ジャムの博覧会



<オープニング>


「君達、ジャムは好きかい?」
 ストライダーの霊査士・キーゼルは、酒場にいた者達の顔を見回しながら、そう問いかける。
「毎年この時期になると、サルツ村って場所で、各地で作られた様々なジャムを取り寄せて、ジャムの博覧会を開くんだよ。知り合いが、ちょっとその運営に噛んでるんだけどさ……ここのところ、来場者が伸び悩んでいて困ってるらしくてね。良かったら、人を誘って遊びに来てくれないかって頼まれたんだよ」
 キーゼルが言うには、会場となる村の広場に何十……何百と様々なジャムが並び、その色や香り、瓶のデザイン、そして味などを比べながら、ジャムを楽しむ事が出来るらしい。
「どのジャムも全て試食できるし、会場内ではビスケットやパン、スコーンなんかも売られてるから、色々なジャムの味を楽しみながらそれを食べる……なんて事も出来るらしいよ。勿論、気に入ったジャムがあれば、その場で買って帰る事も出来るようになってる」
 キーゼルは博覧会についてそう説明すると、皆に「僕は行くつもりなんだけど、一緒にどうだい?」と誘いかけるのだった。

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参加者
NPC:ストライダーの霊査士・キーゼル(a90046)



<リプレイ>

●博覧会へようこそ
 キーゼルの誘いを受けた冒険者達は、サルツ村で開催されているジャムの博覧会に赴いていた。
「ん……」
 そんな会場の入口で、綿雪の人形姫・ドール(a02765)は、これからどうしようかと悩んでいた。
 ジャム作りの体験コーナーに興味はあるが、みんなとジャムの試食もしたい。やりたい事は沢山で……でも、時間は限られている。
「はわ〜……。ここに、ジャムお兄さんが……たくさん、いるんですね〜……?」
 周囲に見知らぬ人達が大勢いる心細さから、ドールに寄り添っていた人形姫に憧れる名も無き花・パティ(a05491)は、この博覧会について何か勘違いした様子でそう漏らす。
 彼女の言うジャムとは、瓶詰めの甘く美味しいジャム……ではなく。喰い盛りの牙狩人・ジャム(a00470)の事だ。
「ジャム、あたしと勝負しなさい!」
 そのジャム本人はといえば、たった今、戦場で笑う紅き少女・ティーシャ(a05506)から、ジャムを塗ったパンの大食い勝負を挑まれた所だった。
 尻尾の毛まで逆立つほど、何やら嫌な予感がしていたジャムは、帰った方がいいかも知れないと考えていた所だったのだが……正々堂々と勝負を挑まれては、逃げる訳にはいかない。
「勝った方が、負けた方の言う事を何でも1つ聞くのよ」
 何故か頬を赤く染めながら、ルールを言い放つティーシャ。そして二人は会場内の一角で、大食い勝負を開始しようとする……のだが。
「おお、そんな所にいたか」
 そこに、巨大な瓶を抱えながら九紋龍・シェン(a00974)が現れると、ジャムの腕を掴んでスタスタと歩き出す。ティーシャの抗議や首を傾げるジャムの様子など気にも留めず、シェンが向かったのは……
「ああ、来ましたね」
 そこで待ち構えていたのは、蒼い月と透明な星の狂想曲・ライラブーケ(a04505)だった。そして彼女の後ろには、甘い香りを漂わせながら、ぐつぐつと音を立てている大鍋がある。
「じゃあ始めましょうか」
 にこやかに微笑むライラブーケ。と、その言葉と同時に、シェンの手でジャムが大鍋の中に投入される。そのどろりとした液体に浸って、ジャムはようやく鍋の中身が何なのか気付いた。……砂糖と蜂蜜だ。
「え、ちょ……?」
「たっぷり煮込みましょうね」
 青ざめるジャムを、ぐつぐつと煮込む二人。そして、程よく時間が過ぎた所で……ジャムはシェンの抱えていた瓶に放り込まれる。
 シェンは、そこに『ぴゅりんの森産=ワイルドジャガージャム=』と記したラベルを貼ると、再び瓶を抱えて歩き出す。中でジャムが暴れているが、シェンは全く意に介さない。
「あれは……?」
 姿が見えなくなったジャムを探していたヒトの重騎士・ヒュレミナ(a00239)は、そんな二人を見つけて足を止める。
(「団長、悪い予感がするって言ってたけど……」)
 もしやこれの事だろうか、と瓶詰めにされたジャムを見ながら思うと、ヒュレミナはシェンを追って歩き出した。

