<リプレイ>
走る走る、大きなボールを前に男は走る。 愛する女性のために、結婚と言う大きな目標のために疲労困憊な体を引き摺って男は走るのだ。 「きゃ〜♪ シャオさん! 素敵でマスー!」 そうだ、彼女の声援さえ有れば、例えかき混ぜ棒を手にボールの周りを高速に回ってガッチガッチなクリームを作ろうと言う、どうしようもない作戦だって成功するに違いないのだ! 「さ、シャオさん! 一緒に漢気溢るるケーキを作るのマス!」 やる気満々なアヤナの笑顔を見てシャオルンは後には引けなくなった事実を痛感していた。
「えぇっと、これはこうで……」 本を片手にケーキを作っているのは、アリアだ。 あまり作った経験が無さそうだが、スポンジにクリームを塗る姿などは結構さまになっている。 「よし、後はこれをもって逃げるだけ――」 そして出来上がったケーキを手に、後ろを振り返えると、 「なかなか良いケーキのようだな!」 筋肉兄が胸筋をピクピクさせながら腕組みをして待ち構えていた……もう駄目だ、逃げられないと察したアリアは楚々とケーキを差し出す。 「だが漢気が足りぬぅ!」 ヌゥン! と受け取ったケーキを両の手でパン! と挟んで潰すと、イヤイヤと首を横に振るアリアの顔に向かってそのケーキを……。
「あら?」 イーヤー!? と何かが聞こえたような気がしたのだけど……気のせいかな? と小首を傾げるとエレナは己の作業に意識を戻した。 通常の何十倍もあろうかと言う生地を持ち上げては投げ飛ばし持ち上げては投げ飛ばす! ビッターン! と辺りに異様な音が響いて生地の残骸が飛び散ったりもしているが、必要なのは厳選された生地達だ、落ちていったものなどに興味は無い! とばかりに打ち付けている! 「こんな形で役立つとは思いませんでしたよ……」 マサキもマッスルチャージを使い、生地をこねクリームをかき回す! 豪快に派手に! 漢らしく! 小細工など要らぬのだ、只愚直に、まっすぐに、力の限り生地をこね、クリームをかき混ぜれば良いのだ! ……打ちつけ過ぎて二人の材料が消えてなくなるのが欠点だったけれど。
「あ、ペルシャナさん久しぶりね。変わらぬ胸板……じゃなくて笑顔が可愛いですね」 「どこ見てるのなぁ〜ん?」 眩しいものを見る笑顔で自分の肩の向こうを見ているババロアに不審な眼差しを向けるペルシャナだったが、ババロアは張り付いたような笑顔のままで何も答えてはくれなかった。
「ふぅ、出来たわ」 ババロアが額の汗をぬぐい改心の出来であるフワフワなシュークリームを見つめると、 「フワフワなぁシゅうクリーム!」 唐突に正面に筋肉マッチョが現れた! マッチョはむんず! とババロアのシュークリームを掴もうとするが―― 「うわ!?」 実際に掴んだのはノリスとスフェーンの頭である。 「さようなら、貴方達のことは忘れないから……」 プディングとプチケーキを手に、今まさに逃げようとしていた彼等であるが、どんな手を使ったのかババロアの陰謀によって囮にされてしまったようだ。 「軟弱物どもめぇぇぇぇ! こうしてくれるぅぅぅぅ!」 ねっとりと濃厚な抱擁を受けて口から煙のようなものを吐く二人を振り返らずにババロアは走った……ごめんなさいごめんなさいと口を動かしながら。
