淡月を望む夜陰の夜来香



<オープニング>


「月でも眺めにいかんか?」
 昼行灯の霊査士・ブレントはそう言った。
 聞けば、場所は柔らかな下草の生えるなだらかな丘と丘を半円状に囲むように僅かに隆起した岩肌に薄黄緑色をした甘い芳香を漂わせる蔓植物の夜来香の花がまるで滝のように行く筋も行く筋も垂れ下がり、美しい場所だという。
「たまには、のんびり月を肴にってのも、乙なもんだろう?」
 口の端だけ上げ、笑みを見せたブレントは首の裏を撫で擦り、窓の外を見やった。
 窓の外は昼の明かりが眩しく目を細める。夜になれば静寂と闇が辺りを包み、月光の淡い光と夜来香の甘い香りが優しく迎えてくれるだろう。 

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参加者
NPC:昼行灯の霊査士・ブレント(a90086)



<リプレイ>

 天の丸い金の明かりが闇を淡く照らし輝き、美しい夜。
 金を帯びた柔らかな草。緩く吹く肌寒い風は夜来香の甘い香を運ぶ。
 緑の中、星のような淡いオレンジがかった黄緑色の夜来香の咲く滝の前に集った者たちは皆月を見上げていた。  
 美しい月だと守護者・ガルスタ(a32308)は思う。
 捨ててしまった家族、今の家族。かつての仲間、今の仲間……想いは幾つもある。
 未だ全てを護れるだけの力があるとは言えないが、今の自分には時に肩を並べて戦う家族がいる。
 小さくガルスタは微笑んだ。家族を思い出す時、必ず自分も其処に居る――
 死ヲ想フ子狐・ソル(a37385)は夜来香が覆い茂る壁の前に立ち、月を見上げ戦いに明け暮れた日々が頭を過ぎり、目を閉じる。
「いつからだろう自分が冒険者になりたいと思ったのは……それ以前にどうして冒険者になったんだっけ。自分でもわかんないや……」
 いつからだろう……こんな風になったのは。
 月の光を浴び、ソルは壁に凭れかかった。凭れると、夜来香に体が埋もれ強い香りに包まれる。それは、優しく抱き込まれている様な感覚でソルは胸一杯に香りを吸い込みその場に座り込んだ。
「ほい、月見酒」
 軽い口調で紅炎の紋商術士・クィンクラウド(a04748)から差し出された杯を月蝶宝華・レイン(a35749)は受取る。
 軽く乾杯し、揃って月を見上げた。
 月と夜来香の話を聞いた時、クィンクラウドはレインの事を思い浮かべた。きっと、闇夜も月も花もすごく彼女に映えるだろうと思ったから。
 微笑を浮かべ空を見上げるレインの横顔が月明かりに浮かび上がりとても綺麗で、意識しまいとしていた心が揺らぐ。
(「初デートで意識しねーなんてできねぇ!」)
「はい、クィンさん」
「え、あ。おうっ!」
 慌てて杯を差し出してきた彼にくすりと笑み、レインは酒を注ぐ。
「いい香りね」
 レインが彼の肩に少し凭れかかれば、彼女のネックレスが揺れる。  
 それに気付いたクィンクラウドの目元が少し赤くなり、杯を一気に呷った。
(「クィンさん……大好きよ」)
 彼の肩に頬を寄せ、レインは淡月を見上げた。
 白骨夢譚・クララ(a08850)は果実水の入ったグラスを持ち夜空を見上げる。傍の盆には空のグラスが一つ。
「……地獄で唯一残念なのは、月明かりの骨が見れない事かもだなぁ……」
 あと何回、この月を見上げるのだろうか。そのうち何回、好きな人たちと見上げるのだろうか。
 永遠の命を持つ種族とそうではない種族との時の差が、一瞬でやって来そうで、怖い。それでも置いていくより置いていかれる方がマシだ。自分が、自分だけが我慢したら良いのだから……
(「大丈夫……ボクには骨がある。だから……きっと大丈夫、ですよね」)
 そっと腕の中の白骨を抱きしめ、クララは瞳を閉じた。

