暗き闇



<オープニング>


●始まりは夜
 その夜は新月だった。
 光の無い闇の中で蠢くソレが行商途中、野宿をしていた一行を襲った。正確に言えば、一行のノソリンを襲った。
 ノソリンの叫び声と必死に恐怖から逃れようと大地を蹴る音。そして、ナニかの恐ろしい奇声。
 生暖かい血が飛び、肉が引きちぎられる音を商人たちは怯え慄き声を出す事さえ息をする事さえ出来なかったという。
 ここまで言い、霊査士は小さく息を吐いた。
「闇の中そのナニかはノソリンの体を引き摺って商人たちの前から姿を消しました。翌朝、日が昇りノソリンを引き摺った時に出来た後を彼らが辿ると蔓草に隠れた洞窟の入り口へと続いていたそうです」
 ユリシアは静かに冒険者達の顔を見渡す。
「霊査で敵は2匹いる事が分かりました。そして、洞窟が深く入り組んでいる事もです。洞窟は場所が人里から離れたあまり人の行き来がある所ではないのですが、今後被害が出ないとも限りません。早々に敵を退治して下さい」
 それから、とユリシアは付け加える。
「……敵は目が見えないようです。それで何故ノソリンを捕まえる事が出来たのかは不明ですが……くれぐれも気をつけて」
 エルフの霊査士は静かに、祈るように言葉を締めくくった。

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参加者
六風の・ソルトムーン(a00180)
風の・ハンゾー(a08367)
デタラメフォーチュンテラー・ネミン(a22040)
桜舞彩凛・イスズ(a27789)
光と影の十字架・クリストファ(a30176)
藍舞・リース(a32023)
ナイトウォーカー・ヴァーラ(a46017)
騎士人形・レベッカ(a47078)


<リプレイ>

●静寂の窟
 穏やかな日だった。
 頭上に輝く太陽は僅かに夏の強さを残しながらも、吹く風は涼しく秋の雰囲気を纏っていた。
 垂れ下がる蔓草に隠されている洞窟を覗き込み、光と影の十字架・クリストファ(a30176)は僅かに目を細め、口元に柔らかな笑みを浮べた。
「なんかワクワクしてきますね。洞窟探索なんて滅多にありませんから」
「ワクワクだなんて豪胆ですねぇ」
 くすり、と騎士人形・レベッカ(a47078)は笑みを浮かべてクリストファへと向けていた視線を洞窟へと向けた。
「闇をものともせずノソリンを瞬く間に殺す攻撃力、それが二匹ですか。厄介ですね」
「暗闇は心地が好い……とは誰が宣うたか」
 静かに目を閉じ、忍道・ハンゾー(a08367)は小さく言葉を漏らす。
(「己の穢れを照らし出されぬ故か……己の虚無を、思い知る事も無き故か……」)
 僅かな黙考の後ハンゾーは準備を始めた。
「盲目の敵……闇に住まう故に視力を捨てた? ……正直、何も見えない世界なんて、生きてて楽しいのかしらね」
 何も見えない世界なんて、と言外に滲ませ弦奏狂葬・リース(a32023)の隣で首を伸ばし蔓草の奥を見ながらセルリアンシュガー・ネミン(a22040)はぽつりと呟く。
「何が目的で、この洞窟に棲むのですかね……」
 独白をすぐに頭を振って消したネミンは表情を引き締めた。
「とにかく、放っとく訳にはいかないのですよっ。全力を尽くすです」
「ええ。人が無事だったとは言え、ノソリンがあんなに酷い目に遭わされたわけですからね……必ず退治しなくては……」
 固い決意を持つ桜舞彩凛・イスズ(a27789)は緊張した面持ちで強く頷いた。
「敵についてだが、視覚ではないなら聴覚……音、嗅覚……臭により獲物を狙うという辺りが妥当であろう」
 六風の・ソルトムーン(a00180)は続ける。
「呻く事も出来ず息を殺して生き延びた商人。叫び連れて行かれたノソリン……おそらくは音であろう」
「成る程。超音波の反射で把握する可能性も考えていましたが、それですと動かなくても敵には分かりますよね」
「もしくは、振動で感知するのかもしれない」
 クリストファに続き、ナイトウォーカー・ヴァーラ(a46017)が予測を口にすればソルトムーンも成る程、と頷いた。
「ん〜音か振動か……決め付けてかかるのも応用が利かなくなりそうですし、それは良くないでしょうね」
「うむ。少しばかり行動や攻撃の算段など確認をしてからでも遅くはなかろう」
「あぁ、そうだな」
 冒険者達はそれぞれ洞窟内へと入る準備をしながら、行動時の注意点などを話合い、そして簾のように幾重にも垂れ下がる蔓草を押しのけ暗い穴を見た。地面には何か重いものを引きずり擦り切れた草が人間にも似た足跡と共に穴の奥へと消えていた。
「皆さんが無事であれることを……」
 小さく、祈りを口にしたイスズは強く唇を引き締めた。

