花畑は死を招く



<オープニング>


「うわあ……」
 巨大剣を背負った少女テッツァは、思わず感嘆のため息を漏らした。
 目の前に広がる広大な花畑。あの鬱蒼とした森の中にこんな光景があるなど、誰が予想しただろう。
「へへ……なんだか得しちゃった」
 そう言って花畑をよく見ようとして、奥へと進んでいく。
 チューリップ、コスモス、ヒマワリ、バラ……様々な花が咲き乱れている。
「……何、これ」
 テッツァは、目の前に広がる異常な光景に気づき、足を止める。
「なんで? 此処、変だよ……」
 そう、この場は明らかに異常。
 春、夏、秋、冬。
 それぞれの季節に咲くべき花が咲き乱れている。
 まるで、この場だけ季節を失ったかのように。
 何だか恐ろしい予感がして、テッツァはその場を走りぬけようとする。
 此処で振り返ってはいけない。そんな気がしたのだ。
 走って、走り抜けて。
「何、これ……サクラ……?」
 走り抜けた先には、巨大なサクラの木。
 やはり咲き乱れているそれを見ながら、テッツァは自分の意識が暗転していくのを感じていた。

「とある森の奥に、村人達の隠れた憩いの場となっていた花畑があったのですが……今は花畑に咲く花は、1つの例外もなく変異しています。すでに何人か犠牲者が出ています。残らず駆逐する必要があるでしょう」
 花畑の変異した花はそれぞれ特殊な能力を持っているという。
 本来ならば冒険者には遠く及ばない実力も、コンビネーションを会得している事で強力に補われている。
 たかが変異花となめてかかれば、返り討ちにあうのは此方だということだ。
 チューリップは眠り。
 ヒマワリは魔炎を伴う光の矢。
 バラは10M以内への対象全てへの拘束効果を伴う茨。
 コスモスは魔氷効果を伴う吹雪。
 そして最奥に一本だけ咲く巨大なサクラは、その全てを扱う。
「……どうやら、また危険に巻き込まれた人がいるようですので、そちらの救出もお願いします。どうか、最良の結末を」

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参加者
漢・アナボリック(a00210)
紅天黒神戎王孫・ガンバートル(a00727)
博愛の道化師・ナイアス(a12569)
無影・ユーリグ(a20068)
生ける屍・ヒヅキ(a30896)
深淵の流れに願う・カラシャ(a41931)
紅宵燐・ルルイ(a42382)
溥し蒼工・ダウ(a42730)
琴瑟・ビョウ(a51797)
清風明月・スゥー(a51913)
月明かりの紫草・タイム(a52542)
ドリアッドの牙狩人・リュウハ(a53365)
NPC:放浪剣士・デスト(a90337)



<リプレイ>

●森の中で
 森の中は、暗いという印象がぴったりであった。
「彼女もまた特別難儀な星回りに生まれついたようですね」
 テッツァとは何度か会った事のある無影・ユーリグ(a20068)が呟いた。
 こんな暗い森に進んで入っていく辺り、彼女の変わらぬ冒険心が伺える。
 鬱蒼と茂る草と、木。こんな森の奥に花畑があるなど、とても信じられなかった。
 されど、その花畑はもはや変異してしまっている。
「お花が突然変異ですか……」
 月明かりの紫草・タイム(a52542)が、悲しそうに語る。
 綺麗に咲くだけの花ならば罪は無い。
 けれども、人に害するというならば排除するしかない。
「民に仇為すとなれば捨て置けません……せめてこの手で散らせてあげましょう」
 同じドリアッドとして思うところもあるのだろう、博愛の道化師・ナイアス(a12569)の魔杖を握る手に力がこもる。
「待て……見えたぞ」
 先頭を歩いていた紅天黒神戎王孫・ガンバートル(a00727)が仲間達を制止する。
 その先に見えるのは、光だ。
 恐らくは、森が途切れて光が差し込んでいるのだろうが……。
 漢・アナボリック(a00210)とガンバドールが花畑を遠眼鏡で見るが、すぐに見つかる場所にはいないようだ。
 その間に仲間達も少し前に出て、花畑を眺める。
「私、こちらに来てから花畑というモノをはじめてみましたが、綺麗ですよね。でも、季節を無視したこの花畑は……怖いです」
「春夏秋冬、ありとあらゆる花が選り取り緑というのは……確かに綺麗なんだろうけど、不自然すぎてゾッとするな」
 深淵の流れに願う・カラシャ(a41931)の言葉に、終の戰風・ヒヅキ(a30896)が同意する。
「まさに死後の世界ってんなら……こんな情景があるのかも知れんな、全く洒落にならん話だが」
 溥し蒼工・ダウ(a42730)もまた、遠眼鏡で花畑を確認していく。
 こうして見ると普通の花畑に見えるだけに、より一層恐ろしい光景でもある。
「全く綺麗な花には棘があるとはよく言うが、これは棘では済まんのぉ……」
 清風明月・スゥー(a51913)もまた遠眼鏡で花畑を確認し……ヒマワリが邪魔で、奥のほうが良く見えない事に舌打ちする。
「……食べられるお花もあるのですよ?」
 突然話をふられた緑の影・デスト(a90337)は、ため息をつきつつカラシャの頭に手を置く。
「……食ってマズいものなら死ぬほどあるが。食おうと思って食えないもんはねえよ」
 よく分からない返答ではあるが、気をまわさなくても大丈夫だと遠まわしに言いたかったらしい。
「……あ、あそこに……」
 タイムの言った方向を見ると少なくとも手前のほうに1人……2人ほどが眠るように倒れている。
 死んではいないように見えるが……このまま捨て置いては、それとて確実とは言えなくなるだろう。
「見えるのはこのくらいか……まあ、世の中そういうこともある」
 結局探し出せたのは4人。奥のほうに何人かいるかどうかは不明だ。
「ならば、行こうか。時間はあまりない」
 ひとまず、手前に人は居ない。
 ならばとドリアッドの牙狩人・リュウハ(a53365)がナパームアローを撃ち込む。
 手前の花が蹴散らされると同時、周囲の花がざわめき始める。
「花を傷めるのは好かないが……仕方ないな」
 不散の花・ルルイ(a42382)がシンクレアを構えて走り出す。
 すでに、戦端は開かれた。あとは進むのみ。

