湖みたいな温泉へ



<オープニング>


 ワイルドサイクル平原から帰還した者たちの話を聞くと、どれもこれもスケールが違いすぎるということがよくわかる。今回ヒトの霊査士・キャロット(a90211)が語った場所もご多分に漏れず、桁違いなものだった。
「ものすんごく大きな天然温泉があるんだよ。まるで湖みたいな」
 それを聞いた途端、冒険者たちはどよめいた。みんな大好き温泉、それが湖ほどの大きさを誇るとなればこれ以上のハッピーはなし。万難を排してでも行かねば人生における損失であろう。
 ただし、とキャロットは付け加える。
「もちろんそんな温泉だから、怪獣たちもちょくちょく来るみたい。最近は自分以外が入るのを良しとしないようなわがままな怪獣が出てるって話で、原住民は近寄らなくなっちゃったんだ。とにかく丸腰で行くのは危なそうだよ」
 湖ほどの大きさということは、他に何が入ってこようとほとんど変わりはしないということだ。にも関わらず独り占めしたいとは、ワイルドサイクル一のわがまま怪獣かもしれない。とにかく、みんな仲良く使える温泉にしないといけないだろう。
「あー、当たり前かもしれないけど、男女別に分かれてはいないからそこのところはあらかじめ了承してね」
 なんだか意地悪っぽく笑うキャロットだった。

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参加者
七色の尾を引くほうき星・パティ(a09068)
紅蓮の獅子・ディラン(a17462)
自由の翼・ヨウ(a30238)
月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)
美しき猛き白百合・シキ(a31723)
報復の天使・パム(a33363)
蜜柑犬・フェリックス(a37908)
美しい花を見守る白雲・フラレ(a42669)
田舎の歌姫・アミニティ(a46157)
黒百合の魔女・リリム(a50830)
黒猫・レイオール(a52500)
セリカ特戦隊員・ナノ(a53210)