 洞窟内は煉瓦色の岩壁が奥へと続き、リースのホーリーライトにより闇は払拭され足場も滑らかであり歩くのに何の苦難もなかった。始めのうちは、それこそ道幅も二人並んで歩くのに問題はなく高さも余裕があったが冒険者達は油断する事無く、足音や歩く振動に注意し進む。
 一行の先頭を進むのはソルトムーンとハンゾー。ソルトムーンは頭上からの敵の襲撃を防ぐ為にと戸板を持参してきていたが洞窟の外に置いてきている。戸板を持って進むには、洞窟内は狭くそれこそ余計な音を立ててしまう恐れがあった。
 トンネルのような道は空洞へと繋がっていた。
 床は僅かに傾斜があったが平坦で半径5メートルほど。上を見上げればぽっかりと抜けた天井から眩しく青い空が見えた。空の穴の端は緑の蔦と白い小さな花が縁取り、美しかった。
 小さく誰かが感嘆の溜息を漏らした。空を見上げ、リースはぽつりと呟く。
「……この、美しい景色も敵は見れないのよね」
 皆、暫く空を仰いでいたがやがて進みはじめた。
 空洞は幾つもの横穴と繋がっていた。その内のもっとも幅の広い道へと入り奥へと進む。道はぐねりぐねりと折れ曲がり、壁が突き出し人一人がようやく通れる程の道が続く。
 曲がりくねる道はホーリーライトの明かりを遮り、冒険者達に暗き闇の深さを突きつけた。
 音を立てぬよう最善の注意を払い進むのはいかに優秀な冒険者であろうとも精神的に疲れる。 
 今度はかなり広い空洞へと辿り着くとクリストファがある提案をした。それは丁度、リースのホーリーライトの明かりが消えた時だった。
「少し、休憩しませんか?」
 提案は受け入れられ、再び煌々と輝く明かりの下、空洞の中心の見晴らしの良い場所で休息を取る事になった。クリストファの持って来た飲み物と携帯食は冒険者達の喉を潤し、気持ちを解した。
 それにしても、とレベッカは手の中の即席地図を見ながら言った。
「随分入り組んでる洞窟ですよね」
「そうだな。他にも道はあるようだし……これは、結構手間がかかるか?」
 携帯食を頬張り頷きながらも、ヴァーラは周囲を警戒する。
 ひんやりと漂う冷気の中、ぼんやりと周囲を見渡していたネミンはぽつりと呟いた。
「……こんな広くて平坦な場所での戦いになればラクでしょうね」
 元より狭い場所で敵に遭遇したら何とか広い場所へ誘導できないかと考えていたネミンだから出た言葉だったかもしれない。
「それは……」
 ある一つのまた違った作戦が頭に浮かびかけたが、冒険者達は思考を止め再び探索の為に立ち上がった。
 広すぎる空洞の出口を探すと、細い亀裂の入った穴があった。
 それは細い細い穴で人が一人漸く通れるかという位のもので、しかも上へと傾斜になっている。体の小さな女性陣は通れるだろうが、鎧を身に纏う男性陣は途中でつッかえる危険性があった。
「ここは、ダメでござるな」
 ハンゾーは踵を返し、向かう。最初にこの空洞へと入った穴へ。どうやら、この広大な空洞で冒険者達が見つける事が出来た通り道はこの細い横穴だけ。ならば最初の空の見える場所に戻り、別の横穴から奥へと進むしかなかった。
 1度来た道を戻り、再び光の下に出た冒険者達はほっと一息をつき、ぐるりと岩壁を見た。どれも怪しく暗い闇を持ち、不気味に静かだった。
 これ以上時間を喰うのは避けたかった。
 冒険者達は慎重に横穴を調べた。
「きゃあっ!?」
 イスズの小さな悲鳴を掻き消すように、無数の羽根音と共に暗い横穴から飛び出た黒い小さな蝙蝠たちが色を変え始めた空へとまるで渦を描くように飛び立っていく。
「……餌の時間、であるか」
 蝙蝠の渦に巻き込まれ、少しパニックに陥っていたイスズの肩に手を置き落ち着かせながら、ソルトムーンは空を仰いだ。黒い渦はもう見えない。
「皆……」
 小さく、緊張を含んだ声で鋭くヴァーラが呼ぶ。ランタンを闇の中に差し入れ奥を静かに指差す。
「今、奥の方で何かが動いた」
 冒険者達は顔を見合わせ、表情を引き締めると闇の中へ足を踏み入れた。
 明かりに不気味に蠢く岩の穴は高さはあるものの、一人がしか通る事が出来ず、長い列となり進む。
 足音を殺し、息を抑え、物音を立たないように注意しながら道を進む。やがて、不気味な白い背が見えた。

