<リプレイ>
●口上 「グッドアフタヌーン、金髪サラサラヒースです。皆さんは『髪は女の命』という格言をご存知ですか?髪……ああ、時々髪が無い時の頭の形を知りたいと思うのは僕だけでしょうか?……え?また向こう岸に渡り掛けていましたか?そうですか。……では、その命に手を掛けた者の末路をこれからお見せしましょう」 明告の風・ヒース(a00692)は集まった人々に向かって優雅に一礼した。
時間は少しさかのぼる――
●黄昏の狂想曲 夕日に紅く照らされた静かな街角を3つの影が並んで歩いていた。他に人影は見当たらない。 「カメリアさん、大丈夫?」 少々緊張気味な雪白の術士・ニクス(a00506)が隣を歩く女性を心配して声を掛ける。 「大丈夫ですわよぉ〜」 ふらふらと千鳥足の純真大吟醸・カメリア(a02670)は妖艶に微笑んで手を振った。もう片方の手にはワイングラスを持っている。 いつも束ねられている漆黒の髪は下ろされ、艶やかなそれが風に靡く度に、甘い香が立ち昇るようだった。 「何でワインを持って歩くんだ……?」 今にも転びそうな彼女の右を歩く焔銅の凶剣・シン(a02227)が小さく呟く。 何だか、いつもの事らしいです。 「それにしてもニクスちゃん、綺麗な髪ですわね〜。シャンプーは何を使ってらっしゃるのかしら?」 「え、ええと……」 輝くような紫の髪を触ってカメリアが問うと、ニクスは赤くなって口篭った。と。 ちょき、ちょき、ちょき……音が、聞こえた。 「来たな」 シンが隙なく周囲を窺う。そして、待った。 やがて黒服に身を包んだ怪しげな集団が、暗闇から溶け出すように現れた。 「お嬢さ」 「きゃーっ!」 一歩前に出た黒眼鏡の男が言いかけた台詞を遮ってニクスは悲鳴を上げると、髪を押さえて逃げ出した。 仲間が隠れている場所まで誘導する為なのだが、やっぱり河童頭は怖いので半分本気の逃走だったりする。 「ニクスちゃん、走ると危ないですわよ〜」 「待ってくれ!まだ話が……」 カメリアがふらふらとその後に続き、男達は全員その後を追った。 「うわ〜、露骨だナ☆」 見るからに強そうなシンは置き去りでした。
刻一刻と暗くなる街角を少女が駆ける。しかし、地の利を生かして前方に回り込んだ男が行く手を塞いだ。右手に握られた鋏がキラリと光る。 (「河童頭になんかされたら、彼に嫌われるかも!」) 一瞬、彼女の脳裏にピートの顔が浮かび。 「そんなのいやー!!」 ばち――ん!! 「うげあ!」 ニクスの平手打ちが見事に決まった。 追ってきた集団は強力なビンタ攻撃を受けた仲間を見ると怯んで反転、今度はカメリアに鋏が向けられる。 「きぃゃ〜」 「ちょいと待ちなぁ!!」 気の抜けた悲鳴を合図に放浪傭兵稼業・ダウザー(a05769)がお約束の掛け声と共に物陰から飛び出し、影縫いの矢を放った。鋏を振り上げた男の動きがピタリと止まる。 さらに深森の弓猟犬・ドラート(a01440)も建物の影から矢を放つ。 「髪切ってくれるのはありがたいんだけどさ、いくらなんでも河童ハゲはないよな」 (「ロッシュがハゲにでもなったら……!!」) 「絶対、駄目だー!」 説明せねばなるまい!今日は連れていない愛猫の事を思い、もし河童ハゲにでもされたらと考えただけで、彼の弓攻撃は爆発的に鋭く早くなるのだ! 次々と飛来する矢は男達の影を確実に縫い止めた。 「なるべく殺しませんわ。うふふ」 「うわ〜、スゴイねぇ★」 容赦なく飛燕刃を飛ばすカメリアを見て、風に消える白・セア(a02828)がのん気そうに笑った。彼も男達の背後から忍び寄っては、何処からか拾って来た小さな壷でカツンと一撃、着実に敵を無力化している。実は『河童にされたとこも見てみたい……』というココロの誘惑に負けそうだった、なんて事は秘密だ。 「ノォ!何と恐ろしーい!」 次々と捕縛されていく手下を見てミスターが背を向けると、攻撃を免れた男達も慌てて後を追う。だがそれを見逃す冒険者達ではなかった。 ニクスの衝撃波が、シンの紅蓮の咆哮が、ヒースの眠りの歌が、見事な連続コンボ攻撃で炸裂し。 「ほらよ」 「オゥ!」 がっつん。 ダウザーが『あまり触りたくないな』という表情で軽く殴ると、ミスターはあっさり昏倒した。 こうして全員の捕縛完了。ヒースの用意した小屋に連行されたのだった。
