シルヴァの何てーか適度に長い一日



<オープニング>


●はいきんぐ。
 何時もの仲間達の集まった食堂での出来事である。
「君達、こんな天気のいい日は、ハイキングにでも行こうじゃないか。清々しい空気を吸い、珍しい動植物を見て、楽しくお喋りしながら皆で親睦を深めようぜ! 主に女の子!」
 一体、何処の誰に毒されたのか。
 何か知らネーが、その日、白鴉・シルヴァ(a13552)のテンションは、無闇やたらに高かった。
 何てーか全く脈絡無く、そんな計画をぶち上げた彼は、素っ頓狂な提案に微妙な表情を浮かべた友人一同を見渡して、無駄に爽やかに続けたのだった。
「そして頂上で女の子の手作り弁当を堪能……
 皆きっと『誘ってくれてありがとう。シルヴァさん素敵』と見直してくれるに違いない。ふっふっふ」
「……」
「……………」
「シルヴァさん、口に出ています」
「ああ、しまった!? これは妄想予定だった!?」
 探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)の微妙に冷え冷えとした視線に射抜かれて、何故か彼は幸せそうにうろたえている。
 どちらかと言えば、
「……おとーさん、ヒトとして色々」
 突き刺さるのは、ちみっこエンペラー・イオ(a09181)のこっちの方か。
「……」
 微妙に、口元笑ってるけど。
「兎に角、そういう訳でハイキング行こうぜ。
 何でも、いい感じの山があるらしいんだ」
 諸々をぶっちぎったシルヴァは、仕切り直しとばかりに一同に力説する。
「風光明媚、頂上は涼しく、ロケーションはバッチリ。衝撃的パノラマが、皆を襲う感じですよ?」
 襲う……?
「うーん」
「道中には、可愛い熊さんも」
「……熊って、危ないんじゃないの?」
「いや、やたら温厚な熊らしく。
 基本的には、無害らしいんだな」
「基本的じゃないと?」
 紅茶王子はヅラじゃない・デュラシア(a09224)が突っ込む。
「……さぁ?」
「うーん」
 シルヴァがアレなのは、ある意味何時もの事。
 話を聞く限りでは、いい暇潰しにはなりそうだが、微妙に不透明なのも又事実。
「うーん」
 一同は、幾度と無く首を捻るが……
「行こうぜー、いいじゃんかよー」
 シルヴァの勢いに、徐々に押され始めていた。
 やはり、暇は強し。陥落まではもう少しだろう。
「ハイキングー」
 何だか彼が、何時に無くアレなのは……

 ――は? 私に参加しろと?

 例えば、何だ。そんな風に。
 全方位撃墜してくれそうな、赤いのを誘わねばならぬという、この後の決戦の所為でもあった。
(「ふ、ふふふふ! 山と女の子は高い程萌え……」)
 萌え、ってか燃え。炎上の風情ではあるのだが……

マスターからのコメントを見る

参加者
倖涙花・イオ(a09181)
徹夜明け紅茶王子・デュラシア(a09224)
暁へ向かう黄昏・ライオル(a12876)
白鴉・シルヴァ(a13552)
巡回牧師・アスレイト(a22887)
銀蒼の癒し手・セリア(a28813)
水心・レイシア(a32164)
月のラメント・レム(a35189)
NPC:舞朱色・ベージュ(a90263)



<リプレイ>

●能天気なヤツら
「山は好きです。
 山を登ります。
 大福もセリア様も好きです。だから、とりあえず荷物は男性へ」
 月白風清・レム(a35189)――ラス一行は、脈絡ねぇし、愛しの暴君。
「小鳥の声、木の葉の囁き、温かな太陽……
 皆さんでお昼をご一緒したら、楽しいでしょうね」
 余分に割り当てられた荷物に、呼気をやや乱しながらも、黄昏の晩鐘・ライオル(a12876)の声色は楽しそうだった。
 秋も深まり、標高もあってそれなりに過ごし易い山の中。
 それでも、急な勾配を行けば、自然と汗は吹き出てきたが、休日ならばその疲労さえ心地良い。