チェルシーが頬をぬぐうと、ほっぺたにクリームが残った。 「素敵なケーキ……出来れば……良いですね」 周りを見回せば皆思い思いに阿鼻叫喚の地獄絵図を描いている……賑やかにお菓子を作るのは新鮮だなとチェルシーは少し思い、何も見なかったかのようにクリームをかき混ぜ始める。 「ほっぺにクリームが付いてるぞ」 バッシュはチェルシーの頬に付いたクリームを拭ってやると一緒にクリームをかき混ぜ始めた。 「はわ、美味しいなぁ〜ん♪」 満面の笑みを浮かべるペルシャナにイサノは良かったですと微笑む。 「せっかくの純白ですからやっぱり生クリームで綺麗に飾りつけたイチゴショートケーキですよね♪」 小さめの生地に白いクリームで飾りつけを行いながらアンシュは言う。力に自身が無いアンシュでは固いケーキは難しいだろう……そもそもそんなものを作る気も無いけれど。 アンシュとイサノは仲良くケーキを盛り付けていくと小さなお城のようなケーキを完成させる。 「会心の出来だわ」 イサノ達がケーキを完成させるのとほぼ同時に女気と愛情のたっぷりこもったケーキを前にしてクレアがうっとりと微笑む。 固いケーキなんて作れる訳が無いと最初から普通にケーキを作っていた彼女のケーキは見事な出来栄えだった。それに、大切な人へあげたいケーキである色々張り切っちゃっているのである。 「貴様等! 何を甘いエアーはなっているかぁ!?」 と、そこへ筋肉兄弟が現れた! 「逃げるぞ!」 バッシュはチェルシーの手を引いて駆け出し、引っ張られるように走るチェルシーはケーキを必死に守ろうとしている。 アンシュとイサノもケーキを手に、筋肉兄弟から距離を取るが崩れやすいケーキを持ちながらの逃走は難しいだろう。 そんな中、皆に混ざって逃げようとしていたクレアが周りに居た全員の行動速度を上げた! ……本人の足は止まってしまったけど! 「有難うクレアさん!」 そんな言葉を残し仲間達は逃走して行く……それは勿論クレアがチキンスピードを使ったことに対する礼では無くて、 「「自らが囮になるとは……をとこぉ!」」 「え、いや……あの、その」 動揺するクレアに筋肉兄弟は感涙に咽び泣く……仲間を助けるために犠牲になるなんて偉いぞ! 漢の中の漢だ! 感動したマッチョ達はクレアを挟むように抱きしめて―― 「いやぁぁ〜こないで筋肉〜〜!! い、いやぁぁぁ!!」 クレアごとケーキを審査したのだった。
「純白……なんて恐ろしい呪……いえいえ、とても喜ばしい事ですよね!!」 隅の方でピクピクと痙攣しているケーキ塗れのクレアを見てカレンは決意を新たにする。 必死に生地を作り、固く捏ね上げていく。それはもう鎖帷子を着こんで戦に行くような気合の入れっぷりだ。 「ていてい!」 その横でミンもまた異様に気合の入った様子でクリームをかき混ぜている。そして既に固く焼き上げていたスポンジに小細工などいらぬ! と真っ白なクリームを塗りたくる! 一方カレンも何とか作り上げた生地にクリームを塗りその上に梨を丸ごと乗せていく。 「「出来たー!」」 「ふむ、なかなかの出来、なんとも漢らしい見た目ではないか……だがぁ!」 同時に完成を喜ぶ二人の前に筋肉兄弟が現れケーキを審査してゆくそして、フン! とカレンのケーキを持ち上げると―― 「肉は邪道ではないのか!」 肉入りのケーキはお気に召さなかったらしい。 「こちらのケーキは素晴らしい、固さ、大きさ、なによりも男気がぁ!」 クレアの仲間入りを果たしたカレンを他所にミンは褒めちぎられていた、漢の中の漢! 見事な筋肉! 女気などまるで無い! などの誉めちぎりまくりである。 やりきった、後悔はしない! と胸を張るミンの目には何故か涙が浮かんでいたけれど気のせいだろう。漢に涙は似合わないのだから。
「うふふ、あれかな? こんなもの着せられてこんなもの作らせてさ。もうあれかな? 嫁に逝けとでも言うのかな?」 純白のドレスを着込んだエディが虚ろな視線を宙に彷徨わせる。 「もういい。もう分かった」 何が解ったのか……ルシュドがバン! と机を叩いた。そしておもむろに筋肉兄弟に向き合うと、 「なぁ〜ん♪」 「「ぐはぁ!?」」 唐突に現れたケーキ姿の黒ノソリンに、エディごと吹き飛ばされた! 「む……無念……」 「すべてのマッチョを地に触れさせ……かは」 そこら辺にあったケーキの残骸に埋もれる二人……後には只黒いノソリンの泣き声が響くのだった。
