骨の山で死人を断つ!〜お山の大将〜



<オープニング>


 天高くノソリン肥ゆる秋。
 抜けるような青い空に、山々の裾野は赤や黄色の紅葉の鮮やかな色彩に彩られる頃。
 ランドアースの地面の遥か下の大陸に広がるは、さわやか? な紫色の空、足元には生気を失った枯土色の大地。
 冒険者達が登るは、美しきさいはて山脈ならぬ、乾いた音を立てる白骨の山―――

「いやはや……何とも素敵な場所ですねぇ……」
 紅焔舞う夢幻之宵天・オキ(a34580)は、骨崩れする骨の山を一歩一歩踏みしめながら、妙にさわやかな笑顔で、隣を歩く仲間に微笑みかける。
「……お前にこんな趣味があるとは知らなかったがな……」
 そう吐き捨てるように呟くと、闇の護衛・イブキ(a34781)は、はるか遠くに見える骨山の山頂を見上げる。その表情は心なしかげっそりとして見えた。
「わたしも、知らなかったなぁ」
 その傍らを登る、月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)は柔らかに微笑んで、オキとイブキの顔を見つめていた。

 楽しくうきうきしていようが、うんざりげんなりしていようが、登り続けていればやがて山頂にたどり着く――はずだった、が。
「何か登れねー登れねーと思ったら、どこぞのどなたかが山頂に居やがりますよ、アレ」
 なおも笑顔を崩さす、にっこりと微笑むオキは、いつの間にか山頂に君臨している骨っぽい野郎を見上げ、その瞳をキラリと鋭く光らせた。……のは見間違いかもしれない。
「山頂に立つなら、あのひと何とかしないといけないね……」
 困ったような表情で問いかける泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)に
「でも、山頂にいるのにどうやって何とかするんだ?」
 夕闇を駆け抜ける・トワ(a37542)もそのまま、疑問を口にする。一行はお互いに顔を見合わせた。
「「「「「…………」」」」」

「とにかく行くのなぁ〜ん♪」
 何故か楽しそうな一声と共に、春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)は骨の山にダイブ!
 ガラガラガラガラガラガラ……
 なだれのごとく崩れた骨と共に激しく逆戻り!!!「なぁ〜ん!?」
 更に追い打ちをかけるように崩れた骨で埋もれる。
 もがき這い出してくるミアを助けつつ、オキは仲間を鼓舞した。

「まぁ、アレです……何とかなりますよ、いつか」

 ざけんな、という心の声と共に、敵に向かう者がいたかどうかは定かでない。

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参加者
淙滔赫灼・オキ(a34580)
深潭沈吟・イブキ(a34781)
泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)
夕闇に染まる白き大翼・トワ(a37542)
月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)
春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)
無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)
漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)


