<リプレイ>
●絶壁 ホワイトロックの断崖に刻まれた一本の道を、冒険者の一団が登っていく。 彼等の前に立ち塞がるのは、ホワイトロックを警備するギア部隊。だが、集団で遭遇するならまだしも、岩壁に備え付けられた通路に点々と配備されたギアでは、彼等の勢いを押し止めることは出来ない。 「この戦いはエンジェルさん達の平穏だけじゃなく、危険に向かう仲間の命も懸かっているんだ。絶対に負けられないぞ!」 立ち塞がるギアを聖なる一撃で粉砕しつつ、鋼鉄の乙女・ジル(a09337)は意気込んでいる。 それでも、起き上がり攻撃を仕掛けてくるギアには、赤烏・ソルティーク(a10158)の放ったエンブレムシャワーが叩き込まれていた。 「すみませんが、通してもらいますよ」 言いながら、彼は周囲を警戒する。 断崖を警備するのはギアだけではない。壁面すら自由自在に移動し攻撃を仕掛けてくる強化型ギアが控えているという。今の所、それらしい姿は見当たらないが、用心に越したことはない。 だが、まずは目の前の敵を排除するのが先決である。 「邪魔ですわ!」 自然の使い人・ラーレ(a16657)の解き放った、ミレナリィドールと融合し虹色に輝くエンブレムシャワーが、立ち塞がるギアを貫いていく。 残ったギアには、翠嶂の翔剣士・マーガレット(a28680)の優雅な一撃が止めを刺していた。 活動を停止したギアが、勢い余って崖下へと転落していく。 「いくよ!」 それに構うことなく、目の前の敵を排除し道を切り開いたマーガレット達は、ホワイトロックの上部を目指して通路を駆け上がっていた。 (「ホワイトロック……ギアの巣窟になっていたなんて」) 海水で満たされた海のないホワイトガーデンにて、エンジェルが岩塩を採取するためのホワイトロックが、ギア部隊の駐留する隠れ家になっていたとは……エンジェルにとっての生命線が、忌まわしきギアの補給基地になっていたのは、彼等にとっては皮肉だろうか。 ここから、どれだけのエンジェル達が拉致され、最前線へと送り込まれたのだろう。 物思いに耽っていられたのは、しかし、一瞬でしかなかった。 「マーガレットさん、前!」 ジルの言葉に確認すると、前方には今までに遭遇した数より多い十数体のギアの集団が待ち受けている。 どうやら、戦力を集中して迎え撃つつもりらしい。 しかも、それだけではなかった。 「何か……来ます!」 壁に手を当てて震動を感知していたラーレが、何かに気付いて警告する。 垂直に切り立ったホワイトロックの壁面を、ハエトリグモのように器用に降下した何かは、凄まじい勢いで音を立てて彼等の中央と後方の間に降り立っていた。 「……っ、ややこしい状況になってるな」 降り立つ勢いを利用し、そのままのし掛かろうとする強化型ギアの攻撃を辛くもかわしながら、霧よりの使者・ミストリード(a16661)は距離を確保する。 大地の碧樹・クリス(a27299)もイリュージョンステップを発動し、強化型ギアの着地点から飛び退いていた。 「この前と同じ奴だな……!」 強化型ギアの外観に見覚えがあるのか、クリスが思わず言葉を洩らす。 降り立った強化型ギアは、複数の手足を巧みに操りながら、巨大なハンマーを手に襲い掛かっていた。 「来るぞっ!」 振り下ろされる巨大なハンマーを回避しながら、クリスは音速の衝撃波を解き放つ。 剣の一振りによって生み出されたソニックウェーブは、強化型ギアの分厚い装甲を貫き通し、確実にダメージを与えていた。 そこに、流天の護竜・シア(a02373)の暗黒縛鎖が襲い掛かる。 「いきます!」 