「菓子作りは色々とやってきたが……」 固いケーキは始めてだとガルスタは材料を前に唸る。 「漢気のあるケーキ、ですか?」 イズミはこれこそメイドガイに相応しい任務だとやる気満々である。メイドガイが何なのかは良く解らないけれど本人が言うのだから間違いないのだろう。 「スペシャルでスーパーなケーキを作りますの♪」 リスの尻尾を忙しなく動かしムウは言う。手に色々怪しげな茸を持っている事に些か不安を覚えるが。 「……ん、美味しい」 台の上で足をぶらぶらさせながらラシェットが苺をつまんでいる。 作り終えた生地を平らな台の上に乗せ、そこに平な板を乗せて更に自分がその上に乗ると言う荒業で生地を固くしようとしているようだ。細身で体重の軽い彼女でも、この方法なら固い生地を作れるだろう。 ガルスタもまた、自分の鎧を乗せてその重みでスポンジを固くしようとしているが、 「だが、まだまだ甘いね」 そんなガルスタとラシェットを見てゼクトが勝ち誇っている……何と彼は筋肉兄弟をスポンジの上に乗せていたのだ! ヌゥン! と口走りながらポージングを決めているが鬱陶しいのが玉に瑕だが重しとしては十分に役に立つ。 「く、やるな」 ラシェットは興味が無さそうだったがガルスタはなんとなく悔しそうだ。 だが悔しがっていてもしょうがないガルスタは黙々とバタークリームをかき回しラシェットはクリームにホワイトチョコを混ぜて固さを上げる。ムウに至っては妙な茸であれやこれである。 ゼクトも勝ち誇っている場合ではないマッチョの重力で固めた生地を高く高く縦に積もうとして。 「あれ……?」 マッチョの重力で潰された生地は非常に薄っぺらになっていたのだ! よって縦に積み重ねるのは困難! おろおろとしている間にゼクトの後ろにマッチョが近づいて―― 「「軟弱者がぁ!!」」 「ひぃぃ!?」 「「何で私まで!?」」 今度はゼクトがイズミとムウと共にマッチョプレスにあうのであった。 「「此方のケーキはすばらしぃ!!」」 シンプルに固い生地とバタークリームで作ったガルスタとクリームにチョコレートを混ぜたラシェットのケーキはとても気に入られたようだ。
「でっかいケーキが出来たなぁ〜ん♪」 シャーナは彼女の身長の三分の二は在ろうかと言うケーキを作り上げご満悦な様子だ。 「このケーキはあの人に食べてもらうために作ったんです」 大切なケーキだ、大切な人の為に作った大切なケーキ……それをマッチョ達の毒牙にかける訳には行かないのとヘイゼルは言う。 「ふふ、上出来ですわ」 充分もてるような大きさに配慮し、程よい固さそして何よりもふんわりと綺麗と言う非常に美味しそうなケーキを作り上げウェンデルは微笑んだ。 「「何じゃこの軟弱なケーキどもはぁ!!」」 丁度出来上がった頃を見計らうかのように、筋肉兄弟が現れた! そして、並ぶケーキの軟弱さに怒髪天を突く勢いである! マッチョが現れた途端、シャーナが他の仲間を囮に逃げようとするが……、 「な、なぁ〜ん!?」 巨大なケーキを持って走るのは無理があったらしい、走り出すや否やベショ! と転んで自らケーキ塗れになった。 逃げるのは難しい……けどこのまま審査されたらケーキが台無しである、如何するべきか? とヘイゼルとウェンデルが悩んでいると―― 「そこの……ナイスマッソゥ……こっちカモーン……はぁはぁ……」 息が荒い変態さんではなく……シャオルンが現れた。 「何かね!」 「そのナイス……筋肉ちゃんの型を取って……筋肉砂糖菓子人形を作ろうと思うんだが……協力してくれまいか! ……はぁはぁ」 何べんも言うようだが、はぁはぁしているのは彼がヘンタイさんだからでは無い! 多分。 「むぅ……そのような時間は惜しいのだが……だが、同士のためとあらば協力しよう!」 何の同士なのかはご想像にお任せしよう。シャオルンは波打つ腹筋に瞳を輝かせるアヤナと共に筋肉兄弟の型を取り始め、その隙にウェンデルとヘイゼルは逃げる事ができた。
