【蠱惑の赤】猫と踊る



<オープニング>


●とある森の中で
「物足りないー」
 小柄なストライダーが腕を広げる。
 白い指が何かを求めるように動くが、そこには何もない。
「物足りないのに」
 細い指が一瞬ぶれる。
 風もないのに髪が揺れる。
「んー」
 とん、と地面を蹴る音が響くと、彼女は鬱蒼(うっそう)としげる木々の間を抜けて森の上に跳んでいた。
 ひときわ高い木の頂きを掴んで体を固定すると、首元の鈴が澄んだ音を立てる。
「おっきな家?」
 谷を1つ越えた場所に、木々の間に隠れるようにして屋敷が建っている。
 多少古ぼけてはいるが人の気配はあり、窓から見える内装はかなり豪華でもある。
「?」
 一陣の風が吹き抜ける。
 揺れる髪の間で、薄桃色の猫耳がぴくりと動いていた。

●猫と踊る
「彼女は黒よ」
 霊査士はまず結論を口にした。
「あの街の事件に直接関与したかどうかは分からなかったけど、武器を持たない人を大量に殺害しているのは確実」
 何の感情も浮かんでいない静かな瞳で、淡々と言葉を続ける。
「これからどうするかはあなた達に任せるわ。捕捉次第始末しても、泳がせて確実に仕留められる状況を待ってもかまわない。ただ、衆人環視の中で彼女と戦うのはできるだけ避けて」
 一見普通のストライダーにしか見えない者を冒険者が襲うのも、それ以上のことが起きるのも、出来れば民には見せたくないと考えているのだろう。
「今から1週間後、彼女がとある谷の近くに出没するのが霊視で見えたわ。何の罪もない民に被害が出ない限り、多少騒ぎが大きくなっても後始末はこちらでするわ。あなた達は自由に動いてちょうだい」

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参加者
太白・シュハク(a01461)
闇を照らす光・アイ(a02186)
白翼・アルヴァ(a05665)
蒼睛の・リセンク(a12727)
古き森の・ユレイラ(a22991)
黒狐の長・ヴァゼル(a24812)
雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)
終焉の探求者・ガイヤ(a32280)
空色の花・ショコラ(a37565)
赤い雲・ポダルゲー(a40115)


<リプレイ>

●避難誘導
「人との気配がない場所には慣れてるけど」
 空色の花・ショコラ(a37565)は峠の上からあたりを見回し、小さく息を吐く。
 遠く東には街らしきものが見えるが、建物は例の屋敷を除き1軒も見あたらない。
 起伏に富む丘やうっそうと茂る森はあちこちに見えるのだが、それをのぞけば何もない。
 故郷のワイルドファイア大陸ではもっと大きなほぼ無人地帯を何度も見たことがあるか、ここまでうそ寒さを感じる風景はほとんど経験がなかった。
「猛獣もモンスターもいないとはいえ、既存の人里と離れている上に農耕や牧畜に向いている土地もないため、開発から取り残されたのでしょう。もっとも深山幽谷でもないのにここまで何もないのは珍しいですが」
 赤き・ポダルゲー(a40115)は自らの考えをまとめながら答える。
 商業種族たるチキンレッグの証であるとさかが、歩みにつれてゆっくりと揺れる。
「ほとぼりを冷ますためか、普通の人間なら使わない経路を使うことで行方をくらますためかもしれません」
 頭が良いのか、それとも単に手慣れているのかという疑問が一瞬脳裏に浮かぶが、それを考えるのが全てが終わってからでも良いと思い頭を切り換える。
「そっちには誰かいたかい?」
 獣道をかきわけて、茂みの中から蒼睛の・リセンク(a12727)が現れる。
「ううん」
「そっか。こっちは1人猟師に会ったから。手はず通り魔物来襲の情報を流して帰ってもらったよ」
 まさか事実をそのまま伝えるわけにもいかない。
「次に行こう」
 リセンクは皆を促し、次の担当地域へと向かうのだった。

