素敵な金色の花畑



<オープニング>


「ワイルドサイクルって広すぎてどこに行こうか迷っちゃうよね」
 ヒトの霊査士・キャロット(a90211)がニコニコしながら冒険者を見回す。ワイルドサイクル平原はあまりにも広大なため、いざ探検しようとしてもなかなか目標を立てられない冒険者も多かった。
「でね、今回お話しするところは、きっとみんな喜ぶと思うんだ」
 こういう時、やはり頼みは霊査士である。キャロットはさらにニコニコする。
「――それはね、金色の花が咲き乱れるっていう、とても不思議な花畑なんだ。金色に近い黄色っていうのじゃなくて、本当に金色。付近の集落の人々の憩いの場になっているんだよ」
 冒険者たちは耳を疑わない。そんな不思議な花畑もワイルドサイクル平原には当たり前のようにあるのだろう。酒場の全員は得も言われぬ高揚感に包まれた。
「その金の花畑なんだけど、最近でっかいイヌ怪獣が居座っちゃって、人々は怖がって近寄れなくなっちゃってるんだ。だからそこで楽しむには、まずイヌ怪獣をどうにかしないといけないんだけど……。戦いを避けられるなら避けたいところだね。幸い、めちゃくちゃ凶暴というわけではなさそうという話だし」
 冒険者たちは頷いた。せっかくの金が血の赤に染まってしまっては台無しである。
「そうそう、花は摘み取ってもかなり長持ちするっていうし、プレゼントにしてもいいんじゃないかな。金の花冠とか、素敵だよね」

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参加者
淡き甘薫の癒し手・リュミィル(a09988)
皚皚たる夜の幻想・ラグナス(a15810)
幸せを呼ぶ黒猫・ニャコ(a31704)
コンコン・リオ(a35446)
世界を刻む者・クレスタ(a36169)
不浄の巫女姫・マイ(a39067)
漆黒の風纏いし蒼焔・カシュリア(a44848)
緑馬ドリ忍びの小僧・アキラ(a47202)
茨冠の想奏・テイルズ(a48504)
枝垂髪の植物学者・スイセツ(a51372)
清風明月・スゥー(a51913)
月明かりの紫草・タイム(a52542)


<リプレイ>


 さわわさわわと風に吹かれるなだらかな緑の丘を登っていく冒険者たち。際限なく広い大地は歩くだけで楽しく、目を楽しませてくれる。遠眼鏡を持参してきたメンバーは横に望める地平線を眺めては満足げに微笑した。
「……ワイルドサイクルは久しぶりだな。相変わらずデカい」
 風霞蒼焔闇燐火・カシュリア(a44848)が以前に来た時のことを思い出しながら苦笑する。この地は何もかも桁が違う。常識外れに大きく、初めて見る者には感嘆と同時に混乱ももたらしてしまう。
「ワイルドファイアは今回が初めてなのですょう」
「……僕もです」
「あ、初めての方はわりと多いんでしょうか。私もです」
 淡き甘薫の癒し手・リュミィル(a09988)、皚皚たる夜の幻想・ラグナス(a15810)、茨冠の想奏・テイルズ(a48504)は気負いなさそうに力を抜いた顔をしている。今回は前人未到の秘境というわけでもなし、それほど気張る必要もなさそうだった。
「この先にキラキラとした花畑があるそうですが、いつから大きなイヌ怪獣が現れたか知りませんか?」
 放浪者・クレスタ(a36169)が獣達の歌で上空を飛ぶ小鳥に尋ねると、一週間ほど前からという答えがあった。毎日そこで何をしているのかと聞くと、ただのんびりしているだけという。
 ずっと同じところにいても飽きないということらしい。金の花とはどんなものだろうとますます好奇心がこみ上げる。特に理学の探究者・スイセツ(a51372)は植物学者だ。これほど心躍る冒険はまたとないと思っている。
 ――と、皆の言葉数が減ってきた。何かふくよかで甘い香りが風に乗って漂ってきているのだ。余計なことはせず集中して感じたいと思わずにおれないほどの、かぐわしい香りである。
 全員、弾かれたように丘を登りきる。そして一様に言葉をなくした。
 どう例えればいいだろうと贅沢な悩みを抱える。目前に広がる金色の景色は、かつて目にしてきたどんな宝物よりも美しく輝かしかった。視覚は言うに及ばず、甘美な香りが嗅覚を、風に揺れる花びらのかすかな音が聴覚を刺激する。果ては知らず知らずのうちに味覚を刺激して唾がしきりに出てくる。極上の料理にも似た感動だった。
 丘を下る。急ぎ、しかし焦らず金の花畑に近づいていく。直径は数キロメートルはあろうか。まるで地上に降りた太陽だった。
 ――その縁に、件の巨大イヌ怪獣が寝そべっていた。灰色なので目立っている。顔はどことなく締まりがない。よほどリラックスしているらしい。
「さあ、何にせよ頑張ろうねー」
 ドリ忍びの小僧・アキラ(a47202)が景気のいい声を出す。冒険者は頷きあい、いざ行動に移った。


