略奪される命の糧



<オープニング>


●西からの凶報
 西方から届いた報告は同盟全体に大きな衝撃を与えた。
 それは、同盟諸国西部の城塞都市レグルスが、リザードマンの襲撃により陥落したという凶報であった。
 城塞都市レグルスは、同盟諸国の西の要として難攻不落を謡われていたのだが、それも、列強種族の侵攻の前には、あまりに脆かったのだ……。

 ランドアース大陸東方は、列強種族が抗争を繰り返す大陸中西部から隔絶し、数百年の平和な時代を過ごしてきた。
 しかし、その平和が破られる時が来てしまったのだ。

 列強種族リザードマンの侵略。

 レグルスを陥落させたリザードマンの軍勢は、そこを拠点として周辺地域への侵攻を開始した。
 既に同盟諸国の西方では、幾つもの村が襲われており、リザードマンに占拠された村々では、とても酷い蛮行が繰り返されている。
 また、略奪した食料や財貨はレグルスへと運び込まれ、大規模な戦いの準備も行われているらしい。

 この状態を放置する事は出来ない。
 冒険者の皆は、霊査士からの情報を確認し、占領された村々の開放、或いは、略奪の阻止に向かって欲しい。

 希望のグリモアの冒険者達よ、このリザードマンの魔の手から人々を救うのだ。


●命の糧
 酒場に持ち込まれた依頼を霊査するため、ちょうど酒場でジュースを飲んでいたルラルに小さな金属が渡された。それはリザードマンの鎧から落ちた小さな欠片。
 酒場にいる人々に注視される中、ルラルは欠片を握りしめる。
「リザードマンさんは2人。食料を調達する為に村を回っているみたい。この村にも、空っぽの荷車を引いてやってきたの。いっぱいに食料を積み込んで帰るために……」
 この村に来たリザードマンの目的は食料略奪。抵抗する相手には容赦なかったが、抵抗しない村人を傷つけることはなかった。それでも村にとって有り難い来訪者とは言えない。
「リザードマンさんに食料を持って行かれたら、村の人が食べるものがなくなっちゃう。村の人は食料を村の一番奥にあるウルスさんの家に隠すことにしたの」
 食料はリザードマンの目を盗み、ウルスの家の床下に運ばれた。村人がしばらく食いつなげるようにと。
 食料の確保と同時に、酒場にも人を走らせ、冒険者たちの応援を頼むことにした。
「誰かこの村に行って、リザードマンさんが大人しく帰るように……あっ!」
 依頼を告げかけたルラルは、急に大きな声をあげた。
「食料をウルスさんの家に運ぼうとしてる村人がリザードマンさんにみつかっちゃった! リザードマンさんに『食料をどこに持って行くつもりだ』って聞かれてる。でもその人は、みんなに迷惑をかけたくないから、じっと黙ってる……。リザードマンさんはその人を捕まえて、村の広場に引っ張って行こうとしてる……。どうするつもりなのかな……」
 これ以上は判らない、とルラルは金属片をテーブルに戻し、酒場にいる冒険者たちを見上げる。
「この依頼を受けるなら急いであげて。怖いことが起きないうちに、リザードマンさんたちをなんとかしないと……」

マスター:香月深里 紹介ページ
 大陸にリザードマンの影がさしています。各地で見られるこの動きはこれからどうなってゆくのでしょう……。

 この依頼の成功条件は、『村人に死亡者を出すことなく、リザードマンを村から去らせること』。
 このリザードマンは食料調達係をする下っ端なので、それほど強くはありません。戦う場合は、捕まっている人をどうするか、が一番の課題になりそうです。
 戦わずとも、村に隠してある食料をすべて差し出して嘆願すれば、このまま村から立ち去ってくれる可能性もあります。こちらの場合は、冒険者としてのプライドと、村人の感情が課題になるでしょう。

 これが皆さんとリザードマンのファーストコンタクト。無事に依頼を終えられるように頑張ってくださいね〜。

参加者
求道者・ギー(a00041)
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
神殺騎士・サファイ(a00625)
堕落した・アーテイ(a01201)
銀鷹の翼・キルシュ(a01318)
蜂蜜騎士・エグザス(a01545)
紫尾の発破娘・スイシャ(a01547)
見知らぬ旅人・ラファエル(a02286)


<リプレイ>


「みんな、これ持って行ってくれ」
 共に村に向かう冒険者の前に、邪竜導士・アーテイ(a01201)はかき集めた食料を並べた。
 村人を救うためには一刻も早く村に行かなければならない。荷物が多くなればその分身軽さが失われる。
 作戦とスピードとを秤に掛けながら、冒険者たちは少しずつその食料を携帯し、村へと急いだ。