解き放たれたエゴの鎖は、一直線に突き進み目標を絡め取ろうとしていたが、強化型ギアは鈍重そうな外見に似合わぬ身軽な動作で飛び退くと、壁面に張り付き攻撃をやり過ごしていた。 「器用だな……」 後方から様子を確認しながら、思わず感心した口調で呟きつつ、深緋の蛇焔・フォーティス(a16800)は仲間へと鎧聖降臨を施していく。 一方、強化型ギアを挟み込む形で対峙しながら、世界の剣・チャチャ(a26705)達も攻撃を開始していた。 「いきますわ!」 言いながら、チャチャはファイアブレードを叩き込む。 振り下ろされる炎の刃を、しかし、強化型ギアは巨大なハンマーで器用に受け止めていた。 何処に目が付いてるのか、こいつには見て取れるような死角はないらしい。 「当たれっ!」 反動でマヒするチャチャをフォローするように、漆黒の雷閃・クオン(a35717)は影縫いの矢を撃ち出していた。 しかし、ペインヴァイパーの力により強度を増した一撃も、当たらなければ意味がない。 「だったら、これならどうだい?」 そこに、空を望む者・シエルリード(a02850)の放った緑の業火が襲い掛かり、強化型ギアの全身を燃え盛る炎が包み込んでいた。
●回廊 ホワイトロックの壁面に備え付けられた通路は、荷車の運用を想定した比較的広い作りになっているが、それでも、簡素な柵があるとは言え片側が断崖絶壁になっているのは落ち着かない。 まるで、空中回廊のような戦場で、冒険者は足場に注意しながらの戦闘を余儀なくされていた。 対するギア部隊も条件は同じであるが、こちらは気にした様子もない。 「緑の突風でも用意しておけば良かったでしょうか……」 もしかしたら面白いことになっていたかも、と頭の片隅で考えながら、ソルティークはギアの密集している場所にエンブレムシャワーを叩き込む。 ラーレの放ったエンブレムシャワーもそれに続き、ギア部隊の隊列が崩れたところに、ジルが切り込んでいく。 幸い、一本道という条件も手伝ってか、直接刃を交える敵の数こそ少ないため、少人数でも何とか対処出来そうである。 「ガンディーニ、敵に死角を与えるなよ!」 ジルはダークネスクロークにてギアの攻撃を受け流しながら、彼等の攻撃から後衛を守っていた。 マーガレットも薔薇の剣戟を駆使し、ギアを仕留めていく。 とは言え、一体倒せばまた一体と、次々と押し寄せるギアの攻撃に、肉体も精神も休まる暇はない。 「厄介だけど……突破されるわけにはいかないのよね」 後方では、強化型ギアと冒険者との激闘が続いている。そのような状況下で、余計な横槍を入れさせるわけにはいかないだろう。 言いながら、マーガレット達は目の前のギア部隊を見据えていた。 一方、強化型ギアと戦う者達も、苦戦を強いられている。 何しろ、見た目こそパワー重視の印象にもかかわらず、強化型ギアの繰り出してくる攻撃はトリッキーなものばかり。狭い通路をものともせず、逆に壁面を利用して死角からの攻撃を繰り出したり、かと思えば、自在に回転する上半身を利用して二本の巨大なハンマーを振り回し、周囲の冒険者に叩き付けていた。 その度に、銀雪花・イーリス(a18133)は癒しの波動を解き放ち、仲間の回復に努めている。 「大丈夫か?」 黒炎覚醒に裏打ちされたヒーリングウェーブが包み込み、強化型ギアに付けられた傷を塞いでいく。そうしながら、彼女は周囲への警戒も怠らない。 だが、今の所、他のギアが乱入してくる気配はなかった。 反対側からは、フォーティスのデモニックフレイムが撃ち込まれる。 「焼き尽くせ……!」 燃え盛る悪魔の炎が強化型ギアに食らい付き、分厚い装甲を焼き払う。抵抗らしい抵抗も出来ずに藻掻く強化型ギアに、シアの暗黒縛鎖が襲い掛かっていた。 