●美味しいジャムと一緒に
 そんな事が起きている一方。他の冒険者達は、ジャムの試食を楽しんでいた。
「美味しいジャムにスコーン……いいですねぇ」
 黄昏の導師・セイン(a04603)はスコーンを片手に、ベリーのジャムが並ぶ一角に足を向けると、ジャムを順番に試食していく。ラズベリーにブルーベリにストロベリー……どれも甘く、そして美味しい。
「ん……いい香りですね」
 射干玉の捜索者・カルーア(a01502)は、紅茶を注いだカップにジャムを入れ、味だけでなく香りも楽しみながら、ジャムの試食をして回っていた。
 紅茶が、より美味しくなるようなジャムを探していたカルーアは、風味豊かなチェリーのジャムを気に入ると、それを一瓶購入する。
「やる事は一つ……全部のジャムを制覇する!」
 そんな中、怒涛の勢いで会場を回り、次々とジャムを試食しているのは打撃家・シシル(a00478)だ。何百と並ぶジャムを、全て試食しようと考える者は、そうそういないだろうが……彼女のの勢いならば達成できるかもしれない。
「このジャム、貰えないかな?」
 シシルほどではないが、戦う商人・リフィ(a06275)も次々と試食して回っていた。ただ、リフィの目的は単純に試食する事だけではない。ジャムのうち特に美味しかった物は、その出品者と買い付けの交渉に入る。
「これは?」
 そんなリフィが足を止めた何度目かの店は、無垢なる銀穢す紫藍の十字架・アコナイト(a03039)が出している物だった。
「これは全て花のジャムです」
 赤、白、紫……と色とりどりの瓶を順に指しながら、どれがどの花で作られているのか説明していくアコナイト。丁寧に作られたジャムはどれも綺麗で、彼女が作った甘さ控えめのスポンジと合わせて食べると、とても美味しい。
「や、はとこの子」
 ジャムの製作者達から話を聞きつつ、メモを取っていた蒼の閃剣・シュウ(a00014)は、キーゼルの姿を見つけると手を上げる。
「ところで……ジャムを、煮込むんだって?」
「ジャム?」
 一体何の事だろうかと首を傾げるキーゼル……と、そんな二人の脇を、シェンが通り抜けていく。
「……あれかい?」
「……あれだな」
 そう呟きながら、二人はシェンが遠ざかるのを見送る。瓶の中からは叫び声が聞こえたが、二人共、あえてそれを助けようとはしなかった。
「そういえば……何気にキーゼルは、この種の頼みごとが多いな」
 今回の誘いのみならず、今までの数々の誘いを思い出しながら、なかなか広い人脈を持っていそうだと呟いたのは、朽澄楔・ティキ(a02763)だ。
 まあ、キーゼルの事情の方はさておき……とティキは並んでいるジャムに目を戻す。そこにあるのは、ハーブや薬草の類を使用した、ちょっと一風変わったジャムの数々だ。これなら薬代わりに使う事もできるかもしれないと、あれこれと物色していく。
「なるほど……ありがとうございます、です」