●花畑の攻防
「く……ううっ?」
 ナイアスを強烈な眠気が襲う。チューリップの眠りのコンビネーションであろう。
 花畑に倒れこんだナイアスを助けるべくビョウの高らかな凱歌が響き渡るが、そのビョウを無数の光の矢が襲う。
 ルルイの粘り蜘蛛糸が駆け抜けて桜へと向かうヒヅキ達を援護すべく放たれ、ほぼ抵抗もなく拘束していくが……数が多すぎる。
 コスモス達の吹雪で凍り付き、その動きを止められてしまう。
 即座にダウがコスモスを流水撃で薙ぎ払い、タイムが毒消しの風を解き放つ。
 茨から開放されたカラシャが一般人の男性を引きずるようにして連れて行くと、視線の先に突入班の為の道を切り開くアナボリックが見える。
 すでに何人の人を助けただろう。
 あの咲き誇るヒマワリの向こうに、まだ誰か倒れているのだろうか?
 何より、数が多すぎる。
 何処までも続いていそうな花畑に気が遠くなりそうになりつつも、再び心を奮い起こした。
「リングスラッシャー、奴等を切り裂くのじゃ!」
 スゥーの呼び出したリングスラッシャーは一撃の下にコスモスを切り裂き、バラの茨に捕らえられる。
 そのままリングスラッシャーを光の矢で破壊したヒマワリを、ルルイが切り裂く。
「全く、なんて数だ……」
 思わず、そんな呟きが漏れる。
 言わずにはいられない。
 自分を拘束しようとしたバラを踏み潰し、背中を撃った光の矢の群れによろめく。
 戻ってきたカラシャのエンブレムシャワーとナイアスのニードルスピアがチューリップやコスモスの群れを駆逐していくが、違う場所のコスモスの吹雪やバラの茨が彼等を襲う。
 振り向いた向こうに一般人の女性が倒れているのを見て、ナイアスはため息をつく。
 どうやら眠らされているようだが……この花達を倒したら、すぐに女性を運ばなければなるまい。
「力仕事は専門外なのですけどねぇ……」
 しかし、男でないだけマシだったろう。男だったら引きずってやろうと思っていたナイアスにとって、そこだけは救いであった。
 一方、桜へと続くルートを切り開きながら進むガンバートル達も苦戦していた。
 花1本1本は大したことはない。
 しかし、数が多すぎる。最低限の花だけ相手にして駆け抜けたい所だが、中々そうはさせてくれそうにもなかった。
 目の前にある花を流水撃で刈り取ったヒヅキを遠くから無数の光の矢が襲い、魔炎に包まれた彼をユーリグの静謐の祈りが元へと戻していく。
「行くぞ、走れ!」
 ガンバドールが叫び、仲間達が奥へと走っていく。
 走って走って、走りぬいて。
「……ん?」
 リュウハは、いつの間にか自分達への攻撃がやんでいた事に気がついた。
 ザワザワと。木の葉が揺れる音が聞こえて。
 何かの花びらが手元へ舞い落ちる。
 それは……サクラの花びら。
 全員が同じ結論に思い当たり、上を見上げる。
 そこには、巨大なサクラの木が存在していた。
 想像していたものよりも、更に大きいサクラは。
 目の前の冒険者達に、強烈な光の矢を叩きつけてきたのだ。
「ぬ……ぐっ!」
 それを受けつつもガンバートルは、テッツァらしき女性がサクラの根元で眠っているのを視認する。
 こちら側で戦うわけにはいかない。
 そう考えて、素早く回り込むべくダッシュする。
 テッツァから目を離さなくては。
 そう考えて、苦笑する。
 変異しているとはいえ、サクラに目などなかった。つくづく表現とは厄介なものである。
 同様に仲間達もガンバドールに続いて回り込み……ユーリグは素早くテッツァを抱き上げる。
 彼女の巨大剣はひとまず邪魔なので外して根元へと置き、走り出す。
「……よし。あとはコイツを切り倒すだけ、か」
 リュウハの言葉にデストがダインスレフを構えてニヤリと笑う。
「なら、さっさとやっちまうか。なあ?」
 それに答えるかのように、ヒヅキがウェポンロードを発動させる。
「アイフリーサーフェイズ検Chaos』……俺はこれから神様相手に喧嘩を売るつもりなんでね、お前ごときには構ってられないんだよ!」
 サクラがざわめく。目の前にいる敵に怒るかのように。
 サクラから放たれた吹雪が、彼等とサクラの戦闘の合図となった。

