<リプレイ>
●被害状況を追って 「なるほど……作物の被害は少なくありませんね……」 落ちていた草の茎を拾い上げながら大雷虎・リョウコ(a10422)は呟いていた。突然変異の二尾狐によって荒らされた村の畑を訪れ、その被害状況を調べているのである。順調に成長していた作物を奪われたことで、村人達の怒りも大きい。 「これ以上被害が出ないように、がんばるにゅ」 衝撃の弾幕少女・ユーロ(a39593)も小さく頷いて、二尾狐に襲われたという村人の家を訪れていた。怪我は命に関わるようなものではなかったが、酷い目に遭ったと溜息を吐いている。未来予報はいつも晴れ・アペチノ(a54072)も癒しの水滴で治療を施しながら、被害に遭った時について詳しく状況を聞いていた。 「はいはい、怪我人集合ー」 動ける怪我人を一箇所に集めているのは花深月・ユディール(a49229)だ。ヒーリングウェーブで一度に治療を施して、その間に聞ける限り二尾狐についての話を聞いている。 「命を賭けて説得し、奴らを殺さずに追いやる方向でいかせて頂きたい!」 被害者達に堂々と声を上げるのは快傑ズガット・マサカズ(a04969)だ。冒険者たちは変異体の二尾狐を退治せずに、森の奥にある山の中へと追い立てて二度と村に近づかないようにしたいと考えていたのだ。しかしそれでは村人達が納得しないかもしれない。そんなことが無いようにマサカズは村人達も説得し、了解を得ようというのだ。 「二尾狐を怨んでいるとは思いますが……彼らもまた、望んでそうなった訳ではない……僕はそう考えてます」 それでも一つの命、人と関わらないようにして天寿をまっとうさせてやることは出来ないだろうかと大雷虎・リョウコも呼びかけていた。村人達は神妙にその言葉に耳を傾けている。 「二度と村に近づかないようにする。それが無理なら退治する」 ユーロの言葉に、それでいいだろうと村人達もざわつき始めていた。村人達からすれば、結果として二尾狐の被害が無くなればそれでいいのだ。その方法が退治であれ、人も踏み込まぬ山奥まで追い払われることでも大した差は無いだろう。 「それでは、ここで戦闘にならないように注意しないといけませんの」 了解が得られたことに小さく微笑み、アペチノとユディールは畑の警戒に向かう。折角納得してもらったのに、また二尾狐が現れて更に被害が出れば気が変わってしまうかもしれない。山の調査に向かっている仲間達が戻るまで、村を守るように冒険者たちは畑を見張るのだった。
●未開の地へ 「リョウコさぁぁんっ」 見事な放物線を描いて体は雑草で出来ている・アーク(a29905)は跳んでいた。目指すは無双華・リョウコ(a90264)の豊満な胸元。 ぐしゃ 目の前に柔らかそうな丸みが近づいてきて……割り込んだ拳がアークの顔面にめり込んだ。「ふざけてる場合じゃないでしょ」と溜息をつく無双華・リョウコにアークもポリポリと頭を掻きながら起き上がり、 「確かに、やるだけはやらないとな!」 二尾狐を追い込む予定の山の奥で、他の生き物や食料などの環境がどうなっているのかを調べるために冒険者たちはこの地を訪れていたのだ。アークは視線をざっと巡らせ、気になる物がないか様子を窺う。 「よっ、この辺で〜何か美味い物あるかい♪」 辺りをうろついていた野生の狐に獣達の歌で歌いかけるのは星方武侠・ミルミリオン(a26728)だ。「最近は野鼠や栗鼠も多いから、食べ物には困らないかな」と返し、ガサリと草むらに野生の狐は去っていった。仮に二尾狐を山奥に追い立てられたとしても、山に食料が少なければまた人里に降りてしまうかも知れない。そんなことが無いように調査しているのだ。 「……こういう下準備が……大切なんですね」 落ちていた木の実を拾いながら灼眼の・ウヅキ(a03612)は呟く。二匹の動物が暮らしてゆく程度の食料に不足は無い様子で、冒険者たちは一先ず安堵の息を吐いた。 拾ってきた木の実をアークと植物知識に詳しいウヅキが調べる中で、ミルミリオンは幸せの運び手を発動させる。山の奥までは結構な距離があったので、調査するうちに日も暮れて野宿することになったのだ。 「ま、これも『舞い』ってね」 華麗にステップを踏むミルミリオンに、一同は満ち足りた気持ちに包まれたという。