 ――兎に角、そういう訳でハイキング行こうぜ。何でも、いい感じの山があるらしいんだ

 一行がこうして山道を行く事になった始まりは、白鴉・シルヴァ(a13552)の一言だった。
 食物連鎖の底辺、よくある支配制度の最下級層、非暴力、原則服従。世に言う「ヒエラルキーの『極めて』低い類の人間」である彼だが、一念に燃える時ばかりは力強い。
 その大抵の例に漏れず、今回も「皆きっと『誘ってくれてありがとう。シルヴァさん素敵』と見直してくれるに違いない」等とゆー、毎回吹き飛んでいく子供用伝承歌の悪役もかくや、ないい加減な計算に基づいてはいるものの、彼は結局自身の望みを押し通していた。
 シルヴァが話を持ちかけたのは、気の合う仲間達七人。それから……
 今度の難問だった、舞朱色・ベージュ(a90263)。どうにも読めない彼女が、「他ならぬシルヴァの」誘いに応じたのは、恐らくは彼にとっては僥倖だったのであろう。何を考えて参加したか良く知れない彼女が、冷めた視線をあちこちに投げているのは、元々の地であるから、責めるのは酷と言う所だが。
(「そう言えば、どうやって説得したんでしょう……?」)
 幾度かの冒険をベージュと共にした探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)は、彼女の気性と、シルヴァに対する態度を良く知っている。
(「シルヴァさんなのに。シルヴァさんですよ? シルヴァさんがどうして」)
 甚だ失礼な、されど至極尤もなセリアの疑問をぶっちぎり、
「……ふ、ふふふふふ……!」
 前日眠れなかったらしいお子様が含み笑う。
 脳内に次々と展開される妄想じみたハライソは、妄想故の砂糖菓子。
「大自然とのふれあい……たまにはこういうのも悪くないよな。皆、張り切って行こうぜ!」
 内心の「自然を愛する青年っぷりをアピールして好感度UP……ふふふ」が透けて見えるかのような爽やかな台詞に、周囲は「ハイハイ」と相槌を打っている。
「おかーさんは愉しそーだねぇ」
 ちみっこエンペラー・イオ(a09181)にそう言わしめる程。
 ……要は、慣れているのだ。
 とは言え、この一行、些かアレなのは主催者ばかりでは無い。
「ハイキング、ハイキングらんらん……♪」
 無論、世間の評価と言うモノは得てして非情なモノだ。
 許容範囲は可変し、万事は、万人に平等では無い。当然の如く、休日の楽しみを素直に謳歌するこの水廉の交差・レイシア(a32164)の姿は、微笑ましい光景の一つとカテゴライズ出来ようが。
「おーいぇ、映る景色に君の顔。頭を下げれば、サンシャイン♪」
 息も切らさずに、作詞作曲全て俺、のたまう所の「SKINHEAD」なる歌を歌いまくる紅茶王子はヅラじゃない・デュラシア(a09224)は、何て言うか非常にアレであった。
 静かな山道を、微妙な異界に染めるそのヴォーカルは、何とも……
「はぅぅ……転んじゃっ――」
「っと、危ねぇ」
 尤も、彼の場合。足元が危なっかしいイオの面倒を見る等、中々頼りになるお兄さんぶりを発揮しているのだが。
「キェエェエェェエーーーイ! おのれぬかるみいぃ!?」
「はれ……?」
 代償に、ぬかるみに踏み込んで足を取られ、斜面を転げ落ちていくのは、まぁいいや。
「何だかこうして楽しむ為に出かけるのも、久し振りな気がします」
 年長らしく、最後方で転げ落ちるデュラシアを止めた巡回牧師・アスレイト(a22887)が呟く。一行の様子に気を配り、保護者の顔でその場を見つめているのは性格による所。
 楽しいハイキングが、「デュラシアさん、君の事は忘れません」みてーな展開にならなかったのは、早速彼のお陰である。
(「ふー、しかし、キッツいですねー……」)
 手には、大好きな紫煙。その彼が、この山道に、日頃の不摂生を呪っている事はさて置いて。
(「そして、その時セリアちゃんは、ちょっと拗ねたような上目遣いで俺を見て!
 『ベージュさんばっかり構って、何だかずるいです……』等と俺にあーん、等と!」)
 ……コレとは、雲泥過ぎて比較にならない。
「何か、不愉快そうな事考えている気がしませんか?」
「奇遇ですね。ですが、シルヴァ殿ですから」
 セリアとベージュの台詞も恐らくは届いていないのだろう。彼は、依然幸福そう。
「さぁ、残りもちゃきちゃき登りますわよ!
 いざ頂上! 待つのは美味しいお弁当ですわ〜♪」
 お昼時までは、もう少し先だろうが。エネルギーを消耗すれば、お腹も空く。
 晴れ晴れと檄を飛ばしたレムが、荷物を他所に押し付けている事等、些細な乙女の特権であった。
「け、結構きついんじゃないですか、この山」
 ライオル、合掌。

