<リプレイ>
●紅茶と菓子と穏やかな空間 「ライニガーさん、お久しぶり」 「シャナン様。わざわざこのような所まで起こしくださり、ありがとうございます」 シャナンと固く握手を交わし、木漏れ日のような優しい笑みを浮べた細身の中年の女性はシャナンと共にやって来た冒険者達にも暖かな目を向け丁寧に頭を下げた。 「皆さんも、ようこそお越しくださいました。今日は、宜しくお願い致します。立ち話もなんですし、どうぞ中へ」 ライニガーに招き入れられたのは村の集会所として使われている建物で、中にはテーブルとイス、そして菓子が用意されていた。 「さぁ、お掛けになってください」 ライニガーに促され、冒険者達は席に着く。ライニガーは皆の分の紅茶を淹れ始めた。 「初めまして、だな。シャナン。影絵ってのは珍しくて参加させてもらったよ。よろしくな」 シャナンの斜め向かいに座った闇夜の噂を商う紫炎の操劇・シエン(a37609)がそう声を掛けると頭で金魚を飼っているメロ・メロー(a48163)もシャナンへと顔を向け、満面の笑みを浮かべ言った。 「オレも初めましてだー♪ こんな素敵な機会に巡り合せてくれて本当にありがとー」 「どーいたしまして。ま、お礼ならライニガーさんに言ってよね」 笑みを浮かべたシャナンは目を細めた。 手際良く彼らの前に暖かな紅茶が淹れられ、ライニガーが席に座るとまずは冒険譚から話を聞く事になった。
●冒険譚 「それでは、私から」 ライニガーの右隣に腰掛けていた牙商人・イワン(a07102)は小さく苦笑を浮かべ、大した話も無いけどと前置きをし話始めた。 冒険譚はパティシエからの依頼で猿の群れ相手に梨の争奪戦をした話。 「猿達相手に同レベルで交渉したり説教したり、団栗で足を滑らされたり石礫が飛んできたり……大変でした。結局追い掛け回して捕まえたんですけど。最後は梨のタルトで美味しい大団円でした」 「まぁ、それは大変でしたでしょう」 微笑を浮かべ相槌を打ちながら話を聞いていたライニガーはおつかれさまでした、と言いイワンに一つ焼き菓子を勧めた。 「では、次は私で宜しいでしょうか?」 紅茶を一口啜り、旅人の篝火・マイト(a12506)は話始めた。 話すのは西方プーカ街道機動警衛隊での事。最初に拠点を作ってから街道監視業務に始まり、悪の旗を掲げた軍団との攻防戦。しかし、襲撃を受け、その後のゲリラ戦的転戦。トロウルと悪の旗、そして、機動警衛隊の三つ巴の戦い……。 「最後にモンスター化したヴァルゴンの探索と退治。長かったような、短かったような。そんな……日々でした」 長い話を終え、また紅茶を啜ったマイトにライニガーは目を細め彼の前にも焼き菓子を一つ置くと、優しくマイトの手を撫でた。 「お疲れ様でした」 「えと、じゃあ次はわたしが」 紅き片翼・エフォニード(a20102)は隣に座るシャナンの横顔をちらりと見てから、ある日の事を思い出し綻び咲く花のような笑顔で話し始めた。 「…これよりお話するのは、とある姫君と冒険者達が幻の宝石、煌雪想花を求めて、世にも美しい洞窟を探検した物語」 隣のシャナンが小さく咽たような気がしたが、エフォニードは歌うように続ける。 光り輝く洞窟……その中で迷い歩く……辿り着いた先の雪景色と煌く無数の宝石の欠片……。 「そして、途中で出会った鉱石モンスターを姫様が華麗に粉砕!」 (「……最後のはちょっと脚色ですけど」) ちろり、と心の中で舌を出したエフォニードにシャナンが何か言いた気な視線を向けるが、ライニガーは手を叩いて喜んだ。 「素敵なお話ね。そのお姫様はまるでシャナン様に似ているのね」 分かって言っているのか、いないのか。ニコニコと笑顔の彼女にシャナンは横を向き少し口を尖らて紅茶を飲んでいたが、その目元は笑みに緩んでいた。 「それじゃあ、今度は僕。これは聞いた話なんだけど……物語の始まりは、一枚の地図と変わり者のお姫様だった」 流剣・ロック(a20544)がそう話始めると、ぶぴっとシャナンが紅茶を噴出す。半眼に睨むシャナンの視線に気付かないようにしながら、ロックは続けた。 地図が海賊の財宝の位置を記した宝の地図であり、その宝を求めてとある小さな海の洞窟に探検に行った事。結果的に宝などなかったけれど、無事戻って来た彼らのうち一人はこう言ったという。 「宝なら……確かにあった、と。