「……テントの準備ができました」 「リョウコちん、早くー」 ウヅキとミルミリオン、無双華・リョウコの女性陣はテントの中で夜を過ごす。対してこの中で唯一の男性であるアークはというと……。 「あぅ………」 テントの外の地べたにロープで縛られ、無残に転がされていた。その瞳からはだくだくと涙が止め処なく流れている。 何でも先程、女性陣が水浴びをしている所を覗きに行くが敢え無く発見され、吊るし上げられた挙句に夜の見張りを兼ねてお仕置きの野晒しの刑に処されているのだそうだ。 しくしくとアークが頬を濡らす中、ゆっくりと夜は更けていった。
●ツインテールを追い立てろ それから合流を果たした冒険者たちは二尾狐の姿を探し、森へと足を踏み入れていた。 (「……ああいう尻尾が二本も着いてんのか……何か可愛い生き物に思えるけど……」) ふわりと揺れる無双華・リョウコの狐尻尾を眺めながら、胸中だけで呟くユディール。 「この餌で行動の予測ができれば、発見が楽になりますものね♪」 アペチノや大雷虎・リョウコは持参した食料を設置して二尾狐を誘き出そうとしていた。仲間達もその様子を見守りつつ、草や木の影に隠れて相手の出現を待つ。 それから程なくして、がさりっ、と茂みを割って現れる二尾を持つ狐が二匹。即座に説得を試みようと、ウヅキとユディールが獣達の歌を奏で出す。 「……ここより安全で……食料も豊富な場所が……ありますよ」 「村の畑に出ても怖い目するだけだろコラァッ」 びくりと身を震わせて、「何だっ!?」「いきなり何だよっ!」と警戒の姿勢を見せる二尾狐たち、ビシビシと尻尾から針のような毛を発射する! 「いけない!」 鎧聖降臨を発動させ、キキンっと針を防御するマサカズ。アークも慌てて木の影に隠れて直撃を避けた。どうやら二尾狐たちは警戒し、呼びかけに対しても幾らか興奮しているようだ。 「ちょっと大人しくするにゅ」 ばさりとユーロが粘り蜘蛛糸を浴びせかけてその動きを封じ込めた。拘束状態でも話を聞くことはできる、大雷虎・リョウコは説得を再開すべく獣達の歌を奏でた。 「奥の山には人が居ないので、自由に暮らせます」 「これ以上村に近づくなら……いつかもっと酷い目に遭うかもしれませんの」 山の環境が良いことを告げる大雷虎・リョウコに続いて、アペチノは村に近づくことが危険だと伝える。 「ほれ、山にゃこんな美味い物もあるよ?」 山で野生の狐に聞いた食料を投げながら、ミルミリオンも獣達の歌を奏でて説得する。
それからしばらく、もがいて粘り蜘蛛糸から抜け出した二尾狐たちは食料に近づき……そっと口をつける。 納得したのか大人しい様子だったが……びくりと身を震わせ、再び尻尾から毛を撃ち出してくる! 「諦めないで説得を続けるんだっ!」 ぎぎん、と毛を振り払いながら叫ぶマサカズ。アークは木陰から飛び出して剛鬼投げを仕掛けようと手を伸ばす! 「待って!」 その腕を無双華・リョウコが払い落とした。致命傷を避けるように攻撃するつもりだったアークだが、アビリティに手加減など出来ない。変異狐を傷つけ……警戒心を高める危険がある攻撃力を持つアビリティの使用は、退治が決まってからの方がいいだろう。 「……効果切れですかね」 ウヅキが呟く。粘り蜘蛛糸から抜け出すまでの時間がしばらく経っていたので、獣達の歌の効果が切れてしまったのかもしれない。 「どっちにしろ、人は怖いと叩き込んどかねぇとな」 近くの木を狙ってユディールは気高き銀狼を解き放った。ビクリと驚いて後ろに下がる二尾狐に、冒険者たちはじりじりと向かってゆく。 「……こちらに来るなら、もっと酷い目に遭いますの」 効果が切れればこの会話も無駄になってしまうかもしれない。しかしそれでも、ただ攻撃するのは悲しすぎるとアペチノは獣達の歌を奏でていた。こうやって皆が攻撃するのは、貴方達に移動して欲しいからなのだと。それが伝わればその間だけでも、移動がいくらかスムーズに進むかもしれない。 「一度痛い目見んと分からんかい?」 拳を握って向かってくるミルミリオンに二尾狐は駆け出し……大雷虎・リョウコも斧を振り回して追い立てる。 焦ってばら撒かれた毛の針に身を貫かれながらも、二人は小さく歯を食いしばって止まらなかった。 「そっちはだめ……」 山と違う方向へ向かいそうになれば、ユーロのホーミングアローが地面に突き刺さって軌道修正する。ざくっと目の前に飛来した輝く矢に、二尾狐も慌てて跳び退った。