●くま・だんでぃずむ
「えーと、こんにちは?」
 どんな相手でも、礼儀尽くせば通じるさ、きっと通してくれますよ――
 そんなアスレイトの期待は、あっさりと粉砕されていた。
 果たして、聞いた通りにその熊は立ち塞がっていた。
 何て言うか、そこにどっすんと。山の頂を守るかのようにどっすんと。
 頂上に続く、登山道(無論、と、言うほど整備されている訳では無いのだが)の中央に、どっかりと腰を下ろして、来訪者達九人を見据えている。
 どうやら、一行を阻む些細な障害にならずには居られない様子である。
「もふもふが好きとかそんなんじゃなくて、体が勝手に動くのです」
 何か、レムの目の色が変わっている。
「……ち、違っ! 動物は好きですけれど接し方が分からないとかそんなことは断じて無いですから!」
 何かその辺の草をふりふりしては気を引きながら、そんな風に叫ぶ彼女は、まるでツンデレさんのようである。
「はわー、ホントにホントの熊さんだー!」
 イオから、歓声が上がる。
「立派な熊さんですね。ダンディズムを感じます」
 ライオルの言う通り、その熊は特徴的だった。
 ずんぐりとした体躯は、通常の熊と比べてもかなり大型だが、目付きには凶暴な所は無く、特徴的に鼻の下から伸びた毛は、まるで壮年が蓄えた髭のようだった。
「んむ、とりあえず戦闘ご法度だからねぇ……」
 事前に言い含められた動物愛護の精神は、絶対である。
 デュラシアは、こそこそと獣の歌を奏で、熊さんの意図を横で聞いている事にした。自分で尋ねンのか、という突っ込みは、的外れであろう。
 古来より、動物を手懐けるには女性と相場が決まっている。
 いや、別に女性で無くても構わないのだが、彼とかアレとかは微妙である。
 スキンヘッドに、駄目人間だし。

 ――――♪

 期待通り、澄んだ歌声が、

 ――初めまして、レイシア・アクアクロスと申しますの。お会いできて光栄ですわ〜♪

 レイシアより奏でられる。

 ――おう、若いのに出来たお嬢ちゃんじゃねぇか

 スカートをちょいと摘んで、礼儀正しく挨拶をし。「きちんとゴミも持って帰りますから……どうぞ道をおあけ下さい」更にそう告げたレイシアはそんな風に言われた気がした。
 気のせいか、気の迷いか、超意訳だけど。

 ――ボク達、とっても愉しみにしてたの。通してもらえると嬉しいのだよー

 ――私達は、怪しい者でも、貴方や山に危害を加える者でもありません

 続くのは、イオであり、セリアである。
 その意図を優しく込めた歌は、熊に一定の理解を与えたようだった。
 二人は、

 ――ふ、皆まで言うなお嬢ちゃん達。俺はそんな分からねぇ男じゃねぇよ

 とか、何とか言われた気がした。
 しつけーですが、気のせいか、気の迷いか、超意訳ですけど。

 ――では、何故――?

