祈りの山



<オープニング>


 祈りの山。そう呼ばれる場所がある。
 秋になると紅葉で山が燃えるように赤く染まる。
 そして、この季節。この山で、とあるイベントが行われる。
 ケクゥリアの儀。祈りの山の清流の流れに美しく染めた布を晒すだけの儀式。
 しかし、その光景は非常に美しく。
 昼は太陽の光を受け、夜は月の光を受けて輝く幻想的な光景に心惹かれる者は多いという。
 更にはその清流に晒された布は美しさを増すといい、その布を着物としたものを買い求める人も少なくない。
 しかし、このケクゥリアの儀の真価は其処にあるのではない。
 この布を晒す儀式は参加者達が行い、何らかの願いをかけるという。
 願いが強ければ強い程布は美しくなると言われ、永遠の友情や愛を誓うために2人で布を晒す者もいるという。
 紅葉して赤く火のように染まった光景を火と例え。
 清流の水、山の土、そして風。そして光と、夜の闇。
 これ等、人と共にある全てを布に受けさせ、祈りをかける儀式。
 この儀式故に、この場は祈りの山と呼ばれているのだ。
 数ある祭りや儀式の中でもマイナーな、しかし美しい儀式。
「どうです、楽しそうでしょう?」
 そう言ってミッドナーは、グラスを軽く傾けるのだった。

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参加者
NPC:夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)



<リプレイ>

●祈りの朝
 赤く燃えるような山は、ただ赤く。
 その美しさは形容する事が恐れ多くすらあった。
 そんな中で体を稼動範囲限界まで捻り、半片足立ちの本人曰く「究極のポージング」をしている赤い風・セナ(a07132)に、何故かおひねりが投げられている。
「清流は……向こうだね」
 ブラックアンドホワイト・リーフ(a56564)が早々と清流へと向かっていく。
 早く行けば、その分幸せが訪れるような気がするのだ。
 そんな中、冒険者達はテントを張ったり食事を用意したりという作業に忙しい。
 体力が必要とはいえ、一日中起きていろという決まりなど無い。
「凄い所ですわね……」
「うん、ほんとにすごいね」
 テントを設置しながら、紅色の剣術士・アムール(a47706)と木陰の旅芸人・キズス(a30506)は感想を言い合う。
「人々が美しい布に願いをかける祈りの山、か……」
 守護者・ガルスタ(a32308)もまた、感慨深げに辺りを見回す。
 この山は、山全体が燃えているかのように紅葉している。ある種、現実を離れた光景であった。
「ロマンチックだね。相手がいれば更に良かったんだけどね」
 彩雲追月・ユーセシル(a38825)の言葉に、稲穂色の気ままな風・アティカ(a12138)や何人かが野営用品を取り落とす。
「……ミッドナーは私の知らないラブラブ時空へ行っちゃったからなぁ」
「確かに。何かいい顔で笑うようになったなぁ。何だか『恋する乙女』みたいだぞ?」
 優しき死神・ロイ(a56925)とお茶を飲んでいた夜闇の霊査士・ミッドナー(a90283)がユーセシルと悪をぶっ飛ばす疾風怒濤・コータロー(a05774)を吹雪でも巻き起こりそうな程冷たい瞳で見ていて、近くでテントを設営していたトレジャーハンター・アルカナ(a90042)が脅えていたりする。
 ガヤガヤと騒がしい中で、深緋の蛇焔・フォーティス(a16800)がそっと場を離れていく。
 賑やかなひとの多いところは苦手だし、今のうちなら混み合ってもいないだろう。
 まだまだ、朝。儀式が本格的になるのはこれからである。

