬時に砂の中へと潜り姿を消す。
 ヨギはごくりと唾を飲み込む。
 現れてから砂の中に潜るまでに一呼吸の時間しかかからない。それも地上数メートルまで蔓が姿を現した場合だ。足元や胴体にでも巻きつかれ砂中に引き摺り込まれれば、それよりも時間はまだ短いだろう。
「出来るだけの事はしてみましょ……」
 此処まで来たのならどれ程の脅威を見せ付けられようと戻るわけにはいかないのだから。

「最近砂地の戦場が多いのも縁であろうかねぇ……」
 求道者・ギー(a00041)は得物を構えながら、ゴーグルの中の目を眇めた。足をとられぬようブーツで固めた足が砂丘の砂に僅かに沈む。駄々を捏ねる嵐を呼ぶ蒼き雨・レイニー(a35909)を宥めながら奏でるは悠久の旋律・ククル(a22464)も同意するように頷いた。
 魔物の蠢く周囲には本物の砂漠の薔薇の残骸が砕かれ散らばっていた。
 その魔物自身は本物の花とは比べ物にならない程の大きさでありながら、本物と同じように茎は無く、花の部分だけが砂の海に浮かぶように顔を出しているのみ。蔓の影は其処に見当たらない。恐らく地中に潜っているのだろう。子供の小走り程度の速さで薔薇が砂の上を移動する以外は静かなものだった。
 ふと、辛うじて残る砂漠の薔薇に目を留め拳舞・コノオ(a15001)は感嘆の息を洩らす。厳しい環境の中で咲き誇る其れはとても華麗に見えた。砕かれた花の残骸にすら強い生命力の残滓を垣間見ることができる。
「うわぁ、ホントにおっきい薔薇の花だぁ〜」
 感嘆とも呆れともとれる声音で呟いたマスカット味・クローネ(a27721)は『風鳥』を構えた。さらさらとした砂丘の砂の上に足を確りとつける。転ばぬように、立つ位置が少しでも自分達にとって有利な場所になるように、と。
 防御力の底上げは全員に行き渡り、攻撃力を底上げする準備も漸く済んでいる。
「花を愛でるのは、モンスターを倒してからですね」
 星舞い落ちる夜・マイヤ(a28554)が藤の花の描かれた扇を優雅に開いた。

●魔の花
 爆裂能天気・ミュノア(a37080)が花柄の日傘を畳む合間にクローネの放つ雷光を撒き散らし飛来する矢が花に刺さり閃光が迸り、迷い無き戦場の双斧使い・ジィーン(a12348)がウールヴヘジンを気迫と共に魔物へ振り下ろした。
 這うように移動する魔物の周囲で爆風と共に砂塵が舞い上がる。
「こっそり、っていうのは難しいものなのねぇ」
 苦笑いを浮かべ、ヨギは『闇喰』を掲げた。照らす日差しは容赦なく熱を降り注ぐ。構えた闇喰から迸る光が紋章を描き、苛烈に熱と光を撒き散らす巨大な火球が魔物へと向かい弾けた。
 振動か、それとも遮るもののない場所故に視認出来たからなのか。
 魔物の反応は恐ろしく早かった。
 やはり動きは速いとは言えなかったが、冒険者達が長距離射程から攻撃を加えられる程に近付いた時には、既に冒険者を敵もしくは獲物と認識し移動を始めていたのだから。
 ギーとシャスタの放つ雷光迸る矢が、時折姿を見せる蔓には目もくれず、揃い一直線に花へと突き刺さる。砂と石で出来た花の表面が、爆ぜて薄っすらと剥がれる様に割れる。
 ククルの放つ緑の束縛にすら動きを止める気配の見えない魔物は、それでも這うように、砂地の上を滑るように、存外滑らかな動きでミュノアの剣をするりと避けた。他にも敵が居はしないだろうかと注意がやや散漫であったコノオの鋭い蹴りすらも避け、そのまま周囲を衝撃が襲い、砂塵が舞い上がる。仲間の攻撃で無い、ならば。
 砂煙の立ち込める中で幾つもの動く気配。魔物は狙ったように舞い上がる砂幕の中から出ようとはせず、次の攻撃へ移ろうとしていた。だが、それを黙ってただ其処にいる冒険者とていはしない。血を流しても未だ、膝をつきこそすれ倒れた者はいない。
 癒しの光の奔流が、砂丘の一角を覆った。