 時折吹く夜風は少し肌寒い。
 皆から離れた場所に腰を下ろした砕けること無き不破の盾・ソリッド(a28799)は隠遁者・アリエノール(a30361)の腕を強く引いた。バランスを崩したアリエノールの身体はソリッドの膝の上に抱き締められる。
「冷えるからな」
「あ……はい」
 顔を赤くし、僅かに目を伏せる妻の姿に愛しさが込み上げ、ソリッドは優しくマントを掛けた。
 月を眺め杯を交し合い、ソリッドはアリエノールのお腹を小さく擦った。
 その意図を察し、アリエノールは恥ずかしそうにけれど嬉しそうに微笑む。
「多分、来年の今頃は、貴方はお父様ですわ」
 静かな告白を祝福するようにニュートに似た音が辺りを包む。
 楽風の・ニューラ(a00126)の爪弾く月琴が世界に更に色をつける。
 蒼穹の果てを知る者・アルトゥール(a51683)の持って来たつまみが草の上に並べられ、それを幾人かが囲む。
 その中にブレントも混じり、暫く何人かがブレントに礼や挨拶の言葉を掛けていた声も次第に密やかになる。
「いい香り……」
 枝垂れ咲く花に手を添え、可憐な心を映す蒼と碧の双紋・ウィス(a39971)は目を細める。
 夜来香の小さな花は控えめだが強く香りを放ち、まるで去り行く季節を惜しんでいるかの様だと大地の永遠と火の刹那・ストラタム(a42014)は思う。
 そのまま酒を口に運べば、不意に目の前が滲み月を見上げた。
 秋の香混じる夏の終わりの風に靡く甘い香りはまだ見ぬ伴侶を連想させると猫と紅茶がお好き・ファリアス(a43674)は葡萄酒に手を伸ばす。近くに遠くに見える中睦まじい二人組みに向けていた羨望の眼差しを夜の空へと移せば今宵は月が寄り添ってくれる。
「まるで夢を見ているみたいに綺麗やなぁ」
 着物の袖をふわりと翻し、宵闇に散る花音・オリヴィエ(a54096)は微笑みを浮かべ夜来香に近づく。
 人の影もざわめきも心地よく、香りを吸い込む。
「本当に」
 寝転がり夜来香を真下から見上げるアルトゥールは気持ち良さそうに目を細めた。
 目の前に広がる月夜は広く、ウィスもストラタムも倣って草の海に身を横たえた。
「この香りに包まれた兵士達は戦意を失うという話を聞いたが、本当だろうか」
 赤葡萄酒をブレントに渡し、鍛冶屋の重騎士・ノリス(a42975)は尋ねた。
「そうだな……」
 目を細めたブレントは暫く黙しノリスに目を向けた。
「お前さんはどう思う?」
 黙するノリスに少し意地悪そうな笑みを浮べたブレントは夜来香へ目をやった。
「そう、あって欲しいねぇ。そうでなきゃ、この世界に希望はない気がする」
 そう言ったブレントの横顔をニューラはじっと見る。月の光に照らされた霊査士の顔は見慣れている筈なのに、なぜだか胸が高鳴りそっと瞼を閉じる。
 夜来香の香りは心を落ち着けるというが、きっと嘘なのではないかとニューラは思う。
「どうかしたか?」
 目を閉じていたニューラに気付き尋ねてきたブレントへニューラは花が綻んだような美しく無防備な笑みを浮べた。
「ナイショです」
 そう、ナイショ。このもどかしい想いは本物だけど、側に行くのが怖いから。なのに、岩に寄り添う夜来香のようにずっと側に居られたら良いのに、とニューラは月琴を爪弾いた。

 夜来香の滝と月を眺められる木の根元に腰を下ろした幾穣望・イングリド(a03908)は穏やかな心で微笑みを浮かべる。
 夜風に乗り漂う夜来香の香りは何だか更に匂いが鮮明になったような気がする。昼には聞こえなかった虫の鳴き声も夜になると聞こえてくる。香りも、夜が深くなると鮮明になるのか。
 目を閉じると、香りに包まれたよう。
(「花にとまる虫って、もしかしたらこんな気分なのかもしれませんわね」)
 イングリドは暫く虫の気分を味わう事にした。
「はふぅ……」
 虹降る夜に祈る夢・イーリス(a18922)の小さな溜息が風に流れ、膝を抱えて月を眺める。
「早く月からお迎えが来ぬかのぅ。きっと妾は間違って地上に生まれて来たのじゃ」
 勿論、本気でそんな事を思ってはないが時折とても物悲しくなる時もある。
 抱いた膝に頬を乗せ、目を閉じていたイーリスは目を開ければ傍に居た筈のペットの黒兎がいない。
 周囲を見渡すと夜来香の滝に埋もれるように丸くなっていた兎が赤い瞳を向けていた。
 月光を受けて淡く輝く風景に感嘆の声をあげ、イーリスは暫し見惚れた。
 銀河に響く希望の歌声・ジーナス(a28981)は月に目を細める。
「お月様って、ティアの金の目に似てますよね……優しくて純粋で」
 膝の上で丸くなり眠る小鳥の背をそっと指で撫で、肩の青い模様の小鳥に語りかける。
 子守唄を口ずさめば柔らかな唄に肩の鳥は気持ち良さそうに目を細めた。
 手当てをしてもちゃんと飛べない青い小鳥。今の自分に似ているかもしれないと、唄を口ずさみながら月を見上げジーナスは思う。
 それでも……
「ティオ、少し頑張ろうか?」
 頷く様に青い小鳥が小さく鳴いた。