 試食しながら、ジャム作りの秘訣を出品していた女性に尋ねた微笑みの風を歌う者・メルヴィル(a02418)は、ちょっとしたコツを教えてもらうと、深々と頭を下げる。
「えと……」
 その上で、甘さの感じ方は男性と女性では少し違うだろうからと、男性から同じジャムの批評を聞ければと、先程まで近くにいたキーゼルの姿を探す。しかし……メルヴィルは、探し出したその姿に、声をかける事なく俯いてしまう。
「キーゼルさんも試食して行って下さいね♪」
 そのキーゼルはといえば、幸せを求めし白き鷹使い・シャンナ(a00062)に呼び止められ、彼女が差し出した苺ジャムを試食している所だった。
 そこは、剣難女難・シリュウ(a01390)が団長を務める旅団、館『日々平穏』が出店している一角で、若草の翔剣士・オリエル(a00348)が作ったオーソドックスなジャムの『ベーシック』に、シリュウが作ったワイン入りの『アダルト』、シャンナが作った花の蜜と蜂蜜をブレンドした『スイート』という、三種類の苺ジャムが並んでいる。
「今の所は、ほぼ互角だな」
 オリエルは、ジャムの売れ行きを確認するとニッと笑う。どれが一番売れるか勝負だと、う他の二人と約束したオリエルだったが、現時点では三種類とも甲乙つけがたい状況のようだ。
「甘みを抑えた事が、逆に良かったようですね」
 女性アレルギーがあるため、売り子は二人に任せて奥に控えていたシリュウは、頷きながらそう呟く。ベーシックやスイートが女性、特に十代の少女達に人気があるなら、シリュウの作ったアダルトは、甘さの控えめさとワインの風味から、男性や年長の女性に人気だった。
「ボク特製のイチゴジャム、お茶にもパンにもよく合うんだ」
 だが、苺ジャムを出展しているのは彼らだけではない。漆黒竜の壊し屋さん・オイスター(a01453)も、綺麗な瓶に苺ジャムを詰め、行き交う人達に声をかけた。
(「昔あの人から作り方を教わった、ちょっと甘いけど、とっても美味しい苺ジャム……他の人にも、食べて貰いたいんだよね」)
 オイスターは、そんな想いを込めて、にっこりと微笑みながらジャムを勧める。
「ふむ……」
 アイギスの黒騎士・リネン(a01958)は、そんな冒険者達の店も含め、一つ一つ回りながらジャムを試食していた。先月チョコレートをくれた彼女へプレゼントするための、とびきり美味しいジャムを探すために。
 そんな彼の後ろを通り過ぎたのは、二人で一緒に会場を見て回っていた、銀凌焔柢・アーサス(a03967)と銀麗月華・ネフェル(a02933)だった。
「……あった」
 そんな中、探していたレモンガードを見つけたネフェルは、それをアーサスと一緒に味見する。
「ん……美味しい」
 上品な甘さと微かな苦味を持つこのレモンガードは、ネフェルの好みにピッタリだった。早速これを、と手を伸ばすネフェルだが……。
「あ、ちょっと待って。……こっち向いてくれない?」
「? 何だ?」
 くすくすと笑いながらのアーサスの言葉に、不思議そうにしながら彼の方を向くネフェル。と……