彼らが何を見つけたのか。宝とは何か。それは、彼らにしか分からない……お終い♪」 「まぁ、貴方のお話も素敵なお話ですね。有難う御座います」 くすくすと笑いながら言ったライニガーはロックとシャナンを見て、また小さく笑った。 次に冒険譚を聞かせたのは音連の風・セレ(a32156)。楽しい話の方が良いでしょうからと話始めたのは運搬を邪魔する者からアーモンドを護った時の話。リュートを爪弾き、軽快なリズムに乗せて物語を歌うセレ。 「駆け出すねずみを歌で止め、グリモアの力で敵を伏せ……敵も味方も入り混じり、さぁお茶会で仲直り♪」 目を閉じ、微笑みを浮かべ詩人の語りを聞いていたライニガーは満足そうな溜息を吐いた。 「ほんなら、次はうちが話しますえ」 セレの隣に座る射干玉の夜を撫でる声・ツバメ(a32416)は彼からバトンタッチし、空の上にある美しい大陸のお話だと話始めた。 「そこのある森に空の王と呼ばれている空飛ぶ巨大ペンギンが住んでたんどす」 だが、巨大ペンギンの住む森にピルグリムが沢山現れ空の王は追い出されてしまった。空の王の住処を取り戻す為、冒険者たちはピルグリム退治に乗り出したのだった。 「その後は空の王の背に乗せてもろて空を飛んだり、もっちもちなお腹に抱きついたり……滅茶楽しかったわぁ」 空の王との一時を思い出し、うっとりとするツバメは我に返ると懐から絵筆セットを取り出した。 「これじゃあうちばっか面白い話やねっ」 簡単にそれでも特徴を良く掴んだ絵を描きながら説明を始めたツバメに皆楽しそうに覗き込んでいた。 「この絵、頂いてもいいかしら?」 「どうぞ、どうぞ〜♪」 ツバメの描いた絵を受取りにっこりとライニガーは笑んだ。 「それじゃあ、次は小さなお嬢ちゃん。お願いできる?」 寵深花風なリリムの姫宮・ルイ(a52425)は朗らかな笑みで頷いた。 「あのね、ルイ。お姉様を探しにお屋敷こっそり出てきましたの!」 愛情を注がれ深窓の嬢として育てられたルイは家を出たのがまず冒険だったと語る。街に溢れるたくさんの人。鳥や鰐や色んな動物。ノソリンが人の姿で歩く姿に目を輝かせたとも言った。ただ、自分の見て来た事を楽しげに話す少女にライニガーは笑顔で頷きながら聞いていた。 冷めた紅茶を淹れ直し、のんびりとした時間は続く。 「わたしがお話するのは……ある体の弱いお嬢様の願いを叶えるために屋敷から連れ出して、ジャスミンの花が咲く峠に連れて行くお話です」 静かに、微笑みを浮かべて想い紡ぐ者・ティー(a35847)はその時の事を話し始めた。一面に咲くジャスミンの花。頭上に輝く夜の星々。 「あの時見た……彼女の笑顔と涙は忘れません……」 そう、とライニガーは優しい眼差しでティーにゆっくりと頷いた。 「話すに値するものといえば、住民を避難させた時の話かな」 鍛冶屋の重騎士・ノリス(a42975)が口を開いた。 ただ畑を耕す死者。土地への愛着から離れられない村人。説得し移動してもらう為に村へと向かった。 「本当の仕事はこの先。娘を不死族に奪われた村長をいかに説得するか。失敗もあったけど、何とか村長は話を聞き入れてくれたから無事避難を完了できたんだ」 「そう……悲しいお話。色んな事があるのですね」 少し目を伏せたライニガーは有難うとノリスに言った。 「私の冒険はまだ数少ないので代わりに口伝えで聞いた遠い日の誰かの物語を」 大地の永遠と火の刹那・ストラタム(a42014)はとある剣士の親子の話を始めた。 父は息子に一本の剣を手渡した。不思議な剣で息子が強くなる度に素晴しい形に姿を変える魔法の剣だと。いつか息子の栄光の証になろうと父は言った。 息子は修行に明け暮れたが剣は刃毀れし短く削れて行くばかり。 それでも息子は父の言葉を信じた。 やがて来た戦火。彼の剣は凶刃から主君を守り、剣は折れた。息子は悟った。 「父よ父よ。貴方の心、受け取りました。剣は姿を変え、私の誇りとなって私自身が一振りの剣となりました」 静かに紡がれた物語は美しく、勇ましく。ライニガーは口元に笑みを浮べて目を瞑っていた。 「うはー皆素敵な話持って来てんだねー俺、お話何にも用意してないよ」 頬を少し赤らめ困ったように眉を下げたメローに目を開けたライニガーは笑んだ。 「気にしなくても大丈夫ですよ。