「こんにちはなのにゃぁ♪ ちょっとお話してもいいかにゃぁ?♪」
 幸せを呼ぶ黒猫・ニャコ(a31704)が陽気に語りかける。やはりこの手の任務には不可欠である獣達の歌。イヌ怪獣は「ああん、なんじゃいワレ」というように不機嫌そうな面を向けた。
 次にカシュリアが、ここで何をしているのか、自分たちはお前と話がしたいだけだ、少し散歩をしないか――と歌った。まずは花畑が荒れないように別の場所へ誘い出さなければならない。イヌ怪獣はのっそりと起き上がる。誘いに応じてくれるのかと思いきや。
 風切り音が鳴る。前脚を振るってきたのだ。あわや白銀の銀狐・リオ(a35446)に当たりそうになる。
「どうしたんですか? 暴力じゃなくて話をしましょうよ」
 不機嫌の元を直せば、きっと大丈夫のはず――。そう思ってリオは辛抱強く聞く。するとイヌ怪獣は答えた。
 ――これは綺麗だし、それに俺の餌だ。誰にもこの花は渡さん。
 この花は食用にも使えるらしい。話し振りからするとたいそう美味のようである。気持ちいい匂いがするからじゃなかったんだ、とアキラは意外に思った。
 とくれば、ちゃんと別に美味い食料を提供すれば離れてくれるかもしれない――ラグナスはそう思い、向こうでご馳走すると伝えた。
 イヌ怪獣が怪訝そうな顔をしていると、クレスタが荷物の中から厚切りの干し肉を、リュミィルはチーズを取り出した。いずれもイヌの好物である。
「君がいると他の人が怖がってしまう。これで手を打ってはくれんかの」
 清風明月・スゥー(a51913)はまんもー肉を掲げてみせる。ほどよくローストされ、見るだけでよだれが出てきそうな逸品だ。
「私たち、あなたに移動してもらうために来たんです。場合によっては痛い目に遭わせてでも――ということになってしまうんです」
 不浄の巫女姫・マイ(a39067)は今回の核心を伝えた。目の前の者たちがいずれもひとかどの戦士であるということが、イヌ怪獣にも雰囲気から何となくわかっていた。だが実際戦うことになったらどういう結末になるかまでは判断がつかなかった。
 風が金色の花々を優しくたゆたわせる。しばしの無言。
 イヌ怪獣が動いた。その食い物をとりあえずもらおうなどと言っている。ひとまずは引き離すことには成功だ。