 数度、花の姿をした魔物との攻防を終えた頃、ふと、ふわりと甘い香りがクローネの鼻孔を擽った。注意を促そうと思ったときには時既に遅し。くらりと視界が霞む。
 助力を乞われやってきたジェネシスとクーロでさえ、容赦ないまでの広範囲に広がる甘い香りに暫し動きを止めた。距離を開けていようと関係が無い。半径数十メートルを覆う香りは等しく冒険者を死に近づけさせる。正気の色を失ったレイニーが放つ衝撃波をまともにその身に受け、コノオがもんどりうって倒れた。強化した攻撃力は受ける身になってみれば酷く手痛いものである。ミュノアの巨大剣がヨギに勢い良く振り下ろされれば、闇色の衣を翻らせてしなやかな体躯が砂に叩きつけられた。一瞬止まる呼気が、塊となって血飛沫と共に吐き出される。
「……ギー、早くっ!」
 せがむ様な焦りの滲んだ声が吐血雑じりにコノオから洩れる。傷は浅くは無かったが、立ち上がることは出来る。自分の体力の高さに感謝せざるを得ない。
「汝、未だ倒れる事値わず。猛き魂に相応しき幾千万の試練あれ」
 いち早く混乱から回復したギーが祈りを紡ぎ、マイヤを始めとする回復の担い手達を狂気の淵から掬い上げる。自力で混乱の状態から回復した者もいたが、これによって戦況は幾許かマシと呼べる状況にはなった。
 少なくとも、仲間から攻撃を受けるのは視界の外から攻撃を受けるも同じ。それがあるのと無いのとでは大きく異なる。
 ジィーンが二振りの斧を振り下ろす。
 自身から流れ出た赤い血と、白っぽい砂が雑じり舞う。
 ぱぎ、と魔物の身体――花弁の一枚に罅が走った。

●花の脅威
「きゃあっ!?」
 足元から瞬時に伸びた蔓は瞬時にククルを地中へと引き摺り込んだ。
 地中へと引きずり込まれたのはレイニーから二人目という事になる。が、一人目の様子を見た後でさえ、引き摺り込まれるのを防ぐ事は出来なかった。
 尤も下手に攻撃を行えば、引き摺り込まれる仲間に重い一撃が当たる可能性も大きいからだ。
 ククルの姿が消えた場所に濛々と砂煙が舞い上がり、真っ白な羽根が取り残されたように1、2枚くるくると空中で舞った。
 其れに視線をやり、直ぐ様冒険者達の視線は『花』の方へと戻される。未だ吐き出される気配の無いレイニーの安否とて無論心配ではあったが、こうなってしまっては倒すより他に手立てが無いのだ。
 祈りを即座に中断し、少しでも避ける為に動いたマイヤは歯噛みする。
 歌い上げる凱歌の癒しでさえ、地中に引き摺り込まれた仲間を癒すには至らない。回復の担い手がメンバーから削られるのも正直、かなり痛かった。
「このままでは退くに退けないな」
 焦りの滲んだ声音でジィーンが呟く。
 飲み込まれた仲間をそのままに撤退は出来ない。それは取りも直さず残る自分達も危険に身を晒すということだったが、危険というなら此処まで来て今此処で戦っていることすら危険以外の何物でもなかった。
 それに――
「そろそろ終わりといこうかね」
「これ以上壊させてなんかやらないんだからっ」
「この一矢は人の為、死すべき『さだめ』を貫く為に」
 ギー、クローネ、シャスタの放った矢が稲妻を撒き散らし、光り輝く軌跡を残し、魔物へと一塊になって突き刺さる。