私も、こんなに沢山聞かせて頂けるとは思っていませんでした」 「おっと、素敵な話ならまだあるでー」 吼え猛る酔虎・ベア(a49416)はこの空間での煙草を自重し寂しくなった口に菓子を放り込みながら、にやりと笑みを浮べた。 「昔修行で熊と戦った話でもしようかね」 大袈裟に身振り手振りを交え語るベアの話は少し誇大広告だったが、冒険譚としてはとても良かった。 「向かって来る5メートル級の熊たちを千切っては投げ千切っては投げで蹴散らし、大人しくなった熊と最後には蜜を舐めあいました。チャンチャン」 「ふふふ。面白いお話でしたわ」 「残るは俺たちだな。んじゃ、俺から。そうだなーとある城塞都市を護る為、数百匹のグドンと戦った事があってね。あれは手間がかかったな」 軽い口調でまるで他人事のように話すシエンだが、その内容は一昼夜続いた激しい戦闘であった。しかし…… 「一番最初の冒険だったからこれが一番思い出深いな」 その言葉にライニガーは真剣な面持ちで頷いた。 「オレが最後だね。まずは、貴重な体験をする機会をくれたライニガーに感謝を。ありがとう」 そう言った氷壁の勇魚・キル(a39760)にライニガーは微笑み軽く頭を下げた。 「いえいえ、どういたしまして」 「冒険譚なんてすごいもんじゃねぇが、オレが経験した話を聞いてくれ」 話す事がライニガーへの一番の礼になるのなら、とキルは幾つかの話をした。 霊廟の扉に趣味で仕掛けを作りまくった面白い領主の話や星が海に落ちて細かく砕けて砂浜となった伝説のある村の話など。そして、青い小魚と紅い子鼠が初夏の花の都ではじめた恋の話。 (「素っ気ねーけど、かわいいんだ……」) 口に出しては言わなかったが、自然とキルの顔が綻んだ。 暫しの沈黙。 だけど、それは不快なものではなく極自然で暖かなもの。 にっこりと微笑んでライニガーは立ち上がった。
●切り絵 「切り絵ー♪」 切り絵体験を目的に来ていたメローは待ってましたと言わんばかりに黒い紙を受け取り、自分の可愛いペットの出目金をモデルにした切り絵を作ると意気込んでいた。 切り絵のデザインは自由で、黒い紙に絵を描きそれを切り取れば良かった。ただ、難しいのは一つの絵をする為、パーツが繋がるようにする事だったが、そこはライニガーがアドバイスをくれた。 わいわいと賑やかな中、思い思いに紙に絵を描き切り込みを入れていく。 「金魚の美しい形を切り絵で表現する……素晴しいぜっ!」 必死の形相で紙と睨めっこするメローにライニガーは色々アドバイスを与える。 皆の作業を眺めていたセレは隣のツバメの姿に、何か思い出したように紙を切り取り始めた。気軽にハサミを入れるが、それはきちんとした一つの形になった。 「見て見て、ほら、ツバメさんっ」 微笑みツバメに差し出したのは、確かにツバメに似たシルエットだった。 「ほあーセレはん上手いどすなー」 感嘆の声を上げ笑うツバメにセレは得意げに紙のツバメを掲げた。 「シャナンさんはどんな切り絵を作るの?」 ティーに聞かれ、左手で紙の端を弄んでいたシャナンは小さく首を傾げた。 「そうねぇ……別に作る気はないんだけど」 「なんや、シャナンはん。何も作らへんのかいな……もしかして、不器用やったりして」 にやり、とからかうような笑みをベアが見せればシャナンが剥れっ面でベアを睨んだ。 「何よ。いーわよ、やったろーじゃない。見てなさいよー」 と意地になってペンを手に取ったシャナンはうんうん唸り始め、ベアを始めティーにエフォニード、シエンは苦笑を浮べて暫く様子を見守る事にした。 「うーむ……」 腕組みをし、小さく唸ったイワンはシャナンを見て紙に絵を描き始めた。それは、多分後で本人が見たら怒られそうな気がしなくもないけど。 大輪の薔薇を咲かす者もいれば、思い出の一場面を切り取る者もいる。 集まってくれた冒険者たちに優しい眼差しを向け、ライニガーは微笑んだ。

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参加者:14人
作成日:2006/09/22
得票数:ほのぼの18
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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