<リプレイ>


 だだっ広い草原を行進する冒険者たちを、柔らかいそよ風が撫でていく。太陽は熱すぎることなく体を温める。今日のワイルドサイクル平原はずいぶんと過ごしやすいようだった。何の緊張もなく、とてもリラックスして一行は歩みを進める。
「本当に見渡す限り地平線ね」
 噂には聞いていたけどやっぱり凄い場所だったのね、と報復の天使・パム(a33363)は感嘆しきり。目指す温泉もきっと予想を遥かに超えて大きいのだろうと、皆の期待が高まっていく。
 やがて眼前に上り坂が現れる。そして――温泉特有の心地よい臭みが漂ってくるではないか。坂の向こう側が巨大温泉に間違いない。冒険者たちは急ぎに急いだ。
 ――坂を上りきると、風景が白く塗り固められているのを目にした。
 白の正体は、雲を形成するかのようにもうもうと立ち上っている湯気だった。冒険者たちの見下ろす先に、湯気の源たる――湯面がある。それはまさに湖としか表現できない広大さを誇っていた。直径何キロメートルあるかわからない。今さらながら、ワイルドサイクル平原の破天荒さを再認識する。
「それで、例の怪獣は……あ、あれのようですね」
 雨に・フラレ(a42669)が遠眼鏡を覗く。トカゲを何百倍にも巨大化させたような怪獣が、湯面の淵にゆったりと浸かっているのが見えた。坂の上の冒険者にはまったく気づいている様子はない。
 奇襲のチャンスだ。冒険者たちは手筈どおり二班に分かれて静かに坂を下っていく。
 攻撃担当の側面班は待機だ。七色の尾を引くほうき星・パティ(a09068)がウェポン・オーバーロードで、月夜に舞い降る銀羽・エルス(a30781)が黒炎覚醒で強化をしながらひたすら待つ。
 そして怪獣を温泉から引きずり出すための正面班。美しき猛き白百合・シキ(a31723)が自由の翼・ヨウ(a30238)に鎧聖降臨を施してもらい、田舎の歌姫・アミニティ(a46157)とパムはサポートをできるよう、安全な後ろに位置する。
 ここで終始無言だった獅子の魂を継ぎし者・ディラン(a17462)が叫んだ。
「アリシアーナのバッカヤロゥーッ! どうして何も言わずに姿を消すンダヨォ!」
 ディランは悲しいことに失恋したばかりであった。悲しみを力に変え、湯面を震わせるほどの大音声。さすがに怪獣も気づいた。振り返り、ギラギラした目を冒険者たちに向けてきた。いざ戦闘開始である。
「こっちだ!」
 急激に白熱する戦場。踊る黒い猫・レイオール(a52500)が放ったスーパースポットライトを浴びた怪獣はすぐに湯から上がり、勢いつけて冒険者たちに突っ込んでくる。体全体が濡れているせいで、緑色の体表がぬらぬらと妖しい。
 ――だが、怪獣は正面班に届く前に悲鳴を上げた。首筋が黒く染まっている。フラレのサイドからのバッドラックシュートだ。すでにハイドインシャドウで隠れていた彼に、怪獣はまったく気づかなかった。
 けたたましい吼え声を上げる怪獣。怒りの火に油を注いでしまったようだ。でっかい尻尾をぶん回して、正面班をまとめて打ち据えた。
「う、すごく、お、怒ってます?」
 攻撃に向かおうとした彷徨の黒百合・リリム(a50830)は慌てて癒しの波を広げた。さすがの巨体、攻撃力は半端ではなく全快できない。
「セリカ特戦隊員・ノソリンレッド。いざ参るのなぁん!」
 後方ではセリカ特戦隊員・ナノ(a53210)が黒炎を身に纏う。一撃一撃を重くしないと、容易には倒せそうにない。
「あっちが力押しなら、こっちはテクニカルに行こうか」
 蜜柑の狛犬・フェリックス(a37908)のバッドラックシュートが命中した。さらに幸運度が下がった怪獣は、言い知れぬ不安に苛まれた。
 ――睨みあう双方。その緊張感たるや、上空を飛ぶ鳥すら引き返させるほど。
「さあて、ど〜んと行くのだ☆」
 パティが凄まじく痛そうな形に変形された弓をつがえる。そして射られたナパームアローが、敵の顔面を強襲した。
「よし……!」
 爆発に身悶えているうちに、ヨウが達人の一撃を繰り出す。流れるような動きに無駄はなく、武剣はたやすく敵の肌を切り裂いた。
「怪獣焼きになりたくなければおとなしくしてね」
 エルスは邪竜導士の上級奥義・デモニックフレイムをフルパワーで射出する。響き渡る悲鳴。異形の黒炎は怪獣の尻尾を破壊的に焼き焦がした。これで尻尾での薙ぎ払いは使えなくなるだろう。
「グオオオ!」
 スーパースポットライトの効果がまだ継続している怪獣は、側面班には目もくれずストレートにタックルしてくる。巨体なので有効範囲の大きさは変わらない。また正面班が何人かダメージを負う。
「つ……長期戦はしたくないわね」
 シキがすぐに高らかな凱歌を歌い上げる。それを見て、自分は攻撃に行こうとアミニティは判断した。
「妖艶なる歌、行きます」
 空間が歪む錯覚。吟遊詩人の奥の手・ファナティックソングが怪獣の精神と肉体を蹂躙してゆく。全身から血が噴出し、混乱を与えた。
「オレのどこがいけなかったんだッ? 言ってくれりゃあ、改めるつもりだった!」
 ディランは変わらず、かつての恋人に叫んでいる。怪獣は混乱しながらも、何かしらんがピンチだと直感した。
「……このやり場のねェ怒りはァ……怒りはァッ! お前が受けろォォッッ!」
 高々と跳躍し、鼻っ柱を豪快に超速に切りつけた。恐るべし失恋パワー、避ける間すら与えない。
 ここがチャンスだと、フラレは粘り蜘蛛糸で拘束にかかった。間髪いれずにパムがエンブレムシュートを顔面にぶつける。怒涛の連続攻撃に、早くも怪獣はふらふらだった。攻撃力は高くとも、防御はいまいちのようだ。
「こいつで……どうだっ!」
 レイオールの華麗なる剣戟が光を発し薔薇を舞わせる。怪獣は為すすべなく三連撃を受けた。
「え、えっと、一緒に」
「OK! スキュラちゃん、れっつごーなのなぁん!」
 リリムとナノのダブルスキュラフレイムが空気を焦がし、敵の肌に食い込んだ。今までで一番大きな悲鳴が轟く。
「そろそろ締めといきたいね!」
 フェリックスが双頭剣で脚を切り裂いた。忍びらしいスマートな体さばきは仲間をも惚れ惚れさせる。
 と、蜘蛛糸の拘束から解放された怪獣は、脇目も振らずにあさっての方向に突進していく。涙目だった。逃走するつもりだ。
 冒険者は怪獣を見逃した。戦意を失ったなら追いかけたくないというメンバーもいたので、この結末で皆は納得していた。