 月眺める探求者・エミリオ(a48690)はワインボトルに入れたジュースを緋蓮の双剣士・クレス(a35740)に掲げて見せた。
「用意がいいね、エミリオは」
 笑うクレスはそういや、と言う。
「二人で出掛けるの初めてだっけ?」
「そうですね」
 グラスにジュースを注ぎ合い、エミリオは真摯な眼差しをクレスに向ける。
「……色々ありましたね。クレスには、感謝をしているんですよ。貴方の誘いがなかったら冒険者としての私はここにはいなかった。有難う御座います」
 頭を下げたエミリオにクレスは目を見開き驚きの表情でそんな大袈裟な、と苦笑を浮べる。
「エミリオに礼を言われるのって何か変な感じだな」
「私だってお礼くらい言いますよ」
 苦笑を返すエミリオにクレスは少し真顔になる。
「旅団結成した時、最初に入団届けを出してくれたのはエミリオで、あの時は本当に嬉しかった。俺の方こそありがとう。出会えて良かったって思ってるぜ」
 互いへの感謝と礼は尽きぬ。
 グラスを軽く合わせた。――これからも、宜しくと。
 月光の下で薄い本を読み終えた探求する銀蒼の癒し手・セリア(a28813)はそっと閉じ、空を見上げた。
 薄い雲が月の前を横切り流れていく。
 口当たりの柔らかな酒を喉に流せば甘く、辺りを見渡せば見知った顔が仲良く寄り添い月を見上げている。
 平穏な時間。
 なんて自分は幸せなのだろうかとセリアは微笑みを浮かべた。
 月は誰の上にもあって、いつも同じ様にそこにあり続けている。
 しかし、世界は変わり続けている。
(「俺も、変わったのかなぁ?」)
 天焔ノ徒・ゼクト(a38424)は酒を口に運び、口元を緩めた。
(「変わったんだろうなぁなんせ……フフ」)
 何かを思い出し、声を殺して笑う。
 旨い酒だ。淡く輝く月もまた、良い。ゼクトは月に杯を掲げた。

「綺麗だね、シェラさん」
 楽しげな声音で、ブラッディーナイト・バルバロッサ(a40314)はクールな顔をして座っている涼しげな・シェラ(a42273)に言った。
「そうね」
 一人でのんびり酒を飲んでいたシェラは実に素っ気無い。
 それでもバルバロッサは笑顔で持って来たフルーツケーキと赤ワインをシェラの前に置いた。
 それを摘むシェラを目の前の男は笑顔のまま見ている。
「シェラさんとこうして出かけるのも久しぶりだね。月夜のせいか、いつもと違って見える……なんてね」
 言ったバルバロッサをじろりと睨むシェラの顔に僅かに朱がさす。
 二人の間に沈黙が流れ、シェラの隣へと腰を下ろしたバルバロッサは月を見上げ、そっと手を握ると恥ずかしそうに笑みを浮かべ、また来ようね、とシェラに言った。 
 シェラは顔を赤くし怒った顔をする。
「……恥ずかしい事は止めなさい」
 振り解いた手は緩く、そっぽを向いたシェラはそれでも偶には一緒にのんびりするのも悪く無いかと、バルバロッサに見えないように小さく笑みを浮べた。
 甘い芳香は静かな夜を穏やかに彩る。
 青き荊棘・アイラ(a44254)は額に手を当て、動かない。
 先程まで控えめな香りの清酒を飲んでいたのだが、酔ってしまったのかもしれない。それでも、酔う程に頭は変に冴えてきて離れた場所で月明かりに照らされている夜来香を眺めていた。
 最近少し考えすぎたり、気を張りすぎたりしてしまっていた。こんな夜くらい、甘い月光と芳香に溺れて忘れてもいいだろうか。
 ゆっくり体を草の海に横たえ、アイラは震える息を吐き出した。
 吐息は草を揺らし、風が流れる。
「……素敵な場所ね……」
「あぁ、そうだな」
 叢に翳む月の魔女・ドーリス(a22835)の密やかな囁きに、叢雲の重騎士・ガルガルガ(a24664)は静かに頷く。
 ただ二人並んで月を見上げ、夜の香りに夜来香の香りに包まれる。
 それだけで、幸せな気持ちが胸に溢れた。
 何か、話をした方がいいかとドーリスは思うが、何を言うべきか分からない。ただ、ガルガルガの横に居られるだけで充分だった。
 なんと素っ気無い、と思うがこれが自分という人間なのだから仕方が無い。
 ドーリスはガルガルガの肩に頭を預けた。
 ガルガルガも特に何も言わず、二人だけで過ごす時間が嬉しくガルガルガの手がドーリスの手を優しく包み込み、いつしか二人の指は絡まり合い強く繋がった。

