＜リプレイ＞
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旧ソルレオン王国に到着した冒険者たちはまっすぐに目的のイチョウ並木街道を目指した。
寂しい道をひたすら分け入って行くと、やがて下りの坂道に差し掛かる。街道はこの坂道の先に見渡せた。濃い緑に彩られた樹冠が、あたかも川のようにゆらゆらと伸びている。葉が黄色に染まる頃にその中に入り込んだなら、それはいい気分を味わえるだろう。
一行は難なく坂を下り、並木街道まで至った。すでに武器を抜き、いつ襲撃があっても対応できるように神経を尖らせている。
――その気迫に応えるかのように、前方からボトリと嫌な音がふたつ。
「来た……！」
「うあっ！ なんですかあれ！ 気持ち悪っ！」
空の風纏いし翼持つ守護天使・ゼフィ（a35212）と満腹を凌駕するみかん・ミスティア（a46283）がたまらず顔をしかめる。
標的たるイモムシ型モンスター２匹が、冒険者の気配を察知して木から落ちてきたのだ。大人以上の体長があり、体表はイボだらけでどす黒く、ぬらぬらとてかっている。目は血のように赤い。予想以上の醜い姿に、背筋が寒くなった。
「はー、こりゃ立派な並木だね。……とくりゃあ、あんなのに荒させるワケにゃいかないねぇ」
轟鋼瀑布・リジュ（a04411）はイチョウに視線を移してから巨大剣を構えた。そう、冒険者は闘志を燃やす。相手が凶悪であるほど、打倒しなければと思う心が強くなる。
「さぁ、始めようか……」
「並木の平和は我々にかかっているのだな」
イマジネーター・ジン（a19307）と流浪の日和見風見鶏・デラガ（a39324）がイリュージョンステップでまずは回避力を上昇させる。――今回はこのふたりが囮となる作戦。だから用意が整うまで他のメンバーも防御、あるいは自己の強化に専念する。
（「どんな種族であっても、モンスターとなってしまうと、こんな姿になっちゃう可能性があるんだな」）
緋の護り手・ウィリアム（a00690）はウェポン・オーバーロードを発動しながら、心の中で冷たい汗をかく。絶対にこうはなりたくはない。自由の翼・ヨウ（a30238）もデラガに鎧聖降臨を使用し、防御を固める。
と、イモムシの片割れがずんぐりむっくりな体を揺らし、体当たりを仕掛けてきた。話どおり、イモムシらしからぬ速さだ。一呼吸の間に抹殺の・バーン（a30610）に迫り来る。味方に当たるよりはと、バーンは左腕の篭手を前に出してブロックに行った。
「ッッ？」
あっけなく防御を突破して彼の胴体に直撃した。破壊力とはスピードと重さの掛け算である。このイモムシにとっては、体当たりという原始的な戦法も必殺の手段になりうる。しかも――食らえば毒。バーンの顔色が悪くなる。
「しっかり……！」
回復役の自分は極力食らわないようにしなければと思いながら、癒しの雨・メイ（a02387）が後方から癒しの聖女を撃つ。この間にゼフィは黒炎覚醒し、ミスティアはライクアフェザーで身軽な動きを心がける。攻め、守り共に出し惜しみしては勝利が遠のくと強烈に自覚する。
ここでもう一匹のほうも猛突進してきている。なんと今度はダンゴムシのように体を丸めて転がってくるではないか。蒼空に煌く翼・ティムナ（a28918）が冷静にサイドステップで回避しようとすると――すぐさまグリュンと方向転換してきた。ティムナはあえなく直撃を食らってしまう。直線的な動きだけかと思ったら大違い、見た目に反してトリッキーである。ますます油断ならない。
ここでジンとデラガがイチョウ並木の横に抜けた。そこは植物の乏しい荒地となっている。
そして白熱。ふたりの照射したスーパースポットライトが敵の目に降り注ぐ。途端に敵は光の方向に注意を引かれ、移動を開始する。冒険者たちも同時に荒地に躍り出た。これで並木を傷つける心配はなくなった。――思う存分、力を発揮できる！
毒を恐れては勝利はおぼつかない。ウィリアムはブーメランを投げず、稲妻の闘気を込めて接近した。一点だけに注意を向けているイモムシにとってはほぼすべてが死角となる。斬撃は見事決まり、麻痺させることに成功した。
「癒しの雨よ……降れ……」
メイは先程傷を負ったティムナにヒーリングウェーブをかける。囮のふたりと敵との同一線上に並ばないよう立ち位置にも気を使わねばならない。
ティムナは遠くから麻痺していない方のイモムシにソニックウェーブを撃つ。敵はその体から鮮血が吹き出しつつ、勢いを止めない。前衛をまとめて蹴散らしてジンに急接近。だが。
「あいにくとこっちは通行止めだ！」
ヨウが素早く、無造作に、しかし油断なく間に入った。達人にのみ許された動き、そして一撃。横に抜けるのと同時に切り裂く。
「なかなかいい感じだねえ」
「ええ、この調子で……」
リジュはマッスルチャージで筋力増強し、静謐の月虹・ウピルナ（a30412）は両手を掲げてソニックウェーブを発射する。ジンに向かおうとするモンスターは立て続けに傷を負い、目を血走らせる。かつてこのような苦戦をしたことはなかったに違いない。
モンスターも意地を見せる。口が開くと粘り蜘蛛糸に似たモノが拡散的に射出された。深森の迷い子・セーラ（a33627）の体に巻きつき、容赦なく全身を封じてしまう。