 歌声で問い掛けたレイシア、セリア等が絶句する。
 デュラシアはやれやれと肩を竦め、イオは戸惑って熊と「おかーさん」を見比べ、一生懸命掴んでいたズボンの裾からぱっと手を離す。
 一連から、何かを察したベージュは「ふ」と薄ら笑いをした。
「え? 何? 何、皆で俺の顔見て」
 全身を緑や白のアースカラーで纏めたシルヴァが、全くエア読まず爽やかに微笑む。
(「設定は、『山登り好きな好青年』すよ?
 何、着合わせやっぱダサかった? 似合わねぇ? 違う、違うよ、シルヴァ君。
 諦めたら、芽生えるモンも芽生えないよ? 所謂一つのギャップ萌えってヤツだよ!?」)
 えーと、何だ。
 つまり――熊は、露骨に挙動のおかしいシルヴァに警戒心を抱いているのである。
 狼狽する彼を他所に、セリアは再び歌声を紡ぐ。

 ――彼は、ちょっとヒーリングウェーブが必要なだけで悪人じゃないんです――

 フォローは無ぇ。言外に滲むは、「主に心に」。
 レイシアも、紡ぐ。

 ――そうです、そうです。あ、お髭とっても素敵ですわ〜♪

 この際、フォローはやっぱり無ぇ。

 ――あ、蜂蜜はお好きですか?

 結局、勝敗を分けたのは、用意のいいライオルの持参したお土産の蜂蜜の存在であった。
 まぁ、何てーか。違いの分かる熊だった。
「あ、ありがとうなのだよっ!」
 響いたイオの元気の良いお礼が、割合微妙に悲痛であった。

●彼が夢
「山ー! 景色綺麗ー! おべんとー!」

 ――おべんとー!

 イオの絶叫に、山彦が返る。
「んー、気持ちいいですねー」
 眼窩に広がるは、一大パノラマ。
 やはり手放せない紫煙を思う存分にたゆたわせ、アスレイトは今日のこの日に感謝した。
 道中に苦労があればある程、到達した時の達成感は大きい。
 紆余曲折もあったが、そこは冒険者の健脚。一行は、大体予定した通り昼時にその頂上を踏む事に成功したのだ。
「読書も良いですが、やはり天気の良い日は外に出るに限りますね」
 おあつらえ向きの平らな岩の上にシートを敷き、即席のレストランを作る。
 甘い卵焼きとタコさんウィンナー、鶏の唐揚げにプチトマト、プロッコリー。セリアの用意したお弁当のラインナップは、彼女らしさとシルヴァの願望が反映されたオーソドックスなモノだった。
(「手作りのお弁当……『はい、あーん』っていうのが密かな夢ですが、そんな事はどうでもよくってですね……」)
 此方もやはり定番で、ミートボールにポテトサラダ。
 如何なく「良いお嫁さんになれますよスキル」を発揮したレイシアが思い描く相手はいるのか、どうか。まぁ、激しく望んでいる彼ではあるまいが。無いと言ってくれ。
「ロシアンおにぎりを握ってきたさねー。
 どれか一つは激辛っつー恐怖の代物さ。俺は伝説を築き上げる!」
 矜持なのか、紅茶のポットと共にデュラシア、
「私は、弁当の代わりに大福持ってきたので、おやつにするなり何なりどうぞ」
 甘味も、レムによりバッチリだ。
 何せ、大した空腹である。お茶の清涼な味わいが喉を潤せば、食欲は一層進む。
「清々しい山頂で皆さんと昼食。幸せですね」
 山頂での昼食会に、ライオルはしみじみと言った。
「あーん、ほらあーん!」

 ぐりぐりぐりぐりっ!

「あ、ああっ! そんな、ベージュ様ッ!」
 シルヴァはシルヴァで、法悦の表情を浮かべヘラヘラしているし、
「ロシアンおにぎりは、決して私に当たる事は無いのです。
 何故なら、私は、当たった時のリアクションを用意していないか――っ、ッ!?」
 口は災いの門。表情を引きつらせたレムも楽しそうだ。←そうか?
 冒険者の休日は、笑いと幸福に満ちて過ぎていく。
 シルヴァの提案から始まった、「そこはかとなく適度に長い一日」は、まだこれからだ。


マスター:YAMIDEITEI 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:8人
作成日:2006/09/29
得票数:コメディ13 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。