●包囲網
「気になりますね」
 木こり小屋がわりのテントから十分離れてから、黒狐の長・ヴァゼル(a24812)は渋い顔をして呟く。
「森の中で長い間人に接しないとぶっきらぼうになりがちですから」
 古き森の・ユレイラ(a22991)はそう答えると、ショコラが霊査士から貰ってきた地図のうちの1枚を取り出す。
「山や峠の上から眺めたときは気付きませんでしたが、意外に整備されていますね」
 草こそ伸びているものの、整地されたあともある細い道を確認する。
 これまでの調査結果を書き込んだ地図を見ると、ほぼ無人地帯の中央に立てられてた館から放射線状にこういう道が延びているのが分かる。
「きなくさい臭いがしますが…」
 ユレイラの脳裏に、彼女と同時期に、しかも同じ地方で冒険を行っているはずの腐れ縁の顔が浮かぶ。
「臭いではなく、霊査士の言葉を借りるなら『真っ黒』です。先程の男も間違いなく裏街道の人間ですよ。鉈使いが様になっていない割りに、妙に目つきが鋭かったですから」
「案外その方が楽かもしれん」
 ユレイラとは別方向の地形を確認していた雄風を纏いし碧眼の黒猫・ユダ(a27741)が口を挟む。
「チンピラではない悪党は保身の感覚に優れているものだ。悪党とはいえ民は民。余程の悪さをしているなら話は別だが、今は逃げてくれた方がありがたい」
 ピンク髪ツインテールの猫ストライダーの少女には伝達不要という情報を広めつつある彼は、無造作に答える。
 疑問に思った民から問われた際に「彼女も冒険者だからモンスター退治に参加する」と説明しているが、それが今度どう影響するかはまだ分からない。
「ユレイラ。そこの崖には杭が打ってあった。逃走ルートに使われるかもしれない」
「彼女が設置しかたどうかは分かりませんが、ますますきな臭いですわね」
 ユレイラは新たな情報を地図に書き加えると、小さく息を吐く。
「そろそろ避難誘導も終わりですか。残るのは」
 ヴァゼルは地図のほぼ中央にある、不自然に規模が大きな館を指さすのであった。

●館
 冒険者が館を訪れたとき、その扉は大きく開け放たれ、奥からは薄い煙が漂ってきていた。
「人の気配は無いですね。血の匂いはないですから、例の者が暴れた訳じゃないでしょうが」
 白翼・アルヴァ(a05665)は既にウェポン・オーバーロード改を発動させており、愛用の片刃剣を手元に出現させている。
 リセンクやポダルゲーも先程同様に自らの武器を呼び寄せている。
 先程まで3つの武器を預かってた班にはこれで情報が伝わり、手段を選ばずこの場に急行してくるはずだ。
「行こう」
 ショコラは普段とはうってかわった冷静さで、赤い絨毯に沿って館の2階へと駆け上がっていく。
 そんな彼女の前で、2階の扉が開く。
「む?」
 ポダルゲーが思わずうめく。
 それは、3つ頭の巨大蛇を引き連れたエルフの冒険者であった。
「ごめん。子供を助けにいかないと」
 言葉をかわす時間すら惜しみ、彼女は煙の充満し始めた館の奥へと向かっていく。
「妙なことになってきたわね」
 闇を照らす光・アイ(a02186)は肩をすくめると、館の中心部に踏み入る。
 落ち着いた雰囲気の調度品で彩られたそこは、まるで上流階級のサロンのような風情がある。
 今そこにいるのは、メイド風のお仕着せを来たストライダーが1人だけ。
 飼い主に置いていかれた子猫のような切ない顔をしていたが、突然現れたショコラやアイ達に驚いて目を丸くする。
「あなた、人をたくさん殺してるらしいわね?」
 アイは今日の天気について話すような気軽か口調で、さらりと問いかける。
「え、あ、はい」
 不意をつかれたミリミリスは戸惑いながら、しかしはっきりと答え……。
 すぐに自分が何を言ってしまったに気付き、尻尾をへたりと垂らせて顔を引きつらせる。
「い、今のなし! なしでっ」
 ミリミリスが言い終わるより早く、荒れ狂う豪雨のような一撃が振り下ろされていた。
 自身の血をまき散らしながら、ミリミリスは開け放たれた窓の側に着地する。
 肩口から流れ出す血はお仕着せを濡らし、カプリシャスキャットじみた猫状の手を赤黒く染めている。
「ぅあー」
 ミリミリスは自分の額に自前の肉球をあてながらひょいと身を傾け、ショコラの追撃の直撃を辛うじてかわす。
 ほぼ同時に遅い来るアイの粘り蜘蛛糸を余裕をもって回避し、ウェポンオーバーロードを再度発動させるポダルゲー達の間をすり抜ける。
「というわけでさよならー」
 緊張感に欠ける捨てぜりふと共に、ミリミリスは全力疾走を開始する。
 その速度は熟練冒険者並かそれ以上だ。
「このっ」
 辛うじてミリミリスを己の間合いにとらえたリセンクが稲妻の闘気を込め鉾槍を振るう。
 完全に背中を向けていたミリミリスの背中に得物がめり込む。
 続いてアルヴァからは巨大な炎が、ポダルゲーからは3つ頭の黒い炎が飛ぶ。
 ミリミリスは巨大な炎は辛うじて、3つ頭の炎は易々と、ころころと転がりながら回避する。
「ここで仕留める」
 ショコラは脇目もふらずミリミリスに向かって直進する。
 能力強化アビリティによる時間の浪費を避けたその戦法はミリミリスから余裕を奪い取り、追いつめる。
「っ」
 ミリミリスの瞳に絶望が浮かぶ。
 ショコラの会心の一撃はミリミリスの首筋に近づき。
 そして。
 逸れた。
「ふ、ぁっ」
 大きく跳躍して館の玄関の向こう側に着地したミリミリスは、全身から脂汗が吹き出るのを感じていた。
 先程の一撃をかわせたのはただの幸運だ。
 普段なら間違いなく止めを刺されていた。
「さ、さよならっ」
 ミリミリスは後を振り向くこともできず、恐怖に突き動かされて逃げ出すのであった。