 ――ぱぎぃっ

 耳障りな音を立てて、魔物の花弁が爆ぜ割れた。
 走り広がり始めた罅のラインは、確かに魔物への蓄積されたダメージを如実に表していた。
「悪い子にはお仕置きなぁ〜んっ」
「仲間は返してもらうからなっ」
 ミュノアとジィーン、二人の重量級の一撃が動きの鈍くなった花の魔物に振り下ろされた。衝撃が其々の手に痺れるようにずしりと伝わる。

 ――ぱきぃっ

「砂漠の薔薇、頂きたいですしっ……これ以上被害は避けて欲しいのですがっ」
 サポート二人の手助けを借り、マイヤが凱歌を高らかに歌う。支えるように、倒れたものさえ癒すように。額から滴り落ちる血と砂で汚れた頬を拭い、手にした術扇に力が籠もる。
 剥がれるように、砕けるように――それでも尚、蠢き続ける魔の花。
 一心同体だからだろう、砂の中から現れた蔓もクローネを勢い良く薙ぎ払い再び砂の中に潜る様とて、初めの勢いを些か欠いていた。
 コノオはすいと片足を引いた。太陽に照らされた砂が、僅かに舞う。
「花は何処に在ろうとも、その命を咲かせ……いつか散らせる」
 砂漠の薔薇も、この魔物もそうかもしれなかったが、
「永遠では無いが、そのひと時の為に」
 咲いていて良いのは『本物の』砂漠の薔薇だけだと思うから。

 光の軌跡を描いて振り下ろした足が、砂漠に巣くう魔の花を叩き割った。

●砂漠の薔薇
 砂丘に咲いた本物の『砂漠の薔薇』への被害は決して少ないと言えるものではなかった。それでも全滅を免れたのはミュノアが魔物を管理場所から少しでも引き離そうとしたお陰でもある。大きく引き離す事は出来ずとも、その努力が無ければ全滅していた可能性もまた高かった。
「これ、お土産に持って帰ったら霊査士さんとか喜ぶんじゃないかしら」
「欲しそうにしていたからな」
 礼にと渡された砂漠の薔薇を手に取り、ヨギとギーはくつくつと笑った。
 花を管理していた者達は、戦いが無事終わった事を知るや否や駆けつけ、無事な花の移し替えの作業を手早く行い、無残にも粉々になった花には酷く残念そうに涙を零した。残り少なのこの状況下で礼にと貰えたのは、ひとえに管理者達の好意であった。あまりにも強請るように言われたのであれば逆に断られただろう。それぐらいに、残った数は多くは無かった。

 砂漠の薔薇は植物よりも石に近い。
 だからこそ、どういう風に咲くのかも分かっておらず、其処に済む人々はそれが花開くのを手助けするより他に無かった。どちらかと言えば、咲くまでは植物に近く、咲いてしまえば鉱石に近く半永久的に薔薇は咲き続けるという。その説明にコノオは面食らったような表情を浮かべたが、咲かせるまでにはなかなかに大変だという管理者の言葉に曖昧に頷いた。
 蔓に引き摺り込まれた冒険者達は魔物の花の地中に埋まる部分を掘り起こしてみれば、地中に潜ってあった茎の中にぐったりとして横たわっていた。酷く衰弱した様子で、確かにこのまま放置すれば助からなかっただろう。
 だが、もしも倒せずに撤退するとなっていたなら。
 考えたミュノアの背筋を悪寒が走る。敵の攻撃を掻い潜り、待てば吐き出されたかもしれなかったが、自力で外に出すのが如何ばかりの犠牲を払わなければならなかったのだろう。
(「皆で帰れて良かったなぁ〜ん……」)
 傷だらけになった腕を、自分を抱きしめるようにしてミュノアは心から安堵の息を吐いたのだった。


マスター:弥威空 紹介ページ
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