 温泉は無事、血で汚れることなく平和な光景が保たれた。冒険者一同、会心の仕事をしたと大満足だ。
 そんなわけで、待ちに待った入浴タイム。フラレの用意したテントを脱衣所として、さっさと着替えて飛び出てくる。
「温泉1番ノリにゃー☆」
 パティが思いっきりダイビング。真っ白い裸体全部を使って、ざっぱーんと飛沫を上げた。
「あの、せめてタオルだけでも身に着けては」
 エルスが玩具をいじりながら横から口を出す。彼女も何もつけてないが、召喚獣ダークネスクロークのマントで覆ってもらっている。しかしパティはあまり気にする様子もなくはしゃぎまくっている。
 と、エルスの視線は右にいたフェリックスに移る。頭の上にタオルを乗っけるという基本スタイルの彼は、何やら丸いものを手にしている。
「それは……みかんですか?」
「うん、お湯に入れたら美味しくなるっていうから。温泉卵も作ってる最中なんだ。エルスさんにも分けてあげるから」
「ありがとうございます。私もメロンを持ってきましたので……最高級のものを」
 温泉で美味しい食事、これ以上の極楽もまたとない。
「はわ〜……広いのなぁん! 向こう岸まで行ってみるのなぁん」
 ナノはクロールでばしゃばしゃ水泳を開始。こんなことを普通の温泉でやったら怒られるが、ここでは何の問題もない。むしろ推奨されるべきであろう。
「……素敵ね」
 せっかく広いので、パムは皆から離れ、覗きたいならどうぞと言わんばかりに一糸纏わぬ姿で仰向けに浮かび上がってみる。この温泉以上に広い空が目に焼きつく。なんて清々しいのだろう、こんないい場所を占領されなくて本当によかったと心底思った。
「ふぅ〜、温泉は気持ちいいし女の子たちはいるし、極楽とはまさにこのことねぇ♪」
 シキはアダルトな黒ビキニを着用し、のんびりまったり。召喚獣ミレナリィドールにもお揃いデザインの赤ビキニを着せて、気持ちよさげに男性陣を眺める。
 その男性陣の中心は、失恋街道まっしぐらのディランであった。彼はあまり目立たぬ岩陰にいたのだが、慰めようとありがたい仲間たちが次々とやってきたのだ。
「辛い気持ちとかは誰かに話すことで、少しは軽くなるから……酒を飲みながらになるけれど、俺で良かったら聞くよ、話を聞くのは嫌いではないから。未成年でなければ一緒に飲もうと言いたいところなんだけど」
 レイオールは氷結酒をちびちびと飲みながら言う。他、その通りだと明るく声を出す男たち。遠慮なく感情をぶつけられてこそ心の友である。ディランはぽつりぽつり、愚痴やら捨てきれない思いやらを吐露した。
「そうなんだ。彼女とは上手くいっていたはずだったのに……なんでだろうな」
「だらしないわねぇ」
 シキもやってきて話に加わる。
「一度モノにしたら、逃げないようにちゃんと捕まえておかなきゃ、ねぇ?」
 ミレナリィドールに話を振るが、いまいち反応は薄い。ヨウはレイオールに酒を注いでもらいながら言う。
「まあ、どうしても会いたいんだったら意地でも探してこいよ」
「……ん」
「いずれにしても、元気を出してください。きっと次がありますよ」
 と、フラレ。そうだそうだと仲間たち。人は歩みを止めたときに、そして挑戦をあきらめたとき、 年老いていくのである、とかなんとか。
「………へッ。そうだよな! フラれたぐらいでウジウジしてるなんてオレらしくなかったぜッ!!」
 ディランは元気を取り戻した。おお若者よ、失恋を乗り越えて強くなるべし。
「そうだ、うだうだ考えるのはやめろ。とりあえず向こうに特攻でもしてこい!」
 ヨウがズビシと指差す先は女性陣。ディランはおおと気合込めて、静かに突撃を開始する。フラレも迷わず同行。
 最初の標的はリリム。しかしいきなり気づかれた。
「ぇ、えっと、見ないでください〜!」
 黒炎を漂わせながら叫ぶリリム。それでも止まらないのでやむなく発射。熱風にあおられたふたりは、あえなくアミニティの間近に着水した。
「きゃー! ファナティック!」
 アミニティの歌声に目がグルグル回る。そしてきょとんとするパティに流れ着いて、ついにノックダウンした。
「……にゃ?」
 裸を余すところなく見られた彼女、これが羞恥心を芽生えさせるきっかけとなったのだった。

 湯から出たあとは、ヨウとパティが一気飲み競争(フルーツ牛乳とコーヒー牛乳)を挙行したり、エルスがメロンを、フェリックスが出来上がった温泉卵を、レイオールがチーズとアップルパイを振舞ったりと、飲んで食べての大騒ぎ。
 そのうちに小さな怪獣が何匹かやってきて、気持ちよさげに湯を堪能していく。こんないい気持ちは、皆で分け合わなければ損だろう。冒険者たちもますます愉快になっていく。
 ワイルドサイクル最高! 全員の思考内容は完全に一致を見たのだった。


マスター:silflu 紹介ページ
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獅子の剣を鍛える者・ディラン(a17462)  2009年09月03日 16時  通報
…かくしてオレの初恋は思わぬ形で終焉を迎えたわけだ。当時の仲間達にゃ、みッともねェ姿晒しちまッたぜ(苦笑)。