 さっき登ってきた丘まで引き返す。近くで見るのもいいが、高いところから見下ろす花畑もやはり素晴らしい。
「いっぱいあるからみんなでお食事会にゃ♪」
 ニャコの宣言で食事がスタートした。あれこれと食欲をそそる食べ物が並ぶ。もちろん説得は続ける。
「ここは皆の場所なんです。ここが好きなのはあなただけではないのです」
 テイルズが優しく、子供に言い聞かせるように言う。
「あなたもここにずっと誰かがいたら花を見れなくて悲しいでしょう? だから……」
 イヌ怪獣はもぐもぐと与えられた物を食べながら聞いている。なんと返答しようか迷っているようにも見受けられるし、適当に聞き流しているようでもある。そしてカシュリアが持参した花の酵母で作られた焼酎をペロペロと舐める。
 やがてほろ酔い加減になったイヌ怪獣は、全然足りないとわがままを言ってきた。考えてみれば、一般人用の食料でこんなに大きな怪獣の腹を満たせるわけもない。
 と、ここでマイが幸せの運び手を披露した。
「……グル?」
 見れば空腹を満たすという神秘の芸術に、イヌ怪獣はいくらか表情が和らいだ。
「他の場所に行けば、もっとバラエティに富んだ食べ物を得られると思うんですが。よさそうな場所はすでに調べてありますよ。花だけでは飽きるでしょう?」
 すかさず紫雀葉・タイム(a52542)が獣達の歌を繋ぐ。それは確かにそうだと答えるイヌ怪獣。しかし、じゃあ移動しようと言ってはくれない。
 甘く見られている、と一同は悟った。確かに自分より遥かに小さな生き物が相手では、舐めてかかるのは当然かもしれない。
 もうひとつ肝心なことがある。――頼みを聞いてくれたとして、獣達の歌の効果が切れたあとでイヌ怪獣がこれを覚えていることはない。この歌は時間限定なのだ。
 イヌ怪獣と冒険者の静かな睨み合いは続く。冒険者はそれでも平和的解決を目指して、決して自分からは手を出そうとはしなかった。
 その時、イヌ怪獣が前脚を振り上げた。確固とした敵対意識ではなく、ちょっと自分の力を見せつけてやろうと考えて。
 だが脚は空中高くで止まった。周囲に舞い飛ぶ木の葉。何かあった時に迅速な対応ができるよう待機していたスイセツが緑の束縛を撃ったのだ。
 イヌ怪獣は極寒の冷や汗を垂らした。力勝負なら負けない自信はあった。だが、このような特殊能力を持つ者にはとても勝てないと……即断してしまった。
「――もう一度お前に聞こう。立ち去る気はないか?」
 カシュリアが目を細める。その後ろではラグナスが黒炎覚醒して、凄まじいばかりの黒炎を全身に纏っている。他のメンバーも、それぞれ武器をいつでも繰り出せるよう構えている。
 ――わかったわかった。美味いメシもらったし、どいてやる。
 ついにイヌ怪獣はそう言ったのだった。ビビッた素振りは見せない。
 冒険者たちはホッと息をつき、構えを解いた。
 この約束は一時のものにすぎない。だが、たとえ約束の内容は忘れても、彼らの強さは生物的奥底に叩き込まれたはずである。


 花畑まで戻ると、イヌ怪獣は少し寂しそうな顔をした。よほど居心地がよかったのだろう。
「わかってくれてありがとうございます。これは……無血の解決の証として」
 テイルズが金の花輪を作ってイヌ怪獣の頭に乗っけた。イヌ怪獣はツンとした顔。
「気をつけて帰るのにゃ。元気でにゃあ♪」
 ニャコが手を振ると、イヌ怪獣はどっさどっさと彼方へと消えていった。その背中が見えなくなると、ようやく彼らは力を抜くことができた。
「近くの原住民にも報告に行かなきゃね。みんな喜ぶよ」
 と、アキラ。しかし今は――楽しむのみ! 冒険者たちは勢いよく金の海原へとダイブした。全身を包み込むようないい香りと、見ているだけで幸運度が上がりそうな純金の光景。
「こうして間近で見ると、本当に宝石のようですね〜」
 これでコサージュを作ったならさぞかし綺麗だろうなとリュミィルは夢想する。きっと羨ましがられるに違いないと。リオは3輪ばかりを摘み取って、髪飾りにしようと微笑んだ。
「ふふ、これは貴重なサンプルが得られました」
 自宅や旅団の周りにも植えてみたいと考え、スイセツは一株を鉢に移した。もっとも他の土地に根付くかはわからないが……。
 ふと辺りを見れば、小さめの怪獣がいくらかやって来ている。イヌ怪獣という脅威がなくなったからだろう。喜びを共有したいと思っていた冒険者たちは一層嬉しくなった。

 ――帰りたくないなあ。冒険先で居心地のいい場所に行くと、しばしばそんなことを考えてしまうものだが、今回は特にそうだった。
 そんなわけで、夕方を過ぎ、夜になっても一行は帰らなかった。今夜はここに泊まろうと決めたのだ。食事はクレスタの幸せの運び手でまかなった。
 彼らのこの選択は大正解だった。
 完全に空が暗くなった頃、誰からともなくあっと声が上がった。
 信じられない光景だった。闇夜の中、花が淡い光を放っているのだ。見間違いかと目をこすっても変わらない。疑いようもなく、金の花は自然に発光していた。
「な……んという」
「……すごいです」
 スゥーとタイムが呆然として声を出す。こんな幻想がまたとあるだろうか。いやない。ワイルドサイクルの不思議さ、素晴らしさが改めて身に沁みた。
 そうして彼らは、迷わず金の大地に寝転がる。ここに身を置けば、自分たちはもっと輝ける。そんなことを思いながら。


マスター:silflu 紹介ページ
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作成日:2006/09/21
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