 ――ぺろり。

「……ジャムよりこっちの方が美味しかった。ご馳走様」
 最初は何が起きたのか分からずにいたネフェルだが、そう笑うアーサスの顔を見ているうちに、やがて頬についていたジャムを舐め取られたのだと気付くと……顔を真っ赤に染めて照れながら、一言だけ呟いた。
「……ばか」

●ジャムなジャム
「美味しいジャムが見つかって良かったよ」
 スコーンを手にジャムの試食をしていた宵闇の黒豹・ケイ(a05527)は、お土産に買ったジャムの瓶を抱えながら会場を歩いていた。その視線は、今からでも皆と試食をしながら会場を回る事が出来れば……と、見知った者達の姿を探している。
「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
 そんなケイの目に留まったのは、巨大な瓶の傍らで客引きをしているシェンの姿。人垣をかき分ければ、そこには瓶詰めにされたジャムの姿がある。
「ジャム……楽しそうじゃの〜」
 そんな彼の様子を、湯飲みを片手にのほほんと眺めているのは、御隠居・クァル(a00789)だ。勿論、ジャム本人が聞けば、どこかだと猛烈に抗議するに違いない。
「まぁ……」
 そこへ、林檎の樹の神女・アゼル(a00436)とジャムの試食をしながら歩いていた、月に舞う白梟・メイプル(a02143)が通りかかると足を止める。
「さすがはジャムさん、可愛らしいですね」
 彼の様子を見て、にっこりと微笑むメイプル。山葡萄のジャムをかけたスコーンを食べていたアゼルは、砂糖と蜂蜜まみれで瓶の中にいるジャムを見て、そういう問題だろうかと思わないでもなかったが……あえて、何も口にはしなかった。
「あ……貴方が、このサルツ村の村長さんですか?」
 その間に、この騒ぎを聞いて現れた村長に近付いたメイプルは、村長に一つの案を持ちかける。
 それは、ジャムをサルツ村のジャム親善大使に任命するというもの。そして、彼の顔をあしらったラベルを貼ったジャムを販売したり、彼の姿を元にしたポスターやマスコット人形などを作ってみてはどうか……と、そうメイプルは村長に話す。
「ふむ……まぁ確かに、あの少年は自らジャムになるほど、ジャムに対する愛情を持っているようだが……」
 何やら思案している様子の村長。その認識には、かなり勘違いがあるようだが……村長は、やがて頷いた。
「……ああ、もう!」
 そんな中、ようやく蓋をこじ開けて瓶の中から顔を出したジャムは、反撃開始だと言わんばかりに、シェン達に向けてアビリティで生み出した矢を放とうとする。と……
「ああ、団長……いたいた」
 そこにヒュレミナが現れると、ジャムをビンから出し、ベタベタな体を持っていた大きなタオルで拭う。そして、体を洗ったら、みんなで一緒にジャムの試食に行こうと微笑む。
「美味しいジャムを、お腹いっぱい食べられるよ」
「美味しい……お腹いっぱい……」
 その言葉に惹かれたジャムは頷き、ヒュレミナと体を洗えそうな場所を探して歩き出す。
「ふむ……まあ、のどかじゃの〜……」
 そんな様子を見ていたクァルは、小春日和じゃなと呟きながら、湯飲みを傾けた。

●ジャムな一日は過ぎて
 そんな喧騒を余所に、真剣そのものといった冒険者達が集まっているのは、ジャム作りを体験できるコーナーだった。
「ん、できた」
 優笑媛・エレアノーラ(a01907)は、完成したラズベリージャムの味を確かめると、満足そうに、にっこりと微笑みを浮かべる。
「ん、いいお土産になりそうっ」
 その隣では、天紫蝶・リゼン(a01291)が鼻歌交じりに、完成したばかりのジャムを瓶に詰め、プレゼント用だからと金色のリボンを巻く。
「ジャムってなかなか難しいんだな……」
 そう呟いたのは、完成した林檎ジャムの瓶にリボンを巻いていた、赤き征裁・フィル(a00166)だ。味はそこそこ、決して素晴らしいと言えるような物ではないが……けれど、このジャムに込められた想いの量なら、決して誰にも負けない……と、フィルは大切な人の顔を思い浮かべる。
「うん……初めてにしては、美味しく出来たようで良かったです」
 作り終えた白桃のジャムを味見して、満足げに頷いた月宵の夢想・エイル(a00272)は、それを大切そうに瓶に詰めると持ち帰る準備をする。
 あの人が好きな白桃を、たっぷりと使ったジャム……。帰ったら、これを使ってタルトを作ろうと、そんな事を考えながら。
「えと、キーゼルさん」
 ジャム作りの秘訣を教わったメルヴィルは、それを参考にしながら、早速作ってみたマーマレードのジャムを、いつもお世話になっているお礼だとキーゼルに差し出す。
「あの……こんな味は、お好きでしょうか?」
「マーマレードか……うん、好きだよ。割とね」
 おずおずといった様子でメルヴィルが差し出した瓶を、そんな風に言いながら手に取ると、キーゼルはありがとうと言いながら笑うのだった。

 そして太陽は西に傾き、そろそろ日の暮れる頃……冒険者達は会場の入口に戻って来ていた。博覧会の方は、最終的にそれなりの人手で賑わい……ジャムのうち、冒険者が販売した物の中で一番売れ行きが良かったのは、オリエルの苺ジャムという結果になっている。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「ああ、そうそう。折角だから……」
 そんな帰り際に、シュウがジャムに渡したのは、ジャムの詰め合わせだった。
「いいのか?」
 ジャムはそれを受け取ると、帰ったら食べようと嬉しそうに歩き出す。
「最初から最後まで、ジャム尽くしだった……と」
 そんな彼の背中を見ながら、オチがついたな、と呟くと……シュウも、そして他の冒険者達も歩き出し、それぞれ帰路につくのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
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参加者:30人
作成日:2004/03/19
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