解き放たれたエゴの鎖は、強化型ギアの手足に絡み付き、今度こそ身動きを封じ込める。 「ミストリードさん!」 「任せろ!」 シアの言葉に応じるように、ミストリードは虚空から取り出した不吉な絵柄の描かれたカードを投げ放つ。しかし、バッドラックシュートは強化型ギアの装甲を切り裂いたものの、本来の力を発揮することはなかった。 「やはり、そう簡単にはいかないか」 手にした槍を構え直しながら、ミストリードは強化型ギアに向き直る。 強化型ギアは全身の手足を駆使し、絡み付いたエゴの鎖を力任せに引きちぎると、冒険者への攻撃を再開していた。 巨大なハンマーが振り下ろされる。 一撃を受け損ね、クリスの身体が地面に叩き付けられていた。 「……っ!」 辛うじて、意識は保っているものの、全身が悲鳴を上げている。 慌ててフォーティスがヒーリングウェーブを放ち、どうにかクリスも立ち上がるが、万全とはいかない。 それでも、攻撃を続行する。 放たれた音速の衝撃波が強化型ギアの分厚い装甲を貫き、ダメージを与えていく。 再度、壁面に張り付き距離を取ろうとする強化型ギアに、反対側からチャチャのレイジングサイクロンが叩き込まれていた。 「させませんわ!」 闘気の暴風が渦巻き、岩壁を容赦なく叩き付ける。撒き散らされた塩の結晶が陽光を受けてキラキラと舞い散り、強化型ギアも地面に崩れ落ちていく。 「そこだっ!」 そこに、クオンの貫き通す矢が撃ち込まれ、ウェポン・オーバーロードの力を受けた矢は強化型ギアの分厚い装甲を貫通し、ダメージを与えていた。 アビリティの反動でマヒしたシアやチャチャには、シエルリードが高らかな凱歌を奏でると、身動き出来ない彼等をマヒの呪縛から解き放つ。 だが、強化型ギアの攻撃は容赦なく襲い掛かる。 それにより、仲間が一人二人と倒れるが、それでも、冒険者は道を切り開くために必死に戦い続けていた。
●発見 ギア部隊との戦闘も、終わりが近付いている。 「もう少しです、頑張りましょう!」 襲い掛かるギアを緑の業火で撃ち抜きながら、ソルティークは仲間を激励していた。 ギア部隊は最初の頃から比べると数を減らしていたが、それでも、絶え間なく攻撃を繰り返している。 その中から、ギアの撃ち出した銛のような武器が、ラーレの肩口を貫いていた。 「……くっ、すみません」 度重なる攻撃に疲弊していた彼女に、それを耐えきる力は残されていない。 倒れ込むラーレを庇いつつ、ソルティークは後退する。 「よくもやってくれたわね!?」 その間にも、マーガレットは音速の衝撃波を解き放ち、ギアを撃ち抜いていた。 そこに、ジルのホーリースマッシュが叩き込まれ、積み重なったダメージにギアは活動を停止する。 「あと、三体っ!」 次なる標的を見据えながら、ジルが意気込む。残されたギアが完全に駆逐されるのも、時間の問題だった。 一方、強化型ギアとの戦闘も佳境に突入している。 「ちょこまかと……油断なりませんわ!」 言いながら、チャチャは壁面から攻撃を繰り出してくるギアを迎え撃っていた。 そこに、シエルリードの緑の業火が撃ち込まれ、強化型ギアの巨体は燃え盛る炎に包み込まれる。 ミストリードも飛燕連撃を繰り出し、攻撃を続行していた。 だが、強化型ギアはまとわりつく炎を振り払い、次々と襲い掛かる気の刃を弾き飛ばしながら、必死に応戦している。 叩き付けられる鋼鉄製の巨大なハンマーを、ミストリードはギリギリで受け止めていた。 鎧聖降臨の加護が、凄まじい衝撃から彼を守りきる。 「……っ、てめぇの相手をしている暇はないんだ!」 彼の視線の先には、倒れたラーレの姿があった。 気になって付いてきたものの、いざというときに何も出来ないのが悔やまれる。 