(「間に合わなかったか……残念」)
 苦笑し見上げた月は優しく輝き、紅焔舞う夢幻之宵天・オキ(a34580)は知らず小さく溜息を吐いた。待ち人は来ず、少しだけ心に空洞を感じる。それでも薄く笑みを浮べているのは、それが染み付いてしまっているから。
 美しい月の夜は最後の逢瀬を想い出す。安心させる為だけに微笑んだあの日から常に笑う事で誤魔化してきた。辛い事も、哀しい事も、苦しい事も……全部。
「僕は、大丈夫だよ……」
 あの日の台詞をオキはそっと呟いた。 
「もう秋なのですわね」 
 月白風清・レム(a35189)は月を見上げ、ふるりと小さく身を震わせた。
 寒いのではない。暗闇が苦手で月明かりの届かぬ闇に心が震えた。けれど、今夜は大丈夫。夜空には月が見守っていてくれている。
 最近は月をゆっくり見る機会も減ってしまった。
 沢山の仲間に囲まれ、充実した日々に月がある事を忘れていた。
 だから、今日は月を見に来たのだ。
 月を眺め、胸いっぱいに香りを吸い込めば、甘い芳香に酔えるような気がする。
 水面に映る黄金の焔・リア(a45123)は水晶柱を月に翳す。
「こう……な」
 水晶柱の位置を加減して儚き花・セラフィン(a40575)に示す。水晶柱の中に淡い月の光が閉じ込められ、まるで水晶が淡く発光している様に見える。
「まぁ。綺麗でございますね」
 うっとりと瞳を細めるセラフィンにリアは水晶を手渡す。
「気に入ったのならやってみるか?」
 水晶を受取ったセラフィンの微笑みはどこか儚げで、その横顔をリアは見る。
 最近セラフィンは疲れて心が弱くなっている様に見える。今夜誘ったのも、そんな彼女の気が少しでも晴れてくれればと思ったから。
 セラフィンはリアへ顔を向けると水晶柱を胸に抱き、彼女の手を取り立ち上がる。
「リア様、夜来香の滝の側へ参りましょう。花の近くで月を見れば尚更に素敵でございましょう」
「あぁ」
 しっかりと繋いだ手の暖かさにセラフィンは穏やかな微笑みを浮かべた。 

「ブレントさん」
 淡い紫のドレスを身に纏った虹霓・ルーネ(a33126)は憧れのかの人を真似て一礼をした。
「おお、ルーネ」
 笑みを浮べた霊査士にルーネは持参した酒を注ぎ、両手を突き出した。
「ずっとお渡ししようと思っていた万年筆をお渡ししますなぁ〜ん」
 差し出されたアンティークの万年筆は月光に淡く輝き、ブレントは目を見開いた。
「いいのか?」
 頷いたルーネは感謝の念を口にする。
 身勝手な振る舞いだったあの時の自分にブレントの優しさは救いだったと。
「本当に本当に有難う御座いましたなぁ〜ん」
 頭を下げたルーネにブレントは優しく頭を叩いた。
「俺に出来る事といやぁ見守る事くらいだからな……良く、頑張ったな」

 優しく風が吹き、淡い夜は更けていった。


マスター:桧垣友 紹介ページ
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作成日:2006/10/04
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