<リプレイ>

●その座をよこせ
「……ぇと……何、だろう……? あの、白くて太いの……」
 無限の刻の中静かに月を抱け・ユイ(a44536)が首を傾げ見つめるのは、この骨山の頂上に君臨する者。
「わぁ……あのアンデッド、すっご〜く骨太さんだね」
 頂上を踏みしめる脚も、太い骨を持つその腕も。泡沫の眠り姫・フィーリ(a37243)自身の脚や腕より更に太い。血肉が無くてこのサイズなら――
「ふふ、生きてた時は、きっとすごく筋骨隆々とした人だったんだね」
『お山の大将』の姿に、繊細な体つきのセイレーンの少女は思わず笑みを浮かべてしまう。
 フィーリの鎧聖降臨を受けながら、紅焔舞う夢幻之宵天・オキ(a34580)は手のサーベル『闇無懺悔紅』を月露は蛍のように儚く・ユウナ(a40033)の傍らに置いた。崩れる山で、少しでも機動力を上げるために。そのユウナは腰に荒縄を縛りつけている。彼女に付き従う召還獣は無く――だから。
(「力不足、解ってる……だから。
 無理せずにね……自分のできる範囲の事を、一生懸命頑張ろうと思うの」)
「お山の大将退治頑張るのなぁ〜ん♪」
 気負わず、ふうわりと微笑みすら浮かべるユウナに鎧聖降臨をかけるのは、春風そよめく舞蝶円舞曲・ミア(a41826)。
「ユウナはミアが守るのなぁ〜ん♪」
 にこぱっ! と夏の向日葵のように元気なヒトノソ少女とは対照的に、げんなりした顔でつぶやくのは闇の護衛・イブキ(a34781)。
「この年で運動会もどきか……良い友人を持てて、俺は、幸せだ……」
 闘う前から既に疲れたよーな声のイブキ二十歳の秋。
「頑張ろうな、ユイ……絶対にイブキには負けないぞ」
 そう微笑いながら、夕闇を駆け抜ける・トワ(a37542)は、ユイの腰にくくられた荒縄の反対側の端を、自分の身体に縛りつけている。つまり二人は一蓮托生、どちらかが骨埋めに遭えば、相方が縄をたどり脱出を手伝う作戦だ。
「……む……まぁ、トワには負けんが」
 イブキも、自分とフィーリを結んでいる。
「なんだか、運命共同体みたい……イブキ、トワチームに負けないように頑張ろうね! 目指せ1番!」
 ねっ! とアイキャッチが似合いそうなフィーリであった。
「……お山の大将……か……俺は決してその地位を狙っている訳ではないのだが……」
 オキと自分を結ぶ為のロープをイブキに借りた、漂う耀きの記憶・ロレンツァ(a48556)は頂上とロープの相方を交互に見つめ。
「その『頂点』を、是非ともこの鋭い眼光の持ち主であるオキに譲ってやって欲しい」
 ……是非、とロレンツァの瞳がキラリ。
 その間にも、骨雪崩の領域は少しずつ、しかし確実に広がっているようだ。腰にロープを縛り付けるその足下すら崩れ始めている。
 フィーリの鎧聖降臨がロレンツァの法衣にもかけられたのを見、オキがにっこり声をかける。
「行きますよ、レンちゃん」
 ……負けません、勝つまでは!! 
「オキだんちょ、ミアは頑張るのなぁん」
 ミアは鎧聖降臨をイブキにかけ、その次はトワにも使うつもりでいる。
「取り敢えず……近づいて、みてみようか……な」
 ユイも自身の身を守る『藍闇海鳴轟雷鎧』が強化される順番を待ちつつ、微笑んだ。
「……行こう、トワ……」

●エンドレス
「……目指せ1位……だな」
 一番始めに準備が整ったオキ、ロレンツァ組が山を駆け登る! 息が上がらないよう、加減はしているけど。
「……何、やるからには勝つ。……そうだろう、オキ?」
 ロレンツァはその微笑みに黒炎覚醒の炎と、更にキルドレッドブルーの魔炎と魔氷を重ね。
 オキはライクアフェザーをかけクロークの防御にも期待を寄せつつ、レンちゃんの更に一歩前へ――
「いつだったか、前衛の重傷は後衛の責任だと仰られていましたねぇ……でも……僕は忍びですが今は一応前衛。後衛さんには攻撃は通させません」
 と、その時二人は、ガラガラガラと崩れる骨に脚をすくわれ戻される。
 敵の存在に気付いたお山の大将は手にした骨を渾身の力をこめ、ぶんっ! と投げた。
 彼らが戻された分だけ、まだギリギリ射程には届かず、骨はそのまま宙を旋回して戻っていく。
「みんな骨太ブーメランなんかに負けないであの山を駆け上るのなぁ〜んっ!!」
 すびしっ! と指差し指差し、鎧聖降臨をかけていくミア。
 黒炎を身に纏っていたユイと、
「……息切れ、しない程度に……な? 戦えなかったら、意味ないし……」
「……ま、基本は大切にってね」
 ライクアフェザーで回避力を高めていたトワがちょっと加減したダッシュで登坂し始める。
 再びオキとロレンツァが駆け上がった時、大将に狙われたのはエンジェルの医術士のほうだった。
「……くっ……骨が共鳴しているかのようだ……」
 カラカラと乾いた音をたて、覆い被さる無数の骨に埋もれたロレンツァを、オキが縄で探す。
「弱い所は補い助け合う。肝心ですよね? 在るべき姿でしょう?」
 ロレンツァ脱出を手伝うオキの横を追い抜いて――でも骨雪崩でガラガラ戻されるユイとトワ。
 そのリバースを若干楽しんでさえいたユイに大将の骨投げが命中!
 