 ヒトの吟遊詩人・ラジスラヴァ(a00451)は皆とは行動を共にせず、別ルートで村に向かい、その中に紛れ込んだ。
 自分が冒険者であることを明かし、怯える村人を落ち着かせる。
「今、仲間たちが皆さんを助けるためにありとあらゆる手を尽くしています。ですから、すみませんが私たちの言うとおりにしていただけませんでしょうか」
 何も知らずに見れば、村人の目に冒険者たちは見知らぬよそ者と映る。
 冒険者たちが何をしようとしているのかを理解していないと、村人に思わぬ行動に出られることがないとはいえない。
 ヒトの武人・ギー(a00041)もアーテイが食料を集めるのを待たず、村に急行していた。村長の元を訪れ、村が隠している食料の提供を求める。
「食料の重要性は理解しているつもりだが、ここは村人の生命の為、協力を願いたい」
 村長は迷う様子もなく、ギーに同意する。
「はい。村人が人質に取られた以上、食料を渡すことは覚悟していましたから。……ただし、必ず村人を無事に取り戻して下さると約束して下さい」
 冒険者に委託することにより、食料を奪われるよりも悪い事態になることのないようにと、村長は頭を下げた。

 ヒトの重騎士・エグザス(a01545)は村に入る前に付近の捜索に当たっていた。同時に起きている事件から見て、この村に2人しかリザードマンがいないというのは恐ろしく不自然だ。
 どこかに本隊がいるのだろうが、村周辺という推測だけでその位置を突き止めることは困難だった。リザードマンを泳がせる、あるいは総出であたれば発見できたかも知れないが、エグザス1人での捜査では、本隊の位置を特定することは出来ず。
 すぐに救援に駆けつけられる場所にいないことだけを確認すると、エグザスは食料を運んできた仲間と合流する。
「どうやら俺の取り越し苦労だったようだな。2体だけなら何とかなるだろう」
「じゃあ交渉開始といきましょうか」
 時間の余裕もないことだし、とストライダーの武人・ラファエル(a002286)はリザードマンのいる場所へ足を急がせた。


「大人しく食料を出せ。さもなければ……」
 リザードマンは食料を抱えたままの村人の首根っこをつかみ、広場に突き出していた。本人が口をわりそうにないので、それ以外の村人から聞きだそうというのだろう。
 言うべきか言わざるべきか。村人は村長の顔を探しながら囁き交わしている。
 そこに、ギーが進み出た。
 ぴりっ、とリザードマンの間に緊張が走った。瞬時に臨戦態勢を取るのは、さすが冒険者というべきか。
 ギーはリザードマンを刺激しないように気を付けながら、帯びていた長剣を置き、両手を広げて丸腰であることを示した。
「碧鱗の戦士、誇り高き一族よ。願わくば武器を下ろし給う」
 リザードマンを優れた種であると認め、敵対ではなく交渉しようという意思表示を見せると、リザードマンたちは警戒は全く解かないまま、ギーをじろりと見やった。
 褒めてもおだてに乗る様子はない。油断なく周囲にも目を走らせるため、村人の間に紛れている冒険者たちも動きにくい。
「そちらが要求しているのは食料とのこと。ならば、食料を差し出せば村人は解放してくれるのだな?」
 尋ねるギーに、リザードマン2人はちらりと目を見交わす。
「ああ。だがコイツを解放するのは俺たちが完全に村を離れてからだ」
 相手が冒険者ならば、リザードマンも保身を考える。リザードマンは人質にしっかりと腕を回した。
 そこに、村娘に扮した紫尾の発破娘・スイシャ(a01547)が、食料を満載した荷車に付き添って現れた。
「食料を持って……き……ました」
 言葉がややぎごちないのは、うっかりいつもの口調が出てしまわないように注意している為だが、端から聞けば怯えているかのようだ。
「そこにある芋を食べてみろ」
「……え?」
 リザードマンに言われ、スイシャは躊躇った。が、次に促されると仕方なく芋を口に運ぶ。もちろん料理などされていない生の芋だ。
 がりり、と芋をかみ砕く音。
 スイシャとその周囲の様子を窺っていたリザードマンは、スイシャが一口分の芋を飲み下すと、もういい、と手を振った。
「食料におかしな真似はしていなさそうだな」
 さて、どうするか、というように表情をひきしめるリザードマンに、ギーのマントをぎゅっとつかみ、その背中から少しだけ顔を出したラファエルが呼びかける。
「リザードマンさん、ギーくんが下手に出てるうちに対応した方が正解よ。本気になればグドン5匹を倒す強者なんだから」
 思いっきり腰は引け、怖々といった様子なのが見え見えだ。
 ラファエルは弱々しい声で、なおも喚く。
「こちらの言うことを聞きなさい〜」
 あまりの情けなさに、はふ、とリザードマンが失笑の息を吐く。
 その瞬間。
 人質を捕らえているリザードマンの背に黒い炎の蛇が飛んだ。
「村人はこの場から逃げろ!」
 叫ぶアーテイのブラックフレイムを皮切りに、一斉に皆が動いた。
 スイシャはリザードマンと人質との間に身体を割り込ませ。
 ストライダーの翔剣士・キルシュ(a01318)はリザードマンと広場を取り囲む村人との間に立ち塞がり、新たな人質を取られないための壁となり。
 ザッと砂礫が巻き起こり、冒険者と村人の視界を奪い、肌を擦った。
 それでもスイシャは人質を抱えて放さない。
 ラジスラヴァの眠りの歌が戦場となった広場を押し包み、さっきまで人質を捕らえていた方のリザードマンが眠りへと引き込まれる。
 人質を取っていなかった方のリザードマンには、村人の間に身を隠していた神威剣の・サファイ(a00625)の飛び出しざまの居合い斬り。十分タイミングを練り、リザードマンの死角を見極めていた一撃は、ざっくりとリザードマンに食い込む。
 地面から剣を拾い上げるギーの背後から、ラファエルがリザードマンに駆け寄りざま、こちらは足を狙って居合い斬りを叩き込む。
 リザードマンはこれをかわしてラファエルに拳を叩き込み、よろめきながらも横飛びに飛んだ。
 眠っている仲間を残し、そのまま逃走にかかろうとするリザードマンの前に、メイスが突き出される。
「悪いが通行止めだ」
 リザードマンの走ってきた勢いとエグザスのこめた大地斬とが相まって、その一撃はリザードマンを昏倒させる。
 眠っていた方のリザードマンは、ギーに斬りつけられた痛みで目覚めた。
 両手でじりっと後退るリザードマンに、キルシュは敏捷にレイピアを突きつける。
「もう観念した方がいいと思うよ」
 キルシュは目で、リザードマンの背後に剣をつきつけているサファイ、人質を確保しているスイシャ、すぐにでもブラックフレイムを放てる体勢で待機しているアーテイを示した。
 リザードマンはぐっと口を引き結んだ。が、ここで動くのは自殺行為であるのは明らか。
「………………」
 リザードマンは無言のまま、握っていた武器から手を放した。