●キマイラ
「また出たー」
 館へ急行する途中でミリミリスの情けない声を聞き、贖罪の探求者・ガイヤ(a32280)はその秀麗な眉を寄せ足を止めた。
「1つだけ聞かせて貰おう。……何故殺した?」
 ガイヤは漆黒の術手甲にアビリティの力を付与しながら問う。
「えーと」
 大地を蹴る軽い音が響くと、数瞬の後には猫耳娘は高い木の頂上付近に移動していた。
「すぱっと切ると気持ちいいから?」
 よりにもよって疑問形であった。
 鎖の巻き付いた剣が飛んでくるがあっさりと避け、ミリミリスはさらに跳躍してガイヤから距離をとる。
「なんて身が軽い」
 ヴァゼルは手元に戻ってきた長剣を再度チェインシュート奥義で打ち出しながら、苦く呻く。
「ここで遭遇するなんて」
 ユレイラは仲間に守りの力を付与しながら、奥歯を噛みしめる。
 館へ急行中にミリミリスを捕捉することが出来たのは良かったが、よりにもよって遮蔽物が多く退路も豊富な場所だ。
 そしてミリミリスの異様なまでの身の軽さが、彼女をさらに憂鬱にさせる。
 あれでは最初に距離を開けられると追い切れない。
 おそらくは武装をしていないが故の身の軽さなのだろうが、それにしても能力が高すぎる。
「にょぁっ!?」
 ミリミリスが身をひるがえす。
 木々をすり抜けて襲い来る衝撃波に気付かずまともにくらったのだが、先程の戦闘後に回復でもしたのか、まだ持ちこたえている。
「今更子猫で釣っても無駄……でもないのか」
 子猫と聞いた瞬間目を輝かせたミリミリスに気付き、ユダは鼻を鳴らして登り竜で彩られたサーベルを鞘に収める。
 接敵時に足止め出来なかった以上、これでは追い切れない。
 猛然と逃走を再開したミリミリスの背を負いながら、ユダは苦々しい思いとともにそう判断する。
「どう足掻いても殺された者達は戻っては来ない。始末はつけさせてもらうぞ」
 それに大使、装備を軽くしたガイヤの足は早い。
 次々に脱落していく冒険者達を尻目に、逃げるミリミリスとの距離を徐々に詰めていく。
「ミリミリスさん、どうしテ」
 地蔵星・シュハク(a01461)はガイヤに遅れず追走しながら、じっとミリミリスを見つめていた。
 正体が露見してしまい多少緊張しているようではある。
 戦闘でそれなりに興奮しているようでもある。
 しかし本質の部分には変化が感じられない。
 己の望むままに喋り、走り、飛び跳ねる。
 これまでと何一つ変わらない。
「そろそろいっかなー」
 ミリミリスの進路が変わる。
 ガイヤのほぼ真横で併走する形になり、間合いが術の間合いに変化する。
 即座にガイヤが黒の炎を打ち出し、ミリミリスからも細い何かが打ち出される。
「ほう」
 粉砕された鎖骨の痛みを精神力で無視し、闇色のマントをなびかせ失踪を続ける。
「器用なものだ」
 ミリミリスの口から伸び、ガイヤの防御を貫いてから瞬時に元に戻ったのは、人のものではあり得ない舌であった。
「そうでもないよ?」
 対するミリミリスには変化はない。
 ガイヤの一撃を防御するのではなく、回避してしまったのだ。
 即座にガイヤの肩をシュハクが癒すが、完全には癒し切れていない。
「んー、術使いなのに頑丈そうだから、後ろの人たちに追いつかれるまでに済ますの無理みたいだね」
 ここに至ってもミリミリスは冷静だった。
 2対1で戦い続ければ勝てるかもしれないが、戦闘行動を行えば速度が鈍り、間違いなく後続冒険者に捕捉される。
 そうなってしまえば多勢に無勢。
 どれだけ非常識な力を発揮しようが、仕留められるのは彼女だ。
「それじゃそーゆーことでっ♪」
 ぴょんと、無造作ともいえるステップで大きく真横に飛ぶ。
 そこに地面はない。
 地面の裂け目のような深い谷が広がっているだけだ。
「ミリミリスさんっ!」
 手を伸ばすが、届かない。
「底には急流か。飛沫が邪魔で見えん」
 下を覗き込んだガイヤが舌打ちする。
 生半可なモンスターなら即死するかもしれない地形だが、相手が相手だ。
 これでは生死は分からない。
 だが、シュハクには確信があった。
「止まる気、ないんだネ」
 追いついてきた仲間の気配を感じながら、シュハクは急流をじっと見つめていた。


マスター:のるん 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2006/09/27
得票数:冒険活劇1  戦闘1  ミステリ23  ダーク1  コメディ1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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