 ごっつん★!!! ぶしゅ――――っ!!!
 
 ものすごく痛そうな音と共に、血が噴き出す! そして地獄の業火を思わせる魔炎がユイの身に襲いかかる。
「――――――っ」
 身を抱え込んでこらえずにはいられない痛みと共に。
 それを、ユウナの懸命な祈りが鎮め、消し去る。
「お祈り、がんばるけど……みんな、気をつけてね?」
「わたし、回復するね!」
 フィーリが声をかけ、癒しの波動をユイに放ちながら斜面を駆け登る。大将の強力な一投は彼女のヒーリングウェーブでも癒しきれず――同時に登ってきたイブキは医術士がまだ埋もれているのを見て、凱歌を口ずさむ。
「みんなの邪魔しちゃ嫌なの……なぁ〜ん♪」
 キルドレッドブルーが同化した牙狩人ミアの矢が放たれる。
 大将は魔炎と魔氷に包まれ動きを止める――が、その拘束も長時間は続かない。再び動き出す大将。
 一つの山の頂点に立つには、このくらいの能力があればこそか――さもなくば、斜面や裾野に転がる無数の骨の一つに過ぎなかっただろう。
「お山の大将……伊達に頂上に君臨していませんね。レンちゃん、出られました?」
 ロレンツァが這い出したのを見てオキは自身の射程に大将を捉えるべく、更に登る。オキ自身の身体能力に加え、ライクアフェザーとクロークの効果は彼を骨雪崩から救うが、ロレンツァはガラガラガラと戻される。
 ユイとトワが一気に登り! フェザー切れのトワとユイはガラガラガラ……
 雪崩に流された先でつかんだ骨を思いっきり投げ返すトワ。
 フィーリとイブキも登り! 狙われたイブキが骨埋め。フィーリが彼を掘り出す。
 矢を放ちながら、戦況を見ていたミアは、仲間達が登っては戻りを繰り返しながらもじりじりと頂上へ近づいているのが判っていた。
「頂上に近づいているなぁ〜ん! オキだんちょ、みんな、あきらめないでなぁ〜ん!」
「みんな離れてく……ごめんね、護衛お願いね、ミアちゃん」
 皆が祈りの範囲内から徐々に遠ざかるのを見て、ユウナも山を登り――戻されながらも、祈る。
「……本当に、いつか、何とかなるのか……?」
 フィーリの手を借り、這い出したイブキはつぶやく。
 どちらが先にへばるか――まさに根気の勝負、持久戦であった。

●頂上陥落
 何度雪崩に巻き込まれ、埋もれただろうか。だが、登り続ける限り、制覇できない山はない。 
 最初に射程に飛び込んだのは、翔剣士のトワだった。戻される寸前にソニックウェーブを放ち確実に当てる。そしてガラガラガラ……
「どの班よりも先に敵の所に着いたら、一着……」
 照れり、としながらユイがヴァイパーの力と共にスキュラフレイムを放つ。3つの炎獣が大将に噛みついた。
 大将の骨投げはユウナにも襲いかかり――彼女を守ると約束したとおり、ミアがその身でかばう。ミアの傷はフィーリとロレンツァが癒した。もしユウナがまともに喰らえば、鎧聖降臨があっても魔炎と出血も伴うその骨投げは、一撃で彼女を戦闘不能にしていただろう。
 次に近づいたのはオキ。蜘蛛の糸を放ち、大将の動きを止めた彼は雪崩を回避し、その場に留まる。
 そしてイブキが駆け上がる。
「より登りやすく……だな。……決してトワを登りやすくするつもりなどないが」
 射程にたどり着き、戻され際に緑の束縛を放っていくイブキ。
 再びトワが射程に駆け込むと、今度は戻されても射程からはみ出ることなく衝撃波を放つことができた。
 オキはウェポンオーバーロードで武器を手元に呼ぶ。
 拘束をはねのけ、大将は骨を投げる。その時一番近くにいたオキに向かって。ライクアフェザーを使いきっていた彼に命中する。
「オキだんちょから離れてなぁ〜ん!」
 ミアの怒りの貫き通す矢が大将にびしっと突き刺さる。
「……む、オキ……抜け駆けするからだ……」
「……歌は、好き……心、落ち着くから……」
 イブキとユイがそろって凱歌を歌い上げオキの傷を癒す。ユイの猫尻尾がくるり。
「対アンデッドの為の様なアビだからな」
 微笑を浮かべつつ慈悲の聖槍を容赦なく撃ち込むロレンツァ。
「みんな怪我しないで帰れるように、頑張ろうねっ!」
 完全に近接の間合いに入ったフィーリが厳密には頂上1番乗りか――!?
「……ふふ……だって、骨太なんだもの……」
 にこやかに、がしっ、と大将の太い腕骨をつかみ、ぶん!! と投げ飛ばし――大将はとうとうその場を明け渡した。いや、明け渡された。
 ユウナは自分のほうへころがり落ちてきた大将に、えぃっ! と華麗なる衝撃。
 パンパカパーン!!!
 鳴り響くファンファーレは、大将陥落を祝う音でもあった。
 旅団藍晶の団長を筆頭に飛燕連撃や剛気投げやスピードラッシュやライトニングアローや複数のブラックフレイムや眠りの歌に至るまで、連携して繰り出され、大将は見る影もなく、粉々に砕け散った。
 