●祈りの昼
 春を待つ春告げ鳥・ソウェル(a34111)と仰望清夜・イーヴ(a14619)が、綺夜煌星・セロ(a30360)に肩を貸しながら上流へと歩いていく。
 重傷で大丈夫だと強がるセロを、イーヴが諭しながら。
「今日はソウェルがおねえさんみたいに助けてあげるです!」
 そんな事を言うソウェルに、思わず笑みを漏らしながら。
「どうか今の幸せが続きますように……」
 3人で一緒にさらした布に、そんな願いをかける。
 川はとても冷たいけれど、暖かい絆は此処にある。
「……だよな」
 一方、別の場所で何事かを考えていた穿つ風・バッシュ(a39883)が、意を決したように白い布を選び取る。
 何かの決意を込めた顔は、優しさに満ちている。
 この場所には染められた布を置く台が設置されており、多くの人間が布を選んでいた。
 流鎖の射手・レイティス(a42194)もまた、ほぼ直感的に濃い青色を選び取る。
 この儀式では直感で選んだものが良いとされ、大した混乱や混雑はない。
 それを晒す儀式も山の大きさゆえか、混乱は無い。
 白雪・スノー(a43210)が青い布を清流にさらすと、多少強かった青は優しい水色に変わっていく。
 幸せそうな顔をしたスノーに、周りから暖かい拍手が響く。望みの色になった事を祝福しているのだ。
「凄いですわね」
 魔法少女プリティーアクア・アイリス(a43526)が、隣にいた雨に・フラレ(a42669)に声をかける。
「ええ、とても素敵です」
 反射的にアイリスに対しての感想を述べるフラレ。
 その手は吸い込まれるような青色の布を掴みとっているが、それとて2人の未来を願ったものだ。
「此処にもラブラブ時空が……」
「ほあちゃー、なんだよ!」
 杖のようなものでユーセシルのような声を出す人物を殴ったような打撲音と何かを急いで引きずっていくような音が聞こえるが、フラレとアイリスが振り返った時には誰もいない。
 2人でそれぞれの布を清流にさらすと、フラレは自分のマントをアイリスに羽織らせる。
「アイリスさん大丈夫ですか?」
 アイリスは優しく笑って、持参したティーセットを見せる。
 優しい時は、此処にも。様々な願いを載せて、清流に布がさらされていく。
 無論、この儀式は2人で参加するものという決まりがあるわけでもない。
 願いも様々である。
「……なんだこりゃ。東方のフンドシか?」
 清流に縄で括り付けられながらさらされている赤い布を見て、緑の影・デスト(a90337)が浪漫の欠片もない感想を述べる。
「あー、それ僕の! 願いはなにかって? 彼女がほしい! あとは……無病息災、子孫繁栄?」
 景色を眺めながらお菓子をパクついていたほほえみは心に架ける虹・フラット(a45509)が、カラカラと笑いながら答える。
「……そうか。強く生きろ」
 そう言ってお菓子を配っている場所へ向かうデストを見送ってしばらく後、深淵の流れに願う・カラシャ(a41931)が其方へ向かっていくのが見える。
 そんな光景から、更に上流。
 夜河の歌唄い・ステュクス(a46875)が黒地の布を清流にさらす。
「……祈り、か」
 どれ程祈りを込めたとて、凶刃を防ぐ盾とはなり得ない。
 ならば祈るべきは、小さな幸運。
 戦場であっても小さな安らぎが訪れるよう、ステュクスは祈った。
 愛を、希望を、平和を祈る彼等の中に、月痕・ユーイェン(a35010)も居た。
 月白の絹布を、静かに清流にさらして。
 希望のグリモアに誓いを立てたあの日の気持ちを。
 決して違えてはならない約束を。
 忘れずにいられるように祈る。
 数々の祈りは、ただ静かに流れていく。