●サクラ、散った後に
「これで……どうだ!」
 ヒヅキの達人の一撃がサクラの幹を大きく揺らがせる。
 変異して防御力が上がっているとはいえ、所詮はサクラだ。簡単に切り倒せるはずだった。
 けれど、元々の大きさゆえか、タフネスは他の花など比べ物にならない。
「血に餓えた桜なんか共存できる存在では無い……消えろ!」
 リュウハの貫き通す矢がサクラの幹を貫き、ミシミシという大きな音を立て始める。
 そこに加えられたガンバドールのホーリースマッシュの一撃がとどめとなったか。
 サクラは先程よりも大きな音を立てて倒れていく。
 やがて、サクラが地響きを立てて完全に倒れた時。
 その花びらは急に全てを失ったかのように散っていく。
 どうやら、幹を切り倒した事で「死」を迎えたということだろう。
 そして、その音は仲間達の下へも届いていた。
「形見はちゃんと拾ってきますから、此処で大人しくしていてくださいね」
 テッツァを何とか安全圏へと運んだユーリグは、タイムの後ろにテッツァを寝かせる。
 形見というのは、先程置いてきた彼女の巨大剣だ。
 以前の事件で彼女と関わった時、彼女の父親の形見である剣を取り戻すために奮闘したこともある。
 ……それにしても。バッドステータスによる眠りなので起きないのは仕方ない。仕方ないのだが。
 豪快に鼻ちょうちんなど作っている姿は、色気も何もあったものではない。
 元々そういうものがあったかどうかと問われれば、ユーリグの知る限り無いのではあるが。
 そこに丁度デストが走ってきて、ユーリグに顎で行けと指し示す。
「ったくよ、人使いが荒いぜ」
 言いながらも、テッツァと花畑の射線に入るように立つ。
 デストが走ってきた方向にはヒヅキやガンバドール達もいて、残りの花の駆除を開始している。
 ルルイの飛燕刃が、ダウの流水撃が。リュウハのナパームアローが。何の憂いも無く花畑を駆除していく。
 やがて、灰燼と化した花畑に冒険者達は立っていた。
 すでに花は1本たりとて残っては居ない。
「生まれるべくして生まれた花々ではないかも知れんが、現にここに在って咲いてた事に変わりはないからな……俺はこの景色を覚えておく。せめて次に咲く花のための、種や糧になれると良いんだがな」
 ダウの言葉に、ルルイも花畑であった場所を眺める。
「種や球根が残っていたら……あるいはまた……」
 それは分からない。また変異しないという保証もない。 
 カラシャが、変異しないようにと願いながら種を撒く。
「来年の春には……村人の憩いの花畑が甦るだろうさ」
「そしたら、僕もまたこの花畑を訪れてみたいですね」
「うん、そだね」
 リュウハの言葉に、タイムが答え。他の仲間達が頷いて。
 増えた1人に、全員の視線が向く。
「あ、あれ? どうしたの? ……っていうか、この惨状は何?」
 そこに居たのは、先程まで寝ていたテッツァで。
「おぬしは……」
 思わずスゥーやビョウが、ため息をつく。
「世の中そう言う事もある」
 アナボリックの言葉に、全員が曖昧な顔で笑って。
 やがて戻るであろう正常な花畑の光景に……静かに、思いを馳せていた。


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