●気分はピクニック
 邪魔な大将がいなくなった頂上に全員で立ち、骨の山を制覇した喜びをかみしめる。
「……ユウナ、怪我はないだろうな……?」
 無事を確認するイブキに、ユウナはやわらかな微笑を見せる。
「わたしは大丈夫……みんなも……じゃぁ、早く帰らなくてもいいよね?」
 みんなでちょっと休憩しようよ、とユウナはお菓子を広げた。
 フィーリもトワの横に座って、お菓子を広げる。
 空は澄んだ青――じゃなくて。
 夕方なのか曇りなのかはっきりしない、どんより紫な空。
 頂上から見渡せるのは白い嶺の山並み。あの白は峻厳な積雪――でもなくて、アレも骨、これもホネ、全部ほね。
「……まぁ、いい眺めといえば良い眺めだよな……見晴らしは……余り何もないし……」
 奇岩絶景の名所に来たと思えば。色合いはともかく……とホンネも出つつ、トワはフィーリからお菓子を受け取る。
「まぁ、一仕事して疲れた後には甘い物が一番ってね♪」
 ロレンツァはアンデッド化しそうに無いものと水を見繕い持ってきていた。
(「蓋を開けたら小さなアンデッドが飛び出してくる様な事態は……流石に遠慮したいのでな」)
 それでもいざ、蓋を開ける時には、目を逸らしてしまう。
 アンデッドが飛び出すことはなく、ほっと一安心のロレンツァ。
 実はアンデッド化した物もあったらしいが、調理の具合で身動きできなければ、それとは判らず。
 お菓子をはむユウナの傍らで、腰を下ろしたイブキは、紫色の空に、枯れ果てた大地――友の眠る場所――を目に焼き付ける。
(「地獄……か……」)
 居心地が良いとは決して思えない世界。でも。
 オキが永く留まり、力を尽くしたいと願う場所は、自らの目で、しっかりと見ておきたい、と。
 いつの日か、小さな友人の心を理解し……その傍らで共に戦えるように。
 二十歳のイブキが煙草を燻らすのを控えている事を――イブキの気遣いを、オキは気付いていた。
 大人が吸う分には、別に、気にしないのに……そう思いながら側に腰掛ける。
 ユイは、骨山に登るのが初めてで。何だか、地獄の洗礼を受けた気分で。
 茫然と食べ物を口に運びつつ、声をかける。
「……オキ、護衛士……大変か……? 頑張ってな……俺、応援してる」
 ちゃっかりオキの側に座ったミアは嬉しそうに。
「ぅなぁ〜ん……♪」
 ポリポリとクッキーを食べながら、今日のホネホネした想い出を心に刻んだ。

 殺伐とした光景ですら、みんなと一緒なら。
 それは鮮やかな記憶となる――


マスター:星砂明里 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2006/11/03
得票数:冒険活劇15  ダーク1  ほのぼの8  コメディ1 
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