●祈りの夕方
 清流にさらされた様々な色の布が夕日を受けて輝き、まるで虹のような色彩を映し出す。
「……素敵な儀式ですね」
「そうだな」
 星彩七釉・キルシュ(a50984)の言葉に、黒羽の紫電・ゼロ(a50949)はそう返す。
 濃赤系の布を2人でさらすと、するりと星屑のような模様が布に浮かび上がっていく。
 川から上がり、他の儀式風景を2人で眺める。
 のんびりと、肩を寄せながら。
 酒をあおっていたゼロが、ふと隣を見るとキルシュは静かに眠りについていて。
 その寝顔を肴に、再び酒をあおる。
 願いは、様々。
「どうか自分自身の本当の気持ちが伝わるべき人に伝わりますように」
 心眼の踊り手・マリウェル(a51432)の願いが静かにさらされていき。
「沢山の友人と恩人に恵まれ、穏やかな日々を過ごせますように」
 そんな、何処と無く寂しげな願いをかけてエルフの邪竜導士・ヨク(a57108)が布をさらして。
 1人岩山の上でお絵かきをしていた寵深花風なリリムの姫宮・ルイ(a52425)の頭を、アルカナがポンポン、と優しく撫ぜる。
「どうか……姉様といつか逢えます様に……」
「兄貴と……逢わせてくれ……」
 それぞれ対岸で祈りを捧げる、紅月の雫・セシル(a55640)と蒼月の雫・クリス(a56132)。
 互いの願う人物が対岸にいる事に気づくまで、あと少し。
 互いのつけたサクランボを象った腕輪に気づいた2人は、清流の中心で再会を喜び合う。
「まだまだ拙くはありますが、私の想いが皆さんのもとへ届くことを祈って歌い続けましょう。想い続ければ、叶わぬ願いなど無いのだと信じて……」
 そう言って、平和を願った紫水晶の金糸雀・ルーエ(a57153)は歌い始める。
 願いは、ただ優しく。清流は全てを輝かせていく。