「野郎！」
バーンが自分の痛みよりも仲間のピンチに猛る。豪風を伴わせ、圧縮闘気で覆った戦斧を胴体に食い込ませる。凄まじい爆音と共に、臭い肉片が飛び散った。
「……負けられないですから……ね」
ゼフィは顔をしかめながらも癒しの波で回復を急ぐ。自分たち回復担当が健在な限りは敗れはしないと、確固たる信念を持つ。
「きゃー！ なんか来たー！ こっち来んなです！」
ミスティアは叫びながら武器を振るい衝撃波を発射する。麻痺が治ったモンスターが再びぐるんと丸まって岩のように転がってくる。が、それは彼女がデラガの後ろにいたからだ。デラガがさっとかわすと、モンスターは勢い余ってミスティアに突っ込んだ。彼女もまた羽のように軽く回避しようとしたが、間に合わない。尋常でない衝撃と毒に見舞われた。
スーパースポットライトの効果は１０分続く。ジンとデラガは必死に立ち回りながらソニックウェーブで応戦する。狙いはジンに向かっている方だ。こちらの方がダメージが大きい。集中砲火でまずは１匹、という考えである。
モンスターはまたも糸を放射状に吐き出した。囮だけでなく他のメンバーをも巻き込む拘束地獄が襲う。
「まだ未完成だが、やるか」
難を逃れたウィリアムは、囮役のふたりをこれ以上危険にさらすまいと決めた。腰を屈め、深呼吸し、精神を研ぐ。
そして繰り出されたのは武人最高奥義の一である電刃居合い斬り。目にも映らないスピードで敵の顔面を切り裂き、体内に痺れを走らせる。敵の動きが止まる。
今がチャンスだ。メイは静謐の祈りを捧げて、メンバーにかかった拘束を打ち消した。ティムナはもう片方のモンスターに助けに入られないよう牽制する。
「もうひとつ……稲妻を食らわせてやろうか！」
ヨウが頭部めがけて跳躍し電刃衝を放つ。それはさながら流星、深々と頭部に刃が突き立てられるとモンスターは横転した。赤い目が深海のように暗くなった。
あと１匹！ こちらはまだ体力に余裕がある。一気呵成に攻めなければ足元をすくわれるだろう。
リジュはこの一発に懸けるという意気込みで、サイドから大上段の一撃を遠慮なく叩きつけた。敵は初めて悲鳴を上げたが轟音を凌ぐ爆音にかき消される。マッスルチャージ後のデストロイブレードほど痛いものはない。
ここでモンスターは走った。あくまで体当たりで攻撃する気だ。ウピルナとセーラがそれぞれ衝撃波、緑の業火で迎え撃てば、バーンは闘気の斧を出し惜しみせずにぶち込む。それでも勢いは衰えずにデラガに一直線。彼は辛くも真横にダイブする形で避けたが、凄まじいまでの体力に驚嘆せざるを得ない。
ゼフィはひたすら回復に徹し、ミスティアも痛む体を我慢して遠くからのソニックウェーブを続ける。
正念場だ、と誰からともなく声に出された。ここまで来たら、ひとりの重傷者も出さずに勝つ。冒険者は最後の気合を得物に込めた。
――鳥が逃げ出すほどの衝撃音が天を突いた。
倒れたのは自らの血に埋没するモンスター。ぴくりとも動かなくなり、裏返りになっている。
そして冒険者は、滝のような汗に覆われているものの、誰ひとりとして地にまみれていない。戦いは完全な勝利で終わったのだった。
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敵も強かったが、囮、攻撃、回復――配役を的確に分けたことが勝利に繋がった。このコンビネーションがあれば、いかなる敵も打倒できると自信がつく。
事後処理に入る。毒を持っているため埋葬は難しいということで、炎を撃てるメンバーが火葬することにした。モンスターは黒い煙を天に昇らせながら、姿を失っていく。
「ううう……なんだか夢に出てきそうなのです」
介抱されながら知らず震えるミスティア。その強さとフォルムは並のモンスターより遥かに恐ろしいものだった。だがモンスターが全部焼ける頃には彼女は気を取り直し、もっと強くなろうと誓った。
（「木……はだいじょぶだよね……」）
ゼフィがイチョウの木々を見渡してほっと一息つく。命を懸けた囮が功を奏し、並木には傷ひとつついていない。皆、ようやく力んだ体を弛緩させることができた。
「いつか、皆でこの並木道を……楽しむことができれば、いいわね……」
ウピルナがそっと呟く。メイもいずれ黄金色に変わるだろう葉を見上げて、これからも頑張っていきたいと思った。今回のモンスター退治はいわば前哨戦。果たして俺たちにはゆっくりと秋を楽しんでいる余裕があるかな――デラガは戦士としてのつらさを再認識した。
だが、為さねばならない。冒険者として生きるなら、避けては通れない道。
そうして彼らは戦場を去る。
来たるべきさらに大きな戦いに決意を強くして。
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参加者：12人
作成日：2006/09/16
得票数：冒険活劇20
戦闘2
コメディ1
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冒険結果：成功！
重傷者：なし
死亡者：なし
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