だが、焦れば焦るほど、時間は流れていく。 「貫け、雷!」 クオンが咄嗟にライトニングアローを放ち、強化型ギアの腕を撃ち抜いていた。 「……いけぇーっ」 そこに、クリスがソニックウェーブを撃ち込み、積み重なったダメージに強化型ギアの腕が切り落とされる。 だが、元から何本もあるため、気にならないらしい。 強化型ギアは壁面に駆け上がり、側面から巨大なハンマーの一撃を繰り出してくる。 それに、チャチャの身体は吹き飛ばされていた。 「もう少しなんだが……」 即座に癒しの波動で彼女のダメージを回復しながら、イーリスは強化型ギアを見据えている。 先程切り落とした腕だけではない。 冒険者の度重なる攻撃に全身は傷だらけになり、それでも、強化型ギアは最後の抵抗を続けていた。 だが、それもそこまで。 「……来たようだな」 イーリスが不敵な笑みを浮かべると同時に、彼女の後方から放たれた気高き銀狼が、ホワイトロックの壁面を駆け上がりながら強化型ギアに躍り掛かっていた。 ペインヴァイパーの力に強化された気高き銀狼は、何倍もの体格の強化型ギアを押さえ込んでいく。 「お待たせしました!」 「ちょっと遅くなっちゃったけどね!」 気高き銀狼を放ったソルティークの言葉に続き、チャチャと入れ替わるように駆け寄ったジルが、身動き出来ない強化型ギアに聖なる一撃を叩き込んでいた。 さらに、マーガレットの放った音速の衝撃波が、分厚い装甲を貫通していく。 それでも、強化型ギアは最後の力を振り絞り拘束を振りほどいていた。 だが、しかし。 「遅いですわ!」 ようやく立ち直ったチャチャが、強化型ギアにファイアブレードを叩き込む。 燃え盛る炎の刃は、体勢の整わない強化型ギアの防御を打ち破り、分厚い装甲を焼き切っていく。 その場に居合わせた者達が固唾を呑んで見守る中、強化型ギアは巨大なハンマーを地面に取り落とすと、それっきり動かなくなるのだった。
活動を停止した強化型ギアの中からエンジェルの青年を救出した一行は、周囲を警戒しつつ再度岩壁に刻まれた通路を登り続ける。 そうして、頂上付近に辿り着いた彼等は、周辺一帯を調査して人が通れるほどの通気口を発見していた。 「ここ、みたいね……」 そこには、やや傾斜のある横穴が穿たれている。 その奥に待ち受けるのは、果たして何なのだろう……疑問は尽きないが、それを調べるのは彼等の役目ではない。 「……無事に帰って来いよ!」 クリスの言葉に送り出され、ホワイトロックの内部の制圧を担当する冒険者グループは一人一人と通気口から侵入していく。 だが、彼等を見送っても、冒険者に休息の二文字はない。 「まだ、仕事が残っているな」 イーリスの言葉に振り向くと、何処から集まってきたのか、数体のギアが姿を現していた。 やれやれ、と言った様子で、彼等は各々の武器を構える。 これでは、彼等の無事と作戦の成功を祈っている暇もないだろう。 ホワイトロックに侵入した冒険者、それが吉報を携えて帰ってくるまで、彼等の戦いは終わりそうにないらしい――。

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参加者:12人
作成日:2006/10/02
得票数:戦闘22
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冒険結果:成功!
重傷者:流天の護竜・シア(a02373)
自然の使い人・ラーレ(a16657)
死亡者:なし
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