●白い牙
 冒険者達のかなり前を四つん這いでゆっくり歩く丸められた背は人間のようにも見えたが、肌色はなく青白く一糸纏わぬ姿は異様だった。敵は後方にいる冒険者にはまだ気づいていないらしく、足音をさせず道を進んでいる。
 先頭を歩いていたソルトムーンは静かに皆の歩みを止めると、そっと油瓶を取り出し投げた。
 弧を描いた瓶は静寂を破り派手な音を立てて砕け水音を立てた。それと同時に背を向けていた敵は俊敏に振り返り、音の元へと駆け寄った。その顔はまるで能面のように青白く表情はなく、色の無い唇の端から除く犬歯は鋭く表面はぬめり、目は白く濁り光を宿していなかった。
 敵は油瓶が砕けた辺りにしきりに顔を近づけ探っていた。これで敵が音にしか反応しないという事がハッキリした。
 さて、次をどうするかとハンゾーが考えあぐねているとネミンが仲間達の袖を引き後ろを指差す。戻って、広い場所で戦おうと暗に言っている。
 彼らはすぐに行動を開始した。
 足音を殺し、引き返す。敵から目を逸らさず、警戒しながら。敵は本能的に危険を察知したらしく外敵を探すように顔を巡らせていた。
 
 ――ッキ

 微かな音だった。
 鎧の金具と迫り出した岩が僅かに擦れた音。だが、その些細な音もヤツの発達した聴覚は聞き逃さなかった。
 牙を剥き、音へと駆け出した敵にソルトムーンは叫んだ。
「走れっ!!」
 身を翻し、駆け出しながらハンゾーは追ってくる敵に粘り蜘蛛糸を放つと、敵は自ら蜘蛛の糸に飛び込む形になりたたらを踏んで転げた。
 その間に冒険者は走る。走りながらリースとレベッカは鎧聖降臨を、ネミンは黒炎覚醒を使用し、クリストファは己の武器に力を加えた。
「出口だ!」
 引き返した事で列の先頭となったヴァーラが後ろの仲間達に声を掛け、駆ける足に更に力を込めた。
 もう少し――
 明るい場所へ手を伸ばしたヴァーラは目の前に現れた白く濁った目に押し倒されていた。
「ヴァーラっ!!」
 待ち伏せていた敵に出口直前で穴の中へ押し倒されたヴァーラは闇雲に腕を振るうが、狭い岩壁に邪魔され敵には当たらず、圧し掛かる敵は禍々しい口を開きヴァーラに齧り付こうと躍起になっている。
「このっ!」
 リースのソニックウェーブを間近で受け、敵の体がヴァーラの上から転がるとすぐに彼を助け起こし、外へと出た。
 夕暮れの弱い光の下で、傷を負った青白い肌の敵は血を流し呻いていた。
 次々に穴から飛び出してくる仲間達はすぐに戦闘態勢に入る。
 イスズはヴァーラに駆け寄り、怪我が無いか見る。
「来ました!」
 穴の出口のすぐ横に張り付きながら、レベッカは警告を発する。
 駆けるハンゾーとソルトムーンの後ろから拘束を逃れた敵が追って来ていた。かなり俊敏な動きにレベッカは眉を寄せた。
「危ないですっ!」
 ネミンの鋭い声にレベッカはハッと視線を空洞の中へ向けた。彼女へ飛び掛ろうとしていた敵は、ネミンのデモニックフレイムをギリギリのところで避け、大きく冒険者たちと間合いを取り、唸りながら今度はネミンへと地を這うように低い姿勢で岩を蹴った。
「そうは、行きませんよ!」
 クリストファのブーメランが空を切り、狙い通り敵へと寸分違わず飛ぶが余程音に敏感らしく、これも紙一重というところで避けられた。
 ハンゾーの背が光の下へ出たのを確認すると、ソルトムーンは後ろを振り返り仁王立ちになる。
 向かって来る敵に静かにハルバードの刃を突き出し、ぐっと構える。目の見えぬ敵は自ら刃に喉を突き刺し、付いた勢いのままハルバードの柄まで自らの体を押し進めると血を吐き出し、痙攣を繰り返すと事切れた。
 空洞内の敵はヴァーラの生み出した派手に動き回る土塊の下僕に襲い掛かり、仮初めの命を奪おうと幾度も牙を突き立てていた。
 ハンゾーの放った粘り蜘蛛糸で身動きの取れなくなった敵はもう脅威ではなかった。

 暗き闇に巣食う白い牙はもう生を喰らう事はない。


マスター:桧垣友 紹介ページ
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