「ふむ、これでよし」 純白のケーキを前にディーンは満足そうに頷く……どうやら手順確認のために普通のケーキを作っていたようだ。 「ん? 食うか?」 「わ〜い、ありがとーなぁ〜ん♪」 「「な、なぁ〜ん!?」」 そして、物欲しげな視線を向けていたペルシャナと黒ノソリンの姿をしたナナにそのケーキを渡すと朗らかに笑う……筋肉兄弟の手に捉まりケーキを審査される様を見つつだったけど。
「喜んでいただけると良いのですが」 グレゴリーは好々爺の笑顔で、出来上がったケーキを見つめると、どうやって逃げるかと算段を始める。 「あそこが逃げ易そうじゃのう」 プラチナも大きめのチョコケーキを作り上げ、逃走経路を考えているようだ……そこへ、 「「貴様等のケーキはぁなぁにでできているぅぅぅ!!」」 筋肉兄弟が現れた! もはや悪役以外の何者でもないが、気にしたら負けである。 「あそこに素晴らしいバルクとカットをもたらすマッチョ神が飛んでいます!」 そんな筋肉兄弟にあさっての方向を指差しグレゴリ―が叫ぶと、 「「なにぃ! どこにおられるのじゃぁ!」」 筋肉兄弟は、慌てふためきあさっての方向を探し始め、その隙にグレゴリ―とプラチナは逃げ出す。 「「貴様ぁ! 謀りおったな!」」 すぐに気がついた筋肉兄弟が二人を追うが――ズデーン! と豪快にすっころんだ! 「ぐはぁ! バナナの皮とは卑怯な!」 悔しそうな筋肉兄弟を置いて、二人は逃走に成功した。
「ふぅ、出来ましたですの」 筋肉弟の体に蜂蜜を塗りたくり、彼方此方に蝋燭を立てて飾り立てたルイが額の汗を拭う。 「ぬぅん!」 蜂蜜でテカテカ光るのが嬉しいのか筋肉弟はご満悦な様子だ……と、そこをネミンとムツミが焼きたてのケーキを持って通り過ぎた。 「そこの女子! またれぃ!!」 出来上がったのならば審査しなければならぬ! と筋肉弟はネミン達を呼び止めるが、筋肉弟の姿を見たムツミとネミンは迷わず逃げ出す! 走ればダイエットにもなるし一石二鳥と、ケーキが重くて運び辛いので途中で摘みながら。 だが……そんな走り方では当然速度は出ない訳で……。 「「汝等……そんなに甘い物を食べたいのなら我等を食べるが良い!」」 何時の間にか合流した筋肉兄と共に、ネミンとムツミの肩をムンズと掴み、蜂蜜や砂糖塗れになった筋肉を誇示する! 「わひゃあああぁぁぁ!?」 「「さぁさぁ! 我等の味を堪能せい!」」 筋肉兄弟は、口いっぱいにケーキを頬張りながら号泣するネミンとムツミの目の前にポージングを決めながらにじりより、 「「いや、いやぁぁぁ!?」」 断絶魔のような絶叫が辺りに木霊したのだった。
――きっと夢ですの。 筋肉に挟まれ、筋肉の弾力と甘い物に板ばさみなネミンとムツミから視線を逸らすと空を見上げる。 秋の空は高く、高く晴れ渡り……新郎新婦の新しい旅立ちの門出を祝うようだった。
【おしまい】

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参加者:33人
作成日:2006/10/01
得票数:冒険活劇1
ほのぼの1
コメディ45
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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