●祈りの夜
「休むのでしたら、完成してからです……」
 緑風の探求者・アリア(a05963)は月明かりの中、清流で布をさらす。
 願いにかけた覚悟。心が離れてしまった人たちとまたもとのようになりたい。
 大好きな2人の為に、祈る。
「自分と、自分が今までかかわってきた方が、自分らしくいられますように」
 散り逝く桂華・シーア(a06449)もまた、祈る。
 自分だけではない。自分の好きな誰かの為に。
 同じように、木陰の医術士・シュシュ(a09463)も自分ではない誰かの為に祈る。
 憧れだった人の銀の髪と、綺麗な声と、仄かなお酒の香りを思い出して。
 清流の冷たさは、自分の涙。
 忘れないように、絶対に忘れないように。
 彼女達は、祈る。
 どうか、願いが届きますように。
 どうか、祈りが届きますように。
 その光景を影から眺めていた緑衣の男は、彼女達の為に一筋の涙を流す。
 恐らく、今は泣くわけにはいかないシュシュの為に。
 これから、アリアが涙する事ないように。
 祈りはただ、清流に呑みこまれていく。
「何だかこうして清い流れに浸していると、血生臭い日常まで清めて頂いているような気がしてしまいますね」
 誓夜の騎士・レオンハルト(a32571)の言葉に、燬沃紡唄・ウィー(a18981)は感情の分かりにくい顔を向ける。
 いつまで一緒にいれるか、分からないけれど。
 それでも可能な限り、側にいたいから。
 こんな夜を過ごすのが、とても心地よいから。
 愛情にも似た信頼を込めた、2人の固い友情を、清流はただ呑み込んで。
「これは……こうすればいいのか?」
 何処となくたどたどしい手つきの貪欲ナル闇・ショウ(a27215)と一緒に、悠幻なる蒼き月・ルナ(a36959)は清流に布をさらす。
 2人の絆の永遠を願って……寄り添うように。
「これからも、旅団の仲間達と共に、生きとし、生けることを祈って……」
 旅人の篝火・マイト(a12506)が赤い布をさらしている光景を見ながら、らでぃかる悪なーす・ユイリン(a13853)がミッドナーとお菓子をつまんでいる。
「口に出さなくても、霊査をしなくても。伝わる思いってきっとあるよね」
「ええ、そう思います」
 しばらく歓談していた2人だが、ユイリンのテンションは次第にヒートアップしていく。
 アルカナと闇祓う黄金の刃・プラチナ(a41265)、ユーセシルの3人に、半ば無理やり混ぜられた影人・ゲンタ(a52896)の4人がカードゲームをしながらその様子を眺めている。
「で、3人は決まったの?」
「妾は待ち、というところじゃ」
「……」
「んー……私は……いつまでも親しみにあふれた和やかな関係を? ひててて」
「無難な事言ってないで、本心言ってみろなんだよ」
 そんな会話が繰り広げられる一方で、黒の聖域・ジェイク(a56365)もまた、恩人への感謝と祈りを込めて布を清流へとさらす。
 ほんの駆け出しの冒険者だった自分に世話を焼いてくれた人に、精一杯の感謝を込めて。
「あ、それダウトなんだよ」
「むむっ」
 カードゲームが白熱してきたところで、突如ユイリンがハッとした様子を見せる。
「……まぁ、幸せもらい過ぎでお返しに大変なんスよー! なんか盛大にノロケちゃった感じ〜?」
「……幸せというのは享受される量が多ければ多いほど良いものです。返すのは、大変でしょうね」
 笑ってごまかすユイリンと、お酒を飲みながらプラチナの頭を撫ぜているミッドナー。
 互いに話し上手、聞き上手というわけではないようだった。
 そんな彼等の後ろでは、コンサーティナの・キニーネ(a13906)がコンサーティナを演奏していて。
 昼の儀式で疲れた人達が、キニーネの奏でる古い曲に耳を傾けていた。
「酒良し。寝包み良し」
 そんな中、日暮らし・スイゲツ(a26092)も1人離れて酒を嗜みながら、その曲に耳を傾ける。
 夜は段々と深くなり。鍛冶屋の重騎士・ノリス(a42975)が火を起こし始め、それにならうようにあちこちのテントで食事の準備が始まっていた。
 やがて、夜と朝の狭間。まだ鳥も寝ている時間に、武侠・タダシ(a06685)はミッドナーと2人で黒い布を清流にさらしていた。
 この時間に誘ったのは、夜と朝の境目のミッドナーが見たいという気持ちからである。
 恐らく、とんでもなく綺麗だろうと確信していた。
 この儀式に一緒に来てくれるか心配でもあった。
 だからこそ、想像以上にタダシを緊張させて。
「ミッドナー、好きだ」
 それしか言葉は思い浮かばなくて。ただ、強く抱き寄せた。
 やがて紡がれた彼女からの答えはタダシの心に刻まれ、清流にさらされた祈りの中へ。
「幸せな眠りと目覚めが、皆にずっと訪れますように」
 漂う銀尾・ヒユラ(a28099)の祈りが、夜と朝の狭間に消え行く。
 大切な人よ、大好きな人よ。
 どうか、幸せであれ。

●終わりの朝に
「疲れた、もう若くないな……」
 綿津見の・アネモネ(a36242)が、そういいながら肩を叩く。
 そんな台詞が出てくるのは、セナを見ているからだろう。
 昨日から、ずっとポージングを崩さない。
 あれを見せられては、アネモネだけではなく、ほとんどの者が自らの衰えを感じざるを得ないだろう。
「ふはははは! ワチキ最高!! 昨晩からこのポージング維持!! 凄ぇぎゃ!! ワチキ!!」
 そんな高笑いに、セナに今までとまっていた小鳥達が驚いて飛び去っていく。
「あ、ミッドナーさ!! やほ〜い!」
 そう言って、ちょっとずつ移動するセナ。だが、足元が見えていない。崖から川へストーン、と落ちていく。
「すげえ……あの姉さん、落ちながらポージングしてる」
 思わずコータローからそんな台詞が飛び出すほど、見事な落ち様だったという。
「じゃ、オチもつきましたし帰りましょうか」
「え、そのままでいいんですか!?」
 川を流れていくセナを心配そうに見るマイトを、いつもの事だと諭すプラチナ。
 こうして、ちょっとした伝説を残しつつ。彼等は祈りの山を後にするのだった。


マスター:じぇい 紹介ページ
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参加者:48人
作成日:2006/10/03
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