●ビックリドッキリお仕置きタイム ご丁寧にカメリアが扉にシャドウロックを掛けると、準備は整った。 「噂はかねがね聞いていますわ、(ある意味)カリスマ美容師のミスター!でも、どうして天辺だけ禿なのですの?ダメダメですわ!私達が見本を見せてあげますの」 うふふ、なんて艶然と微笑むカメリアが怖い。その手には『水に溶いたゼラチン』と彼らから奪った鋏が輝く。 「さぁ、お前らの大好きな「ヘアカット」してやるからナ〜☆動くなよ?動くと間違って頭皮まで切っちまうからナ☆はっはっは」 シンが鉄の爪をギラリと光らせ、めっちゃ爽やかな笑顔で迫り。 「立っている毛を表現するのがむずかしいんだよな〜。でも、ちょっと楽しみだよな」 「……べ、別に楽しんでいるわけじゃないよ?」 一人を某酔いどれ霊査士風ヘアーに仕上げようと鋏を持ったドラートの呟きに、ニクスが慌てて首を振った。もうすでに何人かを東方の島国に伝わる珍しい髪型や、三つ編みおさげにしている彼女だ。 「あ、それもイイねぇ〜」 ニクスやドラートの手際を見て、セアも張り切ってファンシィなリボンを取り出した。猿轡を噛まされた一人に向かい、リボンを飾ったり結んだりしまくってツインテール状態に可愛く仕上げ、仕上げにピンクの口紅で頬に渦巻きを描く。 「完成〜★……あれ?キミ何処かで見た事あるような」 「――っだから!俺だって言ったじゃねぇか!!」 猿轡を自力で外した彼の正体は。 「ダグラス?!」 「よっ、ダウザー久しぶりだな♪」 漢笑いで挨拶をしたのは、ニュー・ダグラス(a02103)だった。 「何してんだ、お前は」 「こいつらの格好を真似て紛れ込んでたら、お前らに捕まっちまった」 「それは災難でしたね」 駆け寄ったヒースが縄を解き、同情してちょっぴり涙ぐむ。 あの、自業自得なんですが…… 「お、ヒース。すまねぇな、もう大丈夫だ……おい、ミスター!」 自由の身になったダグラスは敢然と立ち上がり、ガタガタ震えるリーダーの前に進むと、ビシっと指を突き付けた。 「河童頭なんぞで芸術とは片腹痛いぜ!俺のハサミ使いとお前のハサミ使いどちらが芸術的か勝負だ!」 可愛らしい髪型ながらも堂々とした啖呵だった。そしてがしっと肩を掴んで引き寄せたヒースを押し出し。 「と、こいつが言っている!」 「だぁぁ!」 「あ、悪ぃ」 ダグラスのボケに、ミスターと手下達がコケる。シンの手元が少々狂ったようだが、ドンマイ!だ。 「やりますか?では、少々お時間を下さい」 フッと不敵に微笑んだヒースがイソイソと隣の部屋に。 「おう、じゃあ俺はこいつ等のヘアーセットしながら待つか。あー、安心してくれ、こう見えても俺手先は器用なんだぜ。物の本によるとだな」 奪った鋏と見聞録片手にちょきちょきするダグラス。 「うーむ、こっちがなげぇか……げっ、切りすぎ!こっちも揃えてと……ふう、出来たぜ!」 「僕も完璧です!」 ば――ん!! 扉を開け放ち現れたのは。 頭髪の上と左右を『¥』の形に結わえ、ソウルの厚いブーツに裾がヒラヒラのパンツ、白いフリルのシャツに白日傘を差し、ハサミを片手にポーズを決めた、ナイスでキュートな超有名カリスマ美容師ヒース、その人だった! そこ!「誰それ、知らな〜い」とか言わない! 「髪切ろうか〜、それとも首がいいか〜」 しわがれた声でのリップサービスも忘れずにミスターの髪をちょきちょきちょき。 さすがサービス業を極めたヒース先生。モヒカン頭にリボンを結び、鏡を見せて爽やかに微笑んだ。 「ほら、妖精さんみたいですよ」 色々な意味で衝撃的な光景に、真っ白に燃え尽きたミスターだった。 「あのさぁ、ちょきちょき★されたヒト達に、恨み晴らさせてあげたいなー」 セアがぽつりと呟くと、作業を終えた冒険者達は顔を見合わせ、笑った。
●お披露目 ――さて、時間は現在に戻る。
口上を終えたヒースが背後の布を取ると、そこには。 『ゼラチンで固められたモヒカンに蟻が集った頭』(カメリア作) 『是非ともやりたかった逆モヒカン』(ダウザー作) 『愛猫の事を想いながら切った猫耳カット』(ドラート作) 『河童(海)に対抗しての山菜カット』(ダグラス作) などなどなど、冒険者達力作の髪型にセットされた男達がすらりと並んで正座させられていた。 「いいと思う髪型でも押し付けはノンノン。それが言いたかったのです」 ヒースの言葉と共に、惜しみない拍手と熱狂的な歓声が集った人々から沸き起こった。その中にはきっと、河童頭にされた人も居ただろう。
それから二度とこの町では、ちょきちょき集団(セア命名)が腕を振るう事は無かったという。
●余談ですが ファンシィ頭で日傘を持ちポーズを取った姿をヒースにスケッチされた後、ダグラスは冒険者の酒場に向かった。 「やあ、お疲れ様です。ええと、どうかしましたか?」 にっこりと微笑んだヴェインが出迎えた。 「いや、仲間が欲しいからな〜」 負けずにニッカリ微笑むダグラスの手に光るのは。 「え、あの、その鋏はいったい……?え、ちょ、何を!」 「大丈夫、大丈夫、腕磨いてきたからよ」 じりじり、近付く姿は何処から見ても。 「髪切り魔ーー?!」 冒険者の酒場に、霊査士の悲鳴が響き渡った。のかも知れない。
嗚呼、合掌――(ちーん)

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参加者:8人
作成日:2004/03/21
得票数:ほのぼの4
コメディ28
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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