それからしばらく走り続け……それでも森から山への距離は結構ある。追い掛けられる二尾狐も、追いかける冒険者たちも次第に疲労が溜まっていった。 「まだまだ……選んだ道を全うするまで!」 森羅の息吹で呼吸を整えるマサカズ。丁度鎧聖降臨の効果も切れたようなので、次に発動させるべく集中し始める。 「けど、やっぱ殺したくねーしな!」 どしん、と破鎧掌が岩を突く。岩を盾にして冒険者から身を隠そうとしていた一匹のツインテールは目前で砕かれた岩に驚き、慌ててアークから逃げるように再び走り出す。しかしお返しとばかりに、その尻尾から毛を発射しながらだ! 「ちっ……」 身を貫かれながら木の影に逃れるアーク。毛が刺さった傷口から赤い糸のように血が流れ出していた。ウヅキがヒーリングウェーブで傷を回復させてゆく中、大雷虎・リョウコは雄叫びを上げながら斧『サケルダイチハイラ』を振り上げる! 「はぁぁぁっ!」 その迫力に左右に散る二匹のツインテールだが、ユディールが召喚していた土塊の下僕が脇に逸れるのを邪魔していた。冒険者の狙い通り、ツインテールは残されたルート……真っ直ぐ山の方向へと走りながら尻尾の毛を発射してゆく。ぼろぼろと土塊の下僕が崩れてゆくのを見て、ユディールは再び召喚に取り掛かる。
「悪い狐にゃ、お仕置きだべー」 などと言いながらミルミリオンが術扇を振るう。地面とぶつかる『心』の衝撃波に飛び退いて、ハァハァと肩を揺らす二匹のツインテール。 「それでは……お休みいただきますの」 そこに柔らかな旋律が響き渡り、二匹を眠りに落としていった。眠りの歌を唄うアペチノに小さく親指を立ててウィンクする無双華・リョウコ。 追い立て走り続け……冒険者たちは何とか山奥の手ごろな場所までツインテールを誘導していたのである。頃合を見て「この辺りでいいんじゃない?」と言って二匹をアペチノに眠らせてもらったのだ。 すやすやと寝息を立てるツインテールをその場に残し、あれだけ脅しておけば大丈夫だろうと冒険者たちも山を下り始める。 「念には念を……?」 「そうだな」 少し山を下った辺りでユーロが首を傾げて振り返り、マサカズも頷く。二人は周囲に他の動物が居ないことを確かめて、一本の木の前に立った。 どんっ! とマサカズの拳が叩き、ユーロの弓から雷光の矢が発射される。みしみしと音を立てて、どしんとその木は折れ倒れた。 「なるほど」 「それじゃこっちも!」 ミルミリオンが衝撃を叩き込み、アークの拳が爆発する! みしみしともう一本の木が倒れ、木々は道を塞ぐように横たわる。 道といっても人の手が入っていないこの山のことなのだが……獣道とでも言おうか、森へ抜けて村へと至るには通り易いルートがあった。今回二尾狐を追い立てるのも、山へ調査に向かうのもこのルートを使っている。此処が通れなくなると、村まで下るのは少々手間になるのだ。 「ごめんよ」 倒された木に小さく呟いて、ユディールはこれで山と人里との接触が減れば……と願う。
「まだ悪さをする尻尾が残ってるのかー!」 その帰り道で、ミルミリオンは無双華・リョウコの尻尾に飛びついてサワサワと撫で始めた。「ちょっ! やめてよっ!」と拳を振り上げる無双華・リョウコだが、正面からウヅキが飛びついてその動きを邪魔してきた。 「……楽しそうなこと……してるじゃないですか」 もぞもぞむにゅむにゅふさふさと、ウサ尻尾と狐尻尾と長耳の女性が絡まるその光景に大雷虎・リョウコは思わず目を塞いだ。 「いい加減になさい!」 ごっ! とウヅキの顎を拳で弾き上げ、続いてミルミリオンを蹴り飛ばす無双華・リョウコ。はーはーと息を荒げながら、狐尻尾も上下に揺れる。 「むー……我慢できないにゅ!」 その狐尻尾を目前にし、思わず飛びつくのはユーロだ。「ひゃぁっ!? ……もぅ……」と無双華・リョウコは息を吐き、ユーロの首根っこを掴んで引き離した。そしてキッと振り返る! 「!? ……な、何でも無いデス……ははは……」 手を伸ばそうとしていたアークは鋭い視線に射抜かれて、その場で乾いた笑いを上げていたという。
「どうか、もっと過ごし易い山の奥で暮らしてくださいませね」 山を降りた所で振り返り、そっと呟くアペチノ。ウヅキも何だか満足そうに頷いている。 「気付けてよかった……優しさを思い出せてよかった」 ぐっと拳を握り、力だけが正義ではないと自分に言い聞かせるマサカズ。もう二度とツインテールたちが人と接触することの無いことを祈りつつ、冒険者たちは村へ報告に向かうのだった。
(おわり)
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参加者:8人
作成日:2006/09/18
得票数:冒険活劇8
戦闘1
ミステリ1
ほのぼの2
コメディ1
えっち20
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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