 リザードマンの撃破を終えると、アーテイは持ち込んだ食料を村長に渡した。
「大変だったねェ。この食いモンは置いてくよ」
 村の受けた被害のせめてもの助けだ。
「他に仲間はいるのでござるか?」
 質問をリザードマンは黙殺されたスイシャは、苦笑して村内外の見回りに出た。
「キミの名前は? 所属する部隊はどこにいるの? そもそも、どうして侵攻してるのかな?」
「リザードマンとドリアッドとの戦況はどうなっているんだ?」
 キルシュとサファイ質問するが、それにもリザードマンは鼻を鳴らした。
「答えると思うか? そちらも冒険者だというのなら、その誇りは判るだろう。捕虜にするというならするがいい。尋問でも拷問でもするがいい。だが俺は何も喋らん。グリモアの名誉にかけて」
 どの種族もそれぞれのグリモアの前で、冒険者となる。その目指すものに向かって努力することを誓い。グリモアが奪われた時にはモンスターとなる危険をその身に引き受けて。
 だから、冒険者を捕虜にすることは、捕らえる側にとってリスクが大きく、そしてまた得られる情報は期待できない行為だ。
「……あとは円卓の仕事ね。この2人は仕事に忠実以上のことはしていないのだから」
 私たちは拷問尋問をすべきではない、とラファエルはリザードマンに問いただすことをやめた。
 捕虜になりながらも冒険者としての立場をとり続けるリザードマンを見ながら、エグザスはひとりごちる。
「……こいつらは何故食料を集めていたのだろう。レグルスにも食料の備蓄くらいあるだろうに。……やはり近々本隊が来ると考えるべきか」
 戦の予感。
 不穏な暗雲がリザードマンと共に大陸に押し寄せてくる。
 サファイは、リザードマンの略奪から解放されてほっとした様子の村人に目をやった。戦いが始まれば、この村ばかりでなく、各地に大きな犠牲と涙が広がることだろう。
 リザードマンが何を考えているのか、サファイには判らない。だが、それが大陸に混乱を引き起こすことだけは確か。
「リザードマンの仲間は欲しい。だが、弱き者から略奪して回るような輩と仲間になるのはごめんだ」
 サファイの言葉を耳に留めたリザードマンはくくっと笑う。
「戦いが始まれば、そちらとて村から食料や武器を集めるだろう。代価を払うか払わないか、そんな違いが、食料を必要としている村にどれほど関係があるというのだ? 俺たちはおためごかしに気分だけの代価など払わん。堂々と略奪し、そして我がグリモアの版図を広げるのだ」
 ざわり。
 遠巻きに様子を見ていた村人が不安そうにざわめく。
 リザードマンの略奪にさらされた村にとっては、この先の戦いの行方は死活問題だ。
「今は同盟の試練の時である。堪えていただきたい。希望のグリモアの元に集いし者は決して汝らを見捨てはしない」
 ギーは村人に力強くそう言い残し、仲間を促して村を離れたのだった